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    李丘@練習中

    チェンゲの竜馬さんが大好き。隼竜/隼竜隼

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    李丘@練習中

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    続き。
    独占欲って何だろうね、「好きすぎて独占したい」じゃなくて「失うのが怖いから縛りたい」もあるよねぇ。
    ゴッテゴテにしようと思ったらしつこくなった orz
    20240617

    【13】昏い光 昏がりが見える。
     額から意識を覆って下りてくる白い霧が、呪いのような囁きを連れてくる。

     そのときの竜馬の火傷は、焼却炉でゴミを焼いている作業中にできたもので、何があったのかは見ていない。
     司令室にやってきた弁慶から
    「竜馬がうっかり火のなかに手を入れちまってな」
     と報告を受けて、「大丈夫なのか」と尋ねたら
    「火傷の範囲は狭いが手首の近くでな、大事がないように診てもらってるところだ」
     と返され、ひとまず医務室に向かった。
     すでに治療が終わっていた竜馬は、ドアが開いてそこに立っている自分を見て
    「たいしたことねぇよ」
     と真っ先に言った。
     その右の手首には新しい包帯が巻いてあって、側には渓とゴウが立っていて、「神司令」と慌てて駆け寄る渓から
    「私が板を入れたときに釘が引っかかっちゃって、焼却炉のなかに手を突っ込みそうになって……竜馬さんが板を止めてくれて」
     と新しい情報を得た。
    「……そうか」
     すみません、と肩を寄せて謝るのは竜馬が自分のパートナーだからで、己のせいで火傷を負わせたことを気に病むのは当然だろうなと思った。
    「怪我がなくてよかったな」
     と返したのは、この子も大切なパイロットであり、竜馬の火傷よりひどい傷を作るのは避けたいからだ。
     「神司令」として。
     竜馬に視線を戻すと、ゴウが黙ってこちらを見ていた。
    「……」
     ふうと煙が流れるような闇を感じた。
     責めるわけないだろう。
     ほんの一瞬、ドアを全力で殴りたくなるような衝動が湧いてすぐに感情を閉じて、小さく息を吐くと竜馬の元に歩く。
     丸椅子に座る竜馬と目が合った。
    「大丈夫なんだな?」
     と尋ねると、
    「ああ」
     と答えてから
    「だがゲッター1に乗るのは少しお預けだな。パトロールの変更をゴウと話してた」
     と、傍らに立つゴウに視線を投げる。
     無表情のまま、ゴウがこちらを見て頷く。
    「分かった」
     自分たちで決めてくれればいいと続けながら、ゴウの気配に心がじり、と動いた。
     何をしている。
    「……」
     言うな。
    「悪かったな」
     竜馬の落ち着いた声が耳に届く。
     お前は渓のパートナーじゃないのか。
     何をしてたんだ。
    「いや」
     言うな。
    「たいしたことがないならいいんだ」
     冷静な口調で返せる自分を受け取る。
     竜馬の瞳に己の顔が映っている。
     いつも通りの、「神司令」がそこにいる。
    「お前たちはもういいぞ」
     と竜馬が言って、まだ何か言いたそうな渓を促してドアに向かうゴウが視界の端に入る。
     煙が流れる。
    「……」
     言うな。
     額のあたりにうっすらと霧がかかるような感覚がして、思いがぼうと薄くなっていく。
     白い波が思考を流す。

