飛行甲板で穏やかな日差しを受け、ゆるりと長い付き合いの僚艦たちに目を向ける。呉に来た20年と少し前、その頃の新人がすっかり中堅どころなんだから、自分も老けるはずだなとこの地で過ごした日々に思いを馳せる。
護衛艦として生まれ、後の半生を練習艦として過ごした34年のうち幾度となく纏った白い幕。第2の人生の方が長いとは生まれたときに想像も付かなかったが、お陰で海外の美しい景色も数多く目にしてきた。本体共々よく働いて、楽しく生きたと思う。懐かしい記憶を辿っていると、今年も一緒に行きたかったなという思いが募る。こうなることが決まってから気持ちの整理はしてきたつもりだったはずなのに。つい寂しさに苛まれ、少しだけ空を仰いだ。
人の気配が無くなった艦内に戻り、ひとり最期の時を待つ。ここから消えたら何処へ行くんだろうな?問えば、去年送ったやまゆきの賑やかな声が聴こえるような気がして、隣へと視線を向けた。
とうとう空調も止まり、しんとした艦内には自身の立てる靴音だけが響く。外ではおそらく同僚たちが見送ってくれているだろう。別れは昨晩済ませた。元々の心づもりより日取りに余裕が生まれたことでゆっくりと話をすることも叶った。昔馴染みから今後を託す後輩まで、練習艦全員が揃う中で旅立てる俺は果報者だと思う。心残りはもう無い。
そろそろお迎えの時間の様だ、と感覚が告げる。最後にひとつ深呼吸をし馴染んだ匂いを味わう。
「それじゃ、お先に」