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    さんど@みりぺん。

    主に小説用です。わんくっしょんなど必要なもの。
    心の広い人向け。雑食、雑多です。
    ※絵も稀に出すかもしれません。
    無断転載・転用・利用及びAI学習はご遠慮下さい。自作発言NG。

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    POIPOI 42

    ワンドロお題「スイカ(の日)」お借りしました。
    さねげん
    ※現パロ
    👹学同様🍃→教師、🍉→生徒ですが同僚等周りが違う/捏造472川きょうだいかつ家庭内/一部👹学ネタあり/🍉君幼い一人称変化捏造あり/やはり甘く柔い兄ちゃんです
    何でも許せれる人どうぞ

    先約証明はサイン一つ。「お届けに来たぞ!サインを頼む!!」
    「はい、今向かいます」
    「受領印は此方だ!!!」
    「ちっか!!!??」

    照りつける日の光に負けじと鳴り響く蝉の声。インターホンにドアを開けると大自然の騒音に打ち勝つように声を張り上げる配達員がいた。派手な髪色にずいと寄られる顔面。差し出されたボールペンを受け取って玄弥は受領印にサインを行う。
    夏休み真っ只中。仕事が休みで昼食作りに忙しい母と兄の代わりに荷物の受け取りに来てみると当たりがいいのか悪いのか特殊な配達員が今回の配送だったようだ。

    「うむ!確認させて頂いた!!此方のお荷物は冷蔵便ゆえ早めに保管をお願いする!
    それでは御免!」

    わっしょい!わっしょい!
    祭りでもないのに配達員は掛け声をあげながら去っていった。暑い夏の空気が更に燃え上がったような気がする。じんわりと滲む汗。ずっしりと受け取った荷物の重さに視線を向けると品物名を見て玄弥は大きく目を開く。瞳孔が大きく、丸く広がっては口元が緩むのがわかった。

    「母ちゃん!兄ちゃん!お前ら!!スイカ!!スイカ来た!!悲鳴嶼さん所から!!」

    玄関から離れた台所まで届くよう声を張りあげる。まだお昼ご飯には間に合うだろうかと早足で食卓へと向かった。


    人数分の食べ物を綺麗に切り分けるのは兄の仕事だ。高校の数学教師をしている実弥の特技は目視で寸分狂わず均等に切り分ける包丁捌きである。
    今回も母を含めた弟妹達人数分を切り分けて喧嘩する事なく全員がスイカにありつけた。

    「良かったね玄兄。悲鳴嶼さんのスイカ、ずっと待ってたもんね」

    にひひと弟妹の中で玄弥に一番年が近い寿美が笑う。弘とことは昼食のそうめんをおかわりしたようで薄まった麺つゆを継ぎ足すのにどちらが先かと言い合っていた。そんな二人に末っ子の就也の面倒を見つつ貞子がガキと一言咎める。
    ほら順番だからと玄弥も一声かけてから寿美へと向き直った。

    「悲鳴嶼さんとこが一番甘いからな。毎年楽しみだよ」
    「もうお中元のようなものやねぇ。
    母ちゃんからもお礼言うけど、実弥、あんたからもお礼言っといてな」
    「あいよ」

    おかわり分も茹で終えて一度シンク周りを片付け終わった母、志津が着席する。弘達育ちさがりの面倒を見る為、先に座っていた実弥はもう昼食とスイカを食べ終えていた。志津の小鉢を実弥は持ち上げる。どちらが長く啜れるか同時に食べる弘とことから麺つゆを取っては小鉢に流し入れて志津へ手渡した。相変わらず優しく家族思いな兄に玄弥はふふっと小さく笑いを溢して念願のスイカを一口食べた。塩をかけずとも甘い果肉はやはり毎年美味しいものだ。

    「スイカと言えばやねぇ」

    母がぽつりと思い出したかのように呟いた。

    「実弥も覚えとるやろ?玄弥が文字を書けるようなった頃。あれかぁいかったなぁ」
    「あれは忘れらんねェなァ」
    「え!なになに!玄兄何したの!」

    まだまだやんちゃ盛りのことが話題に食いつく。一番上の兄は父を亡くした不死川家にとって最早大黒柱の役割も担っているので思い出話となると母同様に豊富なネタがある。
    また始まったか…とやっぱりスイカへ塩をかけようと玄弥は手を伸ばす。

