『ねぇ、倫太郎くん。大学の同級生から飲み会のお誘いが来たんだけど、行ってもいいかな?』
ナマエに声をかけられる。
俺はそれに微笑んで答える。
「うん、もちろん。楽しんできて。気をつけてね。」
『ありがとう!』
・・・
当日。
[今帰ってきたよ。まだ飲み会?体調は大丈夫?]
[お疲れ様!うん、まだみんなでご飯食べてる!元気だよ!]
ナマエから写真がいくつか送られてきた。
美味しそうな料理、友達と楽しそうに写る彼女、今日集まった人たちの集合写真。
思ったより人数多いな。
[楽しそうだね、写真ありがと。ナマエちゃんかわいい]
友達が多いのはいいことだし、彼女が楽しそうなのは素直に嬉しい。
できればこの人たちじゃなくて、俺がナマエちゃんを楽しませたいとは思うけど。
[ねえ、そろそろ暗いし迎えに行ってもいい?]
[倫太郎くん疲れてるでしょ?おうちでゆっくりしてて!友達と駅まで一緒だから大丈夫だよ!]
[じゃあ駅から一緒に帰れない?お友だちと別れたあとでいいから。俺、ナマエちゃんと一緒に帰りたい。]
ちょっとワガママを言ってみた。
するとさっきまでスムーズに続いた会話がプツリと途切れ、返信が返ってこなくなった。
彼女は今友.達と楽しんでいるのだから、まあいいんだけど。
しつこかったかな。一緒に帰るの嫌だったのかも。
せっかく友達といるんだから、余韻に浸かりたいとか、そういうのもあるのかもしれない。
夜に一人で歩くのは心配だし、なんて言われても迎えにいくつもりだけど。
ナマエちゃんと少しでも一緒にいたいし。
なんて思っていたら通知が来た。
[じゃあお言葉に甘えようかな?でも、私1人でも大丈夫だから、倫太郎くん無理はしないでね]
車の鍵を掴んで家を出た。
・・・
駅近くの駐車スペースに車を停めて待つ。
しばらくすると、男女5人くらいのグループと一緒に歩くナマエを見つけた。
うーん。なんとも言えない気持ち。
その光景を見てつい顔が曇ってしまう。
あの男ちょっと近すぎない?とか、そういうのもあるんだけど。
…俺が知らないナマエちゃんを、あいつらが知ってるなんて嫌だ。
しょうがないって頭では分かってるけどやっぱり悔しい。
不満は自分の中だけに留めて、彼女には絶対悟られないように気をつける。
車を降りて、みんなと別れたナマエの方へ歩いていく。
『あ、倫太郎くん!』
「お疲れ様。」
『倫太郎くんも!わざわざ迎えに来てくれてありがとう!』
「ううん、俺が来たくて来たからいいの。」
他の人に嫉妬しても、ナマエに当たるつもりはない。
ただ勝手に一人でモヤモヤしてるだけ。
(この角名はちょっと甘えたにはなるかも。)
・・・
後日。
…これからナマエのお兄さんに初めて会う。
めちゃめちゃ緊張する。
『ただいま!』
「お、おじゃまします…!」
「はーい、ナマエおかえり。すなくん?もいらっしゃい。」
この人がナマエのお兄さん…。
「は、初めまして。ナマエさんとお付き合いさせていただいてます、角名 倫太郎と申します…!」
「倫太郎くん、初めまして。ナマエの兄です。」
「あっ、よ、よろしくお願いします…!」
緊張が収まらない。
声の大きさも上手く調節できず、完全に様子のおかしい人だ。
時々声裏返っちゃうし。
お兄さんにも緊張してるの伝わってるんだろうな…はずかし。
『二人だとちょっと気まずいかもしれないけど、荷物片付けたいから倫太郎くんはここで待ってて!お兄ちゃんも倫太郎くんと仲良くしてね!』
そう言ってナマエは部屋を出ていく。
お兄さんと2人きり。
角名の緊張がより深まっていく。
「ねぇ倫太郎くん。」
「は、はいっ!」
「ナマエのこと、好き?」
「!はいっ!!もちろん、大好きです…!!」
即答。
お兄さんがにっこりと微笑む。
「……よし。」
「…、え、あの…」
そして角名の元へ近づいてくる。
「倫太郎くん、これを見て。」
「は…い……、え!!!!!かっ、、かわっっ、、、」
びっくり。大興奮。
さっきまでの緊張は一瞬で吹き飛んだ。
「え、あっ、」
「これね、ナマエの小学校の時の写真ね。俺この写真好きなんだ。」
お兄さんが見せてくれたのはナマエちゃんの小さい頃の写真。
ランドセルを背負ってニコニコしている。
「おっ!俺も!好き、です…かわいい……うっ、」
ナマエが友達や同級生と会うたびに、自分の知らない過去のナマエをこの人たちは知ってるんだと思って、ずっとずっと悔しかった。
でも本人には言えなくて。
初めて彼女の昔の姿を目にして、感極まって涙ぐんでしまう。
兄:(可愛いな、この子…)
角名の目がキラキラしている。
ナマエの写真を見てこんなに嬉しそうにしてくれるなんて、きっとリンタロウくんはナマエのことを大事にしてくれてるんだなあ。
と兄は思う。
「お兄さん、ありがとうございます…。ズッ。ナマエさんの大事な写真、俺にも見せてくれて、嬉しいです…;;」
「ふはっ、うんうん。」
思わず彼の頭を撫でてしまった。
「じゃあ倫太郎くん。次これ。」
「っ、ううぅ"〜;;」
ガチャ。
『おまたせ…って、え!?お兄ちゃん倫太郎くんに何したの!?仲良くって言ったじゃん!大丈夫!?!?』
角名の泣いてるところを初めて見たナマエは凄く動揺している。
目にした瞬間慌てて駆け寄った。
「ゔえ〜;;」
『ちょっとちょっと、どうしてこんなことになってるの…!』
「んー、ナマエの写真見てもらってた!」
『!?何を勝手に…。え、なんでそれで倫太郎くんこんなに泣いて…?あ、ティッシュ使って!』
「ありがとう……ズズ…」
・・・
後日。
ナマエが『私だけ昔の写真見られて恥ずかしい!リンタロウくんの写真も見たい!』と言いだした。
角名も恥ずかしいと思いつつ、それはそうだよなぁ。と。
とりあえずスマホに入っている古い写真を見てもらうことにした。
稲荷崎時代の、高校生の角名の写真だ。
『えっ、かっこいい!!』
ナマエが目を輝かせる。
「ちょっと恥ずかしいけど。」
でも自分のことでニコニコしてるナマエを見るのは幸せな気持ちでいっぱいだった。
『髪の毛ちょっと長めだね、可愛いかも。』
「えっ、こっちの方がいい?伸ばそうかな。」
『ううん、どっちも好きだから今のままで大丈夫!』
「そう?」
『倫太郎くん背高いはずなのに、あんまりそう見えないね。周りのみんなも大きいんだろうな〜』
と言って侑や治、ギン、先輩たち…と、写真に写る仲間たちに目をうつし始めたので一旦スマホを没収した。
角名のやきもち。
「今これくらいしかないから、他のは今度探して持ってくるね。」
ナマエは嬉しそうに頷いた。