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CAN’T MAKE俺に同棲設定は無理だったよ供養机の上に置かれているのは真新しいフォークだ。どこでも買えるような安物だがその切先は鋭い。肌を突いてみれば容易く皮膚が裂けて血が溢れるだろう。そんな物騒なことをクレタスは夢想した。だがそれが叶わない妄想だということはよく分かっている。拘束されてもいない腕は自由にならない。害意を持ってそのフォークを握ることはできないのだ。ましてやそれを自分の首に突き立てることだってできない。自由を奪われることは苦痛だ。その苦痛をより上回るのが現状だった。
陽光が差し込む一室は穏やかな日常そのものだ。机の上に置かれた白い皿が反射して目が眩む。舌打ちをして目を逸らせば陽の光を遮るように腕が伸びた。そうして皿の上に置かれたのは焼き立ての薄いパンケーキだった。バターの溶ける香りはこの状況でさえなければ食欲を誘っただろう。だが今は胃がひっくり返るような拒絶感を招くばかりだ。挽いたコーヒー豆の香りも嫌に脂っこく感じて喉の奥がひりつく。檻の外で、ダイナーでもなく何処かのアパートらしき一室で朝食を用意されるなんて経験はクレタスは初めてだった。だが新鮮な驚きもない。あるのは焦燥感だけだ。どうすればこの現状から逃れられるのかそればかりが思考を渦巻く。
3170陽光が差し込む一室は穏やかな日常そのものだ。机の上に置かれた白い皿が反射して目が眩む。舌打ちをして目を逸らせば陽の光を遮るように腕が伸びた。そうして皿の上に置かれたのは焼き立ての薄いパンケーキだった。バターの溶ける香りはこの状況でさえなければ食欲を誘っただろう。だが今は胃がひっくり返るような拒絶感を招くばかりだ。挽いたコーヒー豆の香りも嫌に脂っこく感じて喉の奥がひりつく。檻の外で、ダイナーでもなく何処かのアパートらしき一室で朝食を用意されるなんて経験はクレタスは初めてだった。だが新鮮な驚きもない。あるのは焦燥感だけだ。どうすればこの現状から逃れられるのかそればかりが思考を渦巻く。
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DOODLEpixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに過去ログ28拳で他人を打ち付けるようなことは過去に何度もあった。喧嘩であれ諍いであれ。そして悪人を罰する瞬間であれ。それは確かに暴力だった。そして今この瞬間もそれは一方的な暴力以外なんでもないだろう。すでに消灯時間は過ぎて暗くなった静かな牢の中に殴打の音が響く。合間合間に悲鳴のような苦痛の喘ぎを漏らす惨めな男の声も。その音は看守の耳にも届いているのだろう。しかし駆けつけてくる気配はない。それもそうだろう。エディにわざわざ目の前のクソッタレ殺人鬼の話を吹き込んでエディの嫌悪感を掻き立てたくらいだ。こうなることは予想し、望んでいたに違いなかった。
鼻腔から流れた血で濡れた胸ぐらを掴み、壁際に押し付ける。牢獄の壁はコンクリート張りだ。冷たく硬い無機質さがクレタスの体を通じて伝わってきた。身長差も助けられ、その痩せた体は軽々と宙に浮き上がる。多少の抵抗はあるかと思ったが力なく両足はだらりと下がるだけだった。無抵抗のままでいればことが済むとばかりの様子に一層エディの怒りが湧き出てくる。罪のない市民を喜んで嬲り殺したと語った男のその浅ましさにも、今のこの態度にも。全てがエディの神経を逆撫でする。
5400鼻腔から流れた血で濡れた胸ぐらを掴み、壁際に押し付ける。牢獄の壁はコンクリート張りだ。冷たく硬い無機質さがクレタスの体を通じて伝わってきた。身長差も助けられ、その痩せた体は軽々と宙に浮き上がる。多少の抵抗はあるかと思ったが力なく両足はだらりと下がるだけだった。無抵抗のままでいればことが済むとばかりの様子に一層エディの怒りが湧き出てくる。罪のない市民を喜んで嬲り殺したと語った男のその浅ましさにも、今のこの態度にも。全てがエディの神経を逆撫でする。
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DOODLEpixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに過去ログ26全身に走った衝撃と痛みで意識が朦朧とする。受け身も取れず後頭部を叩きつけたせいだろう。薄い膜を隔てたように視界はぼやけて痛みも吐き気も衝撃も、全て現実味がなかった。しかし、現実味がないのは今日だけではなかった。クレタスにとって全てが古いレンズ越しに覗いたように色の褪せた虚像でしかなかった。祖母も母も飼い犬も。
そんな中、暴力だけが常に自分に親身に寄り添っていたとクレタスは確信していた。家族の虐待も、父の暴力も、孤児院の子供のいじめも全てが自分を親身に育ててくれたのに何故。どうして今となって暴力までもが自分を負けに導いたのかクレタスにはわからなかった。
