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    siso_k_JB

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    なんでも許せる方向けのいとうさ
    ほんのりホラー

    #いとうさ
    phantomLimb

    Jasmine「伊藤君、伊藤君」

     蒸し暑い、蝉のうるさい夏だった。

     それとは対照的に銀行の奥深く薄暗く冷たい室内で、伊藤の背後から弾んだ、聞き覚えのある声が響く。

    「……宇佐美か」

     男が振り返り返事をすると、声をかけてきたであろう本人はわずかに肩をすくめ、目を丸くして首を傾げた。

    「まさか振り向いてくれるとは思いませんでした。少し話しませんか?」

     目を細め薄く微笑む時に左手で前髪を耳にかける仕草。それは、よからぬ事を考えている時のこの男の癖そのものだった。伊藤は眉を顰め訝しげに相手を見ると、その腕を掴もうと手を伸ばす。
     ──が、男は半歩下がりそのまま背を向け歩き出した。

     普段であれば、誘いには乗らない。伊藤吉兆と宇佐美銭丸はいわば古くからの犬猿の仲であった。ただ、その日は成すがまま、ゆらりと揺らめく男の背を追いかけた。



     第三応接室の扉前で宇佐美は立ち止まり、手招きをして解錠を促す。伊藤はため息をひとつつき、電子キーを入力して入室した。使われていなかった室内は少し暑く、埃臭い。

    「ありがとうございます。こうして話すのも、随分久しぶりですね」
    「お前が姿を消したからだろ」
    「オヤ、もしかして恋焦がれてましたか?」

     特異的な存在として、常に伊藤は意識を集中させていた筈なのに、気づけば宇佐美は距離を詰め耳元で囁く。この男の好む、見知った香りが伊藤の鼻腔を掠めた。クスクスと喉を鳴らして笑う姿は、二人がさいごに会った時と何も変わりがない。こうして色恋沙汰のように揶揄う男と、それにうまく対応できない男。いつも通りの二人だった。


    「死んだと聞いた」


     冷たく、今度は伊藤が半歩下がり距離を置いてその無機質な眼で見つめ呟く。

     ──あの日、確かに伊藤は聞いたのだ。宇佐美銭丸は死んだと。

     長いようで、数秒の時が流れる。

     死期を伝えられた目の前の男は唇に弧を描いてにこりと笑う。その眼差しは、この銀行内で活躍していた時と同じ優しくて仄暗い色だった。

    「君が死んだと言うなら、私は死んでいるのでしょうね。……もしかしたら、目の前の私は貴方の想う相手と別人かもしれませんよ」

     甘く、低く、呟く。宇佐美の細く長い指が伊藤の黒髪の、その上辺を撫でる。その声に含まれる毒、蜜を、伊藤は何年も前の出会った時から知っていた。知っていたからこそ、辛くもあった。宇佐美が近づく度に花の香りが漂う。それも出会った時から変わらぬ、彼の気に入った香水の香りだった。

    「香りでわかる。お前は宇佐美だ」

     初めて出会ったあの日、言葉を交わした。挨拶程度だったがお互いに只者ではないと、惹かれあった。
     そのうち同じ班となり、ライバル兼仲間となった。その後お互いが、お互いを所有しようと争った。ライバル以上の感情をお互いが持っていることに気づいたのは、出会ってからかなりの時が経ってからだった。

     全ての二人の思い出の中に、この香りがあった。さいごに会った日から少しずつ薄れる記憶を、今、この香りが引き寄せてくれていたのだと、まっすぐに目の前の男を見て伊藤は言う。

    「そうですか」
     男は笑みを浮かべたまま、ゆっくりと頷く。

    「君を連れていけたら良いのに、と思いました」
     目を伏せ、そっとテーブルを細い指が撫ぜる。その眼差し、口調はまるで愛の告白だった。この熱は、伊藤にも覚えがあった。今も思い出に残ったあの日々にも、確かに交わした言葉だった。

    「でも、易々と私のものにならない君も、好きでしたよ」
    「宇佐美、」
     それはこちらの台詞だと、揺らめく身体に手を伸ばす。指先が、腕を捉える直前に再びあの香りがして声が響いた。


    「また会いましょうね、伊藤君」


    ──地獄で。




    最後の宇佐美の声を掻き消すように、

    蒸し暑い、蝉のうるさい夏だった。
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    izayoi601

    DONE思いついたので一人飯するじょしょどのの話。台詞などでも西涼二直の中ではじょしょどのが一番食事好きな方かなと妄想…脳内で色々分析しながら食べてたら良いです…後半は若も。庶岱と超法前提ですがもし宜しければ。ちなみに去年の流星での超法ネップリと同じ店です。
    早朝、一人飯「これは、まずいな……」
     冷蔵庫の中身が、何も無いとは。すでに正月は過ぎたと言うのに、買い出しもしなかった自らが悪いのも解っている。空のビール缶を転がし、どうも働かない頭を抱えつつダウンを着るしかない。朝焼けの陽が差し込む中、木枯らしが吹き付け腕を押さえた。酒だけで腹は膨れないのだから、仕方無い。何か口に入れたい、開いてる店を探そう。
    「……あ」
    良かった、灯りがある。丁度食べたかったところと暖簾を潜れば、二日酔い気味の耳には活気があり過ぎる店員の声で後退りしかけても空腹には代えがたい。味噌か、塩も捨てがたいな。食券機の前で暫く迷いつつ、何とかボタンを押した。この様な時、一人だと少々困る。何時もならと考えてしまう頭を振り、カウンターへと腰掛けた。意外と人が多いな、初めての店だけれど期待出来そうかな。数分後、湯気を掻き分け置かれた丼に視線を奪われた。
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