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    李丘@練習中

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    李丘@練習中

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    続き。
    これも大ファンの絵師のかたのイラスト見て浮かんだやつ。「背中を預け合う」の意味。
    竜馬さん目線。
    20240606

    【7】向けたのは意識が戻ったとき、視界に入るのが見慣れたタワーの天井だと認識して、次に頭に浮かんだのは隼人のことだった。
    「……っ」
    跳ねるように体を起こすが、その瞬間体を貫く痛みに竜馬はふたたび体を屈めた。
    俺は……。
    どうなったんだ。
    気を失ったのはいつだったのか、巻き起こった暴風に全身が飛ばされ、地面に叩きつけられたのは覚えている。
    あのときの光景が蘇り、「隼人」と呟いて竜馬は顔を上げた。

    そこは医務室で、薬の並ぶ棚が見えた。
    人はおらず、自分が寝かされているのはベッドで、運ばれたのかと思いながら視界を巡らせると、隣に並んで横たわる最愛の男の姿があった。
    「隼人!」
    名前を口にした瞬間にまた上半身に鈍痛が走り、たまらず姿勢を固めながら目だけでその体を捉えた。
    上を向いたまま目を閉じている隼人は、呼吸しているのが浅く上下する胸で分かる。
    毛布をかけられているので怪我の具合は確認できないが、枕元にある機器類からチューブなどはつながれていなくて、ひとまず最悪の状態でないことは把握できた。
    「……」
    生きている。
    その事実に、竜馬の胸に強い光が広がった。

    隼人から「敷地の近くにインベーダーが確認できた」と内線をもらって、竜馬はすぐさま部屋を出て司令室に向かった。
    連絡は当然ゴウたちにも届いていて、司令室に集まってから手分けして捜索とその場で排除することを決め、複数で現場に向かうことになった。
    ゴウたちのグループと竜馬たちで分かれ、隼人がホルスターをセットするのを見た竜馬が「お前も行くのか」と言うと、
    「突破されたら厄介だからな。
    絶対に外で仕留めるぞ」
    と、力強い声が返ってきた。
    全員が銃を持って散らばり、竜馬と隼人と弁慶の三人は近くの茂みから森に入り、そしてすぐ、異形のインベーダーと遭遇した。

    司令室のモニターで捉えた影はそう多くはないと隼人は言ったが、三人の予想を超えた数だったのは、地面に潜っていたからだ。
    接近戦で倒しても別のものが下から湧いてくるのを見て、竜馬は直感でどこかに「本体」がいるはずだと思った。
    それを告げると隼人も同じ予想で、竜馬は二人に援護を任せて敵の中心に飛び込み、ひときわ重量のあるそれを見て真っ直ぐに銃を構えた。
    仕留める。
    一瞬の隙を突くように背中に攻撃を受け、飛ばされた竜馬の隣に弁慶が走り込んで叫ぶ。
    「これを使え!」
    放られたのは手榴弾で、道を作る弁慶に目をやる暇もないまま、竜馬は本体に走った。
    隼人は離れたところにいて、自分を越えていこうとするインベーダーたちと応戦していたのを覚えている。
    「竜馬!」
    耳に飛び込んでくるのは同じく「倒せ」というメッセージで、攻撃をかわしながら竜馬は本体の正面にたどり着き、ためらうことなく手榴弾を叩きつけた。
    飛び散る本体の爆風に押されて竜馬も弁慶も転がり、そこに隼人が駆けつけて、残りのインベーダーたちを片付けてからやっと息をついた。
    「渓たちのところに行ってくる」
    休む間もなく弁慶が先に動き、その後に続こうと二人が立ち上がったときだった。

    ずるりと地面を這う影を視界の端に捉えた次の瞬間、目の前に突き出した壁は倒したはずの本体で、「竜馬!」と叫んだ隼人が前に回り込んで銃を構える。
    その腕を弾かれて銃が飛び、至近距離から攻撃を受けた隼人の体が宙に浮くのを竜馬は見た。
    「しつけぇぞ!」
    飛ばされた隼人が生きているのを確認して、竜馬は弁慶から「念のために」とさっき受け取ったもう一つの手榴弾を取り出そうとした。
    が。
    壁は、その竜馬をすり抜けるように素早く動き、倒れた隼人の元に一直線に向かった。
    「隼人!」
    我に返った隼人が飛んでくる腕をしのぐ。
    竜馬は、向こうに転がっている隼人の銃を拾おうと走った。
    コイツ、隼人を狙ってやがる。
    移動しながら弾丸を打ち込み、その隙に隼人が蹴りを打ち付けるのを見ながら、竜馬は銃を回収すると一気に壁へと突っ走った。
    さわるな。
    テメェが触れていいもんじゃねぇ。
    胸に湧く怒りは自分を無視して隼人に集中することではなく、自分の命と等しく大事なその存在を痛めつける姿に向けられる。
    「隼人!」
    さわるな。
    こちらに向かう竜馬の姿に気がついている隼人が、声を上げて拳を叩き込んだ。
    竜馬の口がピンを抜き、投げられた手榴弾は傾いだ異形のひび割れた隙間に入り込んだが、爆発が起こらない。
    「不発か!?」
    隼人がこちらを見る。
    ふたたび隼人に腕を伸ばしながら自分にも飛んでくる本体の攻撃をかわして、竜馬は走った。
    「竜馬」
    隼人の声がする。
    腕も足も傷だらけで血を流し、それでも一歩も引かない隼人の目には、司令室で見たときのまま、強い意思が浮かんでいた。
    隼人。

