後日譚2 回想その後「ってことで、援軍つれてきたよ」
握手を交わした元幕府軍だった人達を連れて帰ると、迎えたヅラに、驚いたような、呆れたような、そんな顔をされた。
「忍、お前はまた、道端で小銭を拾ったみたいなノリで連れて来おって……
……で、今回も幕府軍から引き抜いてきたのか?」
「うん。
逆に幕府軍以外のどこから引き抜いてくんの。
戦闘経験もあるし、相手側の知識も持ってる。味方にしちゃえば最強でしょ?」
「そうだが……
奴らが裏切るという可能性はお前の中にはないのか?」
「大丈夫、少しでも味方に殺意向けようもんなら即 斬るから。ね?」
振り返りつつ笑顔で言った僕に、元幕軍の人達が「怖…」と顔を引き攣らせる。
おかしいな?僕優しく微笑んでると思うんだけど?
と、その時、何人かの視線がヅラの後ろに釘付けになってるのに気づいた。
……ヅラの後ろうるせーなって思ってたんだよね。
「あ、紹介するよ。
こちらが今攘夷軍を取りまとめている、ヅラ小太郎くん」
「ヅラじゃない、桂小太郎だ。
人の名前くらいちゃんと紹介しろ」
「で、その後ろにございますのは、攘夷軍名物、白夜叉と鬼兵隊総督の喧嘩」
「喧嘩と書いてじゃれ合いと読むな」
「……あれがあの白夜叉と鬼兵隊総督??」
くだらないことで言い合って牙向いてる二人の姿にみんなが宇宙背負ってる。
あれが戦場に名を轟かす英雄……??って顔してるね。そうなんですよ。あれが伝説の攘夷志士なんですよ。
と思ったらまた別の声がデカい英雄が喧嘩止めに入って両側から殴られた。辰馬、ご愁傷様。
「今殴られたのが、君らとも昨日話してた、坂本辰馬。
とりあえずこれで、攘夷軍の主要メンツは紹介できたかな?」
「……本当にアレが、戦場で名を轟かす戦士……???」
「気持ちは分かるが、ああ見えて戦場では本当に強いんだ。
……困惑することもあるだろうが、安心しろ、忍の幕府軍引き抜きは初めてのことでは無い。もしかしたら行方知らずの仲間と予期せぬ再会を果たすこともあるかもしれんな。
こちらとしては年中人員不足で、貴様らのような戦闘経験と知識のある人材には助かっている。歓迎するぞ」
朗らかに言い、次の瞬間、ヅラは雰囲気を変える。
「……で、貴様らは、本当に国に刃を向けることができるのか?
天人からこの国を護る為、この国を変えるために、我らと共にその命を賭ける覚悟は、本当にできているか?」
年相応の少年から発せられているとは思えない、重い言葉。
それでも、彼らが刃を振るうのならば。
「……あぁ。
とうに腹は決まった。
貴殿らの信念が為に、我らのこの命を使ってほしい」
そんな男の言葉に、僕は言う。
「僕らには君らの命を扱う権利はないさ。
言っただろう?君らの人生は君らのものだって。
目的が同じなら、共に戦ってほしい。それだけの話だよ」
部下が欲しいわけじゃない。
駒が欲しいわけじゃない。
……引き抜きの目的は、相手の人数削減とこちらの人数増加も確かに理由にあるけれど。
戦いたくないなら、戦わなくていい。
僕らと共に戦いたいと思うのなら、戦ってくれると嬉しい。
ただそれだけの話だ。
「……本当に、お前には敵わんな」
そんな僕の思いが伝わったのか。
皆が、フッと笑う。
「人狼、そして攘夷軍の精鋭達よ。
共に、戦わせてくれ。
俺達は貴殿らと共に、攘夷の為に、この剣を振るおう」
全員の表情から、疑いも裏切り者も殺気も、1ミリも感じない。
彼らは信用できると、僕の勘が断言した。
「あぁ!
宜しく頼む」
ヅラの言葉で、彼らは正式に、攘夷軍の一員になった。
「……にしても、本当にお前には敵わんよ」
基地にいたパクヤサに彼らの案内を任せた後、ヅラは苦笑する。
「敵の武器を利用するだけでは飽き足らず、敵自身をも味方にしてしまうとはな。
貴様の発想には俺すらも驚かされる」
「……本来、僕らの敵は、この国を侵略しようとしてる奴らだから」
いくら血に染まろうと、僕らが戦う意味を見失ってはいけない。
本来の攘夷の目的を、せめて表面上だけでも、見失ってはいけない。
この戦争が敗北で終わることは分かっている。
国が争いを沈静化させようと、僕らを排し始めたことも。
……とっとと降伏宣言した方がいいかもしれないと、何度考えた事だろう。
一刻も早くこの戦場から抜け出したいって、何度思った事だろう。
それでも。
銀時が、高杉が、ヅラが戦い続ける限りは、戦い続ける。
そのためには、どんなものでも利用し、武器にしてやる。
こいつらを護るために。
先生を取り戻す、その時までは。