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    さんど@みりぺん。

    主に小説用です。わんくっしょんなど必要なもの。
    心の広い人向け。雑食、雑多です。
    ※絵も稀に出すかもしれません。
    無断転載・転用・利用及びAI学習はご遠慮下さい。自作発言NG。

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    POIPOI 42

    👹滅⚔️
    ※🎴🍉
    幼少期序盤ひらがな会話有/幼馴染設定/最終👹学あるも🍉君別の部活所属
    🍃さん出ますがモンペ父み強めブラコン。
    五感組有、👀ヲちゃんと🍉君のやり取りもありますが姉弟風味で書いてます
    ⚡️君と🐗がちょっとヤンチャしてます
    何でも許せれる人向け

    幼馴染の花壇「いっしょにあそぼーよー」
    「…いいよ、おれ、ここにいる」

    にこにこと笑って遊びに誘ってくれる。照りつける日光が彼と重なって眩しかった。彼は他の友達から名前を呼ばれている。元気よく返事をしてボール遊びへ向かう足が一度だけ此方を振り返った。

    「またね!げんや!」

    大きく手を振って蹴り飛ばされたボールを頭で押し返す。にぎやかに笑い合う彼らはいつも楽しそうだ。

    「…ん、たんじろ」

    聞こえやしない園庭の角。花壇には春先に植えた花々が咲き始めていた。小さくその背中に手を振り返して持ち場に戻る。チューリップの球根は新たな実を付けていて、花が今か今かと芽吹くのを待っていた。





    「さいた?」
    「いいやまだ」
    「そっか」

    すとんと隣にしゃがみ込んだのは最近入園したカナヲだった。彼女から見て右側にまとめられたサイドテールが揺れている。花の実は膨らんできているが、花弁が開くまでは時間がかかる様子だ。目の前にある花の茎に触れてから、ちらりと玄弥はカナヲを見て口を開いた。

    「おまえ、いつもここくるけどたんじろうたちのところいけよ。ここにきたときもさそわれてただろ」
    「うん…」

    同い年のお友だち。皆仲良くね。
    保育教諭の紹介の元、カナヲは玄弥達のクラスに入ってきた。真っ先に声をかけたのは炭治郎だった。誰に対しても人当たりよく、明るい炭治郎はクラスの人気者で友人も多ければあちらこちらへ引っ張りだこだ。
    今も少し離れた園庭では炭治郎が誰と遊ぶかを複数人が言い合っている。優しい炭治郎はまだ慣れていないカナヲも遊びに誘っていた筈だが、彼女は何故か玄弥の元へ来ていた。

    「でも、げんやのところもおちつくから」
    「……たのしくないとおもうけどな」

    カナヲと玄弥はただ花壇の花を眺めている。風に揺れる花々や虫が飛ぶ音、時折蝶々が彩りを差しては変化を与えている。

    炭治郎は保育園の人気者だ。それこそ彼とどうしても手を繋ぎたいと駄々をこねる女子や友人がいる程のものだ。そんな女子を見兼ねて゛おれはてをつなぎたくない。ひとりでいと突っぱねた玄弥とは違う世界の人物なのだ。
    同じ園の女子と手を繋がなくとも兄や妹が手を繋いでくれる。この先のどちらかの弟妹もきっとそうだ。それだけで玄弥は充分だった。

    カナヲは黙ったまま花壇を見つめていた。その頭頂部では着地を迷っている数羽の蝶々が見える。玄弥はぷちりと指で花の茎を切ってはカナヲの断りも効かずに彼女のサイドテールへ花を差し込んだ。カナヲが玄弥へ振り向くと彼が自分の口元に人差し指を当てている。同じようにポーズを取ると見えないが髪の毛に何かが留まる気配がした。

