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    shiraosann2

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    shiraosann2

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    🏛くんの腕を🌱が切り落とす話



    あまりに書き進まないから進捗を上げさせてくださいお願いします

    #アルカヴェ
    haikaveh

    I love every part of you「アルハイゼン、頼むよ、切ってくれ。大丈夫だから、なぁ、早くッ!」

    己の外套を引き裂いて作った布切れで利き手の上腕を硬く縛り、カーヴェはそれをアルハイゼンの眼前に差し出す。
    魔物の噛み跡が深く付き未だに血が流れている彼の生白い腕に、抜いた己の片手剣を当てがってアルハイゼンはぎり、と歯噛みした。

    嗚呼、どうしてこんなことになってしまったのだろう。



    話は二日程前に遡る。

    「もし良かったらこの秘境の調査、僕らも手伝うよ」

    ここ最近、冒険者教会から幾つも秘境の調査の依頼を受けて忙しそうにしていた蛍にカーヴェがそう声をかけたのだ。

    「……おい、俺を巻き込むな」
    「たまにはいいだろ、君だってこの子らにはよく世話になっているじゃないか。それにここ最近は教令院も夏季休暇で暇をしているんだから」
    「え、いいの?……割と出てくる敵も強いと思うしそこそこ危険だと思うよ」
    「フィールドワークの一環として秘境を巡るのは昔からやっているから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。それに最近は依頼もそんなに立て込んでないからインプットに時間を費やしたくてさ。なにより、君達だってコイツの腕っぷしの強さはよく知ってるだろ」

    そう言ってカーヴェはぐい、とアルハイゼンの肩に手を回して引き寄せた。
    草神救出の際にわざと衛兵に捕まったあと、拘束されていた状態から、自分を捕らえていた彼等二人を拳で打ちのめしたような人間だ。文弱からは程遠い。
    なら有難く手伝ってもらうね、と蛍は地図を取りだした。赤く丸がついているのが調査対象の遺跡だろう。砂漠に点在する四個の丸、この量の秘境を全て一人で調査するだなんて明らかにオーバーワークである。

    「この種類の秘境は、一度中に入ったらギミックを解き終えるまで出れないんだけど、出てくる敵もそこそこ強いから気を付けて。私も前にちょっとやらかしてパイモンを凄く心配させちゃったんだ」
    「あの時のお前、とっても痛そうで、苦しそうで、オイラ怖かったんだぞ!!」

    分かった分かった、気をつけるから……心配かけちゃってごめんね。

    そう言って蛍は、少し怒ったように腰に手をあてながら空中で一回転しながらこちらを睨むパイモンにクッキーを手渡す。話を聞いて少し心配そうにこちらを見てきたカーヴェに彼女は慌てて手を振った。

    「ああ、でも大丈夫。この中はおそらく夢境みたいな造りになっているから、この類の秘境はその中で怪我をしても外に出たら元通りになってるんだ。もしかしたら病気は対象外かもしれないけどね。少し前に行ったときに、秘境の中でパイモンが風邪を引いちゃって、外に出てからも半日くらい寝込んでいたから。体調にはくれぐれも気をつけてね。調査の件、引き受けてくれてありがとう。私も今やっている秘境の調査が終わったら、急いでそっちに行くから」

    そこで彼女達とは別れ二人は家に戻ると数日分の野営の準備に取り掛かった。学生時代はフィールドワークをする時に毎回一週間分は食糧などの準備をしていたものだ。それらを終えて、彼らは直ぐに旅人に調査の手伝いを依頼された秘境に入るべく砂漠へと向かった。

    「ここの、中か」

    呟くようにそう言ってカーヴェは重い秘境の扉を撫でる。
    扉に施された装飾は他の国でも見られる一般的なもので、手触りなどにおかしな所は無い。けれど。

    「……あまり良い雰囲気はしないな。さっさと行こう、カーヴェ」

    上手く言語化は出来ないものの、何処か死域の蔓延る場所に近付いた時のようなそんな不快感に二人は身を硬くした。
    ほんの少し元素力を扉に向けて流してやれば、秘境の扉は重めかしい、石同士が擦れ合う音を立てて広がりその中から一寸先も見えないようなどろりとした闇がこちらを覗き込む。乾燥した砂漠の中にある秘境の筈なのに水の匂いが向こうからは微かに漂ってきた。
    まるで何かに見定められているかのような、そんな居心地の悪さを感じながら二人の学者はゆっくりとその中に足を踏み入れる。

