もし世界線2を作ってたなら入れてた話④第三章 2
11-1 雫
「師か、仲間か。
好きな方を選べ」
「やめろ……頼む」
「やめてくれェェェェェ!!!!!!」
松陽…………ごめんな。
「ありがとう」
淡い栗色の長髪を纏った首が、宙を舞う。
首を斬った銀髪の処刑人は俯き、
後ろで縛られていた長髪の友は、歯茎から血が出るほど歯を食いしばり、
もう一人の縛られていた短髪の友は、捉えていた奈落の者達を振りきり、処刑人である友の名を叫びながら駆け出した……その左目を刃で潰されるまで。
潰された左目に最後に映ったのは。
静かに雫を零す、友の横顔。
彼が、ようやく零した、その雫に。
彼の全てが込められていた。
戦場で溜め続けていた何か。
仲間に対する想い。
師に対する、全ての感情。
今まで全て堪え、溜め続けて来たそれが。
一粒の雫となって、彼の瞼から零れ落ちた。
11-2 墓
彼らは、語らなかった。
堪えど零れ落ちた涙で地を湿らすことはあれど。
その首を前に、背に、ただ悔いた。
ただ呪った。
ただ、絶望した。
そして、誰ともなく、墓を作り始めた。
息絶え冷たくなった仲間の身体を埋め。
首だけになった師に土をかけ。
その上に、剣を突き立てた。
それは、今日喪った者達の墓だけじゃない。
今まで喪った仲間達。
そして、彼ら自身の、墓でもあった。
11-3 自分にしかできないこと
「ヅラ……何があったんじゃ!?
高杉は……銀時は!?」
調達に向かっていた辰馬は、翌日の夜、基地に帰って来た瞬間、異変を感じた。
仲間が、異常なほどごっそりと減っている。
高杉が、左目を失った。
そして、玄関先に置かれた白装束と刀。
その持ち主の姿は、広くはないこの基地のどこにも見つからなかった。
声をかけても、左目を包帯で覆い眠る高杉の前に座る桂は反応しない。
高杉も、悪夢に魘されているのか、苦しんでいる。
「……ヅラ?」
「……昨晩、帰ってきてからずっとあの調子だ」
後ろから、ずっと基地に残っていた一人がそう辰馬に説明する。
「……しばらく、話しかけない方が良いかと」
「坂本」
桂を気遣っての言葉。
しかしそれを遮ったのは桂だった。
「帰ったか。調達ご苦労だった」
「ヅラ……」
「大久保も、気を遣わせてしまってすまない。
……少し、高杉を任せてもいいか」
そう言いながら桂は立ち上がり、坂本を別の空き部屋に案内した。
……その顔は、見たことないほどに憔悴していた。
「……ヅラ、何があったか聞かせてはくれんか。
高杉は……銀時は?」
「銀時はもう帰ってこないぞ」
「……!?」
驚く辰馬に、桂は、機械的に言う。
「玄関に置いてある銀時の服と剣を見ただろう?