    「にあってんじゃん、カナヲ。せわいっしょにすんなら、こんどすきなはなやるよ」

    彷徨っていた蝶々が彼女の髪へ羽を折り畳ませて花の蜜を吸っていたのだ。


    チューリップの花が咲くのはまだ少し先。
    今日の当番は玄弥だ。雑草を抜いて水をあげる。カナヲの当番の日でも玄弥は花壇にいるのだが、そこはご愛嬌だろう。
    とある一区画も花開くのに時間を要しているものがあった。そこにはカナヲが欲しがったマーガレットが実をつけている所だった。あと数日で恐らくこの区画は花を咲かすだろう。

    「玄弥ー!!すまない!ボールいったー!!」
    「ん、」

    普段と変わらず元気な声が玄弥に届く。園庭へと振り返り、転がるスピードが失速したボールを難なく受け取る。駆け足で此方に向かってきたのは二人。炭治郎と蝶の髪飾りをつけたカナヲだ。カナヲは最近、同じ髪飾りをつけたアオイと仲良くなり、強気な彼女に連れ添う形で炭治郎達とも遊べている。よかったなと玄弥はほんの少し目元と口元を綻ばせる。

    「もうこっちに何度も転がしてくるなよ」
    「すまない。……玄弥、その」
    「――カナヲ、アオイが呼んでる。二人で行って来いよ」
    「玄弥…」

    炭治郎へボールを手渡すと懲りずに彼は玄弥を誘おうとした。玄弥は炭治郎と繋がったボールから手早く手を離してカナヲへと向き直る。名前を呼びつつ、服の裾をカナヲが引いてきたが園庭の、炭治郎達の輪に入る気がない玄弥はそっと優しく彼女の手を振り払った。

    「カナヲの花咲いたら教えるからよ」

    玄弥は゛じゃあと二人から背を向けて花壇へ向かう。遠ざかる足音に目を伏せる。

    一度だけ、炭治郎の誘いに応え、手を引かれた事があった。だが輪に入ろうとすればあの時、女子の手を突っぱねた玄弥を快く思っていない、怖がっている大半の目が玄弥に突き刺さる。

    『お前は竈門と手を繋ぎたいって女の子の為に譲ったんだろ?別に玄弥は悪い事してねぇよ。兄ちゃんが知ってるし、その分兄ちゃんが手を握ってやるから』

    兄の言葉はいつも心強かった。普段から自分がどう思われようと、兄と家族がいればそれでよかった。ただ、自分のせいで炭治郎に迷惑はかけたくなかった。
    炭治郎は人気者で玄弥と違う世界の人。
    優しくて、羨ましくて、憧れで。
    そして――

    「ぱ、パンジーだよな!!」
    「えっ」
    「その紫の、花っ」

    触っていた花の名前を当てられて振り返った。視線の先にはボールを持っていない炭治郎が何故か待ち受けている。カナヲにボールを渡したようだ。力一杯横に引き延ばされた口元に対し頬はほんのり赤らめており、炭治郎らしくない。

    「玄弥、俺、俺!あのな…!」
    「おい権八郎!!早くしろ!人数足りないだろ!!」

    炭治郎の言葉はまたも遮られた。言いかけたままの口が何か動くが園庭からは大きな声で炭治郎の名前を呼ぶ数が増えてきている。向き直ったままだと炭治郎は残ってしまうだろう。三度背中を向けて玄弥は後ろ手に別れを告げた。

    「――花の名前は合ってるよ。たんじろ」

    なんて事ない会話なのに、彼が同じ物を見てくれたのが嬉しかった。




    なんで、と思った。どうして、とも。

    綺麗に咲いたらあげると約束し、自分で育てていたチューリップも蕾が開き始め、あと少しで全て咲き切るはずだったのだ。

    「喜べ子分!伊之助様からの贈り物だ!!」
    「ちょ!!禰󠄀豆子ちゃん!禰󠄀豆子ちゃんは花輪の方がいいよねぇ!?勿論花束もあげるよぉ〜!!」

    いつもと同じく兄と寿美と手を繋いで登園。教室に荷物を置いて花壇に来てみたら、パンジーとマリーゴールドを中心とした花壇が足跡まみれになっている。
    目の前には炭治郎とよくいる伊之助と善逸、そして昼寝までぼんやりしている彼の妹の禰󠄀豆子の三人がいた。

