それは喉の痛みから始まった。始めは何かが喉奥に貼り付いているような軽い違和感だったので、さほど気に留めていなかった。ところが違和感はやがてヒリヒリとした痛みに変わり、一日の練習メニューを終える頃には、唾を飲み込むのにも難儀するほどの強い痛みへと変わっていた。
喉の違和感の次に襲ってきたのは寒気で、冬だから当たり前だよねと呑気に構えていたエクスは、身体の内側から襲い来る暴力的な悪寒に、冥殿が何処からか出してきた半纏で身体をくるんでガタガタと震える羽目になった。
そこでようやく、何かがおかしいと思い、たまたま目の合ったバードが「熱があるんじゃないか?」と言ったのだった。ほとんど使ったことのない体温計を慣れない手つきで脇の下に挟み、やたらと長く感じる二十秒間を怠さの中でなんとか堪えて叩き出された三十八・九度に、エクスだけでなくバードもマルチも目を丸くした。
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