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    いちご

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    いちご

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    左銃で30日CPチャレンジ2日目です。

    #左銃
    cannonStreet
    #30日CPチャレンジ
    30-dayCpChallenge

    Day.2【抱きしめる】「疲労回復に効果のあるもの、か」
    「ええ。最近本当に忙しかったので、疲れが溜まってて……」
     パチパチと弾ける薪の音が心地よい、理鶯の野営地。ここは銃兎にとって、ほっと息をつける場所の一つでもある。
    「仕事は片付いたのか?」
    「つい先程ですけどね……。ここ数日は署に泊まり込みで捜査をしていたので、今日はもう家で休めと午前で帰らされたんですよ。まあ、結局理鶯のところに来ちゃいましたけどね」
     理鶯から手渡されたマグカップを受け取って、白い湯気を立てる珈琲をふうふうと冷ます。理鶯の自家製農園で採れた珈琲豆で淹れた珈琲はコクが深く、左馬刻の淹れるものとはまた違って、とても美味しい。
    「やはり一番効果的なのは良質な睡眠だろうな。銃兎の言い分だと、ここしばらく十分な睡眠が取れていないのだろう?」
    「そうですね……。署の仮眠室だとやっぱり上手く寝付けなくて……。今日だって早々に帰って寝とけばいいんでしょうけど、明日明後日と有給貰っちゃいましたし、なんだかそういう気分でもなくて……」
    「ふむ、それならば珈琲よりもミルクやココアの方が良かっただろうか。カフェインの摂取は良質な睡眠を取るには些か分が悪い」
    「大丈夫ですよ。ここから帰る間に寝落ちてしまってもいけないですしね」
     コク、と銃兎は理鶯の珈琲を飲む。うん、やはり美味しい。
    「そうか。では、睡眠の次は食事だな。ビタミンの摂れる食材を使ったものや、辛いものも疲労回復に効果がある。小官で良ければいつでも振る舞うぞ」
    「ありがとうございます。ですが、毎回理鶯にお願いするというわけにもいかないですし……」
    「うむ、となると食事面というよりは生活面での何かが良いということか」
    「そうですね……その方が自分で実践できる気がします」
     理鶯の作る料理はとても美味しい。それは間違いないし、作ってくれること自体とてもありがたいとは思っている。しかし、疲労回復に良いからと見たことも聞いたこともないような得体の知れない食材で調理されたものを出されてはたまったものではない、と銃兎はなんとか理鶯からの料理を阻止できたことに、内心ほっとする。
     その間、理鶯は考え込むような動作をすると、そういえば、と何かを思い出したように話し出した。
    「先日ラジオで、『愛し合う者同士でするハグは日頃の疲れが一気に吹っ飛ぶ』と言っていたのを聞いたな」
    「貴方、そういう系統のラジオも聞くんですね……」
    「軍人たるもの、ジャンルは問わず情報収集が欠かせないからな。あまり馴染みのない分野の情報というのも為になって面白い」
     理鶯からの意外な情報に銃兎は驚く。理鶯はそんな銃兎を見て微笑んだかと思うと、思わぬ提案をしてきたのだった。
    「銃兎は左馬刻と恋仲なのだろう?試してみたらどうだろうか」
    「えっと……ハグを、ですか?」
    「ああ。試してみる価値はあると思うが」
     そう言って微笑みながら銃兎を見つめる理鶯は冗談を言っているようには見えない。見えないのだが、本気だとも銃兎は思えなかった。
    「でも、ほら、左馬刻も最近すごく忙しそうにしてたみたいですし、そもそもいつ会えるかどうかも分からないので……」
     事実、銃兎が忙しくしている間、左馬刻も揉め事を起こす暇もないほど忙しくしていたようだったのだ。一週間以上は声すら聞けていない。それなのに、理鶯はどうやら違ったようで。
    「左馬刻なら昨日ここに来たぞ」
    「え、」
    「銃兎が忙しそうにしていると心配していたな」
    「えっと、あの……」
    「ああ、そういえば、今日にでも家に押しかけてみるか、とも言っていたな」
     銃兎が口を挟める暇などなく理鶯がそう言った瞬間、驚くほどタイミングが良く銃兎のスーツのポケットに入れていたスマートフォンが震えて着信を知らせた。相手は名前を見なくても分かる。何せ、専用の着信音なのだから。
    「出ないのか?」
     理鶯に見つめられて、銃兎はう……と声が漏れる。逃れられないことを悟り、着信ボタンをタップした。
    「……もしも、」
    「オイ銃兎!今何処にいンだ!」
    「理鶯のところ……」
    「ンだよ、理鶯ンとこかよ……。テメェの後輩クンに銃兎さんは家に帰ったって言われたから来てみりゃいねぇしよォ……どっかで倒れてんじゃねぇかと思ったわ……」
    「わ、悪い……」
    「まァ無事なんならいいわ。早く帰ってこいよ。風呂沸かしてメシ作って待ってっからよ」
     じゃあな、という声で通話は切られ、ツーツーと無機質な音に変わる。思わず立ってしまっていた銃兎が理鶯を振り返ると、理鶯も腰を上げる。
    「さて、小官は狩りに出るとしよう」
     テキパキと武器の装備を始めた理鶯は、銃兎をチラ、と見て微笑んだ。
    「日頃の疲れを一気に吹っ飛ばしてくるといい」
     理鶯の純粋な瞳に見つめられて、銃兎は仕方なく帰路に着くことにしたのだった。



