Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ひらい

    供養とか練習とか諸々置き場

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    ひらい

    ☆quiet follow

    転生した鯖人がりんねと同居しながら乙女を探す話。の冒頭。
    鯖りんのつもりで書いてるけど鯖乙(鯖苺)が強すぎるし逆にも見えるので注意。
    未来捏造諸々注意。
    終わりが見えない。長文書ける人ってすごい…。

    ※全方位地雷原
    ※文章整えられてないので中略が多い。

    「久しぶり、見ない間に随分と変わったね」
    「おやじ……生きてたのか?!」

     ある時を境に消息不明になっていた父親が、唐突に目の前に現われたとき、ヒトはどのような行動を取るのが正解なのだろうか。彼が消息不明になってから、幾年過ぎたのか……途中から数えるのをやめてしまったが、まだ100年は経っていない筈だ。確か、80年くらいだったか?いつ殺されてもおかしくない程度に、りんねを含む多方面から恨みを買っている男だったこともあって、てっきり死んでしまったものだと諦めていたのに。
     彼は、以前と寸分変わらぬ笑み、変わらぬ羽織と、過ぎ去った歳月を微塵も感じさせぬ姿で、空中に佇んでいる。

    「勝手に殺さないで欲しいな〜。パパが息子1人残して逝くような薄情者に見えるのかい?」
    「見えるが」
    「そりゃまたどうして」

     肩をすくめて、why?と人を逆撫でする表情を浮かべているその様まで、あの頃散々見かけた父親と同じだった。
     夕暮れ時のあかね色に、彼の空色の羽織は鮮やかに映えて、得体の知れないあやかしものにさえ思える。その得体の知れなさまで含めて、彼らしさであったのだけれど。なぜだか、月夜にはためく桃色の羽織が、脳の隅をよぎって、頭痛がする。
     ああ、懐かしい。毎日のように遺影(仏壇ではないからただの写真ではあるが)と顔を合わせてはいるけれど、実物の、動いて喋る彼と会うのは本当に久しぶりだった。
     しかし呑気に再会を祝えるか、と言われたら否だ。そもそもこのロクデナシとの再会を喜ぶ理由が無い、というのを抜きにしても、本能が警鐘を鳴らしている。だって死人は蘇らない。六道鯖人は、行方不明になった後に確実に死んでいるのだ。魂子が裏の力を使って輪廻の輪の膨大な履歴を追わせたのだから、間違いない。


    「おまえ、本物じゃないな…?」

     言うと同時に切りかかってみれば、なるほど当たりだったらしい。ソレは切り裂かれる寸前に、間抜けな音を立てて爆発四散した。後に残ったのは、案の定依代人形(ビニール製)。
     道理で既視感を感じるはずだ。あの時と全く同じ状況ではないか。死んだ両親の双方、それぞれを再現した依代人形と遭遇する実績を解除した人間(死神)など、世界広しと言えどもりんねくらいだろう。はは、嬉しくもなんともない。

    「あ~あ、バレちゃった?りんねはすごいな~」

     声変わりをしたかしていないか、そのくらいの高さの声が、からかうような響きをのせて下の方から聞こえてくる。訝しんで見下ろした先にあるのは、屋上付の二階建ての家。屋上に置かれたテーブルに頬杖をついて、こちらを見上げる人影がいた。光加減のせいで顔はよく見えないが、声の調子からしてこれの仕掛け人であるのだろう。