    学校では厳しいものの、家の中では優しい兄は未だに玄弥の事を可愛いと言ってくるのは家族周知の事実であった。もう高校二年生。17歳、180cmの体躯に来年には成人を控えているのに、だ。長期休みとなり、家族の時間が増えるとそう言った思い出話は増えるものだが果たして今度はどんなものが出てくるのか。
    散々可愛いと実弥から言われ続けているのでちょっとやそっとじゃ動じないぞと玄弥は意気込む。

    「なに?俺、スイカになる!とか言ったの?」
    「それはスイカの種噛み砕いた時に腹から芽が出るぞって俺が言ったら、次の日トイレで踏ん張ったけどよぉ、スイカの種出てこなくて゛にいちゃん!げんがスイカなってもきらいならないで!゛だったなァ」
    「玄兄変わらな」
    「なかよしさんだ!」
    「……貞子、就也ヤメテ」

    玄弥の予想よりちょっぴり上をいくエピソードだった。実弥が可愛いと言う思い出の中の玄弥は大抵゛兄ちゃん大好き!゛で構成されている。思春期は過ぎたものの、成人、果ては社会人を控える身としてはこのエピソードは恥ずかしい。スイカ同様に玄弥は真っ赤になった顔でしゃくしゃくと小さくスイカを齧り続けた。
    志津はそんな面々の様子を見つつ、そうめんを食べ終わり、スイカを手に取って言った。

    「さっきサインしたやろ?あれなぁ、玄弥。初めて受け取りした時になぁ、名前じゃなくて゛すいか゛って書いたんよ」
    「はぁ!!!??!!俺知らねぇけど!?!?」

    思わず吹き出しそうになったスイカを何とか飲み込んだ玄弥。立ち上がる勢いで声を荒げる。玄弥の様子に弟、妹達が一斉に笑い出した。やれ今日のサインは大丈夫か?や名前書けた?など面白がっている。そらそうだァと余程幼い時の思い出なのか頬杖付きながら実弥は玄弥を見て懐かしむように微笑んでいる。

    「あれ兄ちゃん欲しかったんだよなァ、けど配達のあんちゃんがダメだってよォ」
    「実弥は玄弥の作ったもん全部欲しがったもんなぁ」
    「終わり!!もう終わり!!今日は俺の名前書いてるから!!というか今書かねぇし!!」
    「いやーーー玄兄変わらなくね?あれなんだっけ弘兄」
    「三つ子が百人いるやつ?」
    「三つ子の魂百までだ。お前ら宿題しろォ」

    兄を揶揄ういい話が聞けたとよく悪巧みをする弘とことのコンビが何かを言っていたが、兄の一声にはぁいと渋々従って昼食を下げる。続いて寿美、貞子と就也と続いて゛弘達の宿題見てくと一声かけつつ、玄弥の頭をくしゃりと撫でて実弥が立ち去った。
    癇癪はもう起こさなくなってきたと思っていたがこれでは逆戻りだ。まだ赤い顔のまま唸る玄弥の耳に届く志津のご馳走様。
    皿洗いは玄弥の当番なので気持ちを切り替えようと顔を上げた時、また志津が思い出したかのように言葉を続けた。

    「玄弥、あんた今年で18やろ?あん時のサインどうしたん?」
    「え、なに?何のサインの事言ってるの母ちゃん?」

    覚えとらんの?という志津の言葉に記憶をひっくり返すが思い当たるものはなかった。皿洗いでもしていれば思い出すだろうかと志津と並んで立って作業をしているも一向に思い出せずうんうんと唸る。シンク周りを綺麗にした志津がきゅっと水を止める音が耳に届き、玄弥は我に帰った。

    「あと半年やから心決めとき。あの子は本気よ。母ちゃんは反対せんから」
    「ねぇホントに何の事言ってる母ちゃん????」

    本当に本当の何も心当たりがない。更に志津の様子が茶化すようなものではなく思わず怖気付いてしまう。あの子って誰。あの子がいてサインしたって何。俺は約束でもしたのか??と最早、冷汗が滝のように流れ出す勢いだ。