    「神司令」
     我に返ったのはドクターの声で、横を見ると白衣を着たいつもの姿があった。
     「ああ」と返事をすると、竜馬の火傷は決して重症ではないこと、化膿を防ぐための処置として包帯を巻いていることなどを丁寧に伝えられた。
    「跡も残らないと思います」
     その一言が加わるのは、竜馬の肉体の状態を自分が気にすると思っているからだ。
     竜馬の肉体は神隼人のもので、何かあれば自分が心配するから、それを解消するためにわざわざ加えるのだ。
     あなたの流竜馬は大丈夫ですよ、と。
    「分かった。ありがとう」
     返すべき言葉は普通に出る。
     もういいですよ、とドクターに言われて竜馬が立ち上がる。
    「隼人」
     響きが近い。
     見ると、すぐそこにこちらを覗き込むような竜馬の顔があった。
    「次は気をつけろよ」
     目を逸らして歩き出す。竜馬が間延びした声で「分かってるよ」と返してついてくる。
     ドアが開いて廊下に出ると、
    「じゃあ、また後でな」
     竜馬がそう言って背を向けた。
    「ああ」
     自分も踵を返す。
     詳しい事情も話そうとせず、心配かけたなと言うこともなく、素っ気なさはいつも通りで、それは「後で二人になったときに伝える」という前提があるからだ。
     分かっているのに。
    「……」
     言うな。
     離れていく足音がする。竜馬の気配が遠ざかる。
     額に広がる白い霧が瞼まで下りてくる。
     目が。
     昏がりを見ている。

     寝不足はわかっている。
     実感する体の疲れは、隼人のなかに黒い煙を生む。
     それが止められなくて、正しい思考ができなくなっている。


     崩そうとする存在が、憎くてたまらない。
    「竜馬さん」
     名前を呼びながらカトラリーを差し出す渓の姿に、何処かで何かの糸が切れるのが分かった。
     考える前に手が動いていた。
    「隼人」
     渓の手首を掴んで止めた自分に、竜馬の鋭い声が飛んでくる。
     疲れているのだと思った。
     額を覆う白い霧がずっと瞼を下ろそうとしていて、それは眠気ではなくて、意識を手放せと呪いのような囁きを連れてくる。
     昏がりが見える。
    「……っ」
     はっとしたように指を引くと、自分の正面に座って真っ直ぐに視線を向ける竜馬と、驚いた顔でこちらを見る渓と、その隣で腰を浮かせるゴウの姿が目に入った。
    「大丈夫だからよ」
     竜馬の声は普通のトーンで、何が「大丈夫」なのか、姿勢を戻す自分から視線を外すと隣に座る渓にすまねぇなと声をかけて、スプーンを受け取った。
     そのまま目の前に並んだ皿に手を伸ばすと、食べ始める。
    「……」
     渓が何か言いかけるのを、ゴウが無言で制した。
     二人が黙ったまま竜馬と同じく皿を手に取るのを見て、隼人の意識がやっと自分の心臓の鼓動を捉える。
     重く響く心音は、自分がいま何をしようとしたのか、コマを巻き戻すように場面を脳内で再現する。
     お前は触るなと、口から出ようとしていた。
     竜馬を迎えに行ってから向かった食堂は人が多く、二人は隅っこに座っていた。
     どうして竜馬の隣に座らなかったのか、その距離の近さを避けた自分を、隼人ははっきりと自覚している。
     食べようとしているときにやって来たのがお盆を持った渓とゴウで、「ここ、いいですか?」と尋ねた渓に頷いたらそのまま竜馬の隣に腰を下ろしたことが、指がびくっと動くような動揺を隼人に与えた。
     なぜそこに座るんだ。
     そこは俺のものなのに。
     ゴウは当然その隣を陣取る。食べようか、と渓が言って、「その手じゃお箸は使いにくいよね」と竜馬を見て続けるのが聞こえて、カトラリーのケースから一本を取った。
    「竜馬さん」
     名前を呼ぶな。
     その瞬間、隼人のなかで黒い煙がごうっと渦を巻いて上がり、その手首を掴んでいた。
     お前は触るな。
     言いかけていた。
    「……」
     どくどくと高く鳴る心臓を抱えて、視線を落とす。
     視界に入るのは皆と同じもののはずなのに、自分には薄暗い闇がかかっている。
    頭の白い霧が晴れない。周りの声が聞こえない。
    「隼人」
     それを割って入る竜馬の声で、隼人はふたたび現実に戻された。
     顔を上げると、こちらを見る竜馬の瞳とぶつかった。
    「早く食えよ」
     それだけ言ってまた皿に戻る竜馬と、隣ではゴウと話している渓と、何もおかしい景色ではないのに、自分だけが消えている気がする。
     感情の爆発は。
     隼人から思考を奪う。
     昏がりが見える。
     竜馬。
     ふと目に入った指が震えている。
    「……」
     自分の幸せを崩そうとする存在が、憎くてたまらない。