あれは、奴が昨晩置いてったものだ」
「置いてったって……どういうことじゃ?」
ひとまず銀時の生存をしれたのは良かった。
けれど、その銀時が、一人戦場を去るとは。
高杉も桂も置いて、姿を消すとは、一体何があったのか。
思わず質問責めになってしまう辰馬に、桂はぽつりぽつりと話し出した。
昨日起こったことを。
行脚層姿の者達が現れ、殿を務めた桂と高杉が奴らに捕らえられたこと。
それを囮に銀時が呼び出されたこと。
連れていかれた先に、幕府に捕まっていた彼らの師がいたこと。
そして奴らは、銀時に選択を迫り……
師か、仲間か、選ばせ……
銀時は、自らの剣で、師の首を刎ねたこと……
「……そして奴は、昨夜、何も言わずに基地を去った」
どこか他人事のように……否、なんとか他人事のように話すことで、話を全て伝えようと努める桂。
その話が終わった直後、辰馬は、桂に抱きついた。
「……すまん、すまん……っ!」
涙をボロボロ零しながら強く桂の体を抱きしめる辰馬に、桂は無感情のまま言う。
「……なぜお前が泣くのだ、坂本」
「わしが早う帰っていれば、また違う道があったかもしれんのに……!」
忍の代わりに、彼らを支えると決めたのに。
助けられなかった。
何も、できなかった。
その悔しさで、溢れ出た涙だった。
……本当は彼らの方が泣きたいだろうに。
無力に泣くことしかできない自分を、辰馬は心底嫌悪した。
「すまんかった……何もできんくて……」
そんな辰馬の言動で、一瞬だけ、桂は顔を顰める。
それでも、無感情のまま、機械的に言った。
「……お前も、去りたければここを去ればいい。
どの道、攘夷戦争は終わりだ。……攘夷軍の敗北で。
お前は元々、戦を好まん性分だったしな。
……すまなかった、ここまで付き合わせてしまって」
銀時がいなくなり、高杉の片目が潰された今、攘夷軍に勝ち目は無い。
それ以前でも敗戦の一途を辿っていたのだから、単純に考えて、その結果は明白だ。
攘夷軍は、負けたのだ。
見事に、幕府の手の上で踊らされて。
その事実に、辰馬も気づいていたため。
無闇に戦場に立ち続け、命を散らすくらいなら、戦場から去って生き延び、やるべきことがまだ沢山ある。
……何より。
彼らの師をしらない自分に出来ることは、今は何も無い。
――結局わしは、忍の代わりにはなれん……
それでも。
自分だからこそ、できることはあるはすだ。
自分にしかできないことは、確かにあるはずだから。
「ヅラ。
また、会いにくるぜよ」
そう言って、辰馬は基地を去った。
11-4 デカい夢
基地を去った後、辰馬は、銀時を探す旅に出た。
彼らは江戸に最も近い戦場まで来ていたため、街の入り口でもある一番近くの村にでも身を寄せていると推測し、探してみれば、案外簡単に見つけることができた。
「金時!
ここにいたがか!金時!」
今は秋。少し風が冷たくなってきた季節。
軽い着流しにマフラーを巻いた銀時は、寂れた空き家の屋根に一人、寝転んで空を仰いでいた。
いつもと変わらないその姿に、いつもと変わらない声で呼びかけると、彼はゆっくり起き上がり、顔を顰める。
「……んだよ、こんなとこまで追いかけてきやがって。あと俺は銀時だ」
「安心しとおせ、お前を連れ戻しに来たわけじゃないきに。
……わしも、逃げ出してしもうた」
その言葉に、銀時は驚いたような表情になる。
そんな彼に、戦場に残してきた仲間たちへの後ろめたさを含んだ笑みを見せ、辰馬も屋根に登る。
よく見ると、銀時の腰には、剣が無かった。
「……銀時。
わしは、宙に行く」
空を見上げ、辰馬は、内心決めていたことを言い放った。
そんな辰馬の言葉に、銀時はまた驚く。
「わしは、もっと広い世界をしりたい。
あの星々一つ一つに、どんな景色が広がっちゅーのか。
宙から見た地球はどう見えんのか、見に行きたい。
今まで散々突撃朝ごはんされとったきに、今度はわしがやり返す番じゃ」
その言葉に、銀時はふっと笑った。
「なんだ?
仲間殺られた仕返しに、一人で殴り込むってのか?」
「わしはお前と違ってそんな野暮なことはせん。
そもそもあまり戦は好まんしな」
ニッと、辰馬は笑う。
「宙で、商いをするんじゃ!