    「玄弥、毎年頼まれて撮ってる写真あるやろ。写真立て見てみ」

    母ちゃんこれ以上は助言出来んよとエプロンを外して志津は就也の昼寝の付き添いの為、去っていく。とんだ夏休みの真っ昼間から一大事になってしまった。

    玄弥は頭を抱え天井を仰いでいる。


    就也と共に寝てしまった志津へタオルケットをかけてから玄弥は目的の場所へと向かう。寿美と貞子は課題図書を探しに図書館へ、弘とことは元気にプールに行くとの事で実弥が付き添いで出ていった。実質、家の中にいるのは玄弥一人なのだ。

    「兄ちゃ〜ん…いねぇよな…?」

    控えめにノックをしてお邪魔しますと居室に入る。何度も入り浸っては勝手知ったくる部屋ではあるのに思わずそろりと抜き足になってしまう。忙しなく辺りを見渡して部屋の主がいない事を再度確認し、玄弥は深く深呼吸すると共に胸を撫で下ろした。

    『玄弥、毎年頼まれて撮ってる写真あるやろ。写真立て見てみ』

    志津の言葉が指していたのは実弥と玄弥とのツーショット写真だ。
    実弥は明確な誕生日プレゼントを望む事が少ない。家族がいるなら、祝ってくれるならそれでいいと言う。写真を撮って思い出が増えればそれで満足だと。
    それでは納得できないと小さな頃の自分は癇癪を起こしながら兄に欲しいものはないか問い詰めた事があった。幼い記憶だが、これは忘れていない。すると今まで求めなかった兄がぽつりと言ったのだ。

    『なら誕生日は毎年、玄弥と二人だけの写真も撮りたい』

    出来るならずっと、と。
    当然、互いに実家通いかつ家族の誕生日は毎年祝っているので17年間、通算17枚ごと全てのツーショット写真は残っているはずだ。
    実弥の部屋の家族写真が集まった写真立てコーナー。真ん中は家族の集合写真だが、玄弥から見て右奥の写真立てには件の、最新の写真が挟まっている。

    「(特段、別に何もねぇけど…)」

    手に取って回してみても写真は変わらない。顔の高さまで思わず上げて見てしまう。互いに肩を並べれる程になった身長の実弥と玄弥が笑ってる写真だ。写真を撮った時の事を玄弥は思い出して指の腹で写真の上から実弥を撫でる。

    「あれ?」

    中央部に厚みがある。指先で感じた凹凸に写真立て内には一枚だけの写真が入っているのではないのかと疑問が思い浮かぶ。何かが入っているのか。
    兄ちゃんごめんと心の内で謝って玄弥は写真立てを裏返し、中身を開いた。
    予想通りで一枚、古びた紙が入っていた。写真立てに入りきれるよう折り畳まれた紙を丁寧に開けて。

    玄弥は思い出す。



    「にいちゃん!にいちゃん!みてみて!」
    「玄弥!もう名前書けるようになったのか!」

    流石俺の弟!玄弥はいい子だ!と嬉しさのあまり実弥は力強く玄弥を抱きしめた。げんいいこ!やったぁ!とご機嫌に笑う弟に兄はひたすらに顔を綻ばせていた。
    一つだけ悔しい事があれば、゛さねよりげんよりすいか゛が先だった事、かつ、記載した受領書が貰えなかった事だろうか。
    こげんと書かれた紙は絶対に受け取って、更に今度は自分さねを書いてもらおうと画策している兄を腕の中の弟は気づいていなかった。

    「ねぇにいちゃん」
    「なんだ玄弥」

    腕の中から顔を出す玄弥。下から実弥を覗き込む顔は所謂上目遣いで、くりくりとした大きなアーモンドアイの目がまた可愛らしい。思わず額同士を擦り合わせるとじゃれあいだと思ったのかきゃーっと楽しげに声を出す玄弥がいた。

    「じぶんのものにはおなまえかきなさいっていうけど、げんはどこにかいたらいいの?」
    「玄弥は何に書きたいんだ?」
    「にいちゃん」

    思わず゛えと実弥は返した。
    にいちゃんと繰り返す玄弥に実弥は己を指差して確認するとこくりと小さく頷く。

    「げん、にいちゃんのおとうとでしょ?にいちゃんはおれのにいちゃんだよね。いや?」
    「嫌じゃねぇよ。むしろ当たり前だろ玄弥。
    兄ちゃんは玄弥の兄ちゃんだし、玄弥は兄ちゃんの弟だ。
    …どうした?きょうだいが増えるから不安になったのか?大丈夫だ、兄ちゃんにとって可愛い弟は玄弥に変わりないから」

