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    李丘@練習中

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    李丘@練習中

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    最終話。ただのハッピーエンドです。
    私が見たかったもの。前半が走り気味で、字が詰まってます orz
    元にしたのは、大好きなスピッツの『魔法のコトバ』。
    20240610

    【10】枯れない言葉「隼人!」

    伸ばした手は。

    「竜……」

    虚しく空を掻いた。




    インベーダーによる襲撃は、対応も慣れてきていた。
    先日隼人の指示で設置した地雷のおかげもあって、こちらに大きな被害を出すことなく進められている。
    弁慶の提案で増やした武器は、銃や手榴弾のほかに小型の爆弾もあって、大量のインベーダーが確認できた際などはとても役に立っていた。
    そのときも、渓がいる3人の新ゲッターチームが先に出て、竜馬たちは別の方角から攻め入る作戦を立てて、順調に敵の姿を消滅させていった。
    油断していたわけじゃねぇ。
    今でも竜馬はそう思っている。
    あのとき、ゴウたちと無事に合流し怪我や装備の確認をして、生き残っている敵に注意しながら帰艦を目指すのはいつも通りで、誰ひとり弱音を吐くこともしなかったのだ。
    ただ、渓が足に傷を負ったのでゴウが背負っている状態で、それを囲むようにして歩いていた。

    上から周囲を見回していた渓が、ハッとしたように
    「竜馬さん!」
    と声を上げ、次の瞬間に飛んできたインベーダーの鋭い腕は、隼人の銃で撃ち落とされた。
    まだいたのか、と弁慶が呟いて全員が銃を構え直し、警戒しながら森のなかを走った。
    残党の攻撃をかわしながら開けた場所に出たのが崖の近くで、誘導されたのだと気がついたときは、周囲を囲まれていた。
    「追い詰められたな」
    隼人の声に、弁慶が懐から小型爆弾を取り出して「これで道を開ける」と言い、竜馬と凱が「援護する」とゴウの前に立った。
    運が悪かったのは渓の負傷で、素早く移動できないことを敵も分かっていたのだろうと、竜馬はあの場を思い出す。
    切り立つ崖のそばで、横から攻撃が飛んでくるのを防ぎながら、弁慶が隙を見て爆弾を放った。
    弾け飛ぶインベーダーの腕が、道連れにするように隼人の足首に絡まったのは、一瞬のことだった。
    「隼人!」
    目をやると、隼人は後ろに体勢を崩していて、その足が地面から浮いて手からは銃が離れるのを、竜馬は見た。
    手を伸ばす。
    連れていかせねぇぞ。
    届くはずだと、思っていた。
    「竜……」
    こちらを見る隼人と目が合う。
    竜馬と同じく腕を差し出すが、足が引っ張られるスピードのほうが早かった。
    伸ばした手は。
    虚しく空を掻いた。

    「竜馬!」
    呆然としている竜馬に弁慶の叫び声が飛んでくる。
    今はこっちを片付けるのが先で、頭が真っ白になったまま、竜馬はやみくもに敵に突っ込んでいくと銃弾を浴びせながら咆哮していた。
    許さねぇ。
    隼人。
    気がつけば敵の姿はなく、殲滅を確認してもらうよう無線機でヤマザキに連絡していた弁慶が、
    「隼人は……」
    と崖を見た。
    「……」
    肩で荒く息をしながら、全員が黙って同じ方向に目を向ける。
    落ちていった隼人の行く末を、誰も口にはしなかった。
    竜馬は崖に立って下を見る。どこかに引っかかっていればと思ったが、目に出来る範囲でその姿はない。
    地面に落ちた銃を拾って、
    「行くぞ」
    とみんなを振り返った。
    その顔を見て、ゴウが
    「探すんだな」
    と確認するように言った。
    「……」
    当たり前だ。
    何も言わず自分を睨みつける竜馬に頷いて、ゴウは渓を背負いなおすと歩き出す。
    弁慶の手にする無線機からは、すぐに捜索チームを向けますというヤマザキの声が流れていた。

