「きみ、学ぶほうだけじゃなくて教える側でも、ちゃんと優秀だよねぇ」
呟く声に視線を上げると、感嘆と喜色に満ちた微笑みがあった。こういうとき、僕にどう返してほしいんだ、と訊いてしまいたくなることがある。素直にそんなことを口にする気には、到底なれないというのに。
こちらの都合などお構いなしに押しかけてきたこの男を追い返すにはどうしたらよかったのか。うまくいかなかったのは、思ったままには言葉にできないからだろうか。そんなことを言ってしまって、もしも、万が一。あの流星と雪景色の夜、フィガロの都合などお構いなしに、北の偉大な魔法使いの元へと押しかけた過去に触れられたりしたら。いったいどんな顔をしたらいい? 断る術がなくなるだろう、と言い訳みたいに胸の内、呟いて。生徒たちの試験の採点があるからと正直な理由で断ったのに、どうしてこうなる。ああ、それなら、と納得した声は、仕方ないねと続くものだと思ったのに。
2662