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    たぴおかりあん

    @tapiioka_taan

    ☀️くんに心奪われた新参者。
    ジャミカリ幸せだと嬉しい。
    みんなが幸せだと嬉しい。文字をちまちまと。

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    たぴおかりあん

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    芸能人になったジャミル×一般人カリム という設定の現パロです。
    幼馴染みが芸能人になっちゃったカリムをテーマにした6月のイベントの無配でした。

    芸能人になったジャミル×一般人カリム① 幼馴染。それは、カリムにとって特別な響きを持つ言葉だった。
     普通の友達よりもずっと長い時間を過ごした、家族のような関係。家族以外誰も知らない、小さい頃の思い出や笑ってしまうような失敗談だって、カリムは知っている。
     同じくらい、いや、それ以上にカリムの幼馴染も、カリムのことを知ってくれている。彼は、カリムよりも少し早く生まれて、同い歳だけれど兄のようで、なんでも話せる友人だ。カリムの隠し事だって、容易に暴いてしまう。
     もちろん、そんな彼ほどとは言わないけれど、カリムだって、幼馴染なりに彼のことを見てきた。だから、あんなにもあからさまな彼の仮面には騙されない。
     今、この学校で、幼馴染みであるカリムだけしか、彼の本当の姿を知らないのである。

    ◇◇◇

    「ジャミルく〜ん! 昨日発売の雑誌みたよ〜! かっこよかった!」
    「ああ、ありがとう」

     丁度、カリムの幼馴染ーージャミル・バイパーが、側の廊下を通ったらしい。彼が穏やかな風のような声でお礼を言えば、黄色い声の嵐が舞う。

    「ジャミルくん! 実は今日、家庭科の授業でデーツを使ったクッキーを作ってみたの。貰ってくれる……?」
    「すまない。実は今、仕事のために体重を管理していて、甘い物を控えているんだ。だから貰うことはできない」
    「そっか……」
    「たが、気持ちはすごく嬉しいよ。その気持ちだけで、今日の撮影も頑張れそうだ。……また、応援してくれるか?」
    「する‼」

     どよめき出す女性たちの声に対抗するように、カリムは飲んでいた紙パックのジュースを勢いよく吸った。ズズー、と綺麗とは言い難い音が鳴って、中に入っていたココナッツジュースが一瞬で消える。

    「まーたバイパーか」
    「あれだろ、今度主演映画も決まったって。さーすが、学園の王子様」

     カリムの近くの席の男たちは、やれやれといった様子で会話を始めた。

    「雑誌の専属モデル、マジカメのフォロワー数は同世代では五本指入りで見た目良し、女子への態度は王子様のように優しく性格良し、定期テストは常に上から一桁で頭良し。んで、元バスケ部エースでスポーツもできるときたら、もうこの学園の男子で勝てるやつはいねぇよ!」
    「ほんとだよ! 女子の視線はいつだってバイパーに釘付け。女子たちは、俺たちに一ミリも興味なし。ああ、さよなら、俺の憧れの青春」
    「バイパーがいなくても、お前に憧れの青春は来ないだろ。鏡見ろ」
    「なんだとぉ⁉」

     どたばたどたばた。ミドルスクールから一緒だという二人の友人は、三日に一度ほどの確率で、戯れのように喧嘩をする。カリムも最初は慌てたものだが、学園に入ってから二年目の付き合いともならば、慣れたものだ。
     カリムは、友人らの喧嘩には目もくれず、廊下の向こうをただ目で追う。

    「カリムは、バイパーの知り合いか?」
    「え?」

     今年から同じクラスになったメガネが特徴的な友人が、カリムに問う。カリムは友人が座る席の方に視線を向けた。

    「下校中、バイパーがカリムと話をしてるところ見た、という噂を聞いた。だから、知り合いなのかと」

    カリムは、飲み切ってひしゃげた紙パックから手を離して、頬をかいた。

    「まあ、な。実は、所謂幼馴染なんだ」
    「そうだったのか。秘密だったか?」
    「女の子には、あんまりバレないようにしてほしいって。だから、そうしてくれると助かる!」

     カリムが手を合わせてお願いすると、友人は快く頷いてくれた。頷いた後で、今度は言いづらそうに口を開く。

    「大変じゃないか?」
    「ん?」
    「王子様、なんて呼ばれる相手が幼馴染で」

    カリムは目をぱちぱちと瞬いた。
     遠くに去っていく黄色い歓声を背景に、カリムは友人にしっかり目を合わせて答える。

    「うーん。ちょっとは考えるところもあるけど、大丈夫! だって」
    「だって?」
    「幼馴染だから、な!」

     カリムは憂い一つない笑顔を見せた。眼鏡の友人は首を傾げるが、丁度そのタイミングで鐘が鳴った。廊下から女子生徒が何人も戻ってきて、他の生徒もぞろぞろと着席する。カリムもまた、机の中から次の授業の教科書を取り出した。
     幼馴染み。それは、カリムが胸の憂いを拭い去る、魔法の言葉だった。

