誰を護る剣晋王が突然、白衣剣の手入れを見たいと言い出した。
師父から受け継いだ名剣である。もちろん手入れを欠かしたことはないが、それをわざわざ人に見せはしない。報告に訪れた部下がたまたま目にしたことがあるくらいだ。
「それは、余を守る剣であろう」
もしや、何か落ち度があったのだろうかと周子舒がはっと頭を上げると、かつて従兄としての彼がよく見せていた顔をしていた。
「他の者が知っていて、何故余が知らないのだ」
拗ねたような声。
皇帝の座に就こうと野心を燃やす男が、たかだかひとりの寵臣にまさか悋気を起こしたと言うのだろうか。
「……では、もしよろしければ、晋王の剣も子舒が手入れいたしましょうか」
何が正解かわからないまま、周子舒はそう伺いを立てた。
「そうだな。それは良い」
途端、晋王は機嫌を直し、周子舒は一旦自室へと下がった。
時折自分にだけこういった子どものようなわがままを言うのは従兄弟として交流した過去があるからだ、と周子舒は思っていた。
晋王が着実に勢力を伸ばす度、理不尽な命令も増えていく。それでもまだ、彼は昔のままの彼だと信じられた。
誰も子どものままではいられない。
時には冷酷にならざるを得ない。国を糺すというなら尚更だ。
だから周子舒は晋王と、彼の中にいる子どものままの従兄をすべて、護ろうと誓ったのだ。
それは周子舒自身がまだ、少年の頃を忘れていない証だった。