「こんなこと言いたかないけどね、君は真似事しかできんのか」
教授は白い口髭を撫でながら、F50サイズの大作を前にそう述べた。
作者であるふみやは無言でその言葉を受け入れる。
「模写といえば聞こえはいいがね、ここまでくると君はまるで贋作師だよ。いいかい、自分の絵を描きなさい。それまで見せに来なくていい」
ふみやはわかりましたと素直に頷いたが、握った拳に少しだけ力が入る。
──描けるものなら描いてるよ。
ふみやは絵の上手い子どもだった。
きっかけはとある絵本の挿絵。何気なくその絵を真っ白な画用紙に描いたら大層褒められた。
褒められるのが嬉しくて、ふみやはどんどん絵を描いた。絵本の絵を真似て。
両親はふみやの才能を信じ、画集を買い与え、美術館にも積極的に連れ出した。ふみや自身もスポンジの如く名絵を吸収し、日がな一日描き過ごした。
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