    花の実だけが取られた花壇は無惨なものだった。カナヲとブロック状のレンガ脇から花と蝶を眺めていた頃が遠い思い出になりそうな程の。
    葉と茎だけ。足で踏まれて倒れたいくつかの花。
    呆然としている玄弥を他所に善逸と伊之助が動く。そこは、その場所は。

    「この白い花も禰󠄀豆子ちゃんに…」
    「まだ他のもあるのか!親分が取ってやるぞ!」

    カナヲのマーガレットと俺のチューリップの区画だ。

    「やめろ!!!!!!出てけ!!!
    テメェらのじゃねぇ!!」

    カッと血が逆流するような感覚が体中を駆け巡った。玄弥は衝動まま二人の後ろ襟を掴み、花壇から引き離す。力任せに引っ張った為、地面へと転んだ善逸が大きな声を上げて泣き始めた。何をするんだと同じく怒りに身を任せ、自分に掴み掛かってきた伊之助の前襟を掴み返す。

    「この花はテメェらのじゃねぇ!!!出てけ!!」
    「あぁ!?お前のモンでもねぇだろ!花壇ばっか見やがって弱味噌が!!」
    「っっっっ!!て、ンメェエ!!!」

    玄弥はあくまで掴み返しただけだった。軽く頭や胸元を叩く伊之助の攻撃を受けるのみ。そんな中、伊之助から出てきた言葉は玄弥の目頭と眉を力ませるには充分過ぎるものだ。

    花が嫌いな訳ではない。むしろ好きだ。
    いつも変わらず自分を受け入れてくれるし、育てればきちんと花を開かせて応えてくれるから。
    炭治郎に迷惑をかけたくなかった。周りが楽しそうに、カナヲや皆が笑っている空気を乱したくなかった。乱すくらいなら遠目から見ているだけで充分だ。
    だが本当は、叶うなら、叶うのなら。

    「(俺だって)」

    俺だって、炭治郎と。

    「やめろ!何してるんだ!!」

    力の限り握りしめた拳を掲げ、伊之助へ振り下ろす最中。
    一際大きい声へ我に返ったが時すでに遅し。顔に差し掛かった影。頭に走った衝撃。勢いのあまり体が地面を滑る。
    ガツンッと骨がうちなり合う音が脳内を巡っていた。眉と目を顰め、額に手を当てつつ玄弥は起きる。同じように地面へ転がっていた炭治郎も起き上がった。彼の周りには善逸と覚醒した禰󠄀豆子、その後ろにはその場で地団駄を踏むように怒る伊之助がいる。

    「玄弥!暴力はダメだ!!」
    「頭突きも変わらねぇだろ!!」

    竈門家は言葉通りに頭が硬いとは聞いていたがここまでか。立ち上がれない玄弥に対し、擦り傷こそあるも炭治郎はふらつきもなくまっすぐ立っていた。擦ったのか擦り傷が左おでこの生え際に見える。

    「それはすまない!!だがダメだ!!俺は玄弥を止める!!」
    「…っ!炭治郎、テメェ…ッ」

    直接的な暴力は炭治郎のお陰で未遂で済んでいる。だが弁解した所で善逸が擦り傷で大泣きした事、伊之助が憤慨しあれこれ言っている内容は周りに伝わっており玄弥の立場などどうにもならない。それでも約束したんだと玄弥は奥歯を噛み締める。

    「よく知らねぇで首突っ込んでくんじゃねぇ!その花は俺のだ!約束したんだよ!花開いたらやるって!横取りすんなぁ!!」
    「花…?」

    額を押さえていない反対側の手で土を握りしめた。拳を作って、叩きつけて。言葉だけでは収まりきらない怒りを土ごと炭治郎へ投げつけてしまう。
    玄弥の言葉に炭治郎が少し冷静さを取り戻す。後方へ振り返ると足跡まみれの花壇が写り、禰󠄀豆子の髪の毛に差された花と善逸や伊之助の手の中にある花を見て目を見開く。炭治郎と玄弥の様子に三者とも顔を青ざめたり、何かに気づいたように顔を顰めたりそれぞれ反応が見受けられる。青ざめた顔の禰󠄀豆子が玄弥を指差した。

