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    mun_oyu

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    mun_oyu

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    7/22 # iskiワンドロワンライ
    に提出した文です 再掲

    お題:『静寂』
    初恋押せ押せkisくんと恋に無自覚なisgくんが修学旅行の夜にキスする話。
    ⚠️高校生パロ 日本で高校生してる
    ⚠️モブたくさん

    #iski
    iskas

    海の底でキスして「世一、これにしよう」
    「だからお揃いのキーホルダーとか買わねぇって」

     十二時五十一分 那覇市、国際通り。
     潔とカイザーが通う高校にて執り行われた修学旅行は、二日目を迎えていた。お土産店の通りを制服姿の高校生たちが練り歩いている。2人もそれを構成する一端であった。現在、グループ行動の時間だが、カイザーは潔にばかり話しかけてキーホルダーを物色している。
    「ならこれはどうだ。’’ウミブドウ様マスコット’’!」
    「なんだそれキッモ」
     緑色のぶつぶつが無数にくっついた、犬なのかウサギなのか分からないそれを持ち上げたカイザーの瞳が真剣な色を見せる。潔はうげぇ、と顔を歪めた。
    「土産くらい良いだろう」
    「土産は買うけど、お揃いはいらねーっての」
     せっかく修学旅行に来たというのに、2人はずっと言い争っている。それでもお互いのそばを離れないのだから、仲がいいのか悪いのか、周囲はよく分かっていなかった。
     背後の道路をデモ隊が通り過ぎている。高校生たちは物珍しげに視線を奪われるが、潔とカイザーは気にも留めていない様子である。相変わらず露店の商品を見て、あれでもないこれでもないと小突きあっていた。

     那覇市は晴れである。気温33度、雨予報と言われていたがカラッと晴れていた。沖縄の天気は予想できない。潔は半袖の白シャツをさらに捲って、二の腕の筋肉を惜しげも無く晒している。一方カイザーは、七分丈に折った白シャツで、第三ボタンまで開け放っていた。
    「カイザー!」
     同じグループのクラスメイトが話しかける。潔は声の方に顔を向け、カイザーの後ろから話を聞いた。
    「昼飯の店あそこだって」
     グループメンバーたちは潔とカイザーがじゃれ合っている間に、計画段階で当たりを付けていた飲食店を探していたらしい。
    「ありがとな」
     潔が礼を言う。カイザーにも「土産は後にしようぜ」と声をかけて、グループメンバーの待つ店前まで駆けて行った。カイザーは少し不満そうな顔をして、仕方なく手に持ったキーホルダーを棚に戻した。



     その日の夜、潔たち高校生は昨日から泊まっているホテルに戻ってきた。点呼や夕食を終えたら、いよいよ自由タイム兼風呂タイムである。
     潔は大浴場から上がると、確かこっちの自動販売機だったよな、と考えながら廊下を歩いていた。カイザーと待ち合わせをしているのだ。つい長風呂をしてしまって喉も乾いているのでちょうどいい。
     ちなみにカイザーは「大浴場なんて入れるか」などと宣ったので、勝手に部屋のシャワーを使っている。その際にもまた潔と一悶着起こったが省略する。曰く、「お前いい加減にしろよ」「他人とシャワーなんか入れない」「露天風呂入って見たいって言ってただろうが!」「あんなに人がいるとは思わなかったんだよ」「修学旅行なんだから当たり前だろ」等々、そういった具合である。
    「おーカイザー、一人風呂は楽しかったかよ」
    「世一こそ、随分長かったなァ死んでるかと思ったぞ」
     カイザーは既に自動販売機前に立っていた。なにやら水のペットボトルを二本購入ている。憎まれ口を叩きながら、そのうちの一本を潔に投げて寄こした。
    「サンキュ」
     潔はそれを器用にキャッチして、我慢出来ないというようにキャップを開ける。ごくりごくりと天井を見上げて喉を鳴らした。カイザーはそんな潔の喉元や、長風呂で茹で上がった赤い顔を眺めている。
    「っぷは、」
     半分ほど一気飲みしたところで、ようやく喉が潤った。二人は並んで壁に背を預けて、ぽつぽつと話し始める。周囲には誰もいなかった。遠くの廊下からは男子高校生の大きな声が聞こえてくる。どうやらこの自動販売機は穴場らしい。
    「昨日のことだが」
    「え?」
     カイザーが、潔の目を見ることなく話し出した。目線は自動販売機のラインナップを巡っている。潔もそれを辿って目の前に視線を戻した。水、水、水、コーヒー、コーラ、コーラ、コーラ、コーラ。左から順に確認して行く。修学旅行御用達のホテルではコーヒーの人気は低いのかもしれない。
    「紹介の話だ」
     カイザーが続けた。潔はようやく言わんとすることを理解して、苦笑いをした。
     夜でも湿度は高いが、ホテル内は涼しかった。



