Wasted「あうばん…あうばん…」
僕の腰に抱き着いたまま、繰り返し名前を呼びながらベッドに溶けているサニーの頭を撫でる。んはは、かーわい。弱いのにこんな飲んじゃって、起きたら二日酔いで大変なんじゃないの?でも、それだけ浮かれてるってことだよね。僕だってそうだ。
飲むのは久しぶりで、自分でもハイになってるなとは思ったけどふたりの酔うペースはそれ以上。サニーのアルコールの弱さは聞いていたけど、浮奇もだいぶ酔っぱらってしまっていたから一旦3人でホテルの浮奇の部屋になだれこむことにした。
シャワーを浴びてからでないと寝れないと、ふらふらバスルームに向かった浮奇を見送ったのは10分ほど前のこと。何かあるといけないからあがったのを確認してから部屋に引き上げようと思っていたのだけど、その間にすっかり潰れてしまったサニーをこの後部屋に送り届けられるかというとあまり自信はない。
やってることは可愛いけど、この絡みついてる腕は思いの外がっしりと僕を捕らえているし、浮奇とふたりがかりで支えてようやく帰ってこれたというくらい前後不覚になったサニーをここまで連れて帰ってくるのは大変だった。筋肉が重いって本当なんだな。
でも、シングルの部屋に男3人はさすがに無理がある。ふたりならぎりぎり押し込んでなんとかなるかもしれないけど、その場合ってまともに動ける僕が自分の部屋に戻ってってことだよね。それは…、ちょっと嫌かも。でもここは浮奇の部屋だし、サニーを移動させるのは大変だし、うぅ…でも…
「んふふ、あうばぁん」
どうしようかと考えている間もサニーは僕の名前を呼び続けている。はいはい、僕はちゃんとここにいますよー。困った状況なのに、そう嬉しそうに名前を呼ばれると口元が緩んで仕方ない。こんなの、僕に会えて嬉しいからなんだって思っちゃっても仕方ないじゃないか。
じわりと首から上が熱くなる。僕も大概酔ってるな。顔を洗うなりして少し頭を冷やした方がいいかも。
そんなことを思っていると不意に腰に絡みついていた腕が離れ、サニーがのろのろと身体を起こし始めた。
とろんとした菫色の瞳が、視線が交わった瞬間に細められる。あ、これはまずい。何故かは分からないけどそう思った。なのに身体は全く動けなくて、目を逸らすことすら出来ない。徐々に距離は縮まって、大きな手が頬に触れる。そして一際甘い響きで名前を呼ばれた次の瞬間、僕の唇は塞がれていた。
それはほんの数秒のこと。それから惜しむでもなく離れていったかと思えば、サニーは再び僕の腰に抱きついてベッドに沈み込んだ。呂律の回らない様子で呼ばれる名前の響きも数分前となんら変わらない。違うのは僕だけ。
呆然としているうちにバスルームから浮奇が出てきて、驚いたように目を丸くしてから困った風に笑って口を開く。
「ええと…、俺別の部屋に移ろうか?」
やめて、今そんなことされたら死んじゃう。無理、と泣きそうになりながら首を振る間も、サニーは変わらぬ調子で僕の名前を呼んでいた。
もうっ、人の気も知らないで!