    旅人の忠告通り、秘境の中は丘々人共の巣窟と化していた。
    耳障りな雄叫びを上げながらこちらに襲いかかってくる彼らを二人は時には元素を用い、時には純粋な暴力で的確に無力化していく。

    とはいえ、元素で生み出した鏡に草元素のエネルギーを複雑に反射させレーザーカッターが如く敵を切り裂いていくアルハイゼンと、足元が湿気で濡れているのをいいことに草原核を作り出し、自らはメラックの機能によって草原核のエネルギーを生命力に転化し回復しつつも周囲には爆風と破壊を振りまくカーヴェの相性はあまり宜しくない。普通に考えれば。

    「カーヴェ、避けろ」

    アルハイゼンのその一声で、降り注ぐ琢光鏡の刃の群れを紙一重で掻い潜り、カーヴェは眼前に立ちはだかる丘々人の王の足元に転がり込んで背後に回る。
    大柄な敵の体躯を盾にして刃の直撃を避ければ、濡れた床にぶつかった草元素の刃はささやかな音を立てて壊れ、そこから溢れた草元素が水と反応して草原核を生み出した。
    そこで彼は自分の左手に収まっている賢い工具箱に指示を出す。

    アルハイゼンの手によって生み出された幾つもの草原核がカーヴェの手によって小爆発を起こした。

    爆発で生じたエネルギーの一部はメラックによって生命力へと転化され、彼の主人を癒しながらもそれ以外の存在には無慈悲な死を与える。

    黒い霧と割れた仮面を遺して消えた敵を見遣ってメラックを透明化するとカーヴェは先程まで敵の姿で隠れていた秘境の柱を観察した。なにか細かな文字で彫り物が施されているが風化によって塵が詰まって読み難くなっている。
    遺跡調査に使う刷毛で丁寧に塵を落としていけば、キングデシェレト文明の、それもかなり成立初期のものと思われる文字が浮かび上がってきた。流石にここまで古い文字だと自分の手には余る。餅は餅屋だ。

    「……おい、アルハイゼン。君の出番だ、読めるか?」

    背後で壁画をじっくり眺めていた後輩にその場を譲りカーヴェはぐるりと周囲を見渡した。

    見たところは一般的なキングデシェレト文明の遺跡のひとつだ。しかし、音の聞こえ方からするに一般的なものよりも壁材が固く、緻密に作られていると分かる。

    「………どうやら壁画と文字を見るにここはとある有力な祭司の遺品を集めた宝物庫の一つと思われる。盗掘などを避けるために恐らく複雑な迷路構造になってるだろうな」

    そしてアルハイゼン曰く、この秘境内には複数のギミックがありとあらゆるところに設置されており、起動させた順番と場所が宝物庫の鍵となっているそうだ。
    そして一つでも鍵となるギミック解除の順番を間違えれば、遺跡を防衛するプライマルが全て起動するようになっているらしい。なんとも厳重な警備体制である。

    「よくこんな面倒な仕掛けを思い付くよな昔の人は。……ってちょっと待ってくれ」

    そう言ってカーヴェは暫く壁画を観察した後フィールドワークの際に使っているメモ帳を取り出すと、とあるページを開いてアルハイゼンに手渡した。全部で四枚ある壁画の写しは半年程前に論文を書くために潜り込んだ秘境で見つけ、同行者だったファルザンと共に解読を手掛けたものだ。
    一般的な壁画とは異なり描かれているのは神話でも伝承でもなく幾何学的な模様で、ところどころ数字を示す古代文字と赤い印がついている。

    「これはキングデシェレト文明の中期と思われる遺跡で見つけた壁画の写しなんだが、ここも、この壁画と同じサングイトを用いたかなり希少な赤い塗料が使われている。それも発色からして配合まで同じだ。あとほら、この数詞はキングデシェレト文明の最初期のもので中期にはもう僕たちの使う文字とほぼ同じものに変わっているだろ」

    時代の齟齬を不思議に思って記録を残していたけれど、今思えばあの墳墓に眠っていた祭司は、恐らくこの秘境に祀られている祭司の末裔だ。

    それならこの一見意味を持たない幾何学的な模様と数詞の描かれた壁画はこの秘境の地図であり、鍵となるギミックの解除順を表している可能性が高い。というか壁画に直接数詞を書き込む意義がそれ以外には思いつかない。

    「とりあえず、構造を理解するためにもギミックの位置を把握するためにも、もう少し奥まで探索してみる他ないな。行こうか」

    そう言いつつカーヴェはさらさらとメモ帳に簡易的な地図を描き出していく。
    普段彼が図面を引く時と同じ、迷いの無い線で紙の上に描き出される緻密な地図はまさしく迷宮におけるアリアドネの糸だ。