    「おふくろの時を思い出したからな、二度同じ手は食らわんぞ」

     そう言いつつその家に降り立ってみれば、意外や意外、そこにいたのはただの人間の少年であった。否、言動から醸し出される雰囲気があまりにも鯖人に似通っていたからそう思い込んでいただけで、常識的に考えれば彼であるはずがなかったのだが。それでも、やはり仰天してしまった。
     りんねの様に死神の血が入っているでもなく、眼鏡やら裏返しのリボンやらを付けて擬態しているわけでもない。何の変哲もない、ただの、人間。
     その顔と赤髪赤目、雰囲気が鯖人にうり二つであることを除けば、りんねとて彼が鯖人であるという考えを捨てていたほどには、その少年は人間という生き物であった。
     歳の頃は、着ている学ランのボタンに中のマークがあるあたりから見て、中学生だろうか?まさか鯖人が己と同じように中学の制服しか着られない等という状況に陥るはずは無い。と、いうか似たような状況になることがあったとしても、詐欺――またはFXとか株、下手したら年齢詐称の上でのホストクラブ勤務等で、生活費+遊行費は獲得するだろうから、年齢に合わない制服を着る理由が彼には無い。
     そして、赤髪赤目とは言ったものの、その瞳にはカラーコンタクトの独特な輪郭がうっすら浮き出ているし、その髪も根元の方は少し黒くなっているので、どちらも人為的に変えたものではあるのだろう。……よもやその鯖人に瓜二つの顔も整形だとか言うのではなかろうか?
     どちらにせよ、この人間の少年は本当に、

    「おやじ、なのか?」
    「そう!転生して人間になっちゃったパパだよ〜!何年振りか分からないけど随分と変わったねぇ、りんね。ママと同じプラチナライセンスホルダーになっただなんて、驚いたよ」

     たった一言、言葉を交わしただけで、あぁ、これは鯖人に違いない、と理解した。これが鯖人で無ければ誰だというのか。軽佻浮薄である根底に希釈されきった家族愛の失敗作みたいな歪な愛情が含まれた、この話しぶりを、鯖人以外の誰かが再現するなんて、出来るはずがない。
     さりげなくりんねがプラチナライセンスホルダーになったことまで把握されている。一体どこからこちらの情報を仕入れたのやら。まぁ、以前も法スレスレなグッズを多用していた盗撮犯であることだし、何かしらの非合法的手段で覗き見たと考えるのが自然か。最近のりんねの行動圏はあの世一辺倒であるのに、どうして純人間である目の前の男が把握できたのかという疑問は残るけれど。

    「何か酷いこと考えてないかい?」
    「気のせいじゃないか。ところで、おまえは人間なのに、どうして死神道具を手に入れられたんだ?」
    「世の中には裏道ってモノがあるんだよ、りんね。そしてパパはそういうルートには詳しいんだ」

     「だてに元々非合法会社の社長をやっていた訳じゃ無いからね!」と胸を張っているが、それは誇って良いことではないだろう。思わず反射で鎌で殴りかけたが、今の鯖人は人間であることを思い出して寸でのところで静止させる。そこまで見越していたのか、余裕しゃくしゃくと言った笑みを浮かべてお茶を啜っている鯖人を見て、絶対あとで手加減を覚えてから殴ってやる……という決意が固まった。


    「何で俺に接触してきたんだ」

     話が脱線していたが、元はと言えば目の前の男が唐突に接触してきたことが、今の奇妙な状況のきっかけである。新たな人生であるのだから、死神とも人間ともつかない息子のことなぞ忘れて、人間としての人生を送れば良いだろうに、何故?問えば、鯖人は「そういや言うの忘れてた」だとかぼやきつつ立ち上がった。立ち姿を見ると、あの頃との背の違いが目に見えて分かって、自分が巨人にでもなったかのような錯覚に襲われる。自分より下に鯖人の顔があるのは、随分と違和感があった。
    彼は、芝居がかった動きで手を胸に当てて、口角を緩くあげ、さも口説くような軽快さで提案してきた。

    「りんね、あの世で一緒に暮らそう?」
    「は……?おまえ今人間だって言ったよな?」
    「だ、か、ら、一緒にママを探すの、手伝ってよ」
    「答えになっていないぞ」

     手加減は覚えられていないが、どうせ鎌はダメでも殴る分には問題ないだろうと、脳天に拳を叩き込む。以前ならば避けられただろうに、人間になったからか普通にダメージを受けている様が、少し愉快だった。少しあの悪魔を思い出す――ここ数十年会っていないが、生きているのだろうか。
     
