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    sakugetu_reirou

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    sakugetu_reirou

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    本編の仲直りから少し後の話。
    玲王の自覚と、感情が育っていない凪の話。

    愛欲 イングランドのチームメイトになって、再び隣で一緒に同じ道を歩き出す事を選んだ。それからというもの、玲王は凪と共に過ごす日々がまた自然と多くなっていく。何だか昔に戻ったみたいで変な感じだ。
     昔と言っても、それすらあまり長い時間ではなかったのだが……常に肩を並べて一緒に過ごして来た日々の事を思い出すと、それがとても遠い日の様に感じられる。

     すぐに触れ合える距離にいる事と、普通に言葉を交わせる事。そんな日常が、とても単純な思考だけども、嬉しいと玲王は思う。
     凪は確かに変わったが、根本的には変わっていない。
     試合の後で自主練に訪れたトレーニングルームの端の壁際。その壁を背にして、座り込んで寝ている凪の姿がそこにあった。玲王が別件の用事で離れて戻って来ればコレだ。

    (またこんなとこで寝て……風邪ひいたらどーすんだ)

     内面に多少の変化はあっても、自己管理能力は向上していないらしいなと玲王は少し懐かしい気持ちになる。
     歩み寄って近付いてみると、投げ出された足の長さと、寝顔のアンバランスさが妙に目についた。玲王は凪の前にしゃがみ込んで顔を覗く。その様子は完全に寝入ってるようで、いつも気怠げな大きな瞳は閉じられていて、口が薄く開いている。ここまでマジマジと寝顔を見た事はなかった。前から薄々思ってはいたが、可愛い顔をしているなという感想が浮かんだ。

    「凪、なーぎ、起きろー」

     声を掛けながら片手で頬に触れる。体温が暖かい。白い肌のしっとりした手触りを感じた後に、無意識的に指で薄く開かれたままの唇を撫でた。やわらかい。そんな事を思い、じっと顔を見つめる。そして気が付くと、凪の唇に自身の唇を重ねてしまっていて……それを頭で理解してから玲王は我に返る。
     やべ。何をしているんだと身を引くと、目が開いている凪と至近距離で視線が重なる。これにはかなり驚いた。

    「ぅわっ!? 凪?! おま、起き……」
    「ん……さっき起きたんだけど、目開けるのめんどくさいなって思ってて」
    「え……いつから……起きてた……?」
    「ほっぺたさわられたあたりから」
    「ま……言、えよ……いや、違う……あの、悪い……」

     キスした瞬間にはもう起きていた、と。そう凪に言われて、玲王はめちゃくちゃ狼狽える。その様が珍しくて、凪は少しおもしろいなと思った。
     レオが何でキスをしたのかとか、思わなくはないけど、この様子からすると、キスをしようとしてした訳じゃないんだろうなと凪は推測する。いつものレオからはかけ離れているその様子が証拠だろう。

    「べつにいいけど」

     たった一言。凪はその言葉で流す。そこで面食らったのは玲王の方で、些か信じられない物を見るような顔をする。

    「べつにいい……って、おまえ、そーいう反応なの……?」

     いや、俺がそれを言うのもおかしな話だけどさ。もっと何かあってもいいだろうにと玲王は心の中でぼやく。
     凪の反応を見るからに、多分、キスをしたのが玲王でなくても、凪はこの反応をするのだろうなと玲王は感じた。何だかそれが面白くなくて、もやもやする。

    「そういう反応って? ちょっと口が触っただけでしょ。たいした事じゃないんじゃないの」

     けろっと吐かれた言葉に、衝撃を受ける。大した事じゃない。ということは、凪はそういった経験をした事があるのか?
     思ってもみなかった考えに動揺する。

    「凪、は……キスとかしたことあんの……?」
    「? レオは俺がそういうのした事あると思う?」
    「いや……ない……けど」
    「ないよ。あるわけないでしょ」

     その言葉を聞いて、玲王は安堵する。その理由がどうしてか、玲王にもわからない。さっきからおかしい。どうやら自分にもわからないスイッチが入ってしまっているという事だけはわかる。
     ただ──凪が普段は誰にも見せる事のない表情とか反応を見られたらイイのにと玲王は思ってしまった。そこで色々と思考を巡らせる。キスは大した事がない。と言うのならば、その先も許されるのか?
     
