あー、まぁいっか「んー……」
目を開けるとオレンジ色の灯りに部屋が照らされていた。
ぼんやりと見えてくる視覚から今自分がベッドの上にいると判断する。灯りを消すのを忘れたようだ。
すぐに違和感を覚えた。
匂いだ。スンスンと鼻を動かせばすぐにその匂いが誰のか分かった。
(カラムの匂いか……)
すぐに目にぼんやりと見える部屋の家具や位置を確認すればここがカラムの部屋だと断定出来る。
アイツなら特に警戒もしなくていいだろう。もう一度寝ようと身体を動かそうとすると今度は腕に違和感を感じた。
いや、最初から気付いていた気もするが、まだ寝ぼけた頭が警告を認識出来ず、そちらを見てしまった。
「………………」
寝ぼけながらもあえてスルーした方がいいと判断していたのだろう。だが、見て理解してしまった今それをスルーすることは出来なくなった。
現状を正確に確認する為に何度か目を瞑っては開けてを繰り返してオレンジの淡い光の中でピントを合わせる。寝ぼけていた、見間違えたと言いたい現実がそこにはあった。
俺の腕を枕に隣に眠るヤツがいる。
(何やってんだ?)
吃驚するよりも疑問が出た。そして昨日のことを思い出せば、ほぼ自分のせいだなと納得する。
昨夜はクリスマス。
人気の高い職の騎士はモテる。だからクリスマスに予定が入っている者は多いが全員ではない。
そういう暇してる適当な騎士たちと一緒に食堂で飲んだ後、何となく酒瓶を両手いっぱいに抱え、カラムの部屋に入ったのを思い出す。
「寝る所だった」と膨れっ面で顔を出したカラムの顔が赤かった。自分と同じように何処かで相当酒を飲まされていたのは顔を見ただけで分かった。
本隊騎士になったばかりだから断りきれなかったのだろうな〜と推測しながらも「まあまあ」と無理矢理酒に付き合わせた。
そこまでは覚えている。
クリスマスと言うこともあり、楽しい雰囲気に飲まれて酒を飲み過ぎたという自覚もある。それはカラムも同じで、本隊騎士になれたという喜びも相まって羽目を外し過ぎた。
少し頭を上げてテーブルを見ればやはり酒瓶は空になっているように見える。
酔っ払ってその後カラムと共にベッドに倒れ込んで……というところだろうか?
こういうことはよくあることだ。
「あー」
うん、酔っ払って朝、同じベッドで目を覚ますというのはよくあることだ。
ただ──
「何で俺素っ裸なんだ??」
さすがのアランも素っ裸で目を覚ましたという経験は無い。
酔っ払って暑くて脱いだとしても上だけだろうし、ならば酒をこぼして汚したからカラムが剥ぎ取ったのだろうか?
どっちにしろ、とカラムの方も見る。布団から出た見えている両肩は肌色一色、そっと布団を捲ってその身体を見れば、淡い光に照らされたカラムの裸体が目に入った。
カラムまで素っ裸なのはなんでだ??
自分が粗相してカラムの服まで汚したか?と首を傾げていると、鼻にある匂いが届いた。それは先ほどからしていたカラムの匂いだ。
香水だろうか?カラムは香水をいくつか持ち、使い分けているらしい。この間の叙任式で貸してもらった時にクドクド説明されたが、結構な値段するんだろうなとぼぅーと聞き流していた。
あー、これよく朝カラムからする匂いだ。それが今カラムから香ることに不思議はない。だが、そうではない。
自分の身体に鼻を近づけヒクヒクと鼻を動かせばやはり同じ匂いがする。
カラムの匂いが移ったのだろうか?
だが移り香としては濃い、カラムが香水を俺に掛けたのだろうか?
それは考えられなくはない。
鍛錬後水浴びはしたが飲んで騒いだあとだ、汗臭くても可笑しくはない。
仰向けに寝ていたカラムが寝返りこちらを向いた。穏やかに眠る顔、その身体に見える範囲で傷や変色した痕はなく、綺麗なままの身体に取り敢えずホッとする。
一応自分の身体も他に異変がないかと隅々まで神経を張り巡らせ確かめるが特にはないようだ。
自分とカラムだからこそ、酔った勢いでベッドの上でプロレスをしていた、としても可笑しくはない。
技を掛け合ってミスしたら互いに無事では済まないだろう。笑い事でなくカラムの特殊能力で首とか折ったらぽっくりそのまま逝っちまう。
あっぶねぇ〜、と冷や汗が出た。
思わず周りを見渡すが目で確認出来る限りは特に暴れた形跡はないことにも心底安堵した。
「ん…んんっ……」
ぶるりとカラムの身体が震え身を寄せて来た。どうやら布団を剥いだせいで寒くなったようだ。
暖炉を見ればそちらの火は消えて空気は冷たい。
雪が降っていないとはいえ、冬に裸は寒い。
なら尚の事、裸で寝なきゃいいのにと思う。
布団と毛布をかけ直してカラムの身体に手で触れればやはり冷えて冷たかった。
俺の方が体温高いのか?
特に冷えている肩を温めようと抱き締めれば、カラムの方から俺の胸辺りにスリスリとまるで猫の様に身体を擦り付ける。
それは温かさのせいか、香りのせいなのか、そして俺の身体からカラムの匂いが強かった理由が分かった気がする。
安心したかのような顔をしてまた規則正しく寝息を立て始めたカラムを見て「ははっ」と乾いた笑いが出た。
「こんな短期間でここまで懐くか?」
そんな無防備なカラムの寝顔は可愛く見えた。
さっきまでの疑問も何もかもが『まぁいっか』と思えてきた。
頭を撫でればサラサラの髪。
起きたら小言言われるか、殴られるかだろうが。
そんなことは些細に思えるほど今この胸にある温かさが心地よい。
「ま、死なない程度にしてくれよ。俺まだ死にたくねぇからな」
クシャッとカラムの髪を優しく逆撫で、指で整えるを繰り返していると気付かぬ内にもう一度眠りについていた。