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    小麦子

    @Ko_mugimugi

    支部にはアップしない習作とか三次創作という名のFAをぽいぽいします。
    アイコンは#Picrew #ななめーかー お借りして作成しました

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    小麦子

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    イエミオ②

    ①の続き。ミオリネ視点

    #シャディミオ
    #イエミオ

    少年と銀の迷い猫テントの入り口に立ち、声をかけようとして出来ず、口をつぐむ。もう何度か繰り返した生産性のないこの行為に終わりを見出せなくなり、ミオリネは立ち尽くしていた。

    (だって、なんて言えばいいのよ…)

    自覚する自分の幼稚さに辟易する。
    昨夜のことだってそうだ。歩道が整備されているフロントと違って、雑多に行き交う人混みの動線に酔ってしまったとはいえ、レネ達とはぐれてしまったのは自分の落ち度だ。
    治安がいいとは言えない土地で一人になってしまい慌てていたところ、雑踏に紛れて見慣れた柔らかな金髪が路地裏に入って行くのを見つけたミオリネはほっとしたのだ。
    だが、かけようとした声は、見知らぬ女と親しげに話す彼を見て凍ってしまった。
    二人の影が重なりそうになるのを見て、自分でも説明出来ない理不尽に怒り出したくなるような、泣きたくなるような感情が湧き上がりその場を逃げ出してしまったのだった。
    あの後のことも、やり方はともかくイエルの言っていることは正しかった。正しかった…のに何故か素直に謝るのが癪で意地になってしまったのだ。イエルと居ると、自分でも知らなかった未熟な部分が浮き彫りになって嫌になる。

    「ミオリネちゃん?イエルのテントの前で何してるの?」

    気がつくと、メイジーが今しがた取り込んだのだろう洗濯物を抱えて首を傾げていた。

    「っ…なんでもない」

    その場から立ち去ろうとすると、メイジーの声が後ろから追いかけてきた。

    「イエルと喧嘩でもした?」
    「喧嘩…ではないけど」

    昨夜のことを思い出すと耳の後ろが、じわりと熱くなる。
    煮え切らないミオリネの態度を見たメイジーは、ふーんと小声で呟いた。何やら勝手に想像されて納得されている気がする。

    「そういう時はさ〜、こっちから謝っちゃえばいいんだよ!」

    ぴょんっと弾んだ足に距離を詰められて、思わず仰け反る。

    「なんで私が…!」
    「?仲直りしたいんじゃないの?」

    かけられた言葉にぐっと詰まり、憮然と言い返す。

    「…私は、悪くないもの」

    ぷい、と顔を逸らす。自分でもこう意固地なのはどうかと思うが、性分なのだから仕方ない。
    こちらにも落ち度はあったが、昨夜のイエルの行為は簡単に許せるものじゃなかった。

    「悪い悪くないじゃなくて〜。あっミオリネちゃんもしかして、今までお友達と喧嘩ってしたことないでしょ?」

    痛い所を突かれ、口を一文字に結ぶ。
    所謂友人と呼ぶ存在が、いないわけではない。ただ、父親の選んだ〝友人〟とやらはミオリネのご機嫌伺い…正確にはミオリネを通してデリングのご機嫌伺いをするばかりで、そんな人間に自分の本音をぶつけることも馬鹿らしく、ゆえに喧嘩というものもミオリネは経験したことがなかった。

    「それじゃあ、はい!」

    手に持っていた洗濯物を籠ごと渡される。

    「それ、イエルの分だから渡してきて!」
    「は!?なんで…」
    「謝るのはきっかけって思えばいいんだよ!イエルと仲直り、したいんでしょ?」

    だから、喧嘩じゃ…という声はもごもごと口の中で消えてしまった。


    ***


    思わぬところで、テントに入る理由が出来てしまった。声を上げる前に一瞬躊躇するが、こうしてても仕方ないと、意を決して中の人間に声をかける。

    「イエル、ミオリネだけど」

    テントの中から返事はない。無視されているのかもしれないと思うと気分が落ち、再び声をかけるハードルが上がる。

    (仲直り、のきっかけ…)

    メイジーの言葉に後押しされ、もう一度声をかける。

    「イエル?入るわよ」

    そっと入り口の布を捲る。テントの主は奥の簡易的に作った寝床の上で寝息を立てていた。
    珍しい。
    手に持っていた洗濯物を脇に置き、横になっているイエルの側まで近寄る。微睡んでいる姿を見たことはあったが、イエルの眠りは浅くミオリネが近付けば必ず目を覚ましたので、こんな風に寝顔を見るのは初めてだった。
    穏やかな寝息を立てている様は、起きている時の顔より、あどけなく見えた。
    男の子だ。
    いつもリーダーとして毅然と振る舞っている彼が、自分よりひとつ歳上なだけの少年であることを、ミオリネは今さらながら思い出した。
    顔にかかる前髪が邪魔そうで、ほとんど無意識に指先で梳く。その感触がむず痒かったのか、閉じられていた瞼が震えた。

