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    リンネ

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    リンネ

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    曦澄ワンドロワンライ参加
    お題『光』

    潜伏中曦臣

    朝に願う忘れようにも忘れられないあの頃。多くの絶望と、絶望の淵に片足を掛けたままそれでも抗う人と。
    暗闇の中に僅かでも光を見出さなければならなかった。それは本能か、義憤か。

    真っ白な校服は目立つから薄汚れた外套を被り、見張りの立てやすい山腹に野営地を築いた。夜は最低限の火だけを熾し、じっと朝を待つ。
    今はまだ、動く訳にはいかない。幾ら修為の高い修士であっても多勢に無勢、とにかく仲間を集めることが先決だった。
    それでも藍曦臣は、この苦境に在って人々の希望の光である。もちろん彼ひとりの力ではないけれど『姑蘇藍氏宗主』の名は縋るに足る存在だ。実際、その名を出すことで奮起する仙門も多くあった。
    しかしまだ足りない。
    温氏の無理難題に少しでも難色を示した世家は悉く粛正されたのだ。とにかく人が足りない。
    人とは、力だ。金丹の有無、修為の高さではない。意志である。
    もっと、強い力が必要だった。
    温氏の暴挙を止める為に。何より藍曦臣自身が希望を掲げ、立ち続ける為に。

    「そろそろ、ここから移動しましょう。近くの山に捜索の手が入ったようです」
    行方不明の藍曦臣を追って、温氏の手は緩むことはない。仙門世家を束ね導く自分たちこそが尊いのだと奢った温氏にとって未だに尊敬を集める藍氏の存在は邪魔でしかない。雲深不知処に火を放ち身の程をわからせたつもりが宗主に逃げられたとあっては目的の半分にも満たない結果だった。藍曦臣を殺すか、引き摺り出してその膝を折らせるかしなければ気が収らないのだ。
    「麓近くの世家が、一時なら匿ってくれるそうです。早々に温氏の庇護下に入った世家ですから幾らか時間稼ぎは出来るでしょう」
    「では必要な物資の援助だけを依頼して、すぐに移動しなければ。温氏は配下の裏切りを許しはしないだろうから」
    表立ってでなくても、こうして手を貸してくれる人たちがいる。曦臣は己を鼓舞し、背筋を伸ばす。
    援助を申し出てくれた世家以外にも、幾つかの当に文を書く。応じてくれなくても恨みはすまい。誰も姑蘇藍氏や雲夢江氏のようにはなりたくないだろうから。

    雲夢は、どうなっただろうか。
    先の宗主は蓮花塢と共に命を落とした。
    後継者たる少年は無事だろうか。
    雲深不知処に来ていた頃の、まだ幼さを残す少年たちを思い出す。
    江晩吟、江宗主。
    無事でいるならば、もし、志を同じくしてくれるならば。
    滅ぼされたと言っていい状況の蓮花塢だけれど、江氏の名は温氏に抗う人々の追い風になる。何より、江氏には大義名分がある。

    どうか、無事で。

    願いは昇る朝日に。
    眩しさに目を細め、見上げた空の広さに少しだけ呼吸が楽になる。
    光は、やはり希望だ。

    「ご報告します。沢蕪君、江の若君が──」

    忘れようにも忘れられないあの頃。
    藍曦臣は胸に宿る光を見た。
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    takami180

    PROGRESSたぶん長編になる曦澄その4
    兄上、川に浸けられる
     蓮花塢の夏は暑い。
     じりじりと照りつける日の下を馬で行きながら、藍曦臣は額に浮かんだ汗を拭った。抹額がしっとりと湿っている。
     前を行く江澄はしっかりと背筋を伸ばし、こちらを振り返る顔に暑さの影はない。
    「大丈夫か、藍曦臣」
    「ええ、大丈夫です」
    「こまめに水を飲めよ」
    「はい」
     一行は太陽がまだ西の空にあるうちに件の町に到着した。まずは江家の宿へと入る。
     江澄が師弟たちを労っている間、藍曦臣は冷茶で涼んだ。
     さすが江家の師弟は暑さに慣れており、誰一人として藍曦臣のようにぐったりとしている者はいない。
     その後、師弟を五人供にして、徒歩で川へと向かう。
     藍曦臣は古琴を背負って歩く。
     また、暑い。
     町を外れて西に少し行ったあたりで一行は足を止めた。
    「この辺りだ」
     藍曦臣は川を見た。たしかに川面を覆うように邪祟の気配が残る。しかし、流れは穏やかで異変は見られない。
    「藍宗主、頼みます」
    「分かりました」
     藍曦臣は川縁に座り、古琴を膝の上に置く。
     川に沿って、風が吹き抜けていく。
     一艘目の船頭は陳雨滴と言った。これは呼びかけても反応がなかった。二艘目の船頭も返答はな 2784