大きさ比べ「(…珍しい。)」
リビングのソファで仰向けになりながら本を顔の上に伏せ、珍しく居眠りしている彼を見つけて、好奇心からそのダラリと垂れ下がった右手をまじまじと眺める。同じポケモントレーナーとして活躍する彼の手は、所々小さな傷やペンだこはあるが、綺麗に手入れがされており爪も全て丸く引っかかりも無く整えられている。眠り込んでいる彼を起こさないように静かに膝をつき、そうっとその手を自分の両手で包んで持ち上げた。手の甲から手のひらとの色味の違う境目を指先でなぞりながらキバナの手をひっくり返し、その大きな手のひらと自分の手のひらを合わせて大きさを比べる。
この大きな手が、ダンデは大好きだ。この手で触れられると、不思議なことにとても安心して幸せな気持ちになる。こんなに触ってもキバナは未だに起きる様子はない。それを良いことに、ダンデはキバナの手のひらへ頬を擦り寄せて幸せそうに笑う。少し冷たい指先の温度が、ダンデの頬の温度に触れて馴染んでいく。そんな些細な事でも幸せで愛しい。そんな気持のまま、最後手を離す前にと思ってキバナの手のひらへキスをすると、途端ガバリと体を起こしたキバナにそのまま彼の長い両腕で抱き付かれ、胸元へと引き寄せられる。バサリと本が床に落ちる音と同時に、彼のシダーウッドの香水の香りがふわりと鼻をくすぐる。
「…あんまり、昼間から可愛いことしないで。」
「夜なら良いのか?」
「そうじゃ無くてぇ…はぁ、可愛いが過ぎる。」
「君はいつも可愛い可愛い言ってくるな。」
「可愛いんだもん。はぁー…オレさまのマホイップちゃん。マジ可愛い。」
抱きしめたままの姿勢で抱え込んだダンデのつむじや額にキスをする。その唇の感触が擽ったくてむずがるダンデの髪や背中を手のひらでゆっくりと撫でて宥めていくと、直ぐにダンデはキバナの胸に催促するように擦り寄る。その動作もまた可愛い、とキバナは悶えて力一杯抱き締めたいのを我慢して手のひらで撫で続ける。
「…キバナ。」
「なに?」
「…こ、この先はしないのか?」
「して良いの?」
「…意地悪。」
「はー!マジ!マジでこれが無意識完全天然培養だもんな!かぁーっ!生きてて良かった!」
「君、情緒大丈夫か?」
「ダメ。だから、一緒にベッドに行こ?」
「…………ん。」
二人で寄り添うようにしながらゆったりとソファから立ち上がり、寝室へと歩みを進めていく。
毎日マゴの実を煮詰めてドロドロに甘くしたようなやり取りを見せ続けられている手持ち達は、慣れたように二人を見送った。大人のポケモン達は小さなベビーポケモン達をバルコニーへと誘導し、遊び道具の入っている棚からポケボールを取り出した。あの様子じゃ多分暫く戻って来なさそうだし、せっかく普段忙しい二人がゆっくり過ごせる日の触れ合いを邪魔をしてしまっては忍びない。
それでも、もうちょっと場を考えて触れ合って欲しい。
ちょうだいちょうだいと、きゃらきゃらと飛び跳ねて強請るベビー達に鼻先でボールを優しく転がしながら、二人の見守り係筆頭のリザードンは胃に溜まった甘さを少しでも吐き出そうと深く長いため息を吐いた。そんなリザードンを労うように、空は雲一つなく穏やかな風が吹いていた。