     何となく気まずい空気のままで食事が終わり、四人で立ち上がったとき、ゴウが隼人を見て言った。
    「顔色が悪い。
    寝たほうがいい」
    「……」
     返事ができなかったのは、ゴウにまで指摘されるような自分の状態の悪さを実感したからで、渓が黙って自分たちに頭を下げる姿が、じくりと罪悪感を刺激した。
    「そうだな」
     と返したのは竜馬で、「この後はもう何もねぇか」と確認されてから、頷いた自分は引っ張られるように竜馬の部屋に連れていかれた。



    「隼人は俺の部屋に居るからな」
     と内線で話している相手が誰なのか、訊かなくても分かる。
     居場所を伝える習慣はこの関係を打ち明けてから出来たもので、これも、自分たちのことが日常に組み込まれた証なのだと、隼人はぼんやりとその背中を見ていた。
     受話器を戻して、竜馬が振り返った。
     目が合って、息が止まるような痛みが隼人の胸に走る。
     いつもの光が、そこから消えていた。
    「隼人」
     呼ぶ声が遠くに聞こえるのは、こちらを見る竜馬の瞳にあの瞬きを見つけられないからで、それがない竜馬は、自分に壁を作っていたあの頃の拒絶を蘇らせる。
    「……」
     無意識に視線を落とす。左手の薬指にはリングがはまっていて、数時間前まで、竜馬の負傷を告げられるまで、それを目に入れては早く終わらせて竜馬の元に戻ろうと、普通に考えていた。
     それが。
     たった一つの出来事で安寧は奪われる。
     自分の幸せを崩そうとする存在が、憎くてたまらない。
    「……ぁ……」
     呼吸が浅くなる。霧から変わった白い波が思考を流す。竜馬を見ることができない。そこに居るのは、本当に自分と同じこれを指にはめている竜馬なのか。
    「隼人」
     降ってきた声は低くて優しくて、昏がりを見る自分の心にふうと小さな灯りが生まれた。
     顔を上げる。竜馬が居る。
     その瞳に、光はない。
    「……」
    「何て顔をしてんだ」
     それでも、その竜馬は笑って、自分の背中に手をあてて動くように促すとベッドに歩かせる。
     ぽすんと柔らかい感触の上に腰を下ろして、その隣に竜馬が座って、
    「お前、最後に寝たのはいつだ」
     と穏やかに訊いてくる。
     すぐ側にある竜馬の体。右の手首に巻かれた包帯。自分の頭をゆっくりと撫でる、太い指。
     竜馬の匂いがして、それが意識を現実に引っ張り上げる。
     問われるがまま思い出す。司令室の椅子に座って体を休めたのは、おそらく24時間ほど前だ。
    「……」
     何と言えばいいのか、寝てないと返そうとして口を開きかけると、
    「もう終わったんだろ。
    さっきヤマザキに聞いた。
    しばらく休め」
     ここで、と竜馬が言った。
     そうだ。二日前から電気系統にトラブルがあって、そのせいで司令室のシステムに不具合が出て、自分はそれの復旧にかかりきりだった。
     だから、弁慶たちがこんな事態で足を引っ張ることになったらいかんといろんなところを掃除して、集めたゴミを焼却炉に焼きに行く話については、ヤマザキに任せていた。
     正直に言えば、竜馬が何処で何をしているか考える余裕はなくて、徹夜で作業して司令室で仮眠をとるような状態で、竜馬とゆっくり顔を合わせることができなかった。
     そんなときの、竜馬の火傷だった。
    「……ああ」
     やっと会えると思っていたのに、それを邪魔されたショックは、疲れた脳に想像以上のストレスを与えた。
     いつもなら、この程度のことでこうまで落ちることはないのだ。
    「大変だったな」
     頭を撫でていた手が肩に移動して、引き寄せられた。
     竜馬。
    「大丈夫だからよ」
     静かな響きが、瞼に下りてきていた波を払う。
     自分を抱き締める腕にはいつもの力強さがあって、違和感なく頬を預けられる肩はあたたかくて、やっと、隼人の胸に安堵が湧いてくる。
     力が抜ける。ずっと緊張していた心の強張りが解けていくようだった。
    「竜馬」
     背中に腕を回すと、ぎゅうと掴んだ。
    「でもよ」
     その隼人をもう一度しっかりと抱いて、竜馬が口を開いた。
    「渓に当たるのはやめろ。
    あいつは悪くねぇ。
    たまたま俺が近くにいただけだ」
     びくんと心が跳ねるのが分かった。
     「事実」が蘇る。
     竜馬が誰かによって傷を負ったことを。
     それがたまたま仲のいい渓だったことを。
    「……」
     そうだな、悪かった。
     そう言わないといけないと思ったのに、口から出たのは
    「奪われるかと、思った」
     という、まったく別の言葉だった。
    「……」
     ……奪われる?
     誰に?
     竜馬が動いて、肩を掴むと体を戻される。
     向かい合わせになって真っ直ぐこちらを見る目には、昏い光が宿っていた。