    ◇◇◇

     きょろきょろと周りを確認して、誰もいないことを確認する。素早い動きで両開きの扉の片方側だけを開けて、室内に入り込んだ。そこからすぐ目の前にある扉を開けると、中庭が広がっている。その木陰の下の白いベンチに、待ち人がいた。

    「ジャミル!」
    「ちゃんとこっそり来ただろうな」
    「ジャミルじゃないんだから、女の子に着いて来られたりなんてしないよ」

     カリムはジャミルの方へ駆け寄った。ジャミルは白い冊子を読んでいたようだ。すぐにバックの中にしまったが、恐らく台本だろう。初の映画主演に抜擢されて、かなり意気込んでいたことをカリムは知っている。

    「ならいい。ほら、食べるぞ」

    ジャミルは、別に持ってきていたランチバックから、いつも通り二人分のお弁当を取り出した。
    カリムはうきうきとした気分で隣に座り、口を開く。

    「今日の飯は?」
    「カリムが三番目に好きなメニューだ」
    「えー? ジャミルの料理はどれも一番なんだけどなあ」

     ジャミルはてきぱきと昼ご飯の準備をし始めた。その様子は、一時間ほど前に見た「王子様」みたいなジャミルではない。クールでぶっきらぼうで、たまに小言っぽいけど、一番馴染み深いジャミルだった。
     ジャミルは、ミドルスクールに通っていた頃、街中でスカウトされたことをきっかけに芸能界へと足を踏み入れた。ダンスが得意で歌も上手で、見た目もかっこいい。ジャミルの資質はスカウトマンの心を瞬時に射止めただろうことは想像に難くない。
     芸能活動を始めたジャミルが世間に見つかるのは時間の問題だった。ハイスクールに通い出す頃には、若者の間で知らない人の方が少ないほどの知名度を得たジャミルは、イメージ商売だから、人前でもメディアに出る時と同じような態度を取ることが多くなった。明るくて、優しくて、誰にでも手を差し出す王子様みたいなジャミルは、まるでカリムの知らない人間だ。
     けれど、昼休みはこうして人目を忍んで、一緒に昼ご飯を食べている。その理由は、ジャミルと一緒に昼食を取りたい、という人間が後を絶たないからだ。そこで、ジャミルは先生に相談し、旧校舎の一階を昼食時のみ使うことを許可されたという。そこに、カリムも一緒に訪れているというわけだ。
     元々、ジャミルの家から徒歩三十秒の距離に住んでいるカリムは、両親が仕事で多忙のため、よくジャミルの家でご飯を食べることが多かった。今もその名残で、カリムはジャミルと一緒に食事をしている。忙しいのに、とも思うけれど、ジャミルの料理は美味いのだ。それに、この時間だけ、ジャミルが肩肘張らないでいられると思うと、ふくふくとした感情に満ちる。
     きっと、カリムも嬉しいのだ。ちゃんと、ジャミルはカリムの幼馴染みのままだと感じられることが。
     今日もジャミルが作ってくれた弁当を平らげて、カリムは美味しいご飯という幸せで腹を満たした。毎日恒例、今日はこのおかずが美味しかった! を伝えようとすると、ジャミルが世間話のような軽さでカリムに質問をする。

    「そういえば、今日の午前中の家庭科は調理実習だったのか?」

     ジャミルの言葉に、お昼前、ジャミルにクッキーを渡そうとした女子生徒のことをカリムは思い出した。

    「あ、そういえばそうだ! オレたちの班はカップケーキ作ったんだ。ちゃんと膨らんで美味しそうにできたんだぜ」

     カリムはラッコ柄の小さめのランチバックを開けた。きつね色に焼けたカップケーキが一つ、透明な袋の中に入った状態で入れてある。
     飾りも何もないシンプルなカップケーキを、カリムは食事の後で食べようと持ってきていたのだ。

    (普段のお礼にジャミルに、って考えもしたけど、体重管理中だし……。何より、もっと上手なものをあげたいな)

     きっと、先程の女の子が作ったクッキーは、見た目にも凝った素敵なお菓子なのだろう。それでも断られたのだから、カリムの作ったものなど、興味すらないだろう。

    「カリム?」

     カリムは名前を呼ばれて、つい深く考え込んでいたことに気付いた。少し慌てた手つきでカップケーキをとって、ジャミルに見せる。

    「これだぜ! ちゃんと膨らんでる……」

     カリムが最後まで言い終わる前に、ジャミルの骨張った手がカリムの手から袋を取った。流れるように入り口を結んでいた赤いリボンを取って、中身に手を出す。

    「あ」

     あっという間に、カップケーキがジャミルに一口食べられる様を、カリムはただ眺めていた。
    何口か齧り付いて、一言。

    「美味いな。普通に」

     ジャミルに半分ほど食べられたところで、カリムはおずおずと尋ねた。

    「体重管理中じゃないのか?」
    「それも嘘じゃないが、別にこれ一つで太るってこともない……食べたかったか?」
    「……ちょっとだけ」

     少し、嘘を吐いた。どうせ渡すなら、もっと美味しくできたもの渡したかったと思う。けれど、ジャミルはぺろりと一つ、カップケーキを完食してしまった。その口元には仄かに笑みが浮かんでいて、カリムの想像以上にジャミルの口に合うものを作ることができたのだと、内心ほっとした。