    「お、お兄ちゃん!お兄ちゃん!玄弥さんが…!!」
    「え…?」
    「カナヲと…約束…した、ん、……あ?」

    音が痛みを伴って玄弥の頭の中で大きく鳴り響く。ゼリーか水をよく含んだ泥を持ち上げたような感触と一緒に暖かさを感じて額から手を離した。広がる赤に声が遠くなった。急に眠たくなってそのまま玄弥は倒れてしまう。
    言葉は聞き取れないが炭治郎の泣く声とようやっと事態に気づいた先生達、珍しいカナヲの泣き声が聞こえた気がした。




    ぐずぐずと小さく泣く声に揺れる暖かさが意識を浮上させる。白く柔らかい髪の毛が目に入り、それが何かすぐ理解した玄弥は顔を擦り寄せてぎゅうと強く腕を絡ませた。

    「にい、ちゃん」
    「おう」
    「ごめ、ん、ね」
    「玄弥は悪くねぇよ」

    まだ少し頭がぼんやりする。゛寝ちまいな。寿美ももう泣きやめ。玄弥兄ちゃん起きたからと玄弥を背負いながら実弥は器用に妹の頭を撫でていた。母と同じく安心できる大きな背中。暖かさにもう一度意識を手放そうとする。

    己の掌を反対の手で握りしめれば、手にも暖かさが灯る。保育園のベッドは広さも相まって冷たかった。だが、手だけは何故か暖かった気がする。兄が迎えに来た時にぼんやりと目を開けた記憶が過る。泣きながら手を握って、一緒に眠っていたのも、最後まで手を繋いでいたのも――

    「たんじろ…」

    実弥がその名前を聞いた瞬間、両拳を力の限り握り締めた。血走った目と浮かび上がった血管など背にいる玄弥は見る事など出来ない。


    兄共に体の丈夫さには自信があった。次の日にはけろりとした様子で゛かゆいからこれ外していいかな?兄ちゃと額のガーゼを取ろうとする弟。対しての兄と母はダメと強く言い、兄の剣幕に負けて玄弥は保育園を休む事となった。

    「玄弥が休まねぇなら俺、学校行かねぇし、休むなら俺も休む」
    「実弥、学校には行きなさい。お母ちゃん家におるから。玄弥も大丈夫やから。ね?」
    「……帰りの会終わったらそっっっっっこーーーかえってくらァ」

    先程に続いて兄の顔が一段と険しくなる。ずんずんと玄弥の元へ近寄ってくるが地震でも起こすのかという様子の大股で歩いてきた。

    「兄ちゃん、学校遅れちまう」
    「いいか玄弥。絶対、絶対ぇ、ずぇっっってェエエ竈門が来てもテメェは一歩も家出んじゃねェぞォ…!!」
    「もう実弥!子供の喧嘩に傷の一つや二つあるやないの!気にすぎよ」
    「お袋ォ!!玄弥絶対外に出さないでくれよ!!絶対だからなァ!!」

    ゛行ってくらァ!!゛と寿美の手を引いて兄は保育園に妹を送り届けてから小学校へ登校した。宣言通り、その日は本当にすぐ帰宅し家の中ではぴったり玄弥に張り付いていた。


    「炭治郎は悪くねぇよ。確かに頭突きされて傷ついて血は出たけど、アイツは…ダチが泣いてるの見て割って入ってきただけだし。
    俺と、同じだよ」
    「同じじゃねェ。碌に話も聞かねェで俺の弟を傷モンにしたヤツがいるとこにィ、兄ちゃん安心して送り出せねェって言ってるだけだァ」

    ゛大丈夫だって゛゛大丈夫じゃね
    何度目になるかわからないやり取りがずっと続く。母が助け舟を出すも実弥は譲らず、保育園登園の準備をした玄弥を力の限り抱きしめて出発を阻止していた。額のガーゼはやはりまだ外させてくれない。
    玄弥としては花壇も元の状態に戻したかったし、何より恐らくもうカナヲと自分の花、待望のマーガレットとチューリップが満開の咲き頃となりそうなのだ。早く確認したい気持ちが強い。