    果たして彼の予想は正しかったのだろう。とりあえず階段などは登らずに数時間ほど探索を続けて作られた一階層分の地図の形は先程見せてもらった壁画の写しの全体像と酷似していた。
    互いにかたや壁画や碑文の解析、かたや地図の作成にと作業に耽けること数時間、懐中時計を見遣れば時間は既に夜の九時を回っている。そろそろ野営の準備をした方がいいだろうと、二人は天幕を広げた。
    カーヴェが地面に防水の織物を敷き、その上に金網を置くとアルハイゼンは丘々人の拠点から持ち出した薪を使って秘境の中を照らす松明の灯りから貰ってきた火を灯す。
    道中、キャラバン宿駅で購入したオイルサーディンや蛸のアヒージョ、塩漬けのベーコンなどが入った缶詰を開ければ、食欲をそそるオリーブ油の香りがふわりと密室に広がった。
    ぱちぱちと小気味の良い音を立てて爆ぜる炎の上にもう一枚金網を強いてオアシスの水を沸かす。インスタントのコーヒー粉をマグカップに入れて湯を注ぎ、そこにほんの少し、酔わない程度の極小量だけリキュールを入れた。
    アルコールの甘い香りが鼻腔を擽る。
    家から持ち出してきたピタの生地を油を引いたホットサンドメーカーに敷いてその上に缶詰の中身を挟んで炙る。できたそれをナイフでふたつに切り分ければ手軽な今夜の夕食の完成だ。
    ピタサンドを片手で食べながらアルハイゼンは手元のメモを見て、解読を終えた碑文の内容について滔々と話し始めた。

    彼曰く、旅人の言う通りこの秘境は夢境に近い、現実とは若干異なる亜空間となっているらしい。
    収納されている宝物等は、たとえこの中で壊れてしまっても外に出せば元通りになるように作られているそうだ。そして、その修復機構はおそらく人体などの生体にも作用するとか。
    とはいえ時間を巻き戻したりするような物ではなく、損壊した遺体を綺麗な遺体にすることはできても死体を生き返らせるようなことはできず、また病気などを癒す事ができるようなそんな便利なものでもないらしい。

    ある程度情報交換をしたところで交代で寝る事にした。先にカーヴェに寝てもらい、アルハイゼンは火の番を続ける。先程写した碑文や壁に書かれた古文書の解析がまだ終わっていないのだ。炎の爆ぜる音ともに微かな風の唸るような音が同居人の静かな寝息と共に薄らと鼓膜を揺らす。
    外界とは隔絶されているから風の音など聞こえる筈がないのに、何処かに風域でもあるのだろうかと思えば犬か狼か、何らかの動物の遠吠えのような声が一際高く、遠く上の階の方から聞こえた。
    風だと思っていたのはどうやらその動物の鳴き声のようだ。
    何処か苦しげにも聞こえるその声にほんの少し不気味さを感じつつもアルハイゼンは手元の碑文に掘られた文字の解読に集中することにした。

    「……!」

    交代の時間が近づいてきたところでアルハイゼンは一部まだ解析が終わっていなかった比較的新しく掘られた、数百年程昔の碑文の写しに目を通し、そしてそのターコイズにスピネルが混じった翠の双眸を僅かに見開いた。

    ​─────宝物庫の番はまめなる我が下我らにさせたれど、日ごろは彼らの間にあやしき病が広まりてこうぜしものなり。水恐るべくなり、滅多に人を噛むがなかりしに日ごろは凶暴になれり。何かいいまじからむや。

    現代語に訳すれば、『宝物庫の番は忠実なる我が下僕たちにさせているが、最近は彼らの間に変な病が広まっていて困ったものだ。水を恐れるようになり、滅多に人を噛むことがなかったのに最近は凶暴になっている。何かいい方法はないだろうか』
    と言ったものだ。

    文脈からして下僕たちというのは恐らく人間では無いだろう。番を任されるような動物、恐らく犬の類だ。
    はるか遠くから聞こえる獣のような唸り声に、まさかな、とは思いつつも文を読み進めていれば背後でもぞりと何かが動く気配がして肩に手を置かれる。驚きに身を硬めれば慌てたように手が離れる。先に寝ていたカーヴェだった。