     一日前、修学旅行初日の夜。
     グループ行動と同じメンバーで部屋に集まった潔とカイザー、そしてクラスメイトらは、男子高校生らしく’’恋バナ’’に花を咲かせていた。エアコンは十八度に設定してらキンキンに冷やしている。潔は自分の布団にうつ伏せになって、枕を抱きしめた。時折回ってくるお菓子を口に運び、今は口内でチョコレートを溶かしている。他のメンバーも思い思いに散らばって、カイザーだけが、一つしかない窓際の椅子に腰掛けていた。一応、話は聞いているようである。
     一通り、「隣のクラスの田中さんが可愛い」「図書委員の吉田さんと女子テニス部の桜井さんならどちらがタイプか」等の話で盛り上がった後、行き着く先はもちろん下世話な話である。
     クラスメイトの一人がニヤニヤと笑って潔を標的に据えた。
    「潔ぃ~お前彼女いないだろ? てかデートもキスもしたことないだろ?」
     突然こき下ろされた潔は目を丸くして、頬の高い位置を赤く染めた。その反応が既にそれを肯定しているとは気づかずに、「や、やめろよ!」と動揺する。
     クラスメイトたちがドッと盛り上がる中、カイザーも「へぇ」と珍しい笑を湛えて潔を見つめている。潔は恥ずかしさから眉間に皺を寄せて、カイザーを睨めつける。そんな様子に何も言い返すことなく、カイザーはくつくつと笑うだけだった。その余裕さにまた負けた気がして歯ぎしりをする。
    「まーまー、潔。高校生は8割が童貞らしいぜ」
    「気にすんなって!」
     クラスメイトが潔を励ました。にやけ面を隠しもしない姿に、「くっそ…」と唸る。というか、イジってきた方の背が高い男には彼女がいるらしい。拗ねそうだ。潔が頬を膨らませる中、この夏童貞を卒業したらしい奴は「卒人、卒人(そつんちゅ)」とからかわれていた。沖縄ノリである。修学旅行で気分が高揚しているのであった。
    「カイザー、潔に誰か紹介してやったら?」
     優雅に脚を組むカイザーに、一人が声をかけた。カイザーは目をぱちくりとさせて潔を見る。クラスメイト達もなるほどなぁ、という顔である。しかし、カイザーが連れてそうな女はレベルが違いそうである。そんな女を宛てがわれても潔の荷が重いだろうと失礼なことを考えながら、カイザーの答えを待っていた。
    「……いいぞ」
     だから、この返事には驚いた。しかし一番に驚いていたのは潔である。潔はカイザーの恋バナとやらを聞いたことがなかった。モテるのだろうが、一度も話を聞いたことがないので恋人が居ないか、どれだけ仲良くなっても不可侵の領域なのだと理解していたのだ。
     潔は、カイザーの隣にいわゆる’’イイ女’’が並ぶのを想像した。それを紹介されるのだろうか。面白くない。カイザーに恋人を宛てがわれるというのは、言い表せないほどモヤモヤした気持ちになる。だって、その隣は潔だけのものだと、ずっと思っていたのだから。



