「…よくこんな臭いものが吸えるな。」
隠し刀がしかめっ面を浮かべて悪態をつく。
この匂いの出処の人物に用事があって訪ねに来たのだが、タイミング悪く西洋煙草を吸い始めたところだった。
匂いが付くと任務に支障が出る事があるため嫌っているのもあるが、単純にこの匂いが苦手なのだ。
「そうですか?慣れれば意外といけますよ。」
縁側の柱に寄りかかりながら一服している福沢は、ふーっと空に向かって煙を吐く。
恋仲になる前は、隠し刀を見つけると深々と頭を下げて挨拶し、長屋に遊びに来た時にはしゃんと姿勢をのばして、正座を一切崩さない礼儀正しい人だった。
今も礼節を重んじる人ではあるが、心許せる人の前や一人の時などはリラックスしてる証拠なのか、こういった普段からはあまり想像出来ない所作をするので少しドキリとする。
「あなたにはまだ早かったですかね。」
ふふ、と朗らかに笑いながら、もう一度深く吸い込んで、吐く。
相手に気を使ってか、まだ楽しめそうな煙草の火を消した。
その言動と行動に、子供扱いされた気がした隠し刀は、おもむろに福沢の顎を持ち上げ、口付ける。
唇を割って口内へ舌を入れると、苦い煙草のフレーバーがした。
「………やはり、私には合わないな…」
先程よりも眉をひそめてそう言うので、福沢は思わず吹き出して笑い出すのであった。