    「痛いなぁ……現世で暮らしてたんじゃあママを探すのにも色々邪魔が多いから一緒に住もうよって話!」
    「おまえも今は人間なら、現世での家族だとか人間付き合いだとかがあるだろう。それらは簡単に捨てて良いものではないはずだが」
    「そんなもの無いよ。というかあっても、りんねとママに会う邪魔をするなら要らないものじゃない?」
     こちらは、割とヒトとしておかしくない指摘をしたはずなのに、目の前の男がどこまでも澄んだ瞳でこんなことを言うものだから、自分の父親はこんなにも狂っていただろうか、と、背筋に冷たいものが走る。

    中略

    「そういえば、今のおやじのプロフィールを何も聞いていないんだが、何歳で何という名前なんだ?」
    「っくく、さてはナンパ下手でしょりんねっ痛い!図星だからって殴らなくても!」
    「おれはおまえと違って不誠実では無いからナンパなんてしたことすら無いわ!」
    「え……??本当に……?」
     鯖人としては本気で驚いていただけなのだが、視界でりんねが再度拳を固めているのを見て、大人しく口を閉じた。これ以上ズレたやり取りを続けるのも時間の無駄なので。
    「年齢としては明日から高校生の十五歳だよ。でも、この体って別に金銭的な苦労があるわけでも無いのに高校に行く予定がないみたいだから、職業としては無職かな」
    「ああ、そういえば今は年度末だったな。ちなみに名前は?」
    「そんなのどうでもいいでしょ……って言いたいけど、面白いからいいか!実はね~、今のパパの名前、りんねなんだよ」
    「またくだらないウソを……」
    「いやいや本当、トラ、ラッコ、コウモリ、ってきてりんねになったんだよ!面白くないかい?」
     コウモリだけは想像が付くが、トラとラッコはいまいち想像がつかない。…乙女のアリクイやメダカも中々に想像がつかないから、転生にあれこれ言う意味はないのだろうが。とまぁこちらがどうでもいいことを考えている間、鯖人も何やら別のことを企んでいたらしく、閃いた!とでも言うようにポンと手を打ち鳴らした。
    「つまり今ならりんねを名乗って悪事を働いても嘘をついていることにはならない!」
    「いやなるからな?」
     学ランの襟を掴んで持ち上げる。と、強制的に鯖人が黙った。以前は身長差や相手の身軽さもあってか出来なかったが、一度やってみれば何とも便利なものである。
    「分かった分かった、ギブギブ。暫く見ないうちにすっかり暴力的になっちゃって……」
     鎌から肉体言語に変わっただけで、あまり頻度は変わっていない気がするが。

    中略


    「ここはどうするつもりだ」
    「う~ん、燃やす?」
    「家財道具が勿体ない!却下だ!」
    「それは確かに。あ!家一軒まるごと隠せるくらいの認識阻害が可能な死神道具ってあったっけ?」
    「ある。非常に高額だが、おばあちゃんが協力したとかで、いくつか完成品が家に置いてあったはずだから、後で取ってこよう。……おい、何故追加で茶を沸かしている。メアリーセレスト号の真似事でもするつもりか?」
    「りんねの分作ろうとしただけなんだけど、面白そうだしそれで行こう!バレなければただの失踪、またはパパが誘拐された~とかで済むだろうしね!あ、あとあれは脚色らしいよ」
     前世の鯖人ならば絶対に他人の為に茶を淹れるなんてしなかっただろうに、これも人間になったおかげなのだろうか?

     私物を怪しまれない程度に纏め、向かうは霊道。
     今のりんねは、魂子の屋敷の離れに住んでいる。元々、高校を卒業したくらいのころからは現世で一人暮しをしていたのだが、鯖人が行方不明になったあたりから、魂子の屋敷に招かれる頻度が増え、現世での友人が全員寿命を迎えた今では、新しく家を探す必要も無いだろうと、流れで離れに住み着いたのだ。
     六文は健在であるので、主人の帰宅を察知して玄関先で待機していた。