    「じゃあ何かあったらすぐ兄ちゃん呼ぶし帰りに教える。危ない事もしないように…頑張る。約束する」
    「ん」

    指切りをして実弥は玄弥の髪の毛ごと強く頭を撫でる。おんぶをして登園させると聞かず、結局玄弥は兄に背負われる事となった。
    門を通り、心配そうな先生達へ大丈夫だと答える玄弥と威嚇をし、また何かあれば伝えて欲しいと言う実弥。彼が玄弥の後をついていく事は誰も止めなかった。

    「玄弥ぁ!!!」

    一際大きな声は花壇の方向から聞こえた。遠くから走ってくる人影が見えると目を血走らせた兄が前へ出る。゛兄ちゃん!待って!゛と服の裾を引っ張るが微動だにしなかった。シィイイアア…と謎の呼吸音が聞こえて冷や汗が玄弥の頬を伝う。

    「竈門ォオオ!!!テメェは玄弥と接触禁止だァ!!!」
    「嫌です!!!!俺は玄弥に用があります!!退いてくださいお義兄さん!」
    「テメェに兄だと呼ばれる筋合いはねェンだよォ!!」
    「兄ちゃん!兄ちゃんやめてって!兄ちゃん!!」

    実弥は玄弥と同じように手は上げているが威嚇のみで直接的な暴力には至っていなかった。玄弥もまた力の限り服の裾を引っ張り、それでも止まらないと判断すると腰に腕を回して引き留める。
    言い合う実弥と炭治郎の言葉を掻い潜って兄の後ろから彼を目で捉えるとその手には花が握られていた。

    「マーガレットとチューリップ…?」
    「あァ??」
    「カナヲの花と玄弥の花。家から持ってきたんだ。ごめん、玄弥。俺ちゃんとお前の事聞かないで頭突きした。」

    差し出された一輪ずつの花を実弥を隔てて玄弥は炭治郎から受け取る。受け取るんじゃねェ!と兄は怒り心頭だったが、玄弥は綺麗に花びらを開かせている二輪の花を見てから炭治郎へ向き直った。

    「玄弥」
    「あ…」

    実弥から少し離れたタイミングを見計らって、炭治郎が玄弥の手を引っ張った。腕を引かれ花ごと強く炭治郎は玄弥を抱きしめる。

    「傷モノにした責任はしっかり取るからな!
    俺、長男だから」
    「え、えぇ…??」
    「竈門ォオオオオ!!!炭治郎ォオオオオォオオオオォオ!!!!!!!」

    実弥の大絶叫が響いたのは言うまでもない。




    その後、先生や同じく弟を送りに来た兄と親しい友人が兄を引きずって何とか学校へ登校させた。炭治郎から解放された玄弥は花が潰れていない事を確認してホッと息を吐く。教室の花瓶に差すと善逸、伊之助、禰󠄀豆子から謝罪の言葉受け、その直後、涙目のカナヲと遭遇した。もう怒っていないと伝えれば先生から怒られたのか善逸、伊之助から大きなため息が聞こえてきた。