商いなら、簡単に星と星をつなぐことができる。色んな星巡って、色んなもん買って、色んなもん売りつけるんじゃ」
そして……と、辰馬は続ける。
「いずれは、この“侍の国”を売りつける。
宇宙はこの国を舐め腐っとる。
だから、わしが吹聴して回るんじゃ。
侍は、滅びんぞと。
この国の素晴らしさを、この地球ほしの美しさを、売りつけてやるきに」
侵略されるのではなく、買ってもらう。
美しき商品として。
幕府は簡単に敵の手の内に落ちた。
けれど、ここにまだ、諦めていない者達がいる。
ここにまだ、爛々と燃え続ける、魂がある。
その魂たちは、侍は、簡単にはお前たちの言いなりにはならんぞと。
それを、宇宙に、しらしめにいくのだ……得意なバカでかい声で。
そして……
「わしは、宙から、この世を創り変える」
真っ直ぐな魂を持った目で、辰馬は言い放った。
「まだ、戦は終わっとらん。
わしは、剣を手放しても、この国を……“侍の国”を護るために、戦い続ける。
……それが、わしの戦じゃ」
そして、ふっと目を伏せて、最後に呟く。
「……それが、忍に最期に言われたことじゃきに」
「……!」
突然出てきた亡き仲間の名に、銀時が反応するのが見えた。
“辰馬、僕は僕の戦い方で、僕の戦いに勝ってみせる。
だから、お前はお前の戦い方で、生き残れ”
忍のその言葉を聞いて、辰馬はずっと、考え、悩んできた。
自分が今後、どうするべきか。
友の無念を晴らすために戦う彼らを置いて行けなくて、悩んでいるうちに、今日まで来てしまった。
けれど、もう、迷いは無い。
決めたからには、もう、戻れない。
立ち止まることすらも、許されない。
けれど、進もう。
掲げた目標を目指して。
友の願いを胸に、まだ戦い続ける友と共に。
「……ヘェ。いいんじゃねーの。
お前らしいバカでけぇ夢だ。
……けど、お前なら、きっと叶えるんだろうな」
そんな辰馬の夢を、銀時は肯定してくれた。
……けれど、どこか他人事のようなセリフに、辰馬はその肩をバッと握って言う。
「お前も一緒に来んか、銀時!?」
その顔を、真っ直ぐに見つめる。
「お前はわしと一緒に来るべきじゃ!
なにより……わしは今のおまんらを放っておくことはできん!」
彼がなんとか平然を装っていようとも、辰馬には分かる。
何日も眠れていないような、隈。
全てを諦めたような、虚ろな目。
……確かに、彼は、全てを喪った。
仲間も、師も。
師を取り戻すために、必死に戦場を駆け回ったのに、その師を喪ってしまったのだ。
その手で、その師の命を、奪ったのだ。
彼らを捨て置けないから、戦場から離れられなかった。
けれど、捨て置けないなら、連れていけばいい。
喪ったものを忘れろとは言わないが、絶望したその目に、色々なものを見せてやりたい。
けれど、銀時は、頷かなかった。
「……こう見えても地球が好きなんでね」
そう言って、彼は空を仰ぎ見る。
「俺ァのんびり釣り糸垂らしてるさ。
そんで、落ちてくるバカがいたら、そんまま宙にリリースよ」
彼が何を考えてそう言ったかは分からない。
けれど。
彼なりの意地が、きっとあるのだろうと。
この地球に居続ける理由が、きっと彼にもあるのだろう。
「……そうか、分かった」
頷いて、辰馬は、ならばと自分の腰にある剣を銀時に差し出した。
「なら、剣これはお前が持っちょれ。
まだ戦争は終わっとらんし、お前は狙われやすいからの。
丸腰で歩くのは危ないぜよ」
そう言う辰馬に、銀時は訊く。
「お前は持ってなくていいのかよ?」
「商いに剣は必要ないきに。
それにわしには、コレがあるからな」
両手でバンっと拳銃を表して見せてみれば、「結局物騒なモン隠し持ってんのに変わりねーじゃねーか」と銀時はつっこんだ。
そして、辰馬は立ち上がり、屋根から飛び降りた。
得意な大声で、最後に言う。
「また、必ず会いに来るきに!
それまで絶対に元気でいとおせ!金時!」
「銀時、だ!
じゃあお前は次会うまでに俺の名前間違えねぇようにしとけ、馬鹿辰馬」
「善処するぜよ!金時!」
「しねーやつじゃねーか!だから銀時だ!!」
連れて行けなかったけれど。
“次会う”という約束ができた。
なら、その約束を果たすまで、互いに死ぬことは許されない。
ツッコみながらも、夕日を背に微笑んで見送ってくれる友に、辰馬はちぎれるほど腕を振って、背を向けた。
そして、再び、覚悟を決める。
――待ってろ、銀時、ヅラ、高杉。
そして、見てろ、忍。
わしはきっと、夢を叶えてみせる。
おまんらを、宙から、星ごと救いあげるんじゃ。
11-5 邂逅
“お前が弱かったから”
やめろ……
“お前が弱かったせいで、こうなった”
やめてくれ……頼む
“すべて、無力なお前の責任だ。
愛した者を喪ったのも。
奴に、あの選択をさせたのも”
やめてくれェェェェェ!!!!!!