    「…ん…?…なっ⁉︎あだっ」
    「!」

    覚醒したと同時に後退り、枕元に置いてあったラジオに頭を思い切りぶつけてイエルは悶絶する。

    「おまえ…昨日の今日で何考えて…」

    寝起きの不機嫌さも相まってか、怒りとも呆れとも取れる声音に、反射的に言い返そうとしてしまい、メイジーの言葉を思い出してぐっと堪える。

    「…で、何の用だ?なにかあって来たんだろ?」

    乱暴に頭の後ろをかくイエルの頬に、今はもう僅かに残るだけの赤い痕を見つけてしまい、ほんの少し罪悪感が沸く。

    「…それ、まだ痛い?」
    「あ?…あーいや、もうほとんど…。それを確かめるためだけに来たのか?」
    「違っ…」
    「だったら、もう帰れ」
    「だから…!」

    とりつく島もない。ミオリネを早くテントから追い出そうとするようなイエルの素振りに、カッとなる。

    「〜ッ!いいから聞きなさいよ!」

    ミオリネの迫力のある剣幕にイエルも思わず押し黙る。

    「……」
    「…き…のうは、悪…かった、わね」

    やっとのことで口にした歯切れの悪過ぎる謝罪の言葉に、数拍の沈黙が落ちる。

    「………それ、もしかして謝ってるつもりか?」
    「⁉︎ひ、人がせっかく…」
    「ははっ、いや冗談だ」

    ひとしきりおかしそうに笑った後、イエルの表情と声が真剣さを帯びる。

    「俺の方こそすまなかった。二度としない、約束する」

    伏せられたイエルの目には後悔と自己嫌悪があった。真摯な声音に、ミオリネの頑なだった部分がほどけていくのを感じる。

    「…私もごめんなさい。あなたが本気で心配してくれてたって、わかってるから…」

    素直な言葉を口にすることができ、メイジーの言っていた、きっかけの意味がわかった気がした。

    「手首痛まないか?怖かったろう?」
    「…別に…」

    強く押さえ込まれた時の事を思い出して、顔が赤くなる。抑えられた腕は微動だにせず、男と女の力の差というのを思い知らされたのに、何故か怖いとは思わなかった。最初にレネ達とはぐれた時の方がよほど怖かったように思う。

    「とにかく、こんな風に一人で俺のテントに来るのはもうやめろ。お前だって嫌だろ、無理矢理…あー…された奴と二人きりになるの」

    こっちを気遣ってか、イエルは具体的な行為に関してぼかすが逆に意識してしまう。昨夜重ねた唇のことが否応なしにフラッシュバックする。

    「別に嫌じゃ…」

    思考を通さず返しかけた言葉に、イエルが目を見張る。
    一瞬遅れて、相手に伝わるだろう意味を咀嚼して、思わずばっと自分の口を手で塞いだ。
    どくどくと、心臓の音がうるさい。
    されていた時は嫌、だった。
    嫌だった。何が?
    そうだ。嫌だったのは、イエルがああいう行為に関して明らかに手慣れていることに対してだった。
    こんなこと、彼にとっては大した事ではないと思うと辛く悲しかった。
    じゃあ、イエル自身のことは?
    口内を蹂躙した熱い舌と、彼の硬い指が自分の肋骨に触れた感触を思い出し、熱と共にぶわりと首の後ろの産毛が総毛立つ。
    答えのわからない奔流する熱に途方にくれてしまい、ミオリネは助けを求めるようイエルを見上げた。
    二人の間に気まずい沈黙が落ちる。
    イエルは所在なさ気に視線を泳がすと、やがてその顔やめろ。とだけ呟いた。

    どう言う意味かと問いただす前に、イエルは立ち上がり、テントの入り口に向かってスタスタと歩いていく。
    そのまま入り口にかかった布をばっと開ける。メイジーとエナオ、レネが聞き耳を立てるポーズをしてそこに立っていた。

    「お前らなぁ」

    青筋を立てひくつく笑みを浮かべるイエルを見て、解散とばかりに方々に散る。そのひとつに向けてイエルは声を上げた。

    「レネ、お前は後で説教だからな!」
    「えー!なんでよ!」
    「当たり前だ!監視対象を見失うなんて」
    「ええ〜謝ったじゃない!」

    テントの外の騒ぎを頭の端で聞きながら、ミオリネは少しも動けなかった。
    代わりに心臓がバクバクと音を立てている。世界の全てがその音に支配されてしまったみたいだ。
    ふと視線が外のイエルと絡み合う。
    が、やはり気まず気に逸らされてしまった。その目は自分と同じ迷子のようだった。
    彼の寝顔を見ながら思ったことを思い出す。
    いつだって自分より大人だと思っていた彼も、私とひとつしか違わない少年なのだ。
    答えは自分で出すしかない。
    でもそれは今の危うい均衡を崩してしまう予感がして、ミオリネはやはりどうしていいかわからず、途方に暮れてしまうのだった。
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