    竜馬たちが帰艦する前にチームは出発しており、慌ただしい艦内の様子に驚きながら、凱が「これならすぐ見つかるだろ」と呟いた。
    医務室では渓の治療が開始されていて、竜馬と弁慶は外傷のチェックを済ませるとすぐに立ち上がった。
    ゴウと凱がつられるように腰を浮かせるのを「お前たちはここに居ろ」と制したのは弁慶で、
    「渓を一人にするな」
    と言われてゴウは竜馬を見た。
    「連れて帰るんだろ」
    どんな状態でも、と続けないあたり、こいつも成長したのかと思いながら「ああ」と竜馬は短く答えた。
    「竜馬さん」
    呼ぶ声がして、振り返ると渓が不安定に揺れる瞳で自分を見ていた。
    「私が……」と言いかけて涙の粒が盛り上がるのを、弁慶が「お前のせいじゃない」と厳しい声で言い、竜馬も黙って頷いた。
    油断していたわけじゃねぇ。
    運が悪かっただけだ。
    「行ってくる」
    そう言って二人は医務室を出た。

    隼人。

    じっと自分の手を見る。
    あのとき、精一杯伸ばしたのに。
    捉えることができなかった。


    隼人が落ちた場所の詳細は伝えてあり、その下は葉の生い茂る木々が密集していることから、生存の可能性は高いですとヤマザキは冷静な声で言った。
    ただ、それは隼人が単独で落下した場合であって、敵がもし生きていればあれからどうなったか、想像は難しかった。
    それでも、レーダーではインベーダーを示すマークは出ておらず、隼人だけが生き残っているのを前提にした捜索だった。
    それとは別に、竜馬も弁慶も隼人の生存を疑わないのは、ひとえにその信念の強さだった。
    竜馬に罪を被せてでも世界を守ろうとする男が、雑魚にやられるはずがないのだ。
    俺たちが死ぬわけねぇ。
    どちらも胸に抱える言葉は同じで、ただ体の状態がどうなっているか、それだけが心配だった。

    「竜馬」
    ライトを手に暗い森のなかを進みながら、弁慶が呼んだ。
    「あん?」
    前を向いたまま声だけ返すと、
    「お前たち、どんな関係なんだ」
    と、いきなり場違いな質問が飛んできた。
    思わず立ち止まって弁慶を振り返る。
    その顔を見て、「やっぱりか」となぜか納得したような表情を作り、
    「いや、渓がな。
    多分”そう”だろうって言ったんだ」
    と、弁慶は静かな口調で呟いた。
    「……」
    渓が。どうして。
    何と返せばいいのか、肯定してもいいのかと逡巡するのは、タワーの司令官として最重要の立場にある隼人のことを考えたからだった。
    自分とこんな関係にあることが知られてしまえば、所員の信頼がどうなるか分からない。
    それを避けたいから、今まで隠してきたのだ。
    それなのに。
    黙って自分を睨みつける竜馬に、
    「お前がそんな顔をするとはな」
    と弁慶は口を開けて笑った。
    「……」
    「心配するな。俺たちは何も言わねぇよ。どうせ気づいてるのは渓だけだ。
    人の恋路を邪魔して馬に蹴られたくはねぇからな」
    弁慶が肩を揺らして言う。
    「……すまねぇな」
    ようやくそれだけ言葉にすると、竜馬は大きくため息をついた。
    「女の勘ってやつか」
    「お前の、隼人を見る目が違うんだとよ。
    隼人もな。
    俺は全然気づかなかったがなぁ」
    女は注目するところが違うんだろうな、とのんびりした声で続けて、
    「正直に言えば意外だがな、人の気持ちなんてどう転ぶか分からないもんだ」
    と竜馬の顔を真っ直ぐに見た。
    「そうだな」
    その目を受け止めて、竜馬は頷くとふたたび前を向いて歩き出した。
    分からないから、大事にするんだろ。
    思いも。命も。
    「だがな竜馬、節度は持てよ。
    ここは若い奴も多いんだ」
    その隣に並んで、弁慶が口調を改めて言った。
    「分かってる」と答えてから、今さらのように隼人の顔が浮かぶ。
    隼人。
    生きてるんだろ。