―――
はっ、と高杉は目を覚ます。
「……!高杉!」
「……〜〜〜っっ!!」
開こうとした左目は、繋がりかけた皮膚を裂き、劈くような激痛と共に包帯を赤く湿らせる。
痛みのせいか悪夢のせいか、空回りする呼吸を、近くにいた桂が背を叩き声をかけ、整えさせてくれる。
息が整ったのを見計らって、桂は飲み水を差し出し、「変えの包帯を持ってくる」と立ち上がった。
左目を中心に、体が酷く熱い。
患部を中心にジンジンと体全体に鳴り響くこの痛み……その痛みに共鳴するかのように、痛く、苦しいものがあった。
……あれは、夢なんかじゃない。
あれが、現実だ。
自分は、その無力さ故に、仲間を喪った。
友を喪った。
師を喪った。
救急箱と水を張った盥を持ってきた桂に、ただされるがままに手当てされる。
……相手も、何も言わない。
どんな顔をしてるのか、見る気もない。
自分も、何も言うことはない。
ただ、治療の隙に襲ってくる激痛を自分の業として受け入れるべく、声を漏らさまいと堪えることしかできなかった。
……この沈黙が、それでもあれから自分の傍から離れず様子を見守ってくれていたことが、桂からの自分への答えなのだと、分かっているから。
「……暫くは、絶対安静にするんだぞ。
片目を失っては、遠近感覚も鈍る。
慣れるまで、時間がかかるだろうからな」
そう、機械的に告げた桂に、高杉はようやく問う。
「……アイツは」
“アイツ”が誰を指すかを一瞬で把握した桂は、一瞬間を空けた後、答えた。
「……一昨夜、ここを去った。
もう、戻ってくることはあるまい。
……坂本が奴を探すと言っていたが、あいつももう戦場ここには戻って来ないだろう」
「…………そうか」
色々な感情を押し込めて、ようやくでてきた言葉がその3文字だった。
奴には言いたいことが沢山ある。
胸倉を掴みかかって訊きたいことが。
なんで、俺達なんぞを選んだ。
なんで、先生を斬った。
お前こそが、誰よりもあの人を救いたかったはずなのに。
お前は俺達を責めることは愚か、残酷すぎるこの現実を前に、泣き喚くことすらしないのか。
左目に最後に映ったあの雫に、全てが込められていたと、分かっている。
それでも。
全てを堪え、抱えたまま、黙って一人去ったアイツを、許すことはできない。
それでも、彼らしいといえば彼らしい。
そう分かってしまうからこそ、何も言えなかった。
頭では分かっていても、感情は追いつけない。
この怒りを、どこに向ければいいのか。
この叫びは、誰に向ければいいのか。
「……桂さん、話が」
「あぁ、今行く」
仲間に呼ばれ、桂は立ち上がり、部屋から出ていく。
しばらくした後、高杉は痛みを全て堪えつつ、起き上がった。
ここを出ていってしまおうと考えたからだ。
それは、逃げかもしれない。
胸の内に渦巻いたこの感情が、無意識に身体を動かしたのかもしれない。
宛ては無い。
けれど、ここに居るべきでは無い。
そう思い、起き上がった、その時。
「……高?」
……懐かしい声が、聞こえた気がした。
その呼び方で自分を呼ぶ人は、一人しかいない。
声が聞こえた、部屋の入口の方を向くと。
「……忍……?」
死んだはずの友が、そこに立っていた。
目の前の存在が理解できず固まる高杉に、くせっ毛の男は、歩み寄って言う。
「高、先生に会いに行こう」
11-6 全てを利用する男
「高、先生に会いに行こう」
その言葉を、高杉はすぐに理解できなかった。
自分に語りかけるその存在も、先生も、死んだはずだ。
