Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    014158xx

    @014158xx

    pixivに放流してる作品の内、CPものを集めて置いてます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🍶 🎉 🍙
    POIPOI 4

    014158xx

    ☆quiet follow

    「鬼ふたり」のつづき
    戯れる鬼っこ

    #酒茨酒
    #同軸リバ
    coaxialRiver

    夜にとける「まあ、今日はえらい遊んできはったんやねぇ」
     おいで、おいでと招き寄せた酒呑童子に崩れた髪を梳かされながら、彼女に促されるまま茨木童子は土産話を意気揚々と奏でていく。どうやら随分昂ったらしい。弾んだ声に紅潮した頬がそれを物語っていた。
     稲穂のようだと生前酒呑が褒めそやした金糸は酒呑に愛でられてふわりふわりと揺れはじめる。慣れた手付きでつげ櫛をあやつる酒呑は焔に染まっている毛先を一束掬って口付けを落としたが、ご機嫌に語る鬼がそれに気付くことはない。
    「はい、おしまい。いつ見てもええなあ。好きやわぁ」
    「ふっふっふ! 酒呑のために伸ばしたようなものだからな」
     酒呑のおしまいの一言で茨木がパッと振り向くとその動きにまるで犬の尻尾のように柔らかな毛先が揺れ動き、勢いのままに二人は白いベッドに沈んだ。鈴を転がすようにわらう鬼は、髪をほどく際に外していたハイビスカスの飾りを彼女の頭へと戯れに戻す。まったく、いじらしいことを言うものだ――彼女の言葉にはるか昔を思い出しながら鬼は心のなかで独り言つ。
    「そんならうち以外に切らせたらあかんえ?」
    「当然だ!…―む? 切られても霊体化すれば」
    「茨木ぃ?」
    「い、いや違うぞ!」
     信じてくれと慌てたように言葉を重ねる金色の鬼をひとしきり振り回し、しまいに自身の名を呼びはじめたその愛しい鬼に酒呑は覆い被さった。

     満足げに自身を見下ろす同胞の、なんと麗しいことか。茨木はしばしその色香に見惚れてしまう。自身と異なり短く切り揃えられた夜の色。黄昏時の薄明を切り取ったかのような酒呑の髪にぞくりと身が震えた。
     いつか、思ったことがある。夜の帳が下りるようにその高貴な色に身を包まれたならどれほど心地いいだろう、と。ただ、けれども、瞬く間に移ろう黄昏は酒呑のようだとも茨木は思う。見惚れているうちに、同じく夜を宿した瞳が蕩けていることに気がついた。は、と漏れだす吐息のように裡で燃える炎が熱を上げる。一度視線が合わさると、その瞳に囚われてしまったかのように逸らさんとする意思がとかされていく。くらりと酔いしれる感覚が茨木はすこし苦手だった。自身にまで振りまかれるその色香はすこし心臓にわるいとも。そう思っていたはずなのに、今はひどく心地がいい。気付けば最愛の義兄弟が自身の下で横たわっていた。

    「ふふふ。残さんと、喰ろうてな」





     あたたかい。もぞりと身動いでぬくもりの近さに瞠目した。距離はそう変わらないはずなのに、なぜだろうか。今はとても、とても近くに酒呑を感じている。
     酒呑、と裡に呟いた。一晩中からだを重ねた義兄弟は穏やかな寝顔を晒しており、いまだ起きる気配はない。
    「酒呑」
     熱が交じるなか、ふと目が合ってふにゃりと柔らかく眦を下げてわらった酒呑の姿が今でも脳裏に焼きついている。
     しあわせだ。きっと幸福が目に見えるのならば、自分にとっては彼女のあの笑みこそがそうなのだろう。いつもの笑顔も見ていて嬉しくなりはするが、あんなにも心が満ちたのははじめてだ。ぎくりとして、どきどきと壊れてしまったかのように心臓はうるさくて、急に名前をよばれたくなって。名前をよばれて、すこし、なきたくなった。胸はくるしいのに、しあわせだとあのとき確かにそう思って、心がじわりと温かくなったのだ。
     酒呑。酒呑。ああ――。
    「しゅてん…」
    「…ッんぅ、いばらき…? ふ、ふ…どないしはったん」
     寝ていたはずの酒呑の声がきこえ、きつく抱き締めてしまったことにはたと気付く。
    「す、すまぬ!」
    「我慢しぃひんでもええんよ? ほれ、ぎゅう、と」
     淡雪のような彼女の腕に少しきつく抱き締められて酒呑の熱を思い出す。その熱に一度は緩めた腕にまた力を込めた。思いの丈が腕に乗る。ぎゅう、と。酒呑がそれを許してくれたから、ただひたすらに彼女を想いかき抱く――どれほどそうしただろうか。酒呑でなければきっと壊してしまっていたようにも思う。それでも、壊れなかったその事実に少し心が痛んだ。
     しおしおと力が萎えていくのがわかる。
    「吾は…わからぬ」
     鬼の愛は反転する。そう口にしたのは誰であったか。それが真ならば吾のこれは一体なんだというのか。鬼の在り方を体現したこの腕に想いのほどを乗せたところで彼女が壊れることはないのなら。これは愛ではないというのだろうか。
    「茨木」
     ああ、わからない。

    「いばらき」
     その声にどろりと思考がとけていくのを感じた。

    「酒呑」
    「あないに愛しあったうちを放って考え事しはるなんて。うち、傷ついてまうわ」
    「吾は! 吾はそんなつもりでは…」
    「…なあ、茨木? うちらは鬼や。そないに考えたところでうちらは鬼以外の何になるわけもなし。せやから、あんまり背伸びせんといつも通り自由気ままに振る舞ったらええ」
     ゆっくりと紡がれる言の葉がじわりじわりと身に染みる。微かに覚えた寒さが身体の芯から温まっていくようで、また、暫くひしと抱き締めた。さきほどの抱擁では感じられなかった温もりや柔らかさが全身に伝わってくる。それに気付くと息がとてもしやすくなった。
     鬼は鬼らしく在るべきだという教えを身に刻む吾とはちがい、あるがままに酒呑は鬼だ。その彼女が肯定してくれるのであればいかようにも振る舞える。そんな力がわいてくる。
    「う――うむ、そうであったな」
     愛、愛とは一体何なのか。それは分からぬままではあるが。享楽をともに味わうものが居ないのはいやだ。ともにするならば、やはり彼女がいい。そしてわらう彼女を隣で見ていたい。鬼が自分勝手な生き物ならば、愛なるもののためにこの想いを我慢することこそ、鬼としてあるまじきことなのではなかろうか。それにもし、もしいつか反転したとして、彼女がそれに応えてくれたとして、最期に視界を埋めるのがうつくしい鬼だと思うと、それは――? どきりと胸を動かした感情、あるいは衝動につける名前もよくは分からなかったが、そんなことよりも今はただ、ただ酒呑を感じていたいと思うのだ。
    「酒呑。吾はまだ、まだ足りぬ」
    「そんなら、うちとひと暴れ…しに行こか?」
    「っ…ああ!」
     そうと決まればいつもの衣へと着替えよう。酒呑とともに暴れるのなら、母上が見立ててくれたあれがいい。ああ、ああ、彼女とともにどこへ行こうか。模擬戦だって楽しそうだ。早く行こうと振り返った先で花が綻ぶように笑う酒呑と視線が絡み、また、胸が高鳴った。

     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘💘💘💴💴🍌💒😍💯💴🙏💕💕🍌🍌🍌💒💒💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works