    不安げに揺れる弟の頭を安心させるように優しく撫でてやる。頭頂部に残る髪はふわふわとしていて、生まれた時から変わらず触り心地が良かった。
    それでも不安なのか今度は玄弥が実弥に抱きついた。ぎゅうと小さな両手を一生懸命に広げては力一杯に抱きしめている。

    「にいちゃん、いつかけっこんするんでしょ。
    そしたらげんたちのところからいなくなっちゃうじゃん。だからおなまえかけばいいっておもった」

    幼い故の不安だった。恐らく保育園で結婚に関わる何かを知ったのだろう。
    そんな事ある筈ないのにと、実弥は胸の内の想いを秘めながらひたすらに可愛らしい弟をまた腕の中に閉じ込める。

    「玄弥。げーんや。兄ちゃん好きか?」
    「うん!いちばんすき!」
    「お袋よりも?」
    「だいすきなのはにいちゃんだけだよ!」
    「俺もだぁい好きだ玄弥。
    ーーなぁ、名前書く方法。あるんだぜ」
    「ほんと!げんかくよ!にいちゃんのぶんも!」

    ちょっと待っててなと額を合わせ顔を近づけてはとびきりの笑顔で実弥は笑う。頭を一撫でされた手はひたすらに優しいものだった。そんな二人を志津は少し離れた所から微笑ましく見守っている。自由帳の一枚を切り取って、最近使い始めたボールペンを持ち出し実弥は玄弥の元へ戻ってきた。
    名前を書くんだなと思った玄弥が得意げに鼻を鳴らしながら近づく。

    「まだダメだ。玄弥はいい子だから待てるよな?」

    シィッと自分の口元へ人差し指を立てて実弥はただただ楽しそうに笑った。まてるよ!と言いたげに玄弥も同じ行動を模倣する。
    紙の上を文字が流れていく。綺麗な兄の字を見るのが幼い玄弥の楽しみの一つでもあった。

    「待てて偉ーい玄弥はここにも自分のお名前、書けるもんなぁ?」
    「うん!げんいいこだからかけるよ!
    …でもにいちゃん、これなんてかいてあるの?しらないかんじはよめないよ」
    「わかってる、わかってる。兄ちゃんが呼んでやるからな」

    さぁこっちだ。おいで玄弥。
    兄に招かれるまま玄弥は彼の両足の間にすっぽりとおさまった。後ろから実弥の手が伸びてきて、玄弥の眼前には自由帳の一枚が現れる。
    紙面に埋まった内容を読み上げる実弥の声と17歳の玄弥の声が重なり合った。

    「「婚約・兄弟証明書。不死川実弥と不死川玄弥は互いに唯一の兄弟である事を約束する。
    唯一の兄弟を証明するため、証明書を作る。
    兄となるもの:不死川実弥
    弟となるもの:げんや」」

    にいちゃんあたまいいからむずかしいこともしってるんだねと言葉を続けながら、実弥が指差す該当部分に玄弥は名前を書いた。思い出した。初めて触ったボールペンに瞳を輝かせてはその後の言葉を、当時はよく理解していなかったのだ。

    「「またこの証明書は婚約の役割も果たす。
    夫となるものを兄、妻となるものを弟とする。
    兄は弟が18歳になったら迎えに行く事」」

    兄の字には到底及ばないが一番綺麗に書けたのではないか。得意げに鼻を鳴らして幼い玄弥は実弥を見上げた。

    「これでげんはにいちゃんので、にいちゃんはげんのだね!おなまえかけたね!」
    「そぉだなぁ玄弥。互いに互いのって名前かけて嬉しいなぁ。
    これは大事な証明書だから兄ちゃんが持ってるな」
    「なくしちゃこまるもんね」

    綺麗に折り畳まれていく証明書。
    実弥からの言葉を幼い玄弥は純粋な思いで受け止めている。抱いていた不安が解消され、安心感で包まれれば、その心持ちは嬉しさでいっぱいだ。

