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    リンネ

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    リンネ

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    温周短文

    四季の山ドロライ

    お題:かみ
    お借りしました。

    髪を梳く「阿絮、ここへ座って。久し振りに私が髪を整えてやろう」
    そう言って温客行はいそいそと鏡を用意し、目覚めたばかりの周子舒をその前に座らせた。
    毛先から、一本たりとも絡まぬように、損なわぬようにと櫛を通す。あまりに優しく梳くものだから、何だかこそばゆくて思わず子舒は笑った。
    「どこぞの公主か?俺は」
    それでも元々こうして他人の手で身支度を調えられてもおかしくはない身分だったのだ。〝表の顔〟では、使用人に任せていただろう。身を委ねる子舒は自然で、緊張や戸惑いなども見られない。ほんの少しだけ、温客行は悋気を覚えた。
    「適当でいいぞ。……さては楽しんでいるな?」
    「こうして丁寧に梳いていれば髪に艶が出て、本当に公主のように美しくなる」
    「俺の髪が美しくなったところで、お前が喜ぶだけだ」
    「なら十分だ。……美しくなった阿絮を堪能するのは私だけでいい」
    今度は別の意味でこそばゆくなった子舒は、鏡の中の自分と目を合わせた。
    (なんて顔をしているんだ)
    今のところ、髪を梳くのに夢中になっている温客行は気付いていない。
    いや、もしかしたら気付いていて、見て見ぬ振りをしてくれているのかも知れない。

    ほんのりと、紅差す頬が朝の会話を途切れさせた。
    窓の隙間から日の光が細い線を描き、今日は暑くなりそうだと子舒は自らの胸の内を誤魔化した。
    簪を手ずから挿して満足したように温客行が離れていく。
    「老温」
    思わず呼び止めたが言うべき言葉が浮かばない子舒は咄嗟に「腹が減ったな」と口にして温客行を呆れさせるやら笑わせるやらで、結果元通りの日常に戻ったことで安堵することになった。

    食事の席で成嶺が、「師父、新しい簪ですね。良くお似合いです」などと言うまでは。
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    takami180

    PROGRESS長編曦澄16
    🦍兄上vs🐒
     猾猿はその夜に狩ることになった。
     まずは山の四方より禁錮陣の内側に入り、一回り小さい陣を張る準備をする。封異陣といって、妖異を封じ込め弱体化をはかる。その後、五年ほど待ち、十分に弱ったところで妖異を滅する。
     気の長い話である。
     問題は封異陣を引く間、猾猿を引きつけておかねばならず、さらには陣の中央におびきださねばならない、という二点である。
     各世家の仙師は陣術の得意な者と、剣の得意な者とで分かれた。さらに腕の立つ者が最前線で猾猿を引きつけることも決まった。
     なお、封異陣を引くのは魏無羨である。
    「私は魏嬰を守る」
     藍忘機の役割は問答無用で決まった。陣が完成したら魏無羨は戦線を離脱する。陣の起動は各世家の仙師たちが行う。
     残った問題は陣中央にどうやって誘い出すかである。
    「ならば、私が妖異を捕まえよう」
     ここでまさかの名乗りがあった。江澄である。
    「怪我してんのに何言ってんだ」
    「捕縛に紫電ほどうってつけの宝具はあるまい。縛仙網では破られるぞ。右腕は使えるのだから、紫電は扱える」
     誰もが江澄を止めようとした。だが、彼の言うことはもっともだった。
    「ほかに縄縛のできる宝 2255

    はるもん🌸

    MOURNING魏無羨がニヤニヤしながら嗅がせてきたのは、いつしか見た事のある見た目がおかしい香炉。眠る前から怪しい展開になるだろうことはわかっていたが、まさかこの時の夢を見るとは思わず、数回ほど藍忘機は目を瞬かせた。
    香炉 初めての口づけ―――これは、夢か。

    魏無羨が目隠しをしたまま笛を吹いている。自分はそれを眩しそうに見ていた。どうせ気づかれない、気づかれてもこれは夢。そう思い、藍忘機は昔と同じように木の上にいる魏無羨の元へと足を運ばせた。いつしかの夜狩りの帰りに、見知らぬ夫婦が木陰で深い口づけをしているのを見かけた。

    好きなもの同士なら、ああやって愛し合うのかと学んだ。
    そして魏無羨と同じ事がしたいという欲を感じた。

    魏無羨に初めて口づけをしかけた時、あの夫婦のそれを真似た。目を隠しをしたまま的(マト)に矢を放った時の魏無羨は本当に美しく見えた。あれは私のもだと印をつけたくなるほどに。

    笛の音が聞こえた瞬間、霊獣を狩る事よりも魏無羨の傍にいたいという欲求が強まった。そっと遠くから眺めるつもりだったが、風を感じて気持ち良さそうにしている無防備な彼を目前に我慢をする事ができなかった。もうすでに自分たちは道侶。今襲わなくても毎晩これでもかと愛し合っている。しかしこの瞬間、藍忘機はあの時の劣情がまざまざと蘇り、気づけば彼の手首を抑えて口づけていた。それも無理やり。
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    はるもん🌸

    MOURNING「今、誰かが私を呼ぶ声がした。魏嬰、君か?」
    月夜を見上げ、藍忘機は遠い昔に見たかわいらしい笑顔を思い出していた。そんな独り言をつぶやいたことがあった。魏無羨がいなかった時間があまりにも長すぎた。
    そのせいか、今ある幸せが、まるで嘘のように感じる瞬間があるのだ――――――――。
    あなたがここにいる『魏嬰、なぜ君が死ななければいけなかったのだ…』

    背中の痛みよりも、胸の痛みがこたえた。冷泉でどれだけつかろうとも、癒える事はない。
    兄が「時がたてば忘れ行くだろう」と言いに来てくれた事がある。

    されど、その日は来なかった。

    師弟が大きくなっていく様を感じ取るたび、時間の経過を感じる。
    かつて子供だった彼がはしゃいでいた姑蘇の山道を歩いては魏無羨の笑い声を思い出す。なぜ一緒に遊びに出かけなかったのだろうと後悔しても、もう遅い。

    彼はあんなにも自分を気にかけてくれていたのに。愛しさは増すばかりだった。会いたくて、愛しくて、つらかった。



    「――――――ッ」

    藍忘機は息を少しみだしつつ目を開けた。
    体にずしりとした重みを感じる。魏無羨だ。むにゃむにゃと自分の髪の毛を口に入れて何か言っている。力加減を忘れてつい、強く抱きしめてしまった。
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