     現在、自動販売機前。
    「おまえがあんなこと言うとはな」
     潔は言いながら、自動販売機の中身をもう一度調べた。水はほとんど一気飲みしてしまったのでら新しいものを買おうと思ったのだ。やはりまた水でいいか、と硬貨を入れたところでカイザーがいちごミルクのボタン押す。
    「っ!」
     ガコン。ピンク色のパッケージが機内で転がり落ちてくる。
    「おっまえ、ふざけんなよ!」
    「はは」
     潔はため息をついていちごミルクを拾った。このイタズラにはあまり強く言い返せない。つい先日、潔はカイザーに同じことを仕掛けて全く同じやり取りをしたからだ。「おまえふざけんな!」「ははっ」。
     ストローを取りだして、ぷすりと差し込む。ちゅうと吸うと、甘い味が広がった。あ、結構美味い。夢中でちゅうちゅう吸ってから顔を上げる。カイザーが潔の傍で、その顔を見下ろしていた。
    「うわっなんだよ、近」
     心臓の音が早くなる。驚いたからではあるが、コイツ綺麗な顔してんだよな…と妙に感心してしまって、気まずくなった。
     目線をそらす。
     カイザーはその先に体を滑り込ませて、潔がカイザーを見ないようにするのを許さなかった。
    「な、なんだよ」
    「世一」
     カイザーの声が低い。
    「俺がお前に恋人候補を紹介するのは、おかしいか」
    「っえ、いや、変っていうか…。てか待って、え? 近い! なあ!…………ッ!?」
     潔が喋る事にカイザーが距離を縮める。潔はドキドキしながら慌てて肩を押すが、そっと唇が重なった。わずかコンマ一秒の出来事であった。でも確かにくっついた。
     周りの音が一瞬で消え去って、男子高校生の大きな声は海の底に沈んだように遠くに消えてく。カイザーが屈んでいた背筋を戻すと、潔は目を白黒とさせて、カイザーを見上げた。呆然としながら、なぜ嬉しいなどと思ってしまうのか。

     無意識に周りの音をシャットダウンしていたが、近くで声がして一気に現実が戻ってくる。
    「…っ!」
     あぶねぇ。心臓がバクバクと音を立てた。もし、カイザーとの今のを見られていたら…。見られていたら、なんだ? いや、イジられるし…。でもきっと、そうなってもカイザーはイジられないのだろう。たぶん標的は潔だけだ。それが、カイザーという学園トップの価値だった。
    「お前が欲しいからだ」
     カイザーの声がやけに耳に響いた。
    「だから紹介すると言った。俺を」
     自信満々に告げられたそれに、潔は思わず「はあ?」と言ってしまいそうだった。カイザーの物言いは王者のそれだ。潔の戸惑いをものともしていない。確かに、お互いは特別な存在ではあった。いつもケンカばかりしているが、なぜかいつも一緒にいる。
     でもカイザーの目の奥に、不安で揺れる炎を見た。あれ、カイザーも相手の様子を伺ったりするんだ、と思ったのが正直な感想である。
     キスを仕掛けた上で「お前が欲しい」など、皆まで言わずともカイザーの言いたいことは伝わってきた。
     あ、カイザーって、俺のこと好きなんだ。その事実が心にストンと落ちてきた時、潔はようやく自分の思いを自覚した。
     思わず顔を赤くする。なんだよ、と悪態もつけずに斜め下に目線をそらす。
    「初恋なんだ、やり方が間違ってたら言ってくれ」
     どストレートな言葉に思わず顔を上げた。視線が交わる。いや、間違いだらけだよ! 間違いというか、普通じゃない。仲のいい友人というポジションに収まっている潔に、普通こんなにストレートに愛を囁くだろうか。
    「そんな顔をされると期待するんだが」
     カイザーは口を尖らせて潔の手を取った。普段はない触れ合いに、潔の鼓動が加速する。というか、そうだ、と思い出した。さっきカイザーに初キスを奪われたのだ、と。
     カイザーが本当に潔を好きなら、と想像した。上目遣いに見上げて、カイザーの顔が赤くなるのを見つけて確信に近づいていく。
     昨日の部屋でのやり取りを思い出していた。勝手に初キスを奪ったなら、それならば。
    「…俺の童貞ももらってくれんの」
    「くれんならな」
     自動販売機の影に隠れて、再び二人の距離が近づく。周囲に生徒はいない。潔はやってやるよ、と笑って、先程より長い口付けを受け入れた。
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