狼煙 隣りの隠し刀の口から吐かれる紫煙を見つめながら溜め息をついた。
いつもより美味しそうに喫んでいるように見えるのは、僕が喫みたくても喫めない状況だからだろうか。
いつもであれば腰に下げている竹筒から煙管が顔を覗かせている筈なのだが、今は空だ。朝、一服した時におそらくそのまま自室に置いてきたのだろう。
そんな失態なぞ知らない彼が柱に背中を預け、のほほんと煙を器用に輪の形にさせている。
その輪を食べてしまいたい。最初は嫌いだった煙草も、今や禁煙するのが難しい程、生活に無くてはならない存在になってしまっていた。
僕の羨ましげな視線に気付いて彼は目を細めて笑うと、ずい、と近付き、持っている煙管で軽く筒を叩いた。
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