    「おかえりなさいませりんね、さ、ま…」

     笑みが固まる。ゆっくりと視線が鯖人とりんねを往復して、数秒の後、わっと泣いて駆けだした。

    「りんね様がそこまで苦しんでいたなんて……気付けず申し訳ありません…うっ誰にも言いませんから〜!!!」
    「誤解だ六文!!戻れ!!」
    「何がですか!いくら片方は外道とは言えど若いうちに両親を亡くしてしまって心が壊れてついに現世から父親に似た子供を誘拐してきたことの何が誤解なんですか!」
    「0から100まで全て誤解だ!」
    「っくく、ははは、あははははは」
    「おやじは笑ってないで誤解を解くのを手伝え!」

     まさか祖母の屋敷の庭で追いかけっこをする羽目になるとは思わなかった。こういうときに十文字がいてくれたならば、聖灰でどうにかなったのだが……。最終的に、カマを投げての武力行使で確保したが、尖った部分が当たらなくて良かった。

    中略

     そうして数時間後、彼は「話付けたからどうにかするまで美人くんのところに泊まってくる!」とだけ言って身一つで駆け出していった。……りんねの認識違いでなければ、彼は乙女を探すという目的でもってこちらの世界に来ていたと思うのだが、一日も経たないうちに浮気か。
    「りんね様、追いかけなくてよろしいんですか?」
    「……美人元秘書もアレ以降善良な死神に戻ったことだし、人間であるおやじに危害は加えまいよ。もし彼女がアレを現世に戻す選択をしたとしても、どうせまたおれにコンタクトを取ってくるだろうしな」
    「あぁ、いえ、それもありますが、そういうことじゃなくて……」
    「所詮その程度の奴だったということだろう。期待なんて元からしていなかったさ」
     落ち着いている様子を見せようとお茶を飲んだら、ミシリ、と音を立てて湯飲みにヒビが入り、ちりとりを取りに行こうと立ち上がった際には羽織の裾につまづいて思い切り床に倒れ込んだ。六文の視線が痛い。
     誰がなんと言おうと期待などしていなかったのでこれは動揺などではない。決して。

     事実、何か策を弄しようにも、行き先もわからない今のりんねには、何もできないのだ。プラチナライセンスホルダーとはいえ、それだけで権力を振えるほど甘い世界ではない。

    ――
     そうして、数週間後。いい加減探し人のポスターを貼ってもらうよう役所に願いに行くか迷い始めていたりんねの元に、彼は帰ってきた。
     彼の気配は、人間のそれから、あの世の生物のそれに変わっていた。触れられるあたり、霊体というわけではないらしい。
     詳しく目の前の気配を分析しようとすると、倫理的に狂ったラインに触れてしまう予感がするので大人しく思考停止しておくが、どう考えても禁忌に類する何かではないだろうか。
     ついでに、髪色も、現世の染色材では出せなかった鮮やかさで、しっかりと根元まで染め直されていたし、服装も、雑に着せていたお古の着流しから死神一高の学ラン+前世で着ていたものと同じ造りの羽織へと進化していた。
    「お前、どうして気配が変わってるんだ…?」
    「そういう効能を持ったお薬のおかげ〜!美人くんがまだ生きててくれて良かったよ。色々と便宜を図ってくれてね、モルモットになった気分を味わうことができたよ」
    「モルモットもお前と同じにされては迷惑だろう」
     そのお薬には、非合法な、とか開発途中の、とかつくんじゃなかろうかと思ったが、下手に藪蛇しても意味がない。既に、目の前の男が、一生人間に戻ることが出来ないのだろうことは察してしまった。
    「ちなみに、今のぼくは死神一高一年生の六道サバトってことになってるから」
    「は??」
    「つまりはりんねの養子ってこと!いや~手続きを担当してくれた架印くんにすごい目で見られたよね」
    「よく架印がお前にそこで手を下さなかったな……。お前がいるというだけでも不愉快だろうに、自分の行けなかった高校に行っている(偽装)などと、その場で首を切られても納得するぞ」
    「斬首刑は嫌だな〜というより酷くないかい??お義父さん♡」
    「その呼び名をやめろ。許可した覚えはないぞ」
     果たして本人不在での養子縁組は出来るのだったか、と疑問に思ったが、どうせ美人と鯖人のことだ、金でも積んだのだろう。ついでに鯖人のことを覚えていたからこそ、りんねに話が通っていたと錯覚していた可能性もありそうだ……六文と同じ誤解をされていやしないだろうか??

