「また来てもいいですか」
「ええもちろん」
あれだけ好き勝手人の家に入ってきていたのに今更殊勝なことを言う。思ったけれどドンシクは口にはせず了承を返した。返答を聞いた途端ぱっとわかりやすく顔を綻ばせる。そういうところがかわいい。
マニャンに赴任してきたばかりのころはまるで新しい家に慣れていない上品な猫のようで、それはそれで可愛げがあった。
しかし今自分が彼に感じるかわいさときたら、ドンシクの返答に素直に喜ぶ様がいいなどと思うのだからこれは重症だ。
「いつでもおいで」
「いつでも」
「ええ、いつでも」
いつでもか、と生真面目に頷くハン・ジュウォン。
自分は彼の何になりたいのだろう。何になれるというのか。ずっと何にもなれず息をしてきたというのに。
「あの」
「はい」
「ドンシクさんも、よかったらうちに……いつでも来てください。あの、よかったら」
予防線を張るように繰り返してこちらを見てくる。さてどう返すべきか、と考えて。いや、正確には考えるふりだったかもしれない。自分はどう返したいのか。
「そう、ですね」
よく食べてよく寝てよく出して生きていればいいと思った。父親と言う存在からようやっと離れてもう彼はどこにでも行ける。まったく顔を見せないのかと思えばこうしてドンシクに会いに来る。そうして顔を見られることを、当然のように嬉しいと思う。
「会いに行きますよ」
俺のかわいい人、とはまだ口に出せなかった。