Day.10【獣耳】「じゅ〜とォ〜、どうしたんだよその可愛いお耳はよォ〜」
ちょんちょんとつついてはニヤニヤ笑みを零す。彼此二十分は繰り返されているその行為に、銃兎は引き攣る口元を隠すことなく持ち帰った仕事を終わらせるためにパソコンと向き合っていた。
宅飲みを始めて、珍しく早々に出来上がった左馬刻はどこからか取り出した兎の耳を模したカチューシャを銃兎の頭に嵌めたのだ。
「ウサちゃんかぁいい」
酔っぱらいの戯言なんかに耳を貸すな。銃兎は自分にそう言い聞かせる。
「じゅーとぉー、無視すんなって」
「…………」
「本当は尻尾もあンだけどよ、ま、それは今度な。今日はお耳を可愛がりたい気分」
今度があるのか……と溜め息を吐こうとしたのだが、左馬刻の伸ばした手が、なぜか銃兎の耳──頭に着けられた兎の耳ではなく、銃兎自身の──に触れたせいで、吐こうとした溜め息は変な声へと変わって口から漏れ出た。
「ひっ!?」
「あ、ワリ。敏感だもんな」
「そ、そうじゃなくて、俺の、耳……」
「ん?どした?」
「いや、だから、そこはお前が着けてきたカチューシャの耳じゃなくて、俺の耳、なんだが……」
「? おう、そうだな」
いやそんな「何かおかしいことでも?」みたいな顔をするな。美形のキョトン顔は破壊力がすごいんだから……。
「言ったろ?今日はお耳を可愛がりたい気分なんだってよ」
「さっきまで散々カチューシャの耳をつつき回してただろ」
「だから、今度はそっちじゃなくて……」
こっちの耳、と耳元で囁かれた低音は、銃兎を甘く痺れさせた。
「んッ……」
「ど?その気になった?」
「……初めから狙いはそれだったのか」
「大せーかい♡」
左馬刻の手によって勝手に閉じられたパソコンが、銃兎の諦めに呼応するかのように明滅した。
銃兎はこの日決意した。仕事は決して持ち帰らない。……どうせ、終わりなどしないのだから、と。