    「まぁ、あの時からそこまで時間は経ってないしな。架印の中でおれたちが親子である認識が未だに続いていたのだろう」
     ごと、と荷物を落とす音がした。彼は、珍しく呆然と言った表情を浮かべている。
    「変わったねぇ…」
    「なにがだ」
    「いいや、知らなくてもいい」
     あの頃のりんねならば、100年間をそこまでとは言わなかったはずだ。


    「でも、パパがいると六文の教育に悪いんじゃないか?」
    「それはそうだな…。すまん六文、ある程度こいつがこっちでの生活に慣れたあたりで母屋の方に行ってもらうことになるかもしれないが、大丈夫か?」
    「はい!りんね様!寧ろぼくとしてはりんね様の方が心配です……。また連帯保証人にされたり勝手にカードを使われたり勝手に家財道具を質に入れられたりするんじゃないかと……」
    「今のぼくがそれをやるメリットが無いから大丈夫~。カードは使うけどね」

    中略

    「やぁ、おかあさま。お久しぶりです」
    「…………」
     鯖人の顔を見て、彼女の不動の笑みが、少し崩れた。魂子のこのような表情は、随分久しぶりに目にした気がする。以前、死にかけたりんねに見せた表情とよく似ているのだが、逆に言えばその時以降、見た覚えが無い。
     あの時のりんねは、知り合いの人間が全員寿命を迎えてしまったことで、少し自暴自棄になっていた。寝食を忘れて賞金首悪霊脱走霊浮遊霊地縛霊――なんでも良いとばかりに浄霊に没頭し、暇があれば最寄りの知人の墓地を尋ね、ついでに時間がありそうならその場で仮眠を取る。そんな人であったら数日で過労死、死神でも数日で値を上げる生活を繰り返し、最終的に体が動かなくなって倒れていたところを、心配して探しに来た六文に拾われたのだ。高校生の頃の生活と(睡眠時間が浄霊時間に変わったという点を除けば)似たようなものだろうと思っていたが、六文に泣かれて、嗚呼、これは駄目だったのだな。と漸く気づくことが出来た。

    中略。思いつかない。


     あまりにも魂子が固まってなにも言わないものだから、つい自分のことが見えていないのかと鯖人が動揺して奇妙な行動に出始めた。
    「そんな奇怪な動きをしなくても見えてるわよ。数日前からヤケにりんねの挙動がおかしくなったと思ったら……。入りなさい。ヒトの身を外れた化生を、現世に強制送還してあげるほど、私は優しくないわ」
     一瞬見えた赤い瞳は、忌み物を見るような、人の業を憐れむような、何よりも、家族間でしか見せないだろう複雑な心を折り重ねた、そんな色を宿していた。きっと、りんねには見えない何かが見えているのだろう。

    「そういえば前世の鯖人様って、結局いつ亡くなられたんですか??」
     空気が凍る。りんねの顔は引き攣り、魂子は――顔に表情が出ないからよくわからない、鯖人も――笑みを崩さないからよくわからない、黒星は――若干お茶を持つ手が震えている。そういえば、昔から、誰もが聞きにくいと思っていたことを無邪気に聞くのは六文であった。
    「ストレートに聞くね~。多分皆の思ってる時で合ってるよ?」
     思っている時、というのは、彼の失踪時期のことだろう、つまりは、苺の結婚式の直後のことであった。
    「どうして…!!自分の結婚式の直後におまえが失踪したと聞かされたおふくろの気持ちを慮れなかったのか!ああいや、おまえにそんな良心なんてなかったのは知っていたが」
    「いやいや誤解だよ。あれは純然たる事故だったんだ」