    「……凪、ひとつ聞きたいんだけど」
    「なに」
    「お前にディープキスしてもいい?」
    「んぇ、どういう流れ?」
    「いや……」

     つい口から出てしまった言葉に、自分でも引く。これにはさすがに少し訝しげな表情をされたので、玲王は思考を巡らす。ぶっちゃけ、特に深い考えはない。してみたいからしたい。見てみたいから見たい。それだけだ。言い淀んだが、言葉を選んでも仕方ない。玲王は凪を見据えて真顔で言葉を続けた。

    「単純に興味がある」
    「ぇ〜……やっぱレオって変だね」

     その言葉を本人は否定する事が出来ないが、玲王は凪も十分変だと思っている。だって大概の事は拒否られた事がないのだから。でも、さすがにコレは断るか?
     玲王は凪の言葉を待つ。

     興味という言葉を聞いた凪は、好奇心旺盛なレオなら、まぁ、そんな事もあるかな…? という考えになる。元々、レオは何を考えているかよくわからない所もあるし、多少強引なのも性格だ。よくは知らないけど、世界は広いのだろう。
     凪は一度視線を外して、暫し考えるようなそぶりを見せてからいつもの無表情で玲王を見た。

    「……まぁ、したいならしてもいいよ。べつにおもしろくないだろうけど」

     やはり凪は断りはしない。そもそも、面白い面白くないでディープキスはしない。いや、興味があるってのも、あまり変わりはないか?
     心底矛盾してるとは思うが、理由なんて最早どうでもいい。重要なのは、凪は誰にでもこうなのだろうかという事。玲王は心中穏やかでは無い。苛立ちに近い感情に、多少疑問を抱くが、今は置いておく。

     欠伸をしながら凪が壁にもたれるのをやめて座り直したので、玲王は床に膝を付いてから片手を凪の肩に置いて正面から顔を見やる。

    「あ、まじでするんだ」
    「そう言っただろ? 凪、舌出して」
    「した?」
    「ベロ」

     玲王が言ってる事を理解した凪は、少し玲王を見上げるようにして控えめに舌を出す。

    (うん。可愛いな。顔が)

     白い肌とあかい舌。劣情を催すとはこういう事を言うのだろうか。玲王が直に舌と舌を合わせると、凪の体が少し揺れて強張る。その反射で舌を引かれたので、玲王は一気に深く口付けた。

    「っ……ン……」

     やると言ったからには止める気はない。逃げようとする舌を絡めて吸うと、凪のくぐもった声が聞こえる。口内はあったかくてやわらかい。そして思ってたよりも反応がある。これは意外だ。
     
    「ふ、っ……」

     漏れる吐息が耳を掠める。
     こいつクチ小さいな、そう思いながら堪能していると、次第に液体が交わる音が響く。凪の様子を伺うと、少し身じろいで苦しそうに液体を飲み下している。
    (あ、これ、すげーゾクゾクする)

    「んン、ぁ……」

     角度を変える度に、凪は少し声を発する。その喘いでる声が、少し辛そうだ。
     ああ、そうか、息の仕方がわからないんだろうなと玲王は理解したが、止めることが出来なかった。キスを繰り返していると、限界とばかりにユニフォームの裾を引っ張られたので、一瞬、玲王は口を離して凪の顔を見る。

    「ふはっ……ッ、ぅ〜……」

     色を孕んで潤んだ瞳と濡れた唇を目にして、熱が昂る。見た事のない顔に、ハッキリとした欲情を感じた。

    「凪もっかい」
    「んぇ……れ、お、まッ、んむっ」

     待って。という言葉は飲み込まれて、口を塞がれる。凪が逃げようと体を引くが、玲王は逃さないように後ろの壁に押し付けて口を開かせた。
     思うように力が入らない凪はいいように口内をぐちゃぐちゃにされて、ぞわぞわとした感覚と体験した事のない気持ちよさで頭が回らない上に息もろくにできない。極限に追い詰められて凪は泣きそうになる。執拗なキスに意識を保つのもそろそろ限界だ。
     凪の反応が薄れてきたので、さすがにそろそろやめないと死ぬかもしれないという危機感を覚えた玲王は名残惜しくも解放する事にした。

    「っ! っはぁ……〜〜」

     俯いて肩で息をしながら呼吸を整えている凪の顔が見たくて、触れてそっと上を向かせると、少し震えるからだに快楽にとけてる瞳が見えた。

    「ん、ぁ、まっ、て……」

     またキスされると思ったのか、凪は色付いた声を出す。どこか甘さを含んだ小さい声。それに何より、次も受け入れようとしてる反応にムラッとする。
     ここで初めて、玲王は凪を抱き潰したいという欲望を自覚した。

    「……あ」
    「、……れ、ぉ……?」

     ヤバい。これ以上は。しかし凪をこのままここに置いていくのもダメだろうと思う。しかし……それ以上に状況が不味い。
     最低だが、凪を守るための選択を取る。

    「ッごめん凪!!」
    「ふぇ……?」

     急に謝った玲王は勢いよくバタバタと部屋から飛び出して行った。訳がわからない凪は、まだ落ち着かない呼吸を吐く。腰が抜けて立てない初めての状況に困惑しながら、消えた玲王に首を傾げた。

    「なんなの……」

     ぽつりと呟かれた凪の言葉は誰にも届かない。深く息を吐いて、壁に寄り掛かる。濡れた口元を拭いながら、ぼんやりと、疲れたし苦しかったけど、ちょっと気持ちよかったな……という感想を抱いた。しかしそれがどういった事なのかまでは、考えるには至らなかった。