    「ゴメンネ。ヨワミソッテイッテ」
    「お前何があったんだよ…」
    「あーーそれはねぇええ…炭治郎が…」
    「炭治郎?」

    善逸がぶるりと身を震わせて自分の体を自ら抱きしめた。まだ覚醒しきっていない禰󠄀豆子むー…としょんぼり…項垂れている。

    「まぁもう仕方ねぇし、怒ってねぇけど花壇戻すのはお前ら手伝えよな」
    「ごめんね、玄弥。それ出来ないの」
    「はぁ!?なんでだよ!?」

    荒らしたのは善逸達だ。だと言うのに戻せないとはどう言う事だろうか?
    カナヲの言葉に疑問を投げるも何処かしてやったりと言った様子で微笑む彼女が目に写る。

    「玄弥と二人だけでやりたいんだって。
    行ったらわかるよ」
    「え、カナヲちょっと…!?」

    ぐいぐいとカナヲは玄弥の背中を押す。教室を追い出された玄弥は振り返るも手を振られてしまい、大人しく花壇に向かうしかなかった。


    「なんでお前いるんだよ…!お前は…皆遊びたがってて…!」

    シャベルを持って花壇の土を整えていたのは炭治郎だった。泥まみれの両手と頬のまま、玄弥の声にとびきりの笑顔を向けてくる。

    「言ったろう?俺は長男だ!玄弥を傷モノにした責任は取る!善逸達が確かにやった事だけど俺一人でやらないと気が済まない!怪我させたからな!」
    「いやそうじゃなくて…!」

    むんっ!と力こぶを作るように掌を握って持ち上がった腕。炭治郎はシャベルを使いつつ土を整えていた。茎のみとなった花達は取り除かれたようで彼の傍にビニール袋が置かれている。半透明の袋からポッドに入った花苗が見えて、玄弥はようやっと炭治郎の隣に並んでしゃがみ込んだ。

    「そうじゃなくて…なんで…人気者のお前が…」

    こんな地味な花壇なんか。

    「人気者なんて思った事ないけど、でもさ、人気者でも花壇好きじゃダメか?」

    玄弥の顔を覗き込むように炭治郎は告げた。大きく目を見開く玄弥に、その手を取って言葉を続ける。

    「俺、最近花の図鑑とか見始めたんだ。まだ少しだけど玄弥が世話してる花の事知りたくて。けどまだまだだ!
    だから玄弥、この花達、どこに何植えたらいいか教えて欲しいんだ」

    ゛俺だとそこらじゅうに埋めちゃうからさ゛と炭治郎は笑った。いつもは園庭の仲間達に向けられている笑顔が自分に降り注がれている。あまりの眩しさに俯く。目尻が熱い。

    「……どろんこの手で誘うなよ」
    「あ!?嫌だったか…!?すまない!今洗って…!…玄弥??」
    「……」

    ぎゅっと炭治郎の手を握り返す。口では文句を言い、そっぽを向いている玄弥だが、力強く握られた手は離される様子がない。
    玄弥の目が相手の顔色を伺うように炭治郎へ向けられる。泣き出しそうな顔だと炭治郎は思った。

    「もっかい。ちゃんと、誘ってくれ。
    約束してくれたら、教える」

    泥だらけの手が玄弥には何故か嬉しかった。
    隣にいる炭治郎が未だに少し信じられなくて、縋るように告げる。
    お願い、と。
    その言葉だけは声にならず目に宿るだけだ。

    炭治郎は玄弥へ頷くともう片方の手も重ねて持ち上げた。日の光を浴びながら優しい眼差しが玄弥を包む。

    「俺と一緒に、花壇作って欲しい」

    まるでプロポーズみたいだなとぼんやり思いながら、玄弥はようやっと炭治郎へ笑って頷いた。





    登校は他の生徒より早く。園芸部の当番で持ち回りもあるが一度は花の様子を見てから教室に向かう。大半の一般生徒が通う時間帯。賑やかな話し声と生徒達の合間を縫って玄関へと向かう。
    春先の暖かさが熱を伴い始め夏へと移り変わる時期。今年も球根から育てたチューリップが綺麗に花開いた。赤、黄、桃色が主たる色だが、その中に紫色のチューリップも点在している。
    それは保育園の時からの、玄弥のお気に入りの花だった。

    「お、」

    花壇への水やり当番を終えて下駄箱を開けると生花が一つ。萎びていないのは採れたての証拠だ。軽く香りを鼻で楽しむ。今日はブルースター。花言葉は。

    「学生はさっさと教室に向かえェ」

    自分だけではなく、他の生徒に言われているとはわかっていても思わず反応してしまう。びくりと肩を揺らして持っていた花を体の内側に隠す。兄でありこの学校の一教師である実弥の目を掻い潜りながら玄弥は教室へと向かった。