    「奪われると思うのか」

     低い声に、堪えた何かがある。
    「……」
     違う。
     誰かが奪うのではなくて。

    「俺が、お前以外の人間のものになると思うのか」

     言葉はゆっくりで、腕を掴む指に力が入って、その痛みが隼人には等しく竜馬の痛みに思えた。
     瞳を見ているはずなのに、そこに浮かぶものが何なのか分からない。
     昏い目をしている。

    「お前が司令室から出てこない間、俺が何を考えていたと思う。
    疲れてるだろうから、ヤマザキにお前の休暇を頼んでたんだ」

     逸らさずにそう言う竜馬の瞳に、何かの思いが横切る。
     はっとする。
     あのとき医務室でゴウが何も言わなかったのは、竜馬から何か伝えられていたのか。
     食堂で何か言いかけた渓を止めたのも、俺の混乱が分かったからなのか。
    「……」
     ヤマザキは最後に司令室を出るとき、「ゆっくり休んでくださいね」と言った。いつものように。
     竜馬が。

    「勘違いするなよ」

     声が重い。
     それでも怒りではないことが、その響きで分かる。

    「隼人」

     昏いと思っていたそれは、少しずつ闇が晴れていく。
     竜馬。
     俺が怖かったのは。

    「お前じゃねぇ、俺は自分で考えてここにいるんだ」

     分かってる。
     お前が俺以外の誰かを選ぶことなど、あり得ない。
     だから。
     俺が望んだのは。
    「竜……」
     舌がもつれる。

    「俺のことは俺が決める」

     すっと差した瞬きが、ゆっくりと広がっていく。

    「だから、俺はお前のもんだ」

     誰もその魂に触れるなと、縛っていたかったんだ。

    「竜馬」
     呟く。
     奪えるはずがないのだ。
     誰も、俺から、この男を。
     この男はみずからの意思で俺を選ぶから。
     ずっと。

    「渓は、関係ない……」
    「ああ」
     自分を捉える瞳に光が見える。いつものように、きらきらと降ってくる。

    「俺の知らないところで、誰かに傷つけられるな」

     やっと言えた本音は、肉体だけのことではなく、その魂も同じだと、隼人は思う。
     今日の出来事に関わったのが渓以外の人間であっても、同じように怒りを覚えるのだ。
     触れるな。
     俺から奪うな。
     怖かったのは、自分が縛り付けるこの存在に誰かが手を出すことだった。
     失いたくない。
     二度と、離れたくない。
    「そんなことはねぇよ」
     竜馬の口調が戻っている。
     その右の手首に巻かれた新しい包帯に、今さらのようにひどくなくてよかったと思う。
     これが独占欲なのかどうか、自分でも分からない。
     ずっと切羽詰まった状況に集中して、疲れ切った体と脳に新しいストレスをぶつけられて、湧いてくるのは昏がりなのだ。
     竜馬のようにはなれない。
    「隼人」
     腕が動いて、ふたたび抱き寄せられる。
     いつものあたたかさが体中に広がって、目を閉じたくなる。
     どうして、お前はそうなんだ。
     いつもこうなる。
     自分が揺れているとき、その自分から絶対に逃げないのが竜馬なのだと改めて思う。
     俺はお前のもんだ。
     もう一度、耳元で流れた言葉と、込められた力に、ずっとまとわりついていた呪いのような囁きが消えていくのを感じた。
     意識を解放してしまえとそそのかすそれは、自分以外の人間が竜馬を侵すことを許さないという絶望的な怒りだった。
     それが、その竜馬の手によって昇華していくのを、体から重しが取れるような心地で感じている。
     次に襲ってくるのは、強く抱き締めたいという気持ちと、強烈な眠気だった。