     あの時の鯖人は、茫然自失という言葉が似合うほどに弱っていた。苺と乙女が異なる生き物であることを理解していても、やはり、彼女が自分以外と結婚してしまうということは、どうにも苦しかった。浮気でも不倫でも無いし、このことを伝えてくれたりんねにも「言っておくが女性関係最悪な自分のことを棚に上げておふくろに何か言おうものなら軽蔑するし親子の縁を切るしおふくろには忘れ玉を飲ませるからな」と、脅されていたものだ。
     そんな状態で三途の川の近くをフラフラと歩いていたものだから、間違えてやり切った入場口に迷い込んでしまうのもおかしくはないことで、「いやおかしいだろ。真宮桜も迷い込んでいたが、そんなホイホイ迷い込んで良い場所では無いはずだ」、まぁおかしくはなかったのである。多分あの世の配置が悪いので、文句は命数管理局に言おう。
     そうして、そのまま流れで輪廻の輪に吸い込まれてしまい、なすすべも無く転生してしまったのだ。ある意味、運命の相手と同じ最期を迎えられたあたり、お揃いを喜んでもいい気がする。

    「いや、何となく察しはついていたが、なんというか、輪廻の輪って、そんなに簡単に事故るんだな……。両親揃って事故死となるとおれも相当警戒した方が良いのだろうか」

     地獄行きだろう彼が転生していた時点で察していたとはいえ、直接に聞かされると少し恐ろしくなる。そして、輪廻の輪による転生事故でその生を終えたと聞かされた魂子も、若干笑みをブレさせている気がする。無理も無い。
    「そういや、事後処理とかどうなったんだい?」
    「おれのことなら、お前が失踪したことで借金の取り立てがそれはもう地獄絵図かというくらい襲いかかってきて、人生で2番目くらいに命の危機を感じたぞ。カンパニーの方なら、張り切って恨みを持つ奴らが解体していたな。れんげと美人秘書のバトルはそれはもう見栄えがしたとかなんとか」
    「え~、潰れちゃったんだ、残念。りんねが継いでくれれば良かったのに」
    「継がんわ!それどころか、おれはおふくろのメンタルケアと借金取りからの逃亡で手一杯だったから関わってすらいない。話だって全部鳳と沫悟くんからの伝聞だ」
     鳳は姉の繋がりで、沫悟は"死神一高出身&性格に難はあるがその分トラブルになることがなく浄霊の腕も優秀!"という謳い文句で、過去に苦い経験が多々ある美女からの支持を中心にそこそこ活躍しているベテランであるからして、現場に居合わせていたらしい。
     具体的な流れとしては、こうだ。
     美人経由で鯖人失踪の報を受けた鳳が、命数管理局――というよりはなんやかんや腐れ縁が続いていた上にカンパニーの場所を知っているであろうれんげにたれ込み、それを聞いたれんげが架印を誘った上で、当然覚えていた道でカンパニーに向かい(架印には以前潜り込んだ時に通った道がまだ生きていたようで良かったです!と誤魔化した)、ドクロ爆弾と爆竹と積年の恨みが詰まった特殊な爆弾と諸々でもって、半強制的に乱闘に持ち込んだ。そして、乱闘が始まってから数分過ぎたあたりで、馬鹿な堕魔死神が命数管理局に逃げ込み(勿論その場で逮捕された)、自体を知った管理局から幾人かの死神に通達が行き、沫悟ら数名が派遣される。尚、美人とれんげの決闘は、口を滑らせかけた美人に殴りかかったらそのまま殴りあいに発展しただけなのだが、あまりにも他の堕魔死神摘発が呆気なかったものだから、消去法的に見せ場になったらしい。一度は美人も逮捕されたが、実家が法外な額を詰んで無罪放免となったという。
    「その功で、命数管理局組は臨時ボーナスが贈呈された上で二段階昇進したとのことだ」
    「……え、何、死んじゃったのかい?」
    「功績と言ったはずだが」
    「いや二段階昇進は殉職じゃないかな……」
    「そもそもの話として、馬鹿しかいない堕魔死神カンパニーを滅ぼすことで命の危機を覚える死神はそうそういないだろう!その時点で最も命の危険があったのはおれだ!」
     主に借金取りからの、支払い能力がなさそうだから命の火で払えという理屈で。いつぞやかの時に、同様の理屈から命の火を抜かれる経験をしていたおかげで対策が出来たことは、架印に感謝したい。ああそれと、命数管理局に逃げ込んだときにかくまってくれたことも。まさか初対面で殺しに来た男が匿ってくれる日が来るとは思わなかった。曰く、「六道りんねの人間としての寿命はまだ残っているから、見殺しにするのは死神としての規程に反する」とのことだったが、自分も過去に同じ事をやってはいなかったか。……命の火騒動、さてはちょっとつつかれたら黒になる可能性も秘めていたのでは?
     今や唯一の肉親となった可能性もある孫が必死に逃げ回る姿を見て、さすがに黙ってはいられなくなったのか、魂子が帳消しまでは行かなくとも、返済期限の延長やら何やら手を尽くしてくれたらしいし、やり過ぎた借金取りには私刑を加えていた。
    「そのせいでゴールドライセンスになった後も永遠に借金地獄だったからな!プラチナになった時にはギリギリ、本当にギリギリ潔白な身の上となれていたが」
     一応言っておくと、地獄にある方の借金地獄では無い。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏💴👏👏👏😭👏👏👏👏🙏🙏🙏💯💯💖💖💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ひらい

