うわがきほぞん 今や我々の足は鉄の箱である。マイカーに夢を持たない大学生の移動手段は電車に限る。それしか帰路に付く手段がないのに、こんな天体観測が似合う時間まで飲み歩いてしまったら、自分の家にも帰れずに当てもなく雨の夜を彷徨くしかない。
「すごいな、カラオケもないのかよ。個室なら寝れるのに」
地図アプリを開き隣を歩くのは中学以来に再開した神尾くんである。大学のレポートに使う資料集めに都市部から離れた地域に来ていたら、親戚の引越し準備の手伝いに来ていた彼に偶然出会ってしまった。ちょっとした近況の話をして、その話の流れのままメイド喫茶に連れていき、コンセプトカフェに連れていき、お酒の飲めるお店に行き、寝落ちして、追い出されて、それで東京の辺鄙を歩いている。
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