Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    いちご

    @pyn_pyn45

    もったいない精神
    駄文をポイポイ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 13

    いちご

    ☆quiet follow

    左銃で30日CPチャレンジ3日目です。
    【ゲームをする/映画を見る】より、【映画を見る】で書かせて頂きました。
    ※会報ネタを含みます

    #左銃
    cannonStreet
    #30日CPチャレンジ
    30-dayCpChallenge

    Day.3【映画を見る】 D.R.B通信。それは先月より始まった、中王区の運営するデジタルメディア企画である。全十八回にわたって行われるこの企画は、毎週金曜日の二十四時に更新され、専用サイトにてD.R.B出場者へのインタビューが一人ずつ掲載される。内容はバトルへの意気込みは勿論のこと、趣味などのプライベートなことにまで及び、多岐に渡る。チームごとに毎月担当が分けられており、企画の始まった先月はイケブクロ・ディビジョン代表のBuster Brosが、今月はヨコハマ・ディビジョン代表のMAD TRIGGER CREWが担当することになっていた。
     Buster Brosの山田三郎の担当回が更新されてから一週間の休載を経て、今月のMAD TRIGGER CREWへとバトンが渡され、先週は左馬刻の担当回が更新された。左馬刻にしてみれば面倒臭いことこの上ないのだが、どうやらとても反響が大きかったらしく、更新日の翌日には舎弟たちにまで「アニキのインタビュー読みました!めっちゃ良かったッス!!」と報告を受けた程だった。
     だがしかし、自分の担当回すらどうでもよかった左馬刻にとって、今週の更新はとても重要な意味を持っていた。……何せ、今現在、左馬刻の自宅で隣に座って、肩に凭れかかりながら映画鑑賞をしている、左馬刻が想いを寄せる相手──入間銃兎の担当回なのだから。
     只今の時刻は、二十三時五十九分。左馬刻は逸る気持ちを抑えながら、隣の銃兎をチラリと見る。銃兎は少し酔っているのか、左馬刻の肩に甘えるように擦り寄りながら、大きな画面を眺めている。……少し上からのアングルから見る銃兎、滅茶苦茶可愛い。高鳴る心臓の音とだらしなく緩んでしまっているであろう顔が、自慢の音響設備と落とした照明のお陰でなんとか隠せているのが幸いだった。
     やがて、時刻は二十四時を迎えた。左馬刻は何度もリロードを繰り返していた手を止め、「D.R.B通信 第五号」「今週はヨコハマ・ディビジョン代表、MAD TRIGGER CREWの入間銃兎が担当を務める──」という文面を確認すると、まるでどこぞの三兄弟の長男をしているオタクが、以前、「推しの新情報」を前にしていたときのように胸に手を当てて、一度深呼吸をした。あの時は、何やってんだコイツ……くらいにしか思わなかったが、奇しくも今になってようやくその心境を理解してしまった。不本意だが。
    「左馬刻?どうした?」
    「あ、悪ぃ、スマホの光邪魔だったか」
    「いや、それは大丈夫……なんか様子が変な気がしたから……」
     この一連の動きが不自然だったのだろう。銃兎に覗き込まれ、心配して貰えたという事実に左馬刻は内心舞い上がる。実際にはオタク然とした姿を見られてしまったわけなのだが。
     暗い照明の中、ぼんやりとしたスマホの光に照らされて、銃兎は左馬刻の額に手を当てる。
    「熱はなさそうだな……ちょっと熱い気もするけど」
     それはお前に触れられて体温が上がっちまってるからだよ!とは言えないが、銃兎の少しだけ冷たい手は今の左馬刻にとって、とても気持ちが良かった。
     しかし、今はこんなことに現を抜かしている場合などではない。左馬刻は努めて冷静に、「熱はねぇよ」と銃兎の手を額から外させると、銃兎は「ならいいけど……」とまた左馬刻の肩に凭れかかって映画を見始めた。
     左馬刻は改めてスマホに向き直る。ゴクリと唾を飲んでから、画面をスクロールさせて内容にざっと目を通す。左馬刻も同じインタビューを受けているので、どの辺りでどの質問がされているのかは大体把握している。始めの方にあるバトルの意気込みなどは今はどうでも良い。左馬刻は目的の質問まで辿り着くと、指を止めて、一言一句見逃さないように内容を頭にインプットさせる……つもりだったのだが、その内容に左馬刻は目を見開くこととなった。

