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    たぴおかりあん

    @tapiioka_taan

    ☀️くんに心奪われた新参者。
    ジャミカリ幸せだと嬉しい。
    みんなが幸せだと嬉しい。文字をちまちまと。

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    たぴおかりあん

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    🐍☀️人外webオンリー展示作品「幾千年分の幸せを、君に」のちょぴっとした続編です。
    ほんとにちょぴっとです。
    本編を読んでないと分かりにくいと思います。

    君と番になったから互いを番と定めたジャミルとカリムは、洞窟で少し休憩した後、良好な天候を鑑みてすぐに登山を開始した。
    休憩中にジャミルが持ってきた魔法瓶に入った温かなスープをカリムに飲ませはしたが、五日間ほど食事をまともにとっていなかったカリムにとって、足場も悪く冷える雪山を登ることは無茶な行為かもしれない。
    しかし、洞窟の中よりも山頂にあると言われている村で体を休めた方が良い、とカリムに言われてジャミルは言葉に詰まってしまった。
    カリムは、自身の為というよりも、同じく少し痩せたジャミルを心配しての提案だったのだが、ジャミルには知る由もない。
    ただ、カリムの言うことは一理あるのでジャミルは苦渋の決断の末、せめて天候が安定している内に進むべきだと登頂を決意した。
    冬の山は危険だ。
    深く降り積もった雪のせいで本来の地形が見えず、転倒はもちろん落下の危険性も高まる。
    更に危険なことに、腹を空かせた冬眠中のはずの野生動物が襲ってくる可能性があるのだ。
    起きたばかりで腹が空いている野生の動物は酷く気が立っている。
    獣人は獣人を食べることはないが、野生の動物にはその境目がない。
    獲物を見つければ、誰彼構わず牙を向けるだろう。

    「カリム、絶対に俺の側から離れるなよ」
    「わ、わかってる」

    ジャミルとの約束に、カリムは何度もこくこくと頷いた。素直にジャミルの横から離れず、カリム自身も警戒を怠らず歩いてくれている。
    それでもやはり、野生の動物は襲ってきた。
    ジャミルたちよりも体格が大きく、力も強い相手となると確実に相手を下すには魔法が手っ取り早い。
    ジャミルは体内に巡る魔力を練り上げ、炎へ変化させると現れた炎球を放ち、相手を地に伏せた。
    しかし、慣れない場所で危険な相手との戦いともなると、怪我一つしないというのはなかなか難しい。

    「ジャミル!!」

    野生の動物が現れたら離れたところへ行くという約束通り、木々の影に隠れていたカリムがジャミルの方は駆けてきた。
    ジャミルの右腕と、顔についたひっかき傷を見て、カリムは悔しそうに顔を歪めた。
    しかし、すぐに唇を結び力強い目になると、目の前で祈るように両手を組み合わせる。
    温かな光がカリムの体の輪郭から溢れ出す。
    光がジャミルを包み込むと、痛みが段々と薄れていく。
    光が霧散する頃には、ジャミルが負った傷は綺麗に消えていた。

    「ありがとう、カリム。助かった」
    「ううん、これくらいしかオレにはできないから…。でも頑張るからさ、たくさん頼ってくれ!」

    ジャミルが目を細めて笑うと、カリムは気合いを入れるように胸の前でぎゅっと拳を握って、ぱたぱたと尻尾を振った。
    この時、カリムの努力の匙加減をもっと調整しておけばよかったと後悔することになる。




    温かな光の粒子が、ジャミルを慈しむように舞う。
    光がふわりと消えると、ジャミルは眉を顰めてカリムの方を振り返った。
    その様子に、カリムは耳をぺたんと下げてジャミルを伺い見る。

    「…なにか、上手くいかなかったか…?」
    「そうじゃない。傷は治ってる。けどな、これぐらいの傷なら、手当てするだけでも大丈夫だ。そんな頻度で魔法を使っていたら、俺より先にカリムに限界がくる」
    「オレは大丈夫だ!小さくても傷は傷だし、ジャミルが傷ついてるところなんて、みたくないからさ」

    カリムはジャミルの腕に手を当てて、祈りを捧げるように摩る。
    そこにあったかすり傷は、一切の痕もなく消えていた。
    魔法は無限に扱える代物ではない。白い狼の特別な力だとしても、同じだろう。
    ジャミルは自分だけでは勝ち目の薄い相手にだけ魔法を使う、などをして消費を調節しているが、カリムはジャミルが少しでも傷がつく度に容赦なく身を削る。
    まだカリムの体調は万全ではないはずなのに。
    不安だが、特に辛そうな様子も見せずにカリムは笑っている。
    心配のしすぎだといいが、と思うジャミルだが、古来からそういう時に限って嫌な予感は的中するものなのだと、数時間後にジャミルは思い知ることになる。




    周りに漂う酸素がだいぶ薄くなり、高い木々が姿を消し始めた。視界は開け、積もった白銀の上をキラキラと光が乱反射している。
    遠くには、氷柱が連なる住居が見えた。
    おそらく、山頂にあるという村なのだろう。