    早く戻ってこい。

    ヤマザキが予測した落下地点はすでに捜索チームが散らばっていて、そこかしこでライトの光が筋を作っていた。
    「この規模で探して、まだ見つからねぇのか」
    それを見た二人とも同じ感慨で、「ということは、風で飛ばされたのかもな」と遠くに目をやる弁慶に、
    「あっちを探してくれ。俺は下に向かう」
    と竜馬は告げると、そこで二人は別れた。
    あのとき、隼人の足に絡みついていた敵はそう大きなものではなかったが、落下の最中にどうにか出来るとは思えず、隼人なら体勢を変えて真下に叩きつけそうだなと考えていた。
    隼人。
    そこも当然捜索の手は入っただろうが、諦めきれなかった。
    自分のライトだけでは光が心もとなくて、それでも運ぶ足が早くなるのは、一刻も早く無事を確認したいからだ。
    隼人。
    生きていればいい。
    命さえあればいい。
    タワーの誰もが、隼人の生存を願っているのだと、駆り出されたチームの人数を見て感じた。
    ヤマザキは、司令室でその報告を受けながら次の手を考えている。
    隼人。
    テメェが居て当たり前の場所だろうが。
    早く戻ってこい。
    生い茂る木々の葉をよけながら進む。周囲は虫の声が響くばかりで敵の気配もない。
    もう少しで見当をつけた場所だと思った、そのとき。

    「……おい」

    小さく響いたのを、竜馬は聞き逃さなかった。
    立ち止まる。虫の声が戻る。
    ライトを向けても、茂みが邪魔をして先が見通せない。
    どこだ。
    声のするほうに足を向けた。
    草をかき分けながら進むと、壁面に出た。
    「隼人」
    名前を呼ぶ。
    どこだ。

    「竜馬」

    今度ははっきりと、その声は耳に届いた。
    「隼人!」
    ライトを向ける。
    壁に沿って進むと、大きく草の割れた場所が見えた。
    そこか。
    呼吸が一気に荒くなる。
    体中に熱が回るような高揚は、生きていることが確定した喜びだった。
    隼人。
    揺れる光が照らす先に、見慣れたものを確認した。
    それは数時間前まで目にしていた隼人の履いている靴で、「ああ」と声が出た。

    居た。

    視界が開けると、壁にもたれ掛かるようにして座り込む隼人の姿があった。

    「隼人!」

    竜馬を見上げる隼人の顔は、やつれてはいるが生気があり、ひどい出血の様子もなかった。
    その瞳の光がぶれるのを、竜馬は見た。
    「竜……」
    発見された事実に安心したのか、声は力なく落ちる。
    駆け寄ると、まず体の状態を確認した。
    「折れてはねぇか」
    「……ああ」
    隼人は目を閉じて息を吐く。
    「敵は」
    「死んだ」
    受け答えは出来ている。
    「……」
    次に何と言えばいいのか、自分の心臓が大きな音を立てていて考えることができず、竜馬はその腕に触れた。
    あたたかい。生きている証拠を受け取るようで、竜馬の胸にじわりと新しい熱が広がる。
    「竜馬」
    囁くような声がして、顔を上げると隼人が薄目を開けて見ていた。
    「大丈夫か」
    竜馬がそう言うと、頷くように顎を動かしてから
    「会いたかった」
    と隼人は言った。
    自分のなかで鋭い光が弾けるのを、竜馬は感じた。
    そうだ。
    俺も。
    「会いたかった」
    そう言うと、ふっと息を漏らして隼人が笑った。
    それから右腕を動かすと、竜馬の手を握った。
    「ああ」
    「……」
    視界が崩れそうになるのは、生きていた事実の安心感が膨れていくごとに、あの瞬間から自分に染み付いていた喪失の恐怖が薄れていくからだった。
    その手を取れなかった。
    後悔は心を押し潰して、感情を殺してこの現実と向き合って、ただその顔を見ることだけを考えていた。
    隼人。
    今、隣で息をしている姿を目に出来る歓喜が、堪えていた気持ちの蓋を外そうとしていた。

    手を掴まれたまま顔を寄せると、隼人の瞼が降りる。
    その唇にそっと自分のそれを重ねると、乾いた感触の後で熱が伝わってきた。
    意思のある動きで求めてくるのを感じて、竜馬のなかで泣きそうな痛みが生まれる。
    ああ。
    お前は。
    俺の命だ。


    「愛してる」


    思考を通らずに出る言葉は真実になる。
    唇を重ねたままで漏れた呟きに、隼人の動きが止まった。
    この間、お前も言っただろうが。
    そう思いながら、もう一度キスをして竜馬は離れた。