    ──趣味を教えて下さい。
    入間:美術鑑賞ですかね。休日には美術館巡りをすることもあります。骨董品店に入って、眺めたりするのも好きですね。あとは、これは趣味と言っていいのかはわからないですが、高層階から夜景を眺めるのも好きですよ。美しいものは心を癒してくれますから。

     ……ん?
     左馬刻は自分の部屋を見る。大きな窓に、広々としたベランダ。先程、映画鑑賞の準備をしていた時に、銃兎にカーテンを閉めるかと問うと、「お前の部屋からの夜景も楽しみたいから閉めなくて良い」と言われたことを思い出す。高層階に位置する左馬刻の部屋から見える夜景は、相当銃兎のお気に入りのようだった。
     左馬刻は再びスマホに目線を戻して、続きを読む。

    ──好きな食べ物は何ですか。
    入間:チーズです。良いものが手に入った日にはワインと一緒に楽しんでいます。ああ、先日行ったレストランで頂いたラクレットチーズは格別でしたね。ついつい食べすぎてしまいました。あとは、食べ物ではないですが、珈琲も好きです。うちのリーダーがね、珈琲を淹れるのがとても上手なんですよ。ふふ、意外でしょう?

     ……んん??
     左馬刻は先日の銃兎との食事を思い出す。チーズ料理が美味しいと評判の高級レストランで、銃兎は目を輝かせながらとろとろのラクレットチーズが目の前で料理にかけられていくのを眺めていた。左馬刻がサプライズで注文していた、ラクレットチーズを料理に好きなだけかけることができるというそのサービスに、銃兎が「本当にいくらでもかけていいのか……?」と嬉しそうに何度も確認を取るのが可愛くて堪らなかったし、「じゃあ、もうちょっと……」とさらにチーズを求める様子にはかなり派手に心臓を撃ち抜かれた。密かにその一部始終を撮影していたデータは、帰宅後すぐにバックアップを取って、スマホにもPCにも保存したほどである。
     そして、珈琲についてなのだが……、銃兎は一体どのような表情をしてこの話をしていたのだろうか。ふふ、なんて文字に起こされるくらいだ。きっと最高に可愛い表情をしていたに違いない。その表情を恐らく見て目に焼き付けたであろうインタビュアーをどうしてやろうかと算段を立てながら、左馬刻は次の質問を読み進めた。

    ──ナイトルーティンを教えて下さい。
    入間:ナイトルーティンですか……。そうですね、流石に毎日というわけにはいかないのですが、映画を観ることが多いですね。照明を落として、大きな画面とスピーカーで音響にもこだわりながら、ホームシアターを楽しんでいます。どんな映画を観ているのかはご想像にお任せしますよ。

     ……んんん???
     左馬刻は思わず隣に座る銃兎に勢い良く顔を向ける。
    「うわ、びっくりした……どうした?」
     落とした照明の中でもはっきりと分かる、驚きと心配の混じった銃兎の可愛い表情。そして、正面には映画が流れる大きな画面と、スピーカーをはじめとした自慢の音響設備たち。
    「……いや、なんでもねぇ……」
     左馬刻はとりあえず、サイトのページをスクリーンショットとブックマークをして保存し、スマートフォンの電源を落とした。
     左馬刻は銃兎に想いを寄せている。だから、この企画で左馬刻も知らない銃兎のことを知って、銃兎に振り向いてもらうための次なるアプローチに繋げようと思っていたのだ。
     しかし、これは、次なるアプローチどころか、もしかしなくても……。
    「……そっか、そうだったんだな、俺たち」
    「?」
     左馬刻の知らない銃兎などいなかった。それどころか、銃兎の好きなものの中には左馬刻の存在がかなり大きく影響していたのだ。
    「……同棲すっか」
    「……は?」
     二人が次のステップに進むまで、あと少し──。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works