風邪っぴきバヤ×看病あいちゃん頭が、ぼうっとする。
鼻も詰まってるし、喉も痛い。たぶん熱もある。けどオレは今、ソファで毛布にくるまりながら、気づけば天井を見てた。
情けないな、って思う。
「何をしてる」
声がして、首だけ動かすと、キッチンの方から逢がこちらを見ていた。
白いカップを片手に、眉間にうっすらシワを寄せてる。オレが調子悪い時にする顔だ。あいちゃん、こういうの本当に顔に出る。
「……寝てろと言っただろう」
「いや、ちょっと……寒くて。こっちのほうが、まだあったかいかなって……」
ごまかしたが、逢はため息をついて、ゆっくりと歩いてきた。
カップを小さなテーブルに置くと、代わりにオレの額へ手を当てる。
「まだ熱い。薬は飲んだのか」
「うん……でも、ちょっとしか下がんないみたい」
逢は黙ったまま、氷の入った水のコップを持ってきた。
オレが起き上がろうとすると、ぴしゃりと低い声が飛ぶ。
「動くな。……口開けろ」
強引だけど、優しい声だった。
オレは言われるまま水を飲む。冷たい液体が喉を通るのが、やけに気持ちよかった。
その間も、逢はオレの前髪を指先で払って、じっと様子を見ていた。
「……あいちゃん」
「何だ」
「仕事、休んできたの?」
逢は答えず、ちょっとだけ目をそらした。
その反応で、オレは確信した。
「わ、ごめんね……オレのせいで」
「……そう思うなら、さっさと治せ」
「うