もし世界線2を作ってたなら入れてた話⑥第三章 4
13-1 終戦
「攘夷軍は、幕府軍と天人軍に、降伏しよう」
先生との再会もそこそこに。
ヅラは僕と話したことを銀時・高杉に話し、結局は三人の総意で、降伏を決意した。
……決定打は、先生の「もう君達に戦場に立ってほしくない」だったんだけど。
面と向かって宣言したヅラの言葉を、朧は受け止める。
「……しかと受け取った。
其を攘夷軍代表の言葉として、俺が正式に幕府に伝えておこう」
……これで、正式に、攘夷戦争は集結した。
僕らは、勝ったのか、負けたのか。
真の意味で、どう言えるのか、それは僕にも分からなかった。
けれど。
「……よく、頑張ったな」
朧が、ヅラの頭に手を置く。
結果がどうであれど。
とにかく、これで戦争は終わった。
先生を救い出すために戦に出て、無慈悲な命のやり取りに、なんど苦しんだことか。
自然と上がってしまった地位の中、背負ってきた仲間の命の多さ、その重責に耐えながらも、ここまで戦い抜いた。
「……ぅっ、、」
朧の優しい声に、あたたかい手に、ヅラは嗚咽を洩らし、崩れ落ちる。
そんなヅラを慰めるように、僕と銀時と高杉は膝を折り背を撫でた。
……四人蹲った開いてる所に、松陽先生は入り、僕らの背に手を回してくれる。
流れ落ちた涙が、嗚咽が、誰のものか分からなかった。
でも、それでいい。
今までの苦しさ、つらさ、それを共に称え合い、流し合った。
13-2 行ってらっしゃい
「……じゃあ僕は、地球に戻るから」
色々と収まった後、僕は乗ってきた船に戻ろうとする。
朧と骸も、奈落の方に戻らなければならないので、既に乗船していた。
「何故だ。
せっかく先生と再会できたと言うのに」
「やることが色々あってさ」
「そのやることって何だ」
テキトーに流そうとした僕を、けれどヅラと高杉はもう逃がさなかった。
仕方なしに、考えていたことを言う。
「……基地に残してきた攘夷軍の仲間達の居場所を確保したい。
あそこでずっと待たせているワケにもいかないし、粛清が行われる可能性もある。
銀が命かけて止めようとしてくれてたけど、それで幕府が止まってくれるとは限らない。
……拷問、つらかったでしょ。それなのにみんなを護るために、口を割らなかったんだよね、銀」
「銀時……」
未だに治ってない顔の痣を見て言う。
ヅラ、高杉の辛そうな視線を、松陽先生は抱擁で全部まとめて銀時に渡した。
「銀時……そんな思いまでさせてしまって」
「……松陽、苦しいって。
でも……忍達が来たの割と捕らえられてすぐだったからさ。
あれは夢かと思ったし、今でも夢なんじゃねぇかと思ってる。
けれど……確かにこの温もりは、現実なんだな」
噛み締めるように言った銀時の言葉に、何度目か分からない、感慨に包まれる。
原作では、苦しみ戦い抜いた結果、絶望しか与えられなかった。
それを、変えることができたんだ、僕は。
「……だから忍、お前ももう休めよ。
やることってのがどれほどあるかしらねぇが、4人で分ければ早く終わるだろ。てめぇ一人で背負う義理はねぇはずだ」
この幸福を、自分だけで終わらせまいと。
先生を背に言い放った銀時の言葉に、苦笑する。
けれど。
「……でも、誰か一人は、先生の所に残っていてほしいんだ」
ないと思いたいけど、虚が出てくる可能性を危惧して。
それに、神楽の母、江華のように弱っていってしまうだろう先生を、一人で置いてはいけないから。
するとヅラが手を挙げる。
「じゃ俺が残るー」
「じゃ僕が残るー」
便乗して僕も手を挙げると、高杉も「俺もやるべきか?」と言いながらも参加する
「……じゃ俺が残る」
「じゃ、私が残る」
「妹弟子まで参加してるんだけど!?
じゃ俺が残るー」
「「「「どうぞどうぞ」」」」
「なんでだよ!?」
結果、銀時が残ることになりました!
「……じゃねーだろ!おかしいだろ!
なんでダチョウ倶楽部で決めてんだ、よ!」
「「「「「「ダンっ」」」」」」
「もうダチョウ倶楽部いいから!!
つーか松陽も地味に参加してたんだけど!?」
「じゃ私が残ります!」
「先生は残んなきゃダメです!てか遅い!」
「……ダチョウ倶楽部とは何だ?」
「おい、兄弟子がノリについてこれてねェぞ」
……てか骸と先生がノリについてこれて朧が置いてかれてるってどういうことよ?どうなってんの??
「……銀時、てめェが残れ」
ボケを断ち切る真面目な雰囲気を持って、高杉が言い放つ。
「あの基地に居んのは、俺とヅラと辰馬が率いてたメンツが主だ。
自分の部下の采配くらい自分で決める。
いいよな、ヅラ?」
「ヅラじゃない桂だ。
だがお前にしては珍しく名案だな、高杉。
……銀時、先生を頼んだぞ」
「……分かった」
銀時が頷いたのを見て、僕らは船に乗る。
「……先生、またすぐに帰ってくるから」
「はい。
待ってますよ、晋助、小太郎、そして忍、朧、骸。
……行ってらっしゃい」
「……行ってきます」
おかえりなさい、ただいま。
行ってらっしゃい、行ってきます。
そんなごくある挨拶。
それを、数年振りにようやく交わせて。
これが、当たり前になる未来を護るために。
これから僕は、動いていきたい。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
窓から彼らの姿が見えなくなるまで見送った後、突如、忍が倒れた。
抱きとめた桂は、忍が気絶するように眠っただけなのだと気づき、ほっと息をつく。
「……全てが終わり、安心したのやもしれんな」
「あァ。
……俺達を先生に遭わせるまで、それ程悩み考え動いてきたんだろうよ」
寝息を立てるその顔は、全ての力が抜け落ちたようで。
それでも、これ以上なく満足気な表情だった。
忍を抱え、朧が用意してくれている寝床に連れていく桂に、ふと高杉が問う。
「……良かったのか、ヅラ。
残したのが銀時で」
その言葉に、「訊くまでもなかろう」と桂は微笑む。
「奴を先生の元に帰すために、俺達は戦ってきたのだからな」
屍の中から拾われた銀時にとって、親と呼べる存在は松陽だけだ。
……今まで散々苦しんだ分、一分一秒でも、共に居てほしいから。
「……本当は、忍も残したかったがな」
忍を布団に寝かせながら、桂は目を伏せる。
親をしらないのは、忍も同じだ。
……しかし、彼が未来の記憶を持っている限りは、銀時達の為に、自分達のために動き続けるのだろう。
掛け布団となる布を骸に頼んで持ってきてもらい、受け取った高杉が、忍にかけながら言う。
「せめて今だけは、ゆっくり休め。
……お前はよく、頑張ったよ」
その言葉に、桂は苦笑する。
「……起きてる時に言ってやればよかったものを」
「寝ちまったんだから仕方ねェだろ」
「相変わらず素直じゃないな、お前は」
「うるせ」
言い合った後、桂は言う。
「高杉、お前もまだ傷が痛むだろう。
少し休んだらどうだ」
「……そうだな」
数十分後、忍と高杉に桂もつられて寝た。
寄り添うように眠る3人の表情は、まるで子供のようで。
その様子に、朧は静かに微笑んだ。
13-3 帰る場所
目が覚めて江戸に着くまで、本来の自分らはどうかと高杉達に聞かれたので、僕は攘夷党について話した。
……彼らが何をやってたのか、どうやって食いつないでいたか、詳しくは分からないけれど。
「戦争に勝ったことで浮かれ、横柄な態度を取る天人もいる。
そいつらに苦しめられる人を、幕府は護ってくれないだろう。
だから、僕らが護ろう」
穏健派だった本来のヅラがやっていたことを、僕は提案した。
それに高杉もヅラも頷く。
このルートだと、二人とも穏健派から始まるのかな。それとも二人仲良く動くのかな。どうなんだろ。
「じゃ、ここでお別れだね、朧、骸」
船が地球に着き、朧と骸と向き合う。
「俺は引き続き、奈落の手を先生や弟弟子から遠ざけることに尽力しよう。
……そして俺達も、時折奈落の目を盗んで先生に会いに行く。そう先生に頼まれてしまったからな。
偶然でも会えたら、その時はまた……」
「あぁ。
酒でも呑みながら、語り合おう」
ヅラと挨拶を交わした朧は、高杉に目を向ける。
「そして高杉。
……その左目、すまなかった」
朧の言葉に、高杉は目を見開き、次の瞬間フッと笑う。
「……全くだ。
演技で本当に片目潰すたァ、暗殺組織育ちの先輩は厳しいこって。
……だが、あの時、あれくらいしねェと俺は止まらなかっただろうな」
あの時、朧が高杉の動きを止め、奈落を退けたから、彼らは生き延びた。
「あれァ事故だ。
寧ろ、俺の片目一つの犠牲で済んだんだ。安いもんだろ」
そう言い放った高杉の頭に、ポンと、朧が手を置く。
「……んだよ」
「強いな、お前は」
そう言って、朧は微笑む。
その表情は、見たこともないくらい穏やかで……“兄弟子”のものだった。
「……一つ聞きてェ。
朧、てめェは、俺たちの味方か?敵か?」
高杉の言葉に、朧はふと考え、答える。
「俺は先代将軍定々公に仕える烏だ。
……しかし、兄弟子として、先生を、お前たちを……松下村塾を護りたいと思っている」
「……そうかィ」
状況によっては、敵となるだろう。
しかし、互いに先生のために動いているうちは、そしてあそこに帰った時には、ただの兄弟子と弟弟子に戻るのだろう。
それは僕も同じ。
場合によっては剣を向けるけど、今はまだ、ただの先輩後輩でありたいから。
「せいぜい達者でな。
……“またな”」
そう言って、高杉が歩き出したのに、僕とヅラもついて行く。
朧と骸も、手を振った後、背を向けて去っていった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それから、僕らは3人で攘夷軍の生き残りを集め、攘夷党を結成した。
なんと、過程で平賀源内の息子を家に帰すことができた!
「親父さんと仲直りできたんだ?」
「あぁ。流石にあん時は言い過ぎたからな……
これからは親父の跡を継いで、江戸一番のからくり建築士を目指すぜ」
粛清前に彼らを救えたようで一安心しつつも、他に粛清されている仲間がいないか情報を集め、探し回った。
途中で僕は離れ、高杉とヅラに任せたけど、いつの間にか万斉・また子・武市も仲間入りしててびびった。
これは攘夷軍に新鬼兵隊が入ったのか、鬼兵隊にヅラがいる状態なのか……?
もうわけわかんないけど、ヅラも高杉も銀時もみんな仲良くしてるからよし!
一方僕は、銀時や先生の生活資金を貯めるため、各地でバイトを始めた。
今の江戸の状況をしるため、そして色んな職業体験してみたくて。
パン屋、ラーメン屋、定食屋、居酒屋……色々やったなぁ。え?食べ物ばかりじゃんって?賄い目当てだよ!悪いか!
あ、そうそう、辰馬ともちゃんと再会しました!
辰馬がヅラと高杉の居場所見つけてやっほーした時、ヅラが僕に連絡をくれた。そんで会いに行って、宇宙背負われて、耳かち割れんばかりの声で「のぶ、お前生きてたんか!?!?」と言われたり内蔵口から出るくらい抱きしめられたりしたけど。
陸奥と出会い、快援隊を結成し、楽しくやっているそう。
そして今や定期的に、先生達がいる星に食料や物資を届ける手伝いをしてくれている。
……前星に行ったら、銀時と先生から狐耳生えてたな。「辰馬がくれたカップのきつねうどん食ったら耳生えたんだけど!!」って言ってたけど、それどこのどん○衛()
とりあえず写真撮って高杉に送っといた。後に見に行ったら先生単体で撮ったやつ額縁に飾ってた。
そんなこんなで僕は、江戸各地で自由気ままにぷらぷらしながら、定期的に松陽先生と銀時に会いに行った。
気づけば、月の決まった日に、全員松下村塾に集まるようになっていた僕とヅラと高杉は、その度に酒や土産を持ち寄って、飲んで、騒いで、語り合った。
たまに乱入する辰馬が毎回何かしらやらかし、遂に松陽先生のげんこつで地面に埋まった時には「……おまんらの師匠には逆らえんぜよ」と白旗を上げてた。
江戸では天人の台頭に悩まされたり、自分が“人狼”だとバレる可能性に常に警戒しながら過ごしている。
けれど、月一で集まるあそこが、僕の毎月の楽しみで、“帰る場所”だった。
13-4 エリートと狼と妹
攘夷戦争が集結して割とすぐの頃。
江戸に向かい夜道を行く籠を、行脚僧の姿の男達が囲む。
中にいる客を殺すために。
ズバッ
しかしうち一人が、目当ての者を殺す前に、何者かに殺られる。
「なんだ!?」
「誰だ!」
潜めてはいるが緊迫した声を上げる男達を、黒い影は襲い続ける。
目にも止まらぬ速さで、夜の闇に紛れながら、男達の急所を一撃で仕留めていく。
「何者だ、お前は」
最後に残った一人がようやく男を捉える。
錫杖を向けられ、ようやく動きを止めたのは、御庭番衆のように全身を黒に包み、口元を同じく布で隠した男。
「忍びか?
それとも……」
「“狼”よ」
突然現れた第三者……幼き女の子の声。
背後から、黒い男を狙っていた天導衆の者を斬り殺す。
「……名は体を表すと言うけれど、プロの暗殺組織にまで職業見間違われるとはね、忍。
最後気を抜かなければ完璧だったのに」
「……戦争時代に体力温存のために身につけた戦い方が、自然と忍者に似てしまっただけなんだけどな。
それに気を抜いたわけじゃない、演出だよ。
一人くらい自分を殺した奴の姿、最期に見せたっていいじゃない?」
剣から血を払いながら、黒い男――忍は言う。
知ってる記憶の中、護りたい命があるからと、忍は骸に任務が入ったら連絡くれるよう伝えていた。
一歩早く籠に辿り着き、中にいる女性と生まれて間もない赤子を護ったのだ。
「……やれやれ。
私が狙われていると聞いて駆けつけてみれば、先に片付けられていたとは。
私は忍びも幼女も雇った覚えはありませんが」
新たな声が聞こえ、ハッと振り返る。
天導衆達の死骸の中、話していた男と幼女の元に現れたのは、籠の中にいる女性の夫――本来彼らに狙われていた幕府の男、佐々木異三郎だった。
「……じゃ、僕は用があるから」
「待ちなさい。
私の家族の恩人なんです、いつか礼くらいさせてくださいよ。
せめてメアド交換してくれません?」
「……携帯持ってないんで」
「なら買って差し上げますよ」
ここで伊三郎と関わる訳にはいかないと逃げようとした忍を、しかし伊三郎は逃がさない。
「最近、幕府が手を出せない天人の横行を天誅する輩がいるという噂を聞きましてね。
なんでも、攘夷戦争で活躍した伝説の志士達が、今も残党を連れて暗躍していると。
……貴方もその一人ですよね、“人狼”殿?」
二つ名を当てられ、忍は息を詰まらせる。
布で古傷を隠していても、特徴的なくせっ毛はそのまま、服は実は攘夷戦争時代に着ていたものだった。
「……“人狼”は死んだという話では?」
「戦場の情報は当てになりません。
それに、貴方ならば、何か目的のために死を捏造するくらい容易そうだ。
仲間ではなく、妹を使って暗殺を企むとは。否……暗殺を“食い止めた”のですかね」