    「げんのにいちゃん!」
    「さねの弟だ」

    ぎゅうぎゅうと兄を抱きしめれば同じように抱きしめ返してくれる。折り畳んだ証明書を傍らに置きつつ、両側面がつるりとした卵形の弟の頭を撫でる。優しく何度も撫で、両の手で撫でる頃には頭から後頭部ではなく顔の輪郭を撫で下ろしていた。玄弥の両頬を挟んで持ち上げると不思議そうな顔をする弟。兄の顔が蕩け出す。

    「可愛い玄弥。18まで待ってな。
    絶対迎えに行くから。誓ってやる」

    忘れたって思い出させてやるから。
    額に、瞼に、頬に。
    鼻頭は軽く甘噛みされ、そうして唇へと落とされるキスの数々は祝福のようだった。
    くすぐったいよにいちゃんと玄弥は笑って兄の胸へと擦り寄った。



    「……ぁ、〜〜〜…っ!!!!!」

    首裏がひりついた。吹き出す火を治めようと両手で口元を覆う。顔に集まった熱。早る心臓。癇癪を起こすかと叫び出した声は予想に反して弱々しいものしか出なかった。

    何故こんな大事を忘れていたのか。
    いいや違う。忘れていたのでは無い。

    慣れすぎてしまった。当たり前となってしまっていたのだ。

    兄に可愛いと言われる事。可愛がられる事。
    共に写真を撮る事も。過ごす事も、離れられない事も。

    そうして思い出した今ですら、嫌悪などなく、むしろその先の未来を想像し、幸せな気持ちに包まれている事実が玄弥の鼓動を早めている。

    「ばか、バカタレ…ッ」

    こんな隠し方があるだろうか。
    記憶というのは難儀なもので一つ思い出すと連鎖するように様々な思い出がふつふつと浮かび上がっていく。
    物よりも玄弥と共に過ごす時間を欲しがるようになった実弥。独り占めしたいと腕の中に一日中閉じ込めるんじゃないかという程、一緒の時もあった。二人きりだと頭を撫でる手はひたすらに優しく輪郭を添い、顔は何度も実弥へと向けられる。蕩ける出すような甘い笑みに幾度女子が黙ってないだろと言ったか。挨拶変わりの唇以外のリップキスだってザラではない。兄ちゃんの彼女さん、出来たら幸せモンだね。今の俺が幸せだからと墓穴すら掘っている。行き過ぎた兄弟のスキンシップとも言える範囲で彼はずっと隠し続け、かつ、囲み続けてきたのだ。

    「俺ぇ…っ」

    震える手で何とか綺麗に証明書を折り畳み直す。写真立ては落として割れてしまうと証拠が残ってしまうので、細心の注意を払いながら、元の場所へと戻した。ことんと小さく揺れたが倒れずに真っ直ぐ立ち上がる。

    昨年度、玄弥が17歳の誕生日の時の事。
    いち早く18歳の誕生日を祝う権利をくれと言われていた。独り占めかよと茶化して笑うと成人式も控えてンだから先約入れとかねェとなァと返答した兄がいた。
    ベッドの上で互いに座って玄弥を後ろから抱きしめてはやたら左手を握り込まれる。指を絡めて親指などで各指が懇切丁寧に撫でられた感触はまだ残っている。なんならと思い返す記憶の兄は今年に入っての数々のスキンシップ中、同じような行動を繰り返していた。

    写真立てコーナーの台座に手をついて項垂れた顔。ゆるゆると力なく視線をあげるのに合わせて己の左手首を右手で握る。
    視界に映った左手へ、記憶の中の兄の手がじっくりと薬指を撫であげていく。
    今ならわかる。その行動が。
    まるで、それは。

    「うぁーー…っ」

    サイズを確かめているのだと。
    玄弥は台座に両手をついてずるずるとついに崩れ落ちた。母の言葉が、兄の行動が全て己に降りかかる。

    「こんな宿題、出すなよなぁ…っ」

    渡されるのは多分、いやきっと指輪で間違いないだろう。
    確実に着実と囲いに来ている兄との攻防はあと半年の期間しかない。迫る実弥からのプロポーズに決まりきった答えを期日までいかに隠そうか。

