Day.9【友達と(みんなで)遊ぶ】『王様だ〜れだ!』
酔っ払った男たちのやることに、特に意味などない。考えるだけ無駄である。それは、「ハマの最凶最悪なヤロウドモ」と謳われた、ヤクザ・警察・元軍人であるアウトローな彼らも同じなのであった。
「あ、私ですね」
「銃兎が王様か」
「ウサちゃんは一体どんな命令すんだァ?」
銃兎はふわふわとした頭で思考を巡らせる。どうせなら自分に得のある命令にしたい。
「ふふ、じゃあ2番の人にマッサージでもしてもらいましょうかね」
「お、2番俺様だわ」
以前一度だけ受けたことのある理鶯のプロ顔負けのマッサージが恋しくなっていた銃兎は、「2」と書かれた割り箸を顔の横に掲げた声の主に顔を顰めた。
「げ、左馬刻かよ……」
「ンだよ、自分で命令したくせに」
「やっぱり1番の人でお願いします」
「ァ?左馬刻サマによる出張マッサージはキャンセル不可なんだよ!」
「うわあっ!?」
銃兎は左馬刻に勢い良く押し倒された。酔っ払いは容赦がない。まあ左馬刻の場合は酔っ払っていなくても容赦などないが。
「うっし、王様ウサちゃんのためにたァっぷり揉んでやんよ」
「ちょ、馬鹿!どこ揉んで……ッ、!理鶯だっているのに……!」
銃兎はチラ、と理鶯を見る。目が合った理鶯はひとつ大きく頷いた。
「銃兎、大丈夫だ。王様の命令は絶対なのだろう?」
「じゃあ1番の人!2番の人を止めてくださいッ!」
「ばーか、命令できンのは一回だっつーの!」
「うわっ!ほんとやめ……っ!ンッ……♡」
「…………」
「…………」
……やってしまった。二人の視線が痛い。銃兎は思わず手で顔を覆った。
「……なァ、理鶯。王様の命令は絶対だったな」
「ああ」
「ンじゃあよ、この街の王様は誰だ?」
「……左馬刻、だな」
「じゃあ俺様の言うことは?」
「無論、絶対だ」
理鶯はそう頷いてから、すっくと立ち上がった。手入れの行き届いた相棒のライフルを背負って、玄関へと向かい出す。
「おし、じゅーと、理鶯の許可出たぞ」
「い、いやいやちょっと待て!理鶯も!貴方今日は私の家に泊まるって言ってたでしょう!?」
「小官は仕掛けた罠の確認に行くだけだ。一時間……いや、二時間程で戻ってくる」
「悪ぃな、理鶯」
「構わない。何せ、王様……いや、左馬刻様の命令は絶対だからな」
こんなときでも元軍人の穏やかな笑顔は健在のようだ。……やめてくれ、いたたまれなくなる。
「じゅーと、二時間だって♡」
左馬刻がするりと手を伸ばした先が既に兆してしまっていた銃兎は、酔った頭で思ったのだった。
「(二時間って何時間だっけ……)」