    さわるな。
    俺から奪うな。

    本体の隙間に引っかかる手榴弾が目に入る。
    だが、勢いを緩めることなく飛んでくる腕が、そこに辿り着くのを許さない。

    走る。
    脇腹を抉る腕を払いのけて、体勢を崩した隼人に覆い被さろうとする腕を撃つ。

    さわるな。
    そいつは。
    俺の命だ。


    「隼人!」


    立ち上がる隼人の手が、竜馬が投げた己の銃を掴んだ。

    その隣に竜馬が立つ。

    背を向ける。
    重ねた肩と腕は、その銃口を真っ直ぐに壁へと向ける。

    見ているものは同じ。

    放たれた二発の弾丸は、逸れることなく手榴弾を貫いた。

    熱で膨らむ本体を見て、二人は衝撃の大きさを予想すると走り出した。
    こっちが本物だったのか。
    そんなことを考えても今はその場を去ることしか出来ず、竜馬は隣を走る隼人の息遣いを感じた。
    俺よりもダメージが大きい。
    接近戦で受けた傷の深さは見て分かる。
    俺の。
    隼人が。

    ひときわ大きな音が背後で響き、次に飛んできた爆風が、二人の足元をすくった。
    「隼人!」
    風の衝撃と煙で視界が塞がれるなか、竜馬が最後に見たのは、こちらに腕を伸ばす隼人の姿だった。


    あのとき。
    お前は俺をかばっただろう。
    痛みに耐えて何とか体の向きを変えると、竜馬は微動だにしない隼人を見つめた。
    「……馬鹿が」
    背中を抱えるようにして、隼人が自分にしがみついていたのを覚えている。
    そんなことは。
    望んじゃいないんだ。
    「テメェの命を優先しろよ」
    ぼそっと呟く。
    隼人の顔は、血色が悪く疲弊が強いことは分かるが、体を見る限り骨折のような重大な症状がないことが、竜馬の安堵を誘った。
    やっと己の状態に意識が向くようになると、脇腹がじくじくと痛む。目をやるとぐるぐるに巻かれた包帯の分厚さにうんざりした。
    自分がこれなら、隼人の状態はもっと無惨なものだったろうと、流れる血を思い出して竜馬はため息をついた。
    それでも。
    お前が無事ならいい。
    失うことに比べれば、いずれ癒える体の傷などどうでもいい。
    そこまで思って、あのとき預けた背中を思い出した。

    離れていようが会話がなかろうが、取る手段に違いはない。
    向ける信頼に隙間はない。
    自分だけでは守れない世界をお前に預けたし、お前もそうだったのだと。
    その背中を向けられるのは、等しく大切な命を互いに守るためだと。

    隼人。

    生きていてよかったと、もう一度息を吐いた。

    手を伸ばしたくても痛みで動けず、もどかしい思いで見つめていたら、ドアの開く音がした。
    「おお、目が覚めたか」
    入ってきたのは弁慶で、これもまた頭に包帯を巻いていて、大変だったことが伝わる。
    「外は。大丈夫なのか」
    真っ先にそう尋ねると、
    「全滅だ。
    ゴウがな、渓を前に行かせまいと死に物狂いでな」
    と、弁慶は大きく口を開けて笑った。
    「……」
    あいつはそうだろうなと思いながら、愛する人を傷つけたくないのは俺も同じなのだと、敵に向けた憎悪が蘇った。
    さわるな。
    それしか頭になかった。
    倒す。今度は確実に仕留める。そのためにはああする必要があった。
    一緒に立つ希望が、背中を預け合う信頼を生むのだと。
    「隼人も大丈夫そうだな」と言う弁慶に自分たちが救助されたときの様子を訊くと、
    「お前たちが重なるように倒れててな、爆発の跡があったから何があったかは想像がつくが、息があってほっとしたぞ」
    お前ら体がでかいから運ぶのは大変だったがな、と弁慶はまた笑った。


    その後、無事に目を覚ました隼人はヤマザキから殲滅を確認した報告を受け、タワー周辺の警備の強化と森に地雷の設置を指示した。
    あのインベーダーが自分を狙っていたことは当然気がついていて、そういう立場にいるのだと改めて思い知ったのはほかのみんなも同じだったが、今後も最前線に立つのが隼人の希望であって、それもまた、誰にも止められない信念なのだと竜馬は思った。
    「大丈夫だろ」
    お前は司令室にいろと言う弁慶に向かって、竜馬は軽い調子で言った。
    「だがな竜馬、こいつに何かあったらゲッターが……」
    「俺たちが死ぬわけねぇだろ」
    隼人を見ることはしない。確認を取るようなことじゃない。
    それは事実なのだから。
    「……」
    ふんと隼人が鼻を鳴らして笑った。
    それを見て、弁慶が
    「……そうだな」
    と頷いた。
    武器を増やすか、と言うのを聞きながら、竜馬はちらりと視線を投げる。
    向けられた光を受け止めて、隼人が口の端だけで笑うのが見えた。

    死なすわけにはいかない。
    自分も死ぬことはない。
    こいつは。
    俺の命だ。

    貫くのは隼人を愛する己の気持ちで、その意思が自分を支えることを、竜馬は何度も実感していた。
    それはこいつも同じなのだと、その存在を渇望する自分の思いを、胸に溢れる光を感じながら考えていた。

    -了-

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