    成人前、最後の夏。
    大きな大きな宿題を玄弥は抱える事となる。




    (ちょっとした補足
    472きょうだい順
    🍃→🍉→寿美→弘→貞子→こと→就也
    🍉君の一人称゛げ呼びは年長さんの時から段々なくなっていき、小学校に上がった時には゛俺゛になって一度お兄ちゃんげん呼びを強制する事あり。喧嘩の挙句🍉君が大癇癪を起こしたので同じ轍は踏まないと兄ちゃん決意。🍉君が中学に上がった頃゛兄ちゃか兄貴゛呼び変更時は逆に二人きりの際に甘やかす作戦を取って家の中での呼び方を定着させている。
    母ちゃんは昔から手のかからない兄ちゃんだったが🍉君が物心着く前の幼い頃に、🍉君の事になると唯一駄々を捏ねる兄の姿を見てきてるので止めても言っても多分今と同じ道をいくだろうと初めから悟っていた。その分、周りから口出しや攻撃されないよう、されても守れるように立派に育った兄とそんな兄を追いかけてきた弟を見てきているので二人ともどこに出しても恥ずかしい事なんて何もないマインド)
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    Replies from the creator

    さんど@みりぺん。

    PASTワンドロ・ライお題:「甘い」をお借りしてます。
    さねげん
    ※前置き
    お題・蜂蜜、デコレーションで書いたとなりのさねみさんの続きもの
    前回より友好度や時が経ってるイメージ/記憶・傷なし他人軸
    限界社畜甘党リーマン🍃さん×怖いもの知らず大学生🍉君
    ※匡i近さんの話出ますがそれについてはまた別の話かいつかで
    何でも許せる人向けです。以上がよろしければどうぞ
    となりのさねみさん:ダブルケーキのさねみさん十二月の年の瀬。
    クリスマスや年末年始で賑わう月。
    特別なお祝い事が続くイベントが多い月。

    「クリスマス?いや何言ってんですか。遊びませんよ。めっちゃ掻き入れどきですもん、クリスマスケーキのバイト」

    …が、世間一般の印象の筈だが、どうやら目の前の大学生は違う認識のようだった。はぁ…とため息をついて実弥は続ける。

    「ダチと集まるとかあるだろ」
    「いやねぇっす。毎年バイトなの知ってるんで。
    ねぇです」

    卵の賞味期限が切れそうなので消費を手伝って欲しいと作ったオムレツを頬張りながらはっきりと玄弥は告げた。潔すぎる返答が疑う必要性すらもないと物語っている。互いのオムレツへケチャップにて実弥が玄弥へ上手に描いてやった猫は容赦なく真っ二つになっていた。腹立たしくなった実弥もまた自分で描いた熊を真っ二つに切り分けては大きな口を開けて頬張った。
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    さんど@みりぺん。

    PASTワンドロ・ライお題:「プレゼント」をお借りしてます
    さねげん
    ※前置き
    🎃の🧙学校イメージ/妖精の🍃さん/他人軸
    家族の両親は志i津さんと恭i吾さんでまだいい父ちゃんしてる設定、弟、妹達も原作と同じイメージです
    何でも許せる人向けです。以上がよろしければどうぞ
    ドロップスノウ「俺が生まれた日ってどんな日だったの?」

    玄弥はミドルスクールの宿題を両親へ問いかけた。冬生まれの日付は知っているがその他はよく知らなかったのだ。

    「そうやねぇ。雪がよう降る日やったわぁ」

    しんしんと周りの音を吸収していくような静けさだったと母は小さく笑いながら告げた。逆子だったが土壇場で正常の位置に戻り、難なくお産を終えられたらしい。ガキが面倒かけてくれるななどとぼやく父へ母はまぁまぁと宥めている。

    「雪かぁ」
    「玄弥は雪に好かれとうのかもねぇ」
    「毎年誕生日が雪で此方とら面倒しかねぇぜ」

    除雪に走り出す弟妹達。その全ての相手を務めるのが父だ。母は父へ感謝を述べつつ入れ直したココアを差し出した。軽く鼻を鳴らすも満更でもない父の顔は両親達が仲つむまじい証拠だ。子供へ厳しい父へ苦笑いをして玄弥もまたココアを飲みきり、ありがとうとご馳走様を告げて自室に戻った。
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