「……頭のキレるエリート様は厄介だ」
「私がエリート名乗る前にエリートだと見抜くとは。流石だ」
頭脳が並外れた者同士の会話。
ほんの少しの情報でも、相手の素性を互いに見抜けてしまう。
……否、忍は元から伊三郎を知っていて、伊三郎は不可思議な行動をする彼にとてつもない興味を持っただけなのだが。
「……ならばそのエリート様に、この“妹”を預かってもらおうかな」
会話の逃げ道、そして本来通りにするために、忍は骸を差し出す。
「本当は……こんな幼い頃から手を血に染めて欲しくなかった。
……故郷で病養している父の為に二人で稼いでたんだけど、僕と共にいれば、自然と血に塗れた生活になってしまう。それをやめさせたくて」
「……なるほど。
確かにこの娘から、貴方の情報を引き出すのもアリかもしれないですね。貴方はお忙しいようなので」
「……じゃ、任せます」
そう言って今度こそ去ってしまった忍を見送り、残った骸は、ふと呟く。
「……私、いつからあの人の妹になったの」
「あら、それすらも嘘でしたか。
故郷の父の話も作り話ですか?」
「それは本当。父じゃなくて師だけど。
ちなみに携帯持ってないってのは嘘」
「あら、酷いですね。
ならば貴女からメアド教えてもらいますか」
短く会話を交わした後、「行きますよ」と伊三郎は骸に言う。
「何の目的があってかはしりませんが……
しばらくは騙されてあげましょう、あの狼に」
「……捕えなくていいの。
幕府に仇なす反逆者の一人なのに」
「私も幕府の裏の悪行にはウンザリしていた頃なのでね。
それに……彼は幕府に仇なしたのではない、道端をゆく妻子を護っただけです」
歩き出した伊三郎について行く幼女に、伊三郎は問う。
「……ところで童、名は何という」
「……骸」
「随分物騒な名ですね」
「暗殺組織の呼称のようなものだから。
烏に名を付けて識別するためだけの道具」
「……そうですか」
携帯を弄りながら、伊三郎は言う。
「ならば今日から貴女は、“今井信女”と名乗りなさい」
妻に送っていたはずのメール。
それは、バグか何か、送信ボタンをまだ押せていなかったから。
「……何、そのヘンテコな名前。
その名前に意味はあるの」
「……いえ、別に。
たった今思いついただけですよ」
そして信女は、伊三郎の養子になった。
後に再会した妻も信女を受け入れ、実娘の友子とは姉妹のような関係になっていく。
ちなみに信女を通じてメアドを交換してしまった忍は、今後一生伊三郎のウザ絡みに悩まされることになるのだが。
それはまた、別の話。
13-5 授業再開
「桂、晋助様、尾岸が来たっス」
「あァ、連れてこい」
「なぁまた子、なんで高杉だけ様付けなのだ?俺も様付けで呼んでいいんだぞ?」
「うるさいっスヅラ!」
「ヅラじゃない桂だ!!」
「やっほーヅラ、高!
相変わらず元気そうだね」
「だからヅラじゃない!桂だ!!」
「うるせェヅラ」
「桂だって!!いい加減殴るぞお前ら!?」
ある日、ヅラと高杉達が住んでる家に、僕はお邪魔した。
ヅラとまた子の絡み新鮮〜〜って思いながら入ってったら、相変わらずヅラが超元気だった。
「しかし忍、お前がまさかパソコン持っていないとはな」
ヅラに意外そうに言われ、僕はパソコンの前で待機する高杉とヅラの隣に座りながら言う。
「年中金欠なんだって。
あの星に行く宇宙船のローンを最近返し終わったんだよ?」
「あれてめェの実費だったのか」
「操縦士は最初は馬董の部下雇ってたけどね」
「そういや最近船の操縦免許取ったと言っていたな」
「そういうヅラは未だに車の免許すら取れてないんだって?何やってんの」
「コイツは一緒取れねェよ。
聞くか?コイツの“かもしれない運転”の逸話」
「あーー(察し)」
……うん、慣れん。
何って、こういう会話に普通に高杉がいるのが。
てかヅラのかもしれない運転は分かるけど、高杉が既に免許獲得して車運転できるっていうのが意外すぎて。あの高杉が?車??
というか数年前まで僕ら戦場にいたよね。なんで免許の話なんてしてんの。もうわけわからん。
「あ、そろそろ始まるんじゃない?
松陽先生の初授業」
「!
