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    碧@狂人

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    碧@狂人

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    クルーウェル先生ルートに入る際に形成される因果の話。途中まで。
    先生の曾祖母さん(捏造)が出てきます。

    ##ゆあまい

    【クルーウェル先生との因果のお話。】途中【A story that may have happened someday/



    これは今から10年ほど前の、自分が教師になって間もない頃の、他愛もない昔話だ。

    当時まだ新米教師だった俺は、母校であるナイトレイブンカレッジの理系教員となり、生徒達の教師として、また先輩として、正しく立派に彼らを導いていこうという大層な志を抱いて、

    そしてそれに酷く難航していた。

    自分が在学していた頃に十二分に解っていた事ではあるが、根本的にひねくれた生徒ばかりで扱い辛く、更に自らが教える側の立場になってその苦労を改めて身に染みて実感していた。
    無論経験の浅さもあるだろう。それに教師に、社会人になったからと言っていきなりトレイン先生のように精神が老成…成熟するという訳でもない。中身は学生の部分を残しつつ、仕事という責任が伴う生活とどう折り合いをつけていこうかと悩んでいた、そんなある夏の、長期休暇の事だった。

    学生の頃から、サマーバケーションの折には実家に帰る期間の他に、田舎の曾祖母の家に1人で赴き滞在するという習慣があった。
    母方の血筋である彼女は、性別の差で呼び方がどうこうというしがらみがあって現在ではあまり使われなくなってしまった呼称、「魔女」という呼称を、今も尚好んで自称していた。実際、永くそう呼ばれていたのだからそれが当たり前なのだろう。特に蔑称という程の厳しさもない。ただ「教師の自分」としては、その言葉を現在の女性の魔法士使うのは憚られる。まったく、そういった部分は実に面倒くさいと思う。もちろん、外には出さないが。

    薔薇の王国の外れの森の近くにある小さな田舎町…というよりはむしろ村、と言った方が相応しいだろう小さな集落は、年々人口が減り続けている。
    曾祖母も自分の親族達から都会で一緒に暮らそう、と何度も言われ続けているが、そのつもりは無いと、こればかりは譲れないとばかりに一貫して断り続けていた。
    昔、まだ幼い頃にその理由を聞いた事があるのだが、「魔女っていうのはそういうものなんだよ。ここで生まれて、ここで死んで、ここで朽ちて、ここに還る。そういうものなの。」
    と、今思えば子供が理解するには難しい答えが返って来たのを覚えている。それが彼女の人生論という事なのだろうと、歳を重ねた今は理解出来るが。

    伝説に残る偉大な魔女達には、大抵二つ名が付いている。
    「茨の魔女」。「海の魔女」など。
    その流れに則るのなら、曾祖母は「森の魔女」と呼ばれるに相応しいひとだ。実際、村人達はそう呼ぶ事も多い。
    自然と共に生き、生き物や植物に対する深い造詣があり、その知識を利用する錬金術や薬草学にも精通している。
    自分が今理系の教師でいるきっかけであると言ってもいいだろう。
    彼女は俺の敬愛する家族であり、また尊敬する魔法士…、いや、魔女でもあるのだ。

    大人になって良かったと思える事のひとつに、車の運転が出来るようになり、また自らのマイカーを買うだけの経済力を得られるという点がある。
    過疎化が進んで交通手段が減り不便になっても、自分の車があれば関係ない。
    滞在道具一式を詰め込んでいたトランクから魔法で荷物を取り出しつつ、俺は半分蔦や花で覆われた古びた家を見上げた。

    歴史を感じさせるレンガ造りのさほど大きくはない、慎ましさを覚える家。
    軒先には様々な薬草が束ねられてぶら下がっていたり、また天日干しされていたり。
    土地の緯度の関係もあるが、森のすぐ近くにある為か真夏においてもそれほど厳しい暑さを感じさせる事はない。風の通りも心地良く、休暇を過ごすには最適の場所だった。
    開けっ放しになっている窓やドアからも様々な植物や花々の気配と匂いがする。この家の雰囲気と空気が、俺は昔から好きだった。

    玄関先に荷物を降ろし、家主の姿を捜そうとすると先客がいたのか、応接間から鳥の鳴き声がした。
    そのまま部屋へ足を踏み入れると、揺り椅子の傍に佇んでいた曾祖母は、件の鳥が足に掴んでいた籠を受け取り、その換わりに手にしていた果実をひとつ、鳴いている鳥の嘴の口の中へと放り込む。
    それを啄ばみながら、キラリと光る青い目が、身体の方向を変えるのと共に、じっとこちらを見つめてきた。一瞥をくれた後、すらりとした美しい動作で、窓から外へと飛んで行く。
    白い羽、青い瞳。姿形は鴉のように見えたが、瞳が紅くないのでアルビノ種という訳でもない。それに、足が3本生えていた。
    何よりも、ほんの一瞬の出来事だったが、目が合った瞬間に確かな緊張がピリリと走るのを感じた。
    間違いなく遣い魔の類なのだろうが、何とも迫力のある従者もいたものだ。