友の無惨な遺体を、先生に関しては首が飛ばされるその瞬間を、高杉は確かに見たのだから。
そんな事実を並べ、高杉が導き出した推測は。
「ハッ、遂に俺にも迎えが来たってのか」
「違うよ。
残念ながらここは天国でも地獄でもない。
ましてや僕は死神なんかじゃない」
死に際の夢かと推測した高杉の言葉は、しかし目の前の友に否定された。
歩み寄ってきた友は高杉の頬に触れ……現実を証明しようと抓ろうとしたが、彼の左目の痛みを思い出し、ただ触れるだけに留まった。
「……まだ熱があるね。
左目も痛むでしょ。
それなのに、どこ行こうとしてたの」
その傷じゃまだ寝てろと言わんばかりに肩を押され、布団に寝かされる。
触れた手は、押された強さは、確かに生きた人間そっくりの感覚だった。
そのまま、彼は高杉の横に座り、包帯の上からそっと左目に触れる。
「……ごめんね、護れなくて」
つらそうなその表情。
その声。
以前、自分が怪我を負う度に向けられてきたその表情は、確かに彼で。
それでもまだ、信じられなくて、高杉はその右腕を掴んだ。
「……?」
「……生きてるのか」
自分から掴んだその右腕は、確かに本物の、人の右腕で。
遺体の右腕は斬り取られ、辰馬の前で転がされたと聞いた。
けれど、忍はここに生きている。
右腕も、何もかも、以前のままの状態で。
「高、大丈夫。生きてるよ。
お前も、僕も、先生も」
その声も、微笑みも、正真正銘 忍のものだ。
けれど、どうも謎がある。
先生も、生きている……?
一体どういうことなのか。
その時。
「誰だ貴様!?」
激しい声と殺気に、忍が反応する。
開けっ放しだった戸の外で、戻って来た桂が、剣を向けていた。
――ヅラもいやがるとは、どんな次元なんだ。
もしかして奴も、何かの拍子で死にかけたのか?
手を離した高杉から腕を引き抜き、忍は桂と向かい合う。
「ヅラ、僕だ。忍だよ」
「忍!?
貴様、死んだはずじゃ!?」
「あの死は偽装だったんだ」
「偽装!?
何を言ってるんだ!?」
「気持ちは分かるけど、ヅラ、頼む、頼むから落ち着いて」
怪我人が寝てる部屋で暴れさせるわけにはいかないと、忍はなんとか桂を落ち着けようとする。
しかし桂は剣を突き出したまま混乱した。
「ならば貴様、本当に忍というのなら、ぷよぷよのアルルの技名全部言えるか!?」
「ファイヤー、アイスストーム、ダイアキュート、ブレインダムド、ジュゲム、ばよえ〜ん
返し技はリバイア、でしょ?」
「ダンブルドアの正式名称は!?」
「アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア」
「小卵菓子のXのアカウント数は!?」
「5つ……
ってか作者の個人情報に触れないであげて」
質問に全て完璧に即答した忍に、桂はようやく剣を下げ腕を組む。
「……うん、確かにお前は正真正銘 忍だな」
「てめェの忍の確認方法どうなってんだ」
「しかしどういうことだ?
偽装とは?」
……混乱しつつも、相手の言葉を全部ちゃんと聞いているのが桂だ。
そして高杉も、死の淵際でコイツらがこんな馬鹿なやり取りするはずないと、ようやくこれが現実だと認めた。
桂の問いに、忍は答える。
「……みんなには本当に申し訳ないけれど、僕はあの日、松陽先生を救うために、一人攘夷軍から姿を消した」
「先生を……?」
「……そういや、先生が生きてるたァどういうことなんだ」
「待て、先生が生きてる……!?