    「……ああ悪い。驚かせたかな。アルハイゼン、そろそろ交代だろ。代わるよ」
    「ああ」

    カーヴェは蛹から孵る蝶のように、もぞりと寝袋から身体を引き抜いて、ふわりと欠伸を零しながら眠い目を擦る。
    時計を見れば深夜の三時、もう交代の時間だ。
    入れ替わるようにアルハイゼンが寝袋の中へ体を滑らせれば、中は先人がたっぷり温めていてくれたおかげで丁度良い温度になっていて、その心地良さに彼の意識は微睡みの奥へと落ちていった。
    頭の片隅に感じた僅かな違和感は睡魔の濁流に流されて、そのまま思い出されることは無かった。



    翌朝。朝食もそこそこに二人は上の階の方の探索に出向いた。
    この秘境の中は存外広い。以前旅人と同行して探索することになったキングデシェレトの陵墓には劣るものの、面積にして教令院の智慧の殿堂五つ分位はあるだろう。
    いくら未開の地と言われる砂漠とはいえここまで広い遺跡があればとっくに誰かが見つけている筈だから、やはりここは現実の空間とは隔たれた亜空間となっていると思われる。

    「……やはり何か変だ。この秘境は」

    カーヴェは周囲を見渡してぽつりと呟く。彼の目線の先には焚き火に頭を突っ込んだまま動かない丘々人の遺骸があった。
    ここまでの道中、あちらこちらで丘々人が息絶えているのを見た。生きている丘々人も先程一体見かけたがそちらも明らかに様子がおかしかった。
    こちらに気付いて襲いかかろうとふらふら走ってきたものの、互いを阻むように走っている水路に足を踏み入れた途端、なにか触れてはいけないものに触れてしまったかのように恐れ戦き慌てふためいて逃げていったのだ。

    丘々人は水に映る自分の顔を見たくないから仮面をつけていると以前旅人から聞いたが、水そのものを恐れる丘々人というのはあまり見かけない。
    それに通常魔物である彼らは遺体を残さず、黒い霧になって消える筈だ。こんなふうに遺骸が残っているのがおかしい。
    なにより、既に絶命している丘々人は皆一様に、顔を覆う仮面の下から泡を吹いたり、壁に頭を打ち付けるなり自らの喉をその鋭い爪で掻き切るなり、焚き火の中に頭や体を突っ込むなりと、異様な死に方をしていた。

    「……これは、病死か?それとも精神錯乱……?けれど、魔物が病にかかるなんて聞いたこともないからな。……この辺りにはなにか、呪いじみたものでも巣食っているのか?」

    検死は二人とも畑違いだ。ティナリがいれば良かった、とカーヴェがここにはいない医学に精通した友人を思い出しているのを尻目に、アルハイゼンは徐に死体のひとつに近付くと剣の先でそっとその体をつついて、うつ伏せだったのを転がして表に向ける。

    「………何かに食い荒らされたような跡があるな」

    確かに彼の言う通りその丘々人には中身が無かった。だと言うのにその体からは腐臭も、血の匂いさえもしない。それがより一層不気味さを掻き立てる。
    そこでふとざり、と何かが床を踏みしめる音が背後から聞こえた。同時にぐるるという低い唸り声。

    「!」

    振り返れば、いつの間にか何体もの犬のような形をした魔物が十数メートル先からこちらを見つめている。
    唸り声をあげる魔物の口からは舌と共に唾液がだらしなく零れ落ち、その目は白く濁りきっている。

    ​─────日ごろは彼らの間にあやしき病が広まりてこうぜしものなり。水恐るべくなり、滅多に人を噛むがなかりしに日ごろは凶暴になれり。

    アルハイゼンの脳裏に、昨夜読んだ碑文の文章がまざまざと蘇った。

    凶暴になった宝物庫の番人達、水を恐れるように逃げていった丘々人、錯乱したような死に様を晒している丘々人。そしてその遺骸を食い漁りに来たであろう目の前の魔物たち。

    「カーヴェ、絶対に噛まれるな。血も浴びるな。……もしかしたら彼等は恐水病に罹っているかもしれない」

    恐水病​─────狂犬病は、今でも治療法が確立していない不治の病だ。十数年前、オルモス港でも外から持ち込まれたこの病に野犬が罹患し、ビマリスタンがその対処に追われていたことが教令院の年表にも残っている。
    罹患が疑われる野生動物を捕獲処分し検疫やペットのワクチン接種を義務化することで事なきを得たそうだが、資料に書かれた犠牲者の数はかなり多く、それだけ危険な病だ。

    魔物も病に罹患するのかはさておき、もしもこの病に感染してしまえば後はない。
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