    「じゃあ、来週は楽しみにしていてくれ」
    「来週?」
    「俺が作ったケーキ、食べるだろ」
    「ジャミルの! 食べる!」

     カリムは勢いよく挙手をして、立候補をした。ジャミルは普段の食事だけでなく、お菓子も絶品なのだ。ジャミルが芸能人になる前は、休日によくお菓子も作ってもらったものだ。
     込み上げる懐かしさに、カリムが笑みを咲かせていると、話ながら片付けを進めていたジャミルが、口を開く。

    「……で、カリム。今日もいいか?」
    「お? おう!」

     カリムはジャミルに言われて、ルーティンを思い出す。カリムはベンチの端の方にバックを置いて、改めて姿勢を正した。膝を閉じて、ぽんぽんと叩く。

    「どうぞ!」

     カリムの合図をすると、ジャミルの頭がカリムの膝の上に乗った。ベンチの上に完全に横になったジャミルは、「時間になったら起こしてくれ」と言うと、そのまま目を閉じる。
     これが、ジャミルとカリムのお昼のルーティンである、お昼寝だ。仕事の都合上帰りが夜遅くなってしまったり、家で準備をしないといけなかったりと、芸能界の入ってからのジャミルは寝不足である日の方が多い。
     そこで、せっかく人目を避けて昼食を取っているのだから、ついでに昼寝をすればいい、とカリムは提案をしたところ、ジャミルはあっさりと受け入れた。その日以降、ジャミルが学校にいる日は、毎日昼寝の時間を設けている。
     膝枕にしたのは、ジャミルの希望だ。何でも高さがあった方が寝やすいらしい。筋肉質ではないとはいえ、カリムは男性だ。カリムの膝枕など、痛いだけではないだろうか、と思いつつも、ジャミルはカリムは声をかけるまで、すやすやと眠ることが殆どである。カリムが考えているよりも、寝心地は良いのかもしれない。
     今日も、ジャミルの口から静かな寝息が聞こえてきた。おくびにも出さないけれど。やっぱり疲れているのだ。

    (学校でも、王子様じゃなくていいと思うのに。本当のジャミルだって、みんな好きになるはず)

     学校でも、雑誌やテレビの向こうの存在かのように振る舞うジャミルを見ていると、心臓がきゅうと、となる時がある。一番身近だったはずの存在に、手を伸ばしても届かないかのような虚無感がカリムの身に沁みたことは一度じゃない。
     不意に、ジャミルの長い黒髪がジャミルの唇の上にさらりと落ちる。端正な顔立ちの上に落ちた黒髪を払おうと、カリムはジャミルの顔にそっと触れた。

    「……ん」

     指が触れた瞬間、微かな寝息が漏れた。温かな寝息に触れて、顔に急速に熱が溜まる。兄弟のように育った幼馴染みの寝息一つで、カリムはどうして動揺してしまうのだろう。
     ばくばくとした心臓を、カリムは必死に抑えた。ゆっくりになってきたタイミングで、静かに息を吐く。
     ――いつか、ジャミルの側にいられなくなる日が来る。
     幼馴染みなんて特別の名前があっても、ジャミルは本当にカリムの手の届かないところへ行ってしまうのだろう。ジャミルの未来のためならば、カリムもその道を応援しなくてはならない。その時、ジャミルは世界に、カリムだけが知っている「ジャミル」を見せるのだろうか。考えると、切なく胸が痛む。
     幼馴染。それは、カリムにとって特別な響きを持つ言葉だった。他の誰も持っていないその言葉は、カリムにとってお守りみたいな言葉だった。しかし、すぐ先の未来で、形骸化したその言葉が、転がっているだけになってしまうかもしれない。

    (でもまだ、ジャミルの幼馴染みでいたい。本当のジャミルを、まだ誰にも見せないでほしい)

     我儘を心の中で唱えながら、カリムは眠るジャミルの手に手の平を重ねた。目覚ましの時間までは、まだ時間がある。らしくなく悲観的な考えを持ってしまった時は、少し眠るに限るだろう。カリムもそっと目を閉じる。
     ――一瞬、カリムが眠りに落ちたその瞬間、その手を慈しむように握られたことも、その理由すらも、カリムが知るのはまだ先の話である。
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