旅の始まり 左腕に巻いた腕時計を確認し、次に側に立つ柱に示された時間を見る。最後に手にした端末を確認してついでに着信履歴とメールボックスも開いたが、目当ての人物からの連絡は無く土産を期待する同期の余計なメールが目に入った。アウグスト・ザムエル・ワーレンは小さな溜め息をひとつ漏らす。
「まったく、どこで何をしているのか」
待ち合わせの時間は十分前には過ぎていた。明日は遅刻するなよ、と残して昨晩別れた当の本人は未だに姿を現さず待ちぼうけを食らっている。
取り敢えず通路の邪魔にならないよう大きなキャリーケースを近くに寄せ、もう少しだけ待ってみることにした。幸い集合時間は早めに設定したため搭乗時間までたっぷりと余裕がある。道行く人々のどこか弾んだ声に溢れたロビーの喧騒を聞きながら、小さめのボディバッグの中身を漁る。パスポート、航空券、財布、それと真新しくも手によく馴染む革のトラベラーズノート。他にもいくつか小物が入れてあるが、まあこれだけあれば後はどうとでもなるだろう。
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