撚り糸の声:街のヒーローさんは僕の街のお巡りさんは顔が怖い事で有名です。
誰が言ったか゛ヤクザ警察゛とは言い得て妙だ。
そんヤクザ警察゛にはホワイトマンとブラックマンがいます。
「お巡りさんのお仕事はなんですか?」
学校の課外学習は街のお仕事探検隊と題して、気になる職業のインタビューだ。僕は特に希望がなかったけど、同じスイミングスクールの子が最近剣道を始めたらしくって警察官に質問しよう!とグループで決まった。もう一人は女の子だけど、彼女は近ごろ住み着いて見回りネコチャ見たさに彼の提案に賛同したみたいだ。
「色んなお仕事があるけど君たちが安全に、安心して暮らせるように街を見回る事だよ」
「悪い事したらァすぐ交番にぶち込んでやらァ」
「先輩、脅さないで下さい」
鉛筆をマイクがわりにして問いかけるとブラックマンが目線を合わせて答えてくれた。同じく目線を合わせてホワイトマンも答えてくれるが何故か脅しをかけるように睨みを効かせている。ブラックマンが咎めると何かぶつくさと呟いていたがそっぽを向いて離れた。跳ね上がった肩を下ろしつつほっと息を吐いた。
「やはり見回りの時には凶悪犯などいるのだろうか!二人の顔の傷は男の勲章か!」
「――いるときゃいるし、いない時ゃいねェ。
いないに越した事ねェよ坊主。勲章なんて褒められたモンじゃねェなァコイツァ。
傷負っちまう、負わせちまうくれェまだまだ平和じゃねェ。お巡りさんが必要な世の中って事だ」
中々聞けなかった顔の傷の話を彼は問いかけた。少しだけ難しく答えるホワイトマンにブラックマンがまた先輩…と小さく呼びかけていた。お巡りさんが必要ない世の中が平和、と言うのがいまいち僕にはぴんとこなかった。
「顔の傷が恥ずかしいの?」
「ハァアアア!?!?」
「ちょっ先輩!!!」
あ、これは言葉が足りなかったパターンかもしれない。姉さんに時折言われるんだ。ちゃんと順序立てて言うのよって。ホワイトマンの絶叫に僕たち三人は震え上がった。紅一点の彼女はいつの間にか見回りネコチャンを捕まえて抱っこしている。
「恥ずかしい訳ャァあっかよォ!この傷は俺とコイツを繋ぐ思い出でも宝物でもあンだよ!怪我負わせちまった責任を感じる事ァあっても恥じる事はなにひとっつもねェ!これからも二人で守ってくって誓いモンの証だ!」
「つまり男と男の約束…俺もできるだろうか!?」
「その内なァ」
ホワイトマンの答えを臆する事なく宍色髪の彼が瞳を輝かせて聞き返している。一方のブラックマンはというとホワイトマンの後ろでタコさんウインナーのように顔を真っ赤にさせていた。茹で上がりのようで帽子を深く被り直しているが湯気がたちのぼっていそうだ。
「センパイとコーハイ、仲良いんだね。よかったね。
一緒に暮らしてるの?ネコチャンだっこする?」
「ぶにーっ」
「や……だいじょうぶっす……」
女の子は皆大人びいているから貴方も見て、気を遣えるようになりなさいねと姉さんは言っていたな。見かねた彼女がブラックマンに猫ごと問いかけているのを見てついつい思い出してしまった。友達の二人は特に怒らせる事はないけども、どうにもホワイトマンを僕は怒らせてしまうみたいだ。
「あらあら。今日はお客さんがいるやないの」
あまり聞かない言葉遣いに目が追ってしまう。ホワイトマンとブラックマンは僕らに一言断ってから奥さんへ帽子を取りつつ何かを話していた。仕事中だから受け取れないと断る二人が急に何かを思いついたように顔を見合わせ始めた。チラリと僕らを見てちょっとだけ笑い合った姿。
「……?」
ほろりと何かが落ちた気がする。何かはわからないし、何かが彼らと重なり合った気がするが、わからなくていい事だとも思えた。二人が何かを言ってから奥さんが僕達の元へ来る。
「ほなら、小さなヒーローさん達にお裾分けしよか」
「「小さなヒーロー??」」
奥さんは゛そやと答えてプラスチックのおりからおはぎを取り出してくれた。ホワイトマン達からも食べていいと言われて僕たち三人は食べ始める。あずきの粒がしっかり残った粒あんのおはぎだ。こっそり奥さんが耳打ちしてくれる。ホワイトマンの好物なんだって。おはぎ屋の奥さんは車道に飛び出した自分のお子さんを助けようした所を二人に助けられた事から彼らヒーロー゛と呼んでいるらしい。
そのヒーローについている小さな見習い、それが小さなヒーロー発言のからくりのようだ。
「まァ、色々あったが……それ食い終わったらパトロール一緒に行くぞォ。小さなヒーロー共」
「君は見回りネコチャンと一緒にね」
おはぎを食べ終わるタイミングで僕達二人へホワイトマン達の帽子が被せられた。ぶかぶかの大きい帽子。髪が獅子の鬣のように膨らんでいる友人はちょうどいいようで喜んでいた。ブラックマンは友人に帽子を渡してネコチャンを抱き上げては代わりにと紅一点へと渡した。
ホワイトマンから帽子を手渡された僕はと言うと、帽子の大きさのあまり一度視界が遮られてしまう。何故だかわからないけれど、ホワイトマンはやはり僕にはぶっきらぼうでそれが酷く懐かしいような嬉しいようなよくわからない気持ちが込み上げてくる。
でも一番は、と帽子を被り直して目線を上げた。身長の変わらないホワイトマンとブラックマンが肩を並べて立っている。黒い詰め襟ではないが、同じ制服に身を包んで。
「――お前も隣に戻れたんだな。不死川」
「誰だァ??呼び捨てにした奴はァアアアア!?!?」
「先輩先輩!!だから!!子供相手だって言ってるでしょ!?」
顔も怖ければ言葉も怖い。それでもそんな彼らが睨みを効かせている内はずっと平和なのだろう。
僕の街のヒーローはお巡りさん。
何故か僕には怒りっぽいのがわからないけれど、今度はしっかり粒あんのおはぎが好きだと聞いたので姉さんへ頼んで作って持ってこよう。