    ***



    「銃兎、珈琲入ったぜ」
    「ああ、ありがとう」
     ふわりと湯気を漂わせながら、左馬刻が白と黒のマグカップを持って銃兎の元へやって来る。コト、とローテーブルにカップを置いて、左馬刻は銃兎の隣に腰を下ろした。
    「あちぃから気ぃつけろよ」
    「ああ、ありがとう」
    「おう」
     ふうふうと冷ましながらゆっくりとマグカップに口を付ける。左馬刻の作る珈琲は香りが高く、苦味と酸味のバランスが最高でとても美味しい。理鶯の作る珈琲も勿論美味しいのだが、やはり銃兎にとっての一番は左馬刻の作る珈琲だと感じている。そのあまりの美味しさに、以前、「こんなに珈琲を淹れるのが上手いんだからバリスタでも目指せばいいじゃないか」と言ったことがあるのだが、何故だかものすごく拗ねられた。解せん。
    「猫舌ウサちゃん、美味い?」
    「美味しいよ、でも猫舌は余計だ」
    「事実じゃねぇの」
    「うるさい」
     理鶯の野営地から自宅に帰ると、そこからは左馬刻からの至れり尽くせりのフルコースだった。メシがもうちょっとでできるからと丁度良い温度で沸かされた風呂に入れられ、上がれば出来たての料理たちが湯気といい匂いを漂わせながら銃兎を待っていた。これ何メシだ?と銃兎が笑うと、ちょっと早い晩メシってことにしとこうぜ、と左馬刻も笑う。お昼は軽く食べていたし、丁度お腹も空いた頃だったので、左馬刻の言う通り、ちょっと早い晩メシということにして、左馬刻お手製の料理たちを思う存分堪能した。味は言うまでもなくとても美味しくて、本当に幸せな食卓だった。
     食べ終わったあと、左馬刻ばかりに任せていては悪いと銃兎が皿洗いを買って出たのだが、「俺様は昨日も休みだったからいいんだよ」と、左馬刻にキッチンから追い出されてしまった。皿洗いも終わったらしい今は、食後の珈琲タイムの真っ最中である。
     昨日も休みだったからとはいえ、左馬刻も絶対疲れているに違いないのに、こんなにも自分に尽くしてもらってばかりでいいのだろうか。なんて、軽口を叩き合いながらも銃兎が考えていた時、ふと理鶯の言葉を思い出した。
    「さ、左馬刻」
    「あ?どした?」
    「お前、最近忙しかったはずなのに、今日は俺に尽くしてばっかりで、今疲れてるよな」
    「……ハァ?」
    「俺も、仕事が忙しかったから疲れてるんだ」
    「そりゃあまあ……銃兎に尽くしてンのは好きでやってることだから疲れるとかはねぇけどよ、お互い仕事に関しては最近忙しかったからな……あ、もしかして今日スるかシねぇかの話か?それならさっき今日はシねぇって……」
    「ハグ、しないか?」
    「……は?」
    「理鶯が言ってたんだよ、愛する者同士でするハグは日頃の疲れが一気に吹っ飛ぶって、だから……」
     決して理鶯の言葉を本気にした訳ではない。せっかく相談に乗ってもらったのに、実行しないのも悪いかな、と思っただけなのだ。他意はない、本当に。そう思っていたはずだったのだが。
    「……ん」
    「え?」
    「ハグ、すンだろ?」
     左馬刻が両手を広げてこちらを見つめていたのだ。コテン、と首を傾げてこちらに甘い視線を送られたら、そんなもの、断れるはずがないではないか。
     銃兎が恐る恐る左馬刻に近づくと、グイッと左馬刻に抱き寄せられた。思わず、おわ!と声が漏れてしまう。
     左馬刻の意外と鍛えられた厚い胸板に、とくとくと感じる心音。回された手で優しく髪を撫でられながら、耳元に口付けを落とされる。本気にしていたはずではなかったのだが、案外これは……。
    「……疲れ、吹っ飛んだかよ」
    「……ふふ、ああ。不思議だな」
     銃兎は、ぎゅうと左馬刻の背中に回した腕の力を強めた。
    「……左馬刻は?」
    「ん?」
    「左馬刻は、疲れ吹っ飛んだ?」
     銃兎としては、左馬刻も自分と同じ気持ちだったら良いな、と思っただけだったのだが。
    「……それはベッドの上で証明してやるよ」
     左馬刻の思わぬ言葉に、銃兎は思わず顔を勢い良く上げて左馬刻を見る。すると、左馬刻はニヤリと笑って、明らかに欲を含んだ瞳で見つめながら、銃兎の唇をふにふにと撫でるように触ってきたのだった。
    「……え?」
    「このままベッドまで運んでやんよ」
    「……もう寝る、ってこと……だよな?」
    「ハァ?ンなわけねぇだろ寝かせねぇわ」
    「は!?で、でも今日はシないって……」
    「そっちがその気ならこっちの準備はいつでも満タンだっつーの!オラ!行くぞ!」
    「うわあ!待っ、落ち……!」
    「落とさねぇよ、じっとしてろ」
    「は、はい……」
     後日、理鶯は非常に肌ツヤが良い左馬刻の隣で腰を擦る銃兎から報告を受けた。愛する者同士のハグは疲労回復に効果抜群であった、と。
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