確かに俺達は、先生が……斬られた所を見たぞ。
……銀時の、剣で」
「それにもワケがあって……
……説明したいんだけど、長くなるから、銀と辰馬もいる時の方がいいな。二人は今どこにいる?」
忍の問いに、桂は目を伏せる。
「……二人とも、既に攘夷軍を去った。
銀時は先生を処刑したその日に、坂本は昨日」
「……そっか。まぁそうなるよな……」
桂の答えに対する忍の反応は、残念そうな響きでも驚きの響きでもなく、既に予想していたかのような響きで。
「なら、銀を探しに行こう。
そして、みんなで先生に会いに行こう」
そうと決まればと、忍は、高杉にはここで休むよう伝え、桂の腕を引いて基地を出ようとする。
騒ぎになるとまずいからと、笠を深く被る忍に、しかし桂は渋る。
「だが、戦争はどうなるんだ?
お前の言葉を信じるならば、俺達の目的は達成された。
……しかし、ここまで着いてきてくれた仲間達を見捨てる訳には……」
その言葉に、忍も目を伏せる。
「……ヅラ、覚えてる?
僕らが戦争に出ると決めた時。
先生を救い出す為に、僕らは知識も地位も何も無い、だから戦争に出るしかなかった」
「……ああ」
「それが今は、軍を率い、動かせるようになった。
今のヅラの立場なら、この戦争に終止符を打つことさえできる」
何も出来なかった幼きあの頃とは違い、今や宇宙中に名を轟かせる男となった。
この戦争で、気づけば彼らは地位を獲得していた。
「……現実を突きつけると、銀と辰馬が抜け、高の片目が潰された今、攘夷軍に勝ち目は全くない。
なら、これ以上いたずらに命を散らす前に、降伏するべきだと僕は思う」
「だが……」
「言いたいことは分かる。
今まで共に戦ってきてくれた、僕らに何かを託し逝ったみんなの信念を無下にする訳にはいかない。
……けれど、戦争じゃなくても、この国を変えるため、護るために戦い続ける方法はある。
刀を振るい続ける以外にも、戦う方法はある」
そして……と、忍は続ける。
「……これは僕の自分勝手なエゴかもしれないけど……
これ以上ヅラに、高に、みんなに、苦しい思いをしてほしくない。
……みんなを戦場から引き剥がすために、僕は、そして朧は、先生の処刑を演出することを決めた」
「朧って……
お前、朧と繋がっているのか?」
驚く桂に、忍は微笑む。
「朧は、表面上は敵だけど、同じ松下村塾の弟子として、今回の作戦に協力してもらった。
今も、先生のことを見守ってくれてる。
……けれど奈落からは抜けていない。
降伏宣言は彼を通じて幕府に伝えることができるはずだ。……だよね、朧?」
懐から無線機を取り出して、忍は言う。
すると無線機から、声が聞こえてきた。
[あぁ。
忍、無事に桂に会えたのか]
「うん。
ヅラだけじゃなくて、高とも会えた。
銀はこれから見つけに行く」
[そうか。
桂、攘夷軍を率いるお前が宣言すれば、俺がその旨を幕府に伝えよう]
「……無線越しではなく、直接伝えた方がいいだろう。
待っててくれ」
朧が頷いたのを確認し、一旦無線を切った忍に、桂は諦めたように言う。
「そして今俺ができるのは、銀時を助け出し、先生に会いに行くこと、それだけだろう?
揃わなければ、お前は説明してくれまいだろうしな」
この時点でようやく桂は理解した。
忍の言葉に嘘偽りは一つも無い。
自分達を集めること、それすらも忍の作戦で、それを果たすためにはこの男は何でもする、と。
「話が早くて助かるよ」
桂の諦めを悟った忍は、悪い笑みを浮かべていた。
仲間に一言伝えるからと、忍をその場に残し仲間の元に向かいながら、桂は苦笑する。
――遂に俺も、この男に利用される時が来るとは。
だが、忍が常に、誰かを護るため、救うためだけに動いているのをしっている。
彼が救いたい誰かの人生や命の前には、敵や味方、戦争さえも、ただの概念に過ぎないのかもしれない。
敵であるはずの朧と繋がっていたのも、先生の処刑を“演出”という言葉で片付けたのにも、彼が救いたい何かの前で、それらはただの彼の利用すべき“もの”だったのだと。
なんてずる賢く、読めない男なのだろうか。
それでも、利用されているとしっていても、桂は悪い気ならなかった。
それすらも、彼の武器だというのなら。
――やはりお前には、敵わないな……