    「……」
    隼人が目を開いてこちらを見ていた。
    「落ち着いたか」それを無視して尋ねると、「ああ」とはっきり頷いてから
    「そうなのか」
    と呟くのが聞こえた。
    「そうなのかって、お前」
    思わず視線を向けると、薄く笑みを作る隼人の、穏やかな表情とぶつかる。
    「俺だけかと思ったぞ」
    と小さく笑いながら言うのは、自分が口にしても伝え返すことのなかった竜馬を指していた。
    「うるせぇよ」
    いつもの憎まれ口で目を逸らしてから、「動けそうか」と尋ねた。
    心臓の鼓動が治まってくると、隼人の生存をみんなに知らせる必要があることにやっと気がついた。
    辺りは真っ暗で光は竜馬のライトしかなく、覆うような虫の声では二人の話し声が響くこともない。
    「ああ」
    見れば隼人の顔色はだいぶ戻っていて、ゆっくりと腰を上げようとする姿にはまだ少しの力が残されていた。
    「落ちたとき、木の枝に頭をぶつけてな」
    竜馬の伸ばした手に掴まって、隼人が言う。
    「敵がそのまま地面に叩きつけられて散ったのは見たんだが、そこから意識がなくて、目が覚めたらまだその上にいたんだ」
    と、目の前の太い木を顎で指す。
    「何とか降りてはこられたが、そこでまた気を失っていたらしい。
    遠くで人の声がするのは何となく聞こえていたが、どうにも声が出せなくてな……」
    ここにいるのを捜索チームの人間がなぜ見つけることが出来なかったのか、本当に落ちた真下の壁面で、しかもすぐ木々に囲まれた場所なら、衝撃を考えればそこにいるのは可能性として低かったのかもしれないと、ヤマザキの冷静な分析を思い出して竜馬は思った。
    どうでもいいんだ、そんなことは。
    会えたから。
    無理に動かすのはまずいかと、ふたたび座らせてから竜馬は無線機を手に取った。
    ノイズの後で、「はい」とヤマザキの声が聞こえてくる。
    「見つけたからな」
    それだけ言うと、少しの沈黙の後で
    「……分かりました」
    とヤマザキは答え、また黙った。
    竜馬の声色で、生きていたことは分かるはずだった。
    意識はあるが頭を打っていて動かしたくないこと、骨折も出血も少ないことを伝えてから、
    「まず弁慶に言ってやってくれ」
    と竜馬は言った。
    場所の確認をして「すぐに担架を持って行かせます」とヤマザキは返し、一呼吸置いてから
    「ありがとうございます」
    と、はっきりとした口調で続けた。
    おう、と答えて無線を切ると、隼人が「弁慶も来ているのか」と呟いた。
    「弁慶どころかお前、タワーの半分くらいの奴がお前を探してるんだぞ」
    と竜馬は笑い、
    「渓も無事だ。
    あいつらはタワーで待機してる」
    と静かに言った。
    それを聞いて隼人はふうと息を吐き、
    「自分のせいだと思っているだろうからな。
    早く帰ってやらないと」
    と、遠くを見た。


    そして思い出す。
    「そういえば、渓が」
    竜馬が呟いた。
    口調が変わったことに気づいて、隼人が竜馬を見上げる。
    「どうした」
    「俺たちの関係に気づいてるんだと」
    一気にそう言うと、一瞬息を呑むように目を見開いて、
    「そうなのか」
    と隼人は低い声で返した。
    「ここに向かう途中で弁慶に言われた。
    まあ、気づいてるのは渓と弁慶だけで、黙ってるからと言っていたが」
    「……」
    黙った隼人の眉根が寄るのを見て、いま言うべきじゃなかったかと竜馬は一瞬だけ後悔した。
    だが、タワーに戻って渓に会う前に知らせておいたほうが、何でも早めに処理をしたがるこいつのためだと、竜馬はぐっと息を詰めた。
    知られていたのは、つまりカモフラージュが出来ていなかったということだ。
    恥ではない。
    そう思う気持ちだけは、弁慶に突っ込まれたときから動かない。
    自分はとっくに腹を括っていて、いつばれようが胸を張ることができる。
    だが、こいつは。
    ふいと視線を動かして、隼人がこちらを見た。
    「竜馬」
    タワーのなかで、誰よりも重要な位置にいるこの男は。
    「みんなに話すか」
    「は!?」
    その言葉だけは出てこないだろうと思っていた竜馬は、本気で驚いて大きな声を上げた。
    「お前……」
    「別にいいだろう、恥ずかしいことじゃない」
    こちらを見る瞳に動揺はない。事態を把握して考えて出した答えが、これだった。
    「お前はどう思う?」
    冷静な声で隼人が尋ねる。
    「……」
    いいのか。
    お前は、失うものはないのか。
    向けられる信頼は。
    その立場は。
    「俺は……」
    誰かに知られたということは、「新しいやり方」が必要になる。
    それがこの選択で、お前は後悔しないのか。
    隼人を見て、息を呑んだ。
    その瞳にはあたたかい色が浮かんでいる。
    いつもと変わらず。
    この事実を知ってわずかの変化も見えない強さで、さっきキスをしたときの瞳のままで。
    俺だけに向けられる。
    自分の胸の裡に瞬きが生まれるのが、竜馬にははっきりと分かる。
    どんな光で、俺はお前を見ているんだろうな。
    お前にしか向けない光で。
    二度と消えない強さで。

