航海ステンドグラスからの月明かりが差し込む机に置かれた家の鍵を見ながら溜息をついた。思考の荒波への航海の仕方をいつまで見つけれないままなんだろうかと。

いつか君にも捨てられて、期待もされないで、生きるために生きて、何も生み出さないで、何も感じないで、もぬけの殻になってしまいそうな自分が怖い。それでも僕は僕を捨てられないで縋るように生きてしまう自分が怖い。それなら僕から君を捨てて、僕だけが期待して、孤独で強くて、そんな人生を…


「俺が消えてしまったら、それを君はどう受け入れるのか、受け入れられないのか、気になる」
と足音を立てることを忘れている同居人が後ろから感情の分からない声色で言った。

「君が…消えたら僕は」

…消えるよ。受け入れる、受け入れないの話じゃないんだよ、と僕は言いかけてやめた。試されているのかもしれなかったから。

振り向き、君の瞳の中に有る柘榴を呑み込んだ。

救われたいなんて我儘だ。
救ってやるなんて傲慢だ。
泣くしかなかった夜も、立ち止まって動けなくなった灯りの下も、飛び出す勇気が出なかった砂塵も、じんわり熱くなる身体も、噛み締めた唇も、書き殴った未来への手紙も全部全部、全部、何一つとして救われやしなかった。僕を救えやしなかった。

『正しいか、正しくないかの議論はもう関係ない』いつか君が発したこの言葉が過った。

息を止めるより、息を吸うことが困難な、そんな世界で『生かされてる』なんて思えないのかもしれない。『生きてやってる』くらいの気持ちじゃなきゃ生きていけないのかもしれない。惰性で生きてるなんて、言いたくない。

こいつは励まそうなんて心は持ち合わせてないのは分かってる。しかし、今日のこの質問の実像を僕は垣間見ることができたのかもしれない。他人が対岸から手を伸ばしていようがどこ吹く風の自由人がふいに出す言の葉を僕は拾うことが愉しいのだと思えた。


「ふむ、俺は涙を出せとは言ってないが？」

「はぁぁ゙！！っ゙…　煩いな君は！」

君は自分以外の何かや原理ばかりを気にしていたな。僕は君のそういうところが好ましいけれど嫌いなんだよ。確信を持って言える、こいつは性格が悪い難がありすぎると。

『生きてやっている』

君を見ているとこの在り方がとても眩しくて、同時に僕には成し得ないことだと理解する。憧れにも似たこの憤りはいつからだっただろうか。

荒波に揉まれても舵を進める方法はいくらでもあるのだと議論するこの日々を、この家を僕は愛しているのだと笑った。

「泣き笑いとは器用で好ましいことだ、大建築士様」
一言余計な横風なる書記官様は目を伏せて微笑んだ。