幕間:自覚「ちょっと、話があるんだけど。放課後、部室においで」
昼食を一人食べていたエラーは、鈴がわざわざ中等部棟までやってきて、そう言いに来た事実に驚いた。
エラーたちの所属する『芸術探求同好会』は、つい一月前に設立されたばかりだ。活動には不定期、集まりたい時に集まって、したいことをするのがセオリー。日によってメンバーの顔ぶれはいつも違う。
だからこそ、これまで、こうして直接呼ばれることはなかった。事前に取り組めていた予定もないはずなのに、だ。
メンバーの一人であり、エラーと同級生のころは、今日は学校を休んでいる。大丈夫なのかと問えば、むしろ都合がいいとのことだった。
何か気に障ることをしただろうか?
まだ六時間目の授業の最中だというのに全く集中できない。いつもに増して、英文が右から左へと流れていく。さながら川のせせらぎだ。
そもそも、鈴との接点が未だに少ないのだ。初対面は始業式から約一週間後のことだった。同窓会の発足に必要なメンバーが足りず、途方に暮れていた時に現れた。
元々ネットやらで繋がりがあった他の面々とは違い、それまでの鈴との交流は全くのゼロだ。先輩であることもあり、未だ距離感を測りかねている。
それは、言うことだけ言って教室を出ていってしまった相手も同じのようだ。
……そういえば、初めて声をかけられたときも今日のような具合だった。結局るまるが来てうやむやになってしまったのだが、あの時、気まずそうに話しかけてきた鈴は、一体何を言おうとしていたのだろうか?
それ以上の思考を阻止するかのように、チャイムの音が鳴り響いた。
掃除当番の存在をすっかり忘れていた。予定から遅れることおよそ十五分、エラーは部室の扉を開いた。当然、鍵はかかっていなかった。
二対の双眸がエラーを振り返る。
「お、来た来た」
「掃除当番だった? お疲れー」
「え、ばりそもいるの……?」
エラーが目を丸くする。
自分のことを呼び出した鈴は当然として、ばりそがいるとは思わなかった。一人の方がいいとのことだったので、てっきり二人きりで面談でもするのかと考えていたのだ。
エラーが荷物を置き、椅子に腰掛けたところで鈴が口を開く。
「来てくれてありがとう。あ、るまるは用があるからって帰ったよ。用があるのは君ら二人だけだからね」
鈴はそう言うと、がさごそと自分のスクールバッグを漁り始めた。やけに荷物が詰まっているようだ。
ばりそも借りてきた猫のように大人しい。
大抵はるまるがいるが、今はいない。普段うまく会話を回してくれる人がいないと、こうまで不安になるものだろうか。
「なるはやで本題を済まそうか、時間かけるの好きじゃないし」
目当てのものを見つけたのか、鈴が空気に耐えかねたようにスクールバッグのジッパーを勢いよく閉めた。途中で一度引っかかっていたのは見なかったことにしよう。その手の中には、筆箱のようなサイズ感の木箱が握られていた。
「二人ってさ」
木箱から、白い布で包まれた物体が出てくる。しゅるりとその拘束が解かれた。
「幽霊、分かるたちじゃない?」
しゃらん。鈴の手に握られていたのは、棒の先に大鈴のついた、手振鈴だった。