    『花ってすごいんだな。花ごとに言葉もあって渡す本数でも伝えたい事、伝えられるんだ』
    『知らなかったのかよ?』
    『善逸が言ってた気がするけど詳しくは知らなかった』

    あの一件後、炭治郎は玄弥と一緒によく花壇にいる事が多くなった。花壇だけではなく、その他の時間でも。雨の日で玄弥が教室にて遊んでいれば宣言通り花の図鑑を持ってきて一緒に肩が触れる距離で見る。玄弥は気恥ずかしさもあったが、嬉しそうに笑う炭治郎と彼が自分と同じ物を好きになってくれた事が嬉しくて互いに距離を詰めていった。
    心のどこかで゛傷モノにした責任を取と言う言葉を実行しているだけだとは思いつつも。むしろ玄弥の方が責任を取るべきなのではないかと兄に相談した事もあった。玄弥の額の傷はほとんどなくなっていたが、対しての炭治郎の額の擦り傷が逆に残ってしまっていたのだ。
    案の定、そんな相談をした直後、兄は絶叫してしまったが。

    『玄弥はチューリップ好きだよな、紫色の』
    『…ん。』

    ぱらぱらと図鑑のページは炭治郎の手により忙しなく捲られていった。二人で一つの図鑑を見ているので肩以外にも足がぴったり合わさっていた。太ももからふくらはぎまで体温が伝われば靴下越しに炭治郎の足先が玄弥へと戯れる。

    『へぇ、チューリップも色んな意味あるんだな』
    『…たんじろ、お前は』

    何色が好き?と勇気を出して聞く前に炭治郎は先生から呼び出しがかかった。結局その後も好きな花や色など聞けずじまいだ。

    『俺と結婚して下さい!!』
    『なん…っ、えっ』

    隣に入れるだけで十分で、彼からこの花が好きだと言われ渡せるだけで過ぎた幸せだと思っていた。
    卒園式の帰り道。チューリップの花束を持って炭治郎は大きな声で告げてきた。隣には手を繋いだ兄がいるもお構いなしだ。

    『言っただろう?傷モノにした責任を取るって!玄弥!俺、玄弥が好きなんだ!
    責任取りたい!責任が無くっても玄弥とずっと一緒にいたい!花を育てる優しい玄弥を俺、守りたい』

    兄の妨害もなんのその。頬を押され距離を取らされるもぐいぐい押しのけて炭治郎は玄弥へ花束を渡した。玄弥が好きな紫色のチューリップ。本数は九本だ。

    『だから俺!玄弥に認めてもらえるまで毎年渡す!』

    ゛長男だから!゛と謎の根拠と共に意気込む炭治郎。困惑する玄弥を他所に実力行使に出た実弥が竈門家へ担いで渡しにいった。

    その後、宣言通りに毎年必ずチューリップの花束が玄弥へと渡されるようになる。初回と同じく玄弥の好きな紫色のもの。そして本数は九本。最低でも一回。卒園式や卒業式に合わせて渡す事もあれば、それ以外にも複数回の場合は別の花や花束を贈る。炭治郎の告白はストレートで結論は変わらず゛結婚して下さつまり花言葉同様ずっと一緒にいて下さだ。
    玄弥は花束を受け取るも、返答をはっきりと答える事が出来ていなかった。兄の目が厳しい事もあるが、炭治郎自身が返事を強要や急くそぶりがない事も起因している。

    花束を渡すと照れたようん…。゛としか返答できない幼馴染を、それはそれは愛おしそうに炭治郎は見つめていた。

    小学校までは所構わず続けられるも、中学校へ上がれば趣向が変わってくる。下駄箱へ一輪、花を置く。それが合図だ。

    「玄弥。待ってた」
    「……ん。」

    実家のパン屋を手伝いつつも折を見て炭治郎は園芸部の花壇に訪れていた。高校に入り、教師である実弥の目が届き、更に鋭くなったが、二人の逢瀬は変わらず花壇の場であった。
    チューリップだけの区画にしゃがみ込んで他愛ない話をする。花の種類や咲き頃など玄弥と同じくらいに炭治郎もまた花に詳しくなった。玄弥は学生鞄の前ポケットから少し萎びた花を取り出す。今朝、下駄箱に入っていたブルースターだ。くるくると手元で回しながら見つめれば、炭治郎の手が触れる。