焦点が定まらぬ視界に真っ黒な影が落ちる。昔、孤児院で夜中まで起きていると悪魔がやってきて攫っていくという噂が流行ったことを思い出した。フランシスもクレタスもそんな噂話を恐れなかったし、そんなものがいるのなら皮を剥いで標本にでもしようかと肩を並べ語り合ったこともしっかりと思い出せる。あれは、雨上がりの午後のことだった。蜘蛛の巣には雨粒がいくつも煌めいていて、羽をむしり取った蝶を巣に引っ掛けながら話した日のことだった。指についた鱗粉は妖精の魔法の粉のように輝いていた。それをフランシスの手指に擦り付けた瞬間にだけ、クレタスは確かに安らぎを感じていた。その日々さえ遠くに去り、ここにはない。
2293そんな中、暴力だけが常に自分に親身に寄り添っていたとクレタスは確信していた。家族の虐待も、父の暴力も、孤児院の子供のいじめも全てが自分を親身に育ててくれたのに何故。どうして今となって暴力までもが自分を負けに導いたのかクレタスにはわからなかった。
焦点が定まらぬ視界に真っ黒な影が落ちる。昔、孤児院で夜中まで起きていると悪魔がやってきて攫っていくという噂が流行ったことを思い出した。フランシスもクレタスもそんな噂話を恐れなかったし、そんなものがいるのなら皮を剥いで標本にでもしようかと肩を並べ語り合ったこともしっかりと思い出せる。あれは、雨上がりの午後のことだった。蜘蛛の巣には雨粒がいくつも煌めいていて、羽をむしり取った蝶を巣に引っ掛けながら話した日のことだった。指についた鱗粉は妖精の魔法の粉のように輝いていた。それをフランシスの手指に擦り付けた瞬間にだけ、クレタスは確かに安らぎを感じていた。その日々さえ遠くに去り、ここにはない。
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DOODLEpixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに過去ログ25「何故、お前は家族に固執する?」
特定の周波数から奏でられるジリジリという不愉快な音に眉根を寄せたエディが問いかけた。その問いかけた相手は拘束具を着せられた異常者に向けられている。両手足の自由は奪われ、分厚い強化ガラスの内側ではシンビオートが嫌う周波が常に響いている。それを敏感にエディの肌で感じ取った黒いシンビオートがかすかに波打つ。エディは向かい合った男の偏執的で捩じくれた執着心にはもううんざりだった。何度殺そうとしたのか数え切れないほどだ。だが執念深くこの男は生き長らえエディをつけ狙う。パパと吐き気を感じる言葉を選びながら。そんなエディの不快感を察したか、実に嬉しそうにクレタスの口角が上がった。
2954特定の周波数から奏でられるジリジリという不愉快な音に眉根を寄せたエディが問いかけた。その問いかけた相手は拘束具を着せられた異常者に向けられている。両手足の自由は奪われ、分厚い強化ガラスの内側ではシンビオートが嫌う周波が常に響いている。それを敏感にエディの肌で感じ取った黒いシンビオートがかすかに波打つ。エディは向かい合った男の偏執的で捩じくれた執着心にはもううんざりだった。何度殺そうとしたのか数え切れないほどだ。だが執念深くこの男は生き長らえエディをつけ狙う。パパと吐き気を感じる言葉を選びながら。そんなエディの不快感を察したか、実に嬉しそうにクレタスの口角が上がった。
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MOURNINGヴェノカネボツになった部分
ボツ「左手、ずいぶん調子がいいみてえじゃねえか」
「……左手だと?」
エディの左手首をクレタスが掴んだ。クレタスの腕は赤い寄生体に包まれ、触手をエディの左手へと伸ばしていた。絡みつく蔦のような感触に記憶がじわじわと引き戻される。
「協力してやっていいぜ。もう一度、切り落とすってんならよ?」
その言葉をきっかけに思い出した記憶は鮮明だ。寄生体から逃れるために左手を切り落とした記憶だ。鮮明な痛みまでもが甦り思わすクレタスを突き飛ばした。この夢はクレタスが支配している。エディの腕を治してみせたのも彼の悪趣味に違いなかった。
「あ、ぐッ!?うぅ、う゛ッ……!」
左手に蘇った灼熱の痛みに全身の力が抜けた。右手で手首を押さえるが左手は健在だ。だが痛みばかりが延々と襲う。痛みで弾けた視界の中に映るのは、左手を切り落としたにも関わらず赤い寄生体に包まれる自身の姿だった。夢だと必死に言い聞かせて痛みに奮闘する間にも
409「……左手だと?」
エディの左手首をクレタスが掴んだ。クレタスの腕は赤い寄生体に包まれ、触手をエディの左手へと伸ばしていた。絡みつく蔦のような感触に記憶がじわじわと引き戻される。
「協力してやっていいぜ。もう一度、切り落とすってんならよ?」
その言葉をきっかけに思い出した記憶は鮮明だ。寄生体から逃れるために左手を切り落とした記憶だ。鮮明な痛みまでもが甦り思わすクレタスを突き飛ばした。この夢はクレタスが支配している。エディの腕を治してみせたのも彼の悪趣味に違いなかった。
「あ、ぐッ!?うぅ、う゛ッ……!」
左手に蘇った灼熱の痛みに全身の力が抜けた。右手で手首を押さえるが左手は健在だ。だが痛みばかりが延々と襲う。痛みで弾けた視界の中に映るのは、左手を切り落としたにも関わらず赤い寄生体に包まれる自身の姿だった。夢だと必死に言い聞かせて痛みに奮闘する間にも