遂にか!」
……そう、僕らが今日パソコンの前に集ったのは、松陽先生がオンライン授業を始めるから。
地球に出向けない代わりにオンライン授業はどうかと僕が提案し、準備して、今日がその初授業なんだ。
だからパソコンの正面を高杉がしっかり陣取っていて、その右側からヅラ、左側から僕が覗き込んでいる形。松陽先生Loveすぎんだろ高杉。
指定されたリンクを開き待機していると、永遠にサムネ表示だった画面が、ようやく切り替わる。
画面の先に、松陽先生の笑顔があった。仏…
[ブンブンハロー、どうも!ヨシキンです☆]
[その挨拶はまずいから!!
開始早々BANされるから!!]
「ブッッwwww」
ちょwwww
初っ端からヒ○キン持ってこないで先生www
画面に映ってない銀時の鋭いツッコミに、松陽先生はきょとんと言う。
[これが最近の若者の流行りと聞きまして。
こうすれば視聴者獲得できるんじゃないですか?]
[お前何?授業じゃなくてYouT○berやりてぇの?配信者狙ってんの??]
[まずは色んな人に興味を持ってもらうのが大事ってしの……友人も言ってまたし]
「若者のブームまで把握してるとは、流石だ先生」
「……マズいこれ僕がツッコミになるやつだ。
てか先生今僕の名前言いかけたよね?」
……いつもツッコミ枠の高杉くん、先生相手になると途端にボケ全振りになるのやめてほしい。
実は僕監修で始めたオンライン授業、伝説の攘夷志士で名がしられている僕らの名や顔は一切出さないようにって先生に言っていた。
だから銀時もツッコミいれつつも顔を映していないんだけど、開始数秒で僕の名前言いそうになったな?危ないな!?
[改めまして。
私は吉田松陽と申します。
さっきから元気にツッコミを入れている助手は、私の弟子であり、カメラマンです]
「銀時がカメラマンとは、想像つかないな」
「助手と弟子とカメラマンって属性多いな」
自己紹介が終わった後、ふと、松陽先生が雰囲気を変える。
懐かしいその表情。
それは、師として教えを伝える時の表情。
「戦争が終わり、時代が移り変っていくこの激動の世の中で、不安なことも、悩み迷うことも沢山あるでしょう。
けれど、悩んでもいい。迷ってもいい。
私も散々悩み、迷ってきた。未だに悩むことも、迷うこともある。
でも、それでいい。
どうか私に、皆さんがこの世の中を生き抜くためのお手伝いをさせてください。
共に乗り越えましょう。この激動の時代を」
言葉の一つ一つが、胸の中に染み込んでいく。
それがキラキラと輝き、力になる。
そんな新しい感覚は、同時にひどく懐かしくて。
何度でも思う。
この人と、また、逢えてよかったと。
吉田松陽先生の授業は、始めこそ視聴者が少なかった……むしろ僕ら弟子とその周りの人達くらいしかいなかったけれど、それは水面下で次第に広まって行った。
……視聴者は増えて欲しいけど、先生を秘匿の存在にしておきたいって高杉がガチ悩みしてるの面白かったな。
次第に授業の存在と評判は、地球を中心に、宇宙中に広まっていく。
そしてそれは、僕らのしらない所で、誰かに影響を与えて行った。
「神楽、これを見て地球の言葉とかを覚えるといい」
「えー、眠くなるアル」
「新ちゃん、何を見てるの?」
「吉田松陽先生のオンライン授業です。
寺子屋の級友の中で話題になっていたので……」
寺子屋では教えてくれない何かを教えてくれる先生の授業に、大人も子供も、地球人も天人も、何かを学んでいく。
昔先生の教えを受けていた僕らも、先生の言葉に時に考え、時に影響され、時にそれは自らの力となり、心を突き動かされた。
場所を変え、形を変えて再開講した、松下村塾の授業。
それは、再び多くの弟子を生むことになる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
しかし。
それは、期限付きの奇跡であって。
「……ゲホッ、」
「……!?
松陽……松陽!?」
分かっていたこととはいえ。
彼らは、決められていた運命に、苦しめられることになる。
幸せの時間のタイムリミットは、刻一刻と迫っていた。