    「今年も渡すからな」
    「…わかってるよ」

    校庭から外れ、校舎裏に当たるこの場所は殆ど誰も来ない。何をとはっきり言われなくともわかってしまう程に二人の距離は近かった。こつりと小さく額同士を当てて、鼻先が触れる。紫のチューリップと同じ色合いの玄弥の瞳を覗くとゆっくり瞼が閉じていく。

    「ん、」

    変わらぬ返答に炭治郎は顔を綻ばせ、花の蜜を吸いに唇を重ねた。


    待ち侘びた返答が窄まれた口から花開くのは、二年後の春先だ。


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    🌷💜💜👏👏👏💞
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    Replies from the creator

    さんど@みりぺん。

    PASTワンドロ・ライお題:「甘い」をお借りしてます。
    さねげん
    ※前置き
    お題・蜂蜜、デコレーションで書いたとなりのさねみさんの続きもの
    前回より友好度や時が経ってるイメージ/記憶・傷なし他人軸
    限界社畜甘党リーマン🍃さん×怖いもの知らず大学生🍉君
    ※匡i近さんの話出ますがそれについてはまた別の話かいつかで
    何でも許せる人向けです。以上がよろしければどうぞ
    となりのさねみさん:ダブルケーキのさねみさん十二月の年の瀬。
    クリスマスや年末年始で賑わう月。
    特別なお祝い事が続くイベントが多い月。

    「クリスマス?いや何言ってんですか。遊びませんよ。めっちゃ掻き入れどきですもん、クリスマスケーキのバイト」

    …が、世間一般の印象の筈だが、どうやら目の前の大学生は違う認識のようだった。はぁ…とため息をついて実弥は続ける。

    「ダチと集まるとかあるだろ」
    「いやねぇっす。毎年バイトなの知ってるんで。
    ねぇです」

    卵の賞味期限が切れそうなので消費を手伝って欲しいと作ったオムレツを頬張りながらはっきりと玄弥は告げた。潔すぎる返答が疑う必要性すらもないと物語っている。互いのオムレツへケチャップにて実弥が玄弥へ上手に描いてやった猫は容赦なく真っ二つになっていた。腹立たしくなった実弥もまた自分で描いた熊を真っ二つに切り分けては大きな口を開けて頬張った。
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    さんど@みりぺん。

    PASTワンドロ・ライお題:「プレゼント」をお借りしてます
    さねげん
    ※前置き
    🎃の🧙学校イメージ/妖精の🍃さん/他人軸
    家族の両親は志i津さんと恭i吾さんでまだいい父ちゃんしてる設定、弟、妹達も原作と同じイメージです
    何でも許せる人向けです。以上がよろしければどうぞ
    ドロップスノウ「俺が生まれた日ってどんな日だったの?」

    玄弥はミドルスクールの宿題を両親へ問いかけた。冬生まれの日付は知っているがその他はよく知らなかったのだ。

    「そうやねぇ。雪がよう降る日やったわぁ」

    しんしんと周りの音を吸収していくような静けさだったと母は小さく笑いながら告げた。逆子だったが土壇場で正常の位置に戻り、難なくお産を終えられたらしい。ガキが面倒かけてくれるななどとぼやく父へ母はまぁまぁと宥めている。

    「雪かぁ」
    「玄弥は雪に好かれとうのかもねぇ」
    「毎年誕生日が雪で此方とら面倒しかねぇぜ」

    除雪に走り出す弟妹達。その全ての相手を務めるのが父だ。母は父へ感謝を述べつつ入れ直したココアを差し出した。軽く鼻を鳴らすも満更でもない父の顔は両親達が仲つむまじい証拠だ。子供へ厳しい父へ苦笑いをして玄弥もまたココアを飲みきり、ありがとうとご馳走様を告げて自室に戻った。
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