     隼人の様子に異常を感じたのは、医務室に来たときだった。
     疲労の色が濃いその表情のなかに、動揺があった。
     俺の火傷のせいじゃねぇ。
     直感でそう思うのは、渓とゴウに向ける視線の厳しさで、そこに普段はない攻撃の色を見つけた。
     これは。
     また不安定になってやがると、二人が結ばれたあの夜の隼人を思い出した。
     「非常事態」だ。
     こういうとき、一番いいのは落ち着かせてやることで、だから食堂での「事件」はあえてスルーした。
     渓もゴウも、分かっている。
     それは隼人の問題で、その怒りは他人ではなくそれを通して本当は自分に向けられているのだと。

     今、自分に体を任せている隼人は、呼吸が安定してやっとまともな思考が戻っている。
     本音を口にしてしまえば、逃げ場はない。
     そこまでやって、隼人は窮屈な自意識から解放される。
     そう仕向けたのは自分なのだ。

     俺の本心は。
     誰にも侵されずにいられるという自信だ。

    「休めよ」
     頭を撫でながら囁く。
     黙って頷く隼人が、大きく息を吐くのが分かった。
     こいつも大変だからな。
    「……」
     こんなトラブルが起こったとき、隼人にしか対処できないことは必ずあって、そのたびに疲労困憊して戻ってくる。
     今回は、俺の怪我のせいで余計に乱れたのだろうと、容易に想像ができた。
     脱力している隼人の肩を抱いて、ゆっくりとベッドに横たえる。
     こちらを見る目に、揺れの収まった色が浮かんでいた。
     疲れのせいで弱々しくても、こちらを見る瞳はいつもあたたかい。
     これが、本来の隼人なのだと。
    「ここにいろ」
     漏れた呟きも、本音なのだろうなと思う。
    「当たり前だ」
     そう言って手を握ると、ようやく隼人の口元が笑みを浮かべるのが分かった。
     馬鹿が。
     そうやってしばらくすると、こちらを見つめる瞳がゆっくり閉じられて、竜馬もふっと笑う。
     残念だがな。
     すう、と聞こえてきた寝息を確認して、毛布をかけた。

     俺を傷つけられるのは、お前しかいねぇんだ。

     それは絶望ではなくて。
     この魂を捧げる人間はたった一人で、だからそれ以外の人間に自分が影響を受けることはないと、竜馬は知っている。


     これが独占欲なのかどうか、竜馬には分からない。
     ただ、こうして隼人を受け止めるたびに、自分のなかで大きく育つものがある。
     こいつがこうなるのは自分に対してだけなのだ、という事実が、その弱さまですべて俺のものにしたいという欲を強くする。
     だから逃さない。
     逃げ場を塞いでその心を完全に俺の元に戻す。
     これが。
     愛情なのだというのなら。


    「お前こそ、もう逃げられねぇだろ」
     俺がその身に巻いた鎖から。
     どこまでも延びるが絶対に切れない鎖から。

     どれだけ暴れようが、もうそこからは出られない。

     これが愛情なのだというのなら。

     光で紡いだ鎖で、最後まで一緒に落ちていこうと。

     縛られているのは、奪われたくないと思っているのは、本当はどちらなのだろうと思う。
    「隼人」
     この魂を捧げるたった一人の愛しい男が、無防備な寝顔を晒している。
     自分以外の誰かにこの姿を見られることは、きっと許せないと分かる。
     その悩みも。孤独も。

     俺だけが手にすることを許されている。


    -了-
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