指で伝える 主任同士の会議中。たまたま、ほんの偶然。隣の席に座る彼の指が、テーブルの下で自分の指に当たった。それまで目の前の話題に集中していた思考が止まる。偶然の接触に相手もすぐに気づいたようで、すぐさま手を引かれたと同時に思考が現実へと戻ってきた。自分から見て左側を、前髪で視線を隠して盗み見る。触れた相手は素知らぬ顔で、特に興味もないであろうホワイトボードへ視線を向けていた。
会議が始まって45分経過。議題内容に無駄は無い。ただ、一癖も二癖もある集団ゆえ、上手く話が纏まらずにやや退屈していた所だった。再度視線を隣──伊藤吉兆へと向けると、はなからメモを取るつもりもない右手はだらりと未だテーブルの下に投げ出されていて、ふと、いたずら心が芽生えた。
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