    DOODLEれんげの友達になれたかもしれなかった少女の話。
    100%捏造。
    若干文章の繋がりが雑だけど読めるはず……。

    この彼女は、あくまでもれんげの思考への最後の一打にはなったし、友人になれるかもしれなかったという点で大事な思い出でもあったけれど、割り切った以上、もう思い出すことはない。
     霊の視える少女に打算込みで声を掛ける、ずっと前のこと。心から友人になれるかもしれないと思えた少女がいた。

     堕魔死神高校に入学して、何をすれば良いのだろう、と疑問に思っていたのも数日の話。現世の高校に行って男子生徒の魂を集めるように指示が与えられるまで、そう長くはなかった。
     命じられたのは、男子の魂を根こそぎ奪うだけの簡単な仕事。自分の顔が整っていることは紛うことなき事実であるし、それを利用するだけでタダで仕事がこなせて学習の機会も得られるのならば、それを断る理由なんてない。カンパニー本社に籠ってくだらない世間話に興じている同級生を横目に、単身現世に発った。

     やり口がやり口であったので、当然女子には疎まれて、友人の一人もできやしなかったけれど、図書室も自習室も無料で好きなだけ使えるのだから、プラマイゼロどころか大幅にプラス寄りである。
    3076

    ひらい

    DOODLE乙を失ったから生きる理由はないけど、死にたい訳ではないし実際死ねない鯖人の話。
    書きたいところだけ書いたので時系列がすぐ飛ぶ。
    生死観諸々100%捏造。
    希死念慮は含みませんが、OD自傷行為心中未遂(相手死亡)を含みます。
    病んでるって括りたくないけど多分病んでる。
    CP要素は前提鯖乙のみ
    地獄はまだ遠い 元から、生命の意味だとかそういったものに深い意味を見出すタチではなかったけれど、彼女に対して抱くこの思いは、きっと生きる理由というものになるのだろうと、それくらいは人並みに思っていたのだ。
     だって、彼女との出会いは運命で。適当にしていても何不自由なく暮らせる程度には家庭に恵まれていた為に、ただ呑気に暮らしていた自分が、ようやっと世間一般で言うところのまともな仕事、だとかそういった類の方向性に向かおうと思えるくらい、鯖人の人生は彼女の存在で変わったのだ。
     けれど、これからという折に、彼女は一切の理由を告げることなく姿を消してしまって、自分の殊勝な心掛けは、瞬く間に三途の川に流された。

     なぜだか写真も全てが失われていたから、彼女の存在を証明するものなんて、忘れ形見の息子と、自分と両親の記憶だけ。河原で見つけた履き物や、着用していた衣服は、彼女の遺品と言えるだろうけれど、それは存在証明には繋がらない。せめて、ライセンスでもあれば、顔写真が残っていたのにと思ったけれど、それを質に入れたのはまごうことなき自分自身だ。生まれて初めて、質に入れなければ良かった、だなんて後悔を抱いた。
    3373

    recommended works