     凪の元から離れた玲王はトイレの個室に逃げ込んで、強めに扉に頭を打ち付ける。頭の中はこちらも混乱中だ。考えるのをすぐやめる凪とは違い、玲王はハッキリと確信した物事を整理する。
     まず間違いなく、玲王は凪に欲情したし、抱きたいと思ってしまった。よくよく考えてみれば、キスをしたり可愛いと思ったりする事自体、もうそれが答えなのだろう。

     俺は凪が好きなのか……否、言い逃れようもなく、好きなんだなという確信しかなくて、何だか急に恥ずかしくなる。
     先程の凪の表情と声を思い出すと、色々と熱を帯びてきてしまう。まさか凪がああいう反応をするとは思ってなかった。想像もできてなかった現実が焼き付いて頭から離れない。

    「あ”〜〜〜……マジか……」

     人を好きになるのは初めてだ。好感という意味で人を好きになった事は多々ある。だがそれだけだ。自分から何かしたいとか、そういう欲求を感じた事はない。義務であり礼儀のような作法のソレとは違い、本能で凪を求めた。全てを理解した今は、凪の身も心も全部欲しいと思う。

     この行き過ぎた感情をどうしようかと持て余した後に、何とか熱を鎮めて理性を保った玲王は凪と顔を合わせづらくてトレーニングルームに戻ってみた。すると、もういないだろうと思っていた凪がぼんやりしたまま座っているので驚いた。かなり時間が経っているので、一気に心配に変わる。

    「凪?」
    「あ……レオ、なんか立てなくなっちゃって、手貸して」
    「えっ、だ、大丈夫か?」

     何事もなかった様子でヘルプを頼んでくる凪に、玲王はさっきの出来事が現実だったのかどうか、途端に自信が持てなくなる。

     ひとまず手を貸して凪を引き上げると、凪は「今日も疲れた〜」と言った直後にあろう事か、お風呂行こ。と言い放った。
     行けるかよ! それが玲王の率直な答えだ。
     この凪の反応を見るに「あ、これ、何も意識されてないし、何ならさっきの事は無かった事になってるな?」と玲王は直感した。

    ──何の脈もねえ。そんな事あるか?

     しかし相手は凪だから、納得と言えば納得……する訳ないだろ!?
     マジかコイツと顔を見ると、きょとん顔の凪は不思議そうに首を傾げる。その表情からして、特に嫌悪感とかそういう類のものは感じない。が、好意とかそういったものも一切感じない訳で……
     率直に、凪にどう思われているのか問い質したいところなのだが……地雷を踏んで前みたいな事になったら、今度こそメンタルが死ぬ気がする。思い出したら少し萎えた。

    「レオ?」
    「ああ……なんでもない。俺やる事あるから、先に戻ってな」
    「うん、わかった」
    「ちゃんと髪乾かせよ?」
    「ふぁーい」

     適当に返事をしながら、凪は眠そうにふらふらと部屋から出て行く。
     確実に、あれはやらない。むしろ風呂で溺れるんじゃないかと心配になる。そればかりが気掛かりだが、この時間なら誰かしら居るから大丈夫だろう。本当は見ててやりたいが。今は無理。

     さて……どうするか。
     いくら考えたところで、これはもう、開き直るしかないのではないかという結論しか出ない。何より、こうやって考える時間が無駄だ。効率が悪い。明確な気持ちを把握したのならば、行動に移せばいいだけじゃないか?

     欲しいモノは、全部手に入れる。

     合理主義の玲王は、まだろっこしい事はしない。最短、最効率の手段は、やはり、凪をその気にさせるしかない。あの生き物にそういった感情があるのかが一番の不安材料だが、嫌悪感を持たれていないのが唯一の救いだろう。
     そうと決まれば、玲王は凪を口説き落とす事とするのだが、やはり凪の感情が赤ちゃんすぎて、かなり手間を取る事になったのは、また別の話。





    オマケ

     トレーニングルームのその後、玲王と凪の二人は絵心に呼び出されて厳重注意を受けた。モニタールームの画面に、一部始終ががっつり映っていたらしい。
     いくら編集して流すと言えども、ちゃんとカメラを意識して行動しろ。あと他人が来たらどうする、慎め。とのお言葉だった。
     しかし、特に行為自体の内容を咎めたりする物ではなかったので、玲王は「バレずに見えないとこでならオーケーって事か?」と考える。
     そんな玲王の胸中を読んでか、絵心は表情を変えずに、じっ、と二人を見てから心底どうでもよさそうに声を発する。

    「別に僕はお前たちがどうなろうと興味はないが……凪誠士郎」
    「?」
    「流されるなよ? 以上。帰れ」
    「それ、どーいう意味?」

     凪は絵心に聞き返すが、答えは返ってこなかった。そして玲王は、余計な事を、と思いながらも凪の手を引いて「凪、戻るぞ」と声を掛けるのだった。



        おわり



        
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