    「カリム、あと少しだぞ……って、カリム?」

    ジャミルは横を歩くカリムから何の反応もないことに気づき、自分よりも下にある顔を覗き込んだ。
    カリムの視線は下の方をうろつき、頬は紅潮している。ふわふわした尻尾が所在なさげに揺れて、足取りはふらふらだ。
    カリムの異常に気づいた次の瞬間、カリムの瞳は閉じられ体が白銀の上に吸い込まれた。

    「カリム!?おい、カリム!!」

    雪に埋もれたカリムを咄嗟に抱き起こし、額に触ると尋常ではないほど熱い。
    苦しげに熱を吐く様子を見て、ジャミルは急いでカリムを抱き抱えて目の前の村へと走った。




    結論からいうと、カリムは疲労から熱を出した。連日の寝不足や栄養失調もあるが、一番の原因は慣れない魔法の使いすぎだという。
    魔法を使い始める際に自分の限界を見誤り、魔法を使いすぎてしまって熱を出す新米魔法士は多いらしい。
    特に魔法適正が低い種族こそ、こういった体調不良は多いのだと医者は語っていた。
    山頂の村の人々は親切で、宿屋を一室ジャミルたちに無料で貸し与えてくれた。
    ぱちぱちと暖炉の薪が鳴る音を聞きながら、ジャミルはベッドの上で眠るカリムの様子を見ている。
    魔法の使いすぎに効く薬はないらしい。
    風邪ではないので、しっかり寝て、食べて、休めばそのうち治るものだと言われてしまえば、ジャミルにできることは少ない。

    「ぅん、んん…?」

    苦しげな息を吐くカリムが、重たげな瞼を開けた。
    ジャミルはすぐ様その様子に気づき、カリムの顔を覗きこむ。

    「…あ、れ?じゃみる?」
    「無理に話そうとしなくていい。ここは山頂の村で、お前は村に到着する寸前に倒れた。酷い熱がある。今は休んでくれ」

    ジャミルがそう告げると、カリムはしゅんと悲しげな顔をした。
    ジャミルは慌ててカリムの手を握る。

    「どうした!?痛いところでもあるのか?」
    「ちがう。…オレ、何でもするって決めたのに…何もできなくてごめん」

    カリムは眉をへにょりと曲げて、申し訳なさそうに熱で潤んだ目を伏せた。
    カリムと監獄のような国にいた頃、カリムが一緒にいたい、と願った日を思い出す。
    たしかに、何でもするから、ずっとジャミルのそばにいたい、と言ってはいたが。
    ジャミルは深くため息をついて、手を握っていない方の手をカリムの額の前へ動かした。
    そこで、勢いよく中指を弾けさせる。

    「いたいっ!!」
    「ばか。ちゃんと傷は治ってるだろうが。ちゃんと俺はカリムに助けられてる。今カリムが熱を出してるのは、俺を助けることができたからなんだよ」

    ジャミルはデコピンをした額を、今度は労わるように撫でた。
    雪ならば溶けてしまうような暑さに、顔を顰める。

    「というか、俺は途中で魔法を使いすぎるな、と警告をしたよな?悪い狼には、あと十発デコピンが必要かもな?」
    「え、ええ、やだやだ、ごめんジャミル!」

    デコピンの痛さを知ったカリムは震え上がった後、かけられていた布団を上に上げて顔を隠してしまった。
    耳までは隠れていないところが正直に言うと可愛いとジャミルは思う。
    それに、繋がれた手は離さないのだ。
    思わず口元がにやける。

    「なあ、カリム。俺たちは番になった。そうだよな?」
    「お、おう…」
    「だから、もう何を言おうと俺たちは一緒にいるんだよ。何もできなくたって、俺たちはずっと一緒にいる」

    当たり前のようにジャミルが告げると、カリムは布団の中で頷く動きをしたようだった。
    頷いた拍子に肌と布団が擦れる音がする。

    「今の俺たちは、二人で一緒に生きるために、自由の島へ行こうとしてるんだ。だから、カリムに何かあったら、意味がないんだよ」

    静かに言い聞かせるように語ると、カリムは突然ばっと起き上がった。
    まだ熱で赤い顔をジャミルに向けたと思えば、ベッドの横に座るジャミルの首の後ろに手を回して思い切り抱きつく。

    「ごめん、ごめんジャミル…!そうだよな、俺、ちゃんと分かってなかった。ジャミルの役に立って、離れないようにするのに精一杯で…!オレが倒れちゃダメだよな、二人で一人の番だもんな」
    「…いい。そうやって自分を追い詰めるくらい自信を無くしたのは、俺のせいだろう。今、分かってくれたならそれでいい」

    添い寝をするときにカリムが好きだった甘噛みを、今度はジャミルがする。
    肩口をやわやわと噛むと、カリムはジャミルの肩に顎を乗せて、嬉しそうに頬を擦り付けた。

    「忘れないでくれ、俺とお前は今、一緒に幸せになるために歩いてるんだってことを」

    ジャミルの言葉に、カリムは嬉々として頷いた。
    より一層ジャミルに回した腕の力が強まれば、高い体温が交わって解けていく気がして、カリムはその心地よさに体を預けたまま幸せそうに目を閉じた。
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