    「綺麗なひとでしょう。羽根の艶も、昔からずっと変わらないのよねぇ。私は萎びていくばかりなのに。不公平よね。」
    ふふ、と白髪を綺麗に結って纏めている彼女は上品に笑う。
    「貴女は何時までも美しく聡明な方ですよ。お元気そうで何よりです。」
    「貴方もね。デイヴィス坊や。大分大人の顔立ちになってきたけれど、内心そうでもないのかしら。」
    「仰るとおり、体裁を繕う事に慣れてきただけでまだまだ勉強中の身ですよ。貴女という師が優秀な教育者だったのだなと、痛感している日々です。」
    「私の教え子は常に1人か2人くらいだったし、教育の場である学校とは環境がまったく違うわ。それはそれとして、休暇はきちんと休むのも大切な事なのだから、あまり気にしないようになさい。どうぞ、掛けて。お茶を淹れるのはこの中身を検めてからでいいかしら。あのひと、随分と久し振りに来たの。」
    「ええ。自分も興味があります。」

    指し示された向かい側のソファに腰をかけると、自らもソファに腰掛けて受け取った籠の中から封筒を取り出す。
    そこに書かれている文字を見て「あら。」と小さく零した。
    「どうかしましたか?」
    「デイヴィス。この籠の中の品の確認をお願い出来る?」
    「もちろん。」
    「お願いね。」
    封筒から手紙を取り出す間に曾祖母の膝から自分の方へと籠が浮かんで移動する。
    随分と年季を感じさせる物だが、質も状態も悪くない。劣化しない為の魔法が重ね掛けされているようだ。
    彼女が手紙に目を通す間に、中に入っているいくつかの包みを手に取っては中身を確認する。
    薬草やキノコ、花など、どれも魔法薬を作る為の物だ。中には天然石の類まであった。
    そのどれも全てが、相当質の良い物であるのが分かる。
    特に植物の類は、人工的に高濃度の魔力を吸わせて成長したような大きさや形をしていて目を瞠る。

    「……随分と高品質な物が多いですが、これを対価に何と交換するのですか?」
    商売人ではないのでそこまで詳しい価値までは解らないが、これを店で売るなりすればなかなかの金額になるだろう。それに見合う何を曾祖母に求めるのだろうと視線を上げれば、彼女は手紙に視線を落としたまま優しく笑っていた。

    「お砂糖、塩、胡椒を一袋ずつ。」
    「………は?」
    「『おじいちゃんが運ぶのが大変だと思うので、軽くなる魔法をかけて下さい。』ですって。」
    「………それだけ、ですか。その対価がこれだと?」
    そんな物この中の原石ひとつだけで何袋も買える。
    あまりにも不釣合いな取引だと逆に不信感を抱いてしまう。

    「……その、失礼を承知で言いますが、大丈夫なのですか?」
    「大丈夫ではないかもね。いくら何でも対価が釣り合わないわ。どうしましょう。」
    そう言う曾祖母の表情は、変わらずに優しいままだ。
    そして視線を上げて、籠と同じように手紙と封筒をこちらへふわりと移動させた。
    それを受け取り、自分もその内容を確認する。

    「……子供、ですか。」
    随分と幼さを感じる文字で、確かに今告げられた『欲しいもの』が書かれている。……本当に、それだけだ。

    「世代交代かしらね。確か前にあのひとが来たのがもう5、6年前くらいだから、それくらいの子なのかもしれないわ。」
    「おつかいの練習だとしても、親が相応の物の価値を教えるべきだと思いますが……、―――」
    自分で言った発言がすぐに配慮に欠けたものだという事に気付いて閉口する。
    その様子を目の前で見ていた彼女は、やはり優しい笑顔を浮かべたままだ。

    「このやり取りは、貴方にお願いするわ。デイヴィス坊や。ティーンじゃない子とやり取りをするのも、きっといい経験になるでしょう?」
    「……自分で、大丈夫でしょうか。」
    常日頃、自分が厳しい教師だと生徒達から恐れられているのは承知している。
    ハイスクール生がそう思うくらいなのだから、こんな年端もいかない子供の相手をするだなんて、正直自信がまったくない。

    「そこに書いてある『おじいちゃん』って言うのは、さっきのあのひとの事ね。見た目の通り、とても賢い方よ。何かあっても上手く対処してくれると思うわ。」
    「……人間の子供、ですよね?」
    「少なくとも、ひとつ前の世代の方はそうだったわね。……ああ、それとね。私を含めたここで暮らしている魔女は代々、その方達との取引を続けているのよ。お互い詮索はせず、先方は薬草の類を。こちらは生活用品の類を。という形の取引をね。」
    「そうだったんですか。知りませんでした。」
    「知られないようにしていたのよ。そういう辺りに厳しい制約があるみたい。」
    「……それを今自分にこうして話しても、大丈夫なんですか?」
    「あのひとの姿を目にして今も覚えているという時点で、認められているという事だと思うわ。いつも3日後に受け取りにくるから、それまでに用意をお願い出来る?」
    「……貴女が、そう仰るのでしたら。」