    愛してる。

    ああ。
    こんなだから、俺たちは。


    「おーい!」
    そのとき、近くで弁慶の野太い声が響いた。はっとして二人が顔を上げると、周囲を一斉に光の筋が取り囲んだ。
    「弁慶!」
    竜馬の叫びに「こっちだ」とふたたび声がして、それから目の前の草をかき分けて弁慶が大きな体を現した。
    「隼人」
    座り込む隼人を見て弁慶の顔に笑みが広がる。
    「すまなかったな」
    それに手を挙げて答えて、隼人が言った。
    弁慶の後に続いて捜索チームの所員が担架を持って出てきて、隼人の体を慎重に乗せた。
    「頭を打ってるから気をつけろ」と所員に向かって竜馬は言い、頷いたみんなによって隼人は運ばれていった。
    「……」
    それを見送って、竜馬はさっきの隼人の言葉を考えていた。
    お前がそう言うのなら。
    俺は。
    「過保護になったもんだな」
    その隣に来て、弁慶が笑いながら言った。
    「この間は、大丈夫だろって冷たく抜かしてたくせによ」
    「間違ってねぇだろうが」
    むくれた顔で返すと、弁慶が
    「そうだな」
    と返してまた大きな口を開けて笑った。
    「俺たちも帰ろうぜ」と竜馬が歩きだすのに歩調を合わせながら、弁慶が声を下げて言った。
    「節度は守れよ」
    「はぁ!?」
    馬鹿じゃねぇのか、と怒鳴ってから、
    「こそこそすることはなくなるがな」
    と、口調を戻して言った。
    なんだ、と返してからその意味を理解して、弁慶が
    「それがいいだろうな」
    と静かに頷くのが視界に入った。


    タワーに戻った隼人はすぐ治療室に運ばれ、脳波の検査などを受けてしばらく絶対安静の身となった。
    骨折はないと思っていたが、木の上に落ちたときの打撲が大きなダメージを残していて、ほかの傷の治療と併せれば一週間は動けないだろうと、ドクターは言った。
    担架で運び込まれる隼人を見て誰よりも喜んでいたのは渓で、涙を浮かべて「おかえりなさい」と言う明るい顔に、隼人は
    「心配をかけたな」
    としっかりした声を返した。
    後から医務室に戻った竜馬たちに、ゴウが「帰ってきたんだな」とだけ言った。
    治療の済んだ渓が、ゴウと凱に隼人の様子を伝えていた。
    3人がどんな気持ちでいたか、大きく息を吐いて椅子に座り込む凱を目にすると分かる。
    あいつはしぶといからな、と茶化してから、竜馬は改めてみんなを見た。
    「お前も飲むか」
    と、弁慶が酒を飲むジェスチャーで言った。
    「ああ」
    飲みてぇなと返す竜馬に、
    「祝い酒だな」
    と、意味深な目を作って弁慶がニヤリと笑う。
    「……」
    祝福かどうかは知らねぇが。
    ゴウたちの顔が安堵でほころんでいる。
    司令室ではヤマザキがやっと座った頃だろう。
    ここで過ごすなら、これからもこいつらと共にあるのなら、知っておいてほしい。
    竜馬の体に新鮮な緊張が走った。
    「竜馬さん、よかったね」
    涙の跡を残したままで、渓が手を振っている。

    俺たちは、枯れない言葉で結ばれていることを。


    その「発表」は、隼人の体調が回復してすぐのことになる。

    歓喜の光は、竜馬だけのものじゃなくなる。

    隼人が、普段は絶対にみんなに見せないであろう表情で自分の隣に立っていることが、おかしかった。

    枯れない言葉で、色褪せない思いで、これからも命を紡いでいく。
    存在の渇望は、永遠に続くのだと。


    -了-

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