    敬愛し尊敬している魔女からそう言われれば従うのが道理だと思い、引っ掛かる事が多々ありつつも、自分はその取引の相手を務める事にした。







    ―――調味料を1袋ずつ、と言われても。

    それぞれに容量という物があるという事も、そもそも知らないのか。
    と言っても、自分自身も頻繁に料理をするという訳でもない。学園にいる間は必要が無いからだ。
    こればかりは曾祖母に助言を貰い次の日に買い出しに出掛けて、砂糖と塩を1kg、胡椒を一瓶用意する事にした。
    軽量化の魔法は荷物の引き取りに来た際にかけるとして、問題は先払いで支払われたこの過分の対価をどうするべきか。という事だ。
    率直に、『貰い過ぎなので返却致します。次からはこの程度の物で十分です。』とでも書けばいいのだが、この拙いながらも緊張しつつ丁寧に書いたのであろう幼い文字を見ていると、業務的な返答だけを返すのも憚られた。
    というか、ひとつだけ単語の綴りのミスがあり、それが教師として何とも引っ掛かる。
    テストであれば-1点を付けている所だが、別にこれは仕事でもないのでやんわりと訂正すべきなのだろうが、その説明に用いる単語でさえ、幼い相手に合わせなければならない。
    軽率に引き受けてしまったが、これはなかなか、大変な事なのかもしれない。

    「…………」
    そこまで思案して、ある前提を飛ばしている事に気付く。
    この手紙を書いた子には、親や親戚の類がいないのではないか、と。
    白い烏を『おじいちゃん』と呼称したり、曾祖母の『世代交代』という言葉や、あまりにも世間ズレしている物の価値観。
    少なくとも一般世間の常識を理解していないように思える。しかし子供が1人で暮らしているとも考え難い。いや、むしろ常識外の環境にいるからこそ、1人なのか。
    双方『詮索をせず』という約束の上に成り立つ取引のようだが、おかしな環境で暮らしているかもしれない子供を放っておくのは大人として、教師としてあってはならない事だと思う。

    ……もし、あの烏と意志の疎通が図れるのなら荷物を受け取りに来た時に聞けばいい。
    それが不可能だった場合の事を考えて、買い出しのリストに子供向けの辞書を書き加えた。……これは、必要経費として清算していいものなのだろうか、などという考えが同時に脳裏に過ぎって、我ながら何を馬鹿な事をとクク、とつい、笑ってしまった。



    『森の魔女さんへ。

     先日は、取引に応じて下さり、ありがとうございました。
     単語のまちがいも教えてくれて、うれしかったです。
     あと、お菓子も、すごくすごく、美味しかったです。
     こちらから送ったものについては、返さなくて大丈夫です。親切におしえてくれて、ありがとうございます。
     欲しいものを考えてみましたが、特に見つかりませんでした。ごめんなさい。
     そのかわりに、こうしてお手紙のやり取りをしてくれたり、たまにでいいので、お菓子を送ってもらえたりしたら、すごくうれしいです。
     一緒に入っている果実は、対価ではなくて、プレゼントです。おいしく食べてもらえたら、うれしいです。

                   【  】』

    「      」
    最初の手紙の緊張している力が少し抜けていて、何度も出てくる言葉の通り『嬉しい』という気持ちが真っ直ぐに伝わってくる。そんな手紙だった。

    菓子についての言葉にだけ『すごく』という単語が入っているのが微笑ましくて、口元が緩む。その癖、『たまにでいいので』、なんて殊勝な言い回しをしているのがまた、愛らしい。
    まだまだ世帯を持つような気も余裕も毛頭無いが、実際子供というものがいたらこんな感じなのだろうな、とぼんやりと想像する。

    そうだな。仔犬共が立派な大人になれるようにという想いが先走って、結果鞭ばかりの躾はよろしくない。ちゃんと出来た時にはしっかりと褒めてやる事もしなくては。



    *ここまで。
    大体こんな淡い思い出があり、その10年くらい後からがクル監ルート。
    先生の方はマンドラゴラのくだりで気付くのでかなり早期なんですが、「子供がいたら~」なんて考えてたりしてた事とか現在進行形でまだまだ子供だしとかそもそも恋愛感情なのかこれはとかいい歳した大人がクールビューティーしつつおおいに悩むところが見たいですね!!というテーマ。
    監さんは気付きを得たらもうまっしぐらの正しく仔犬です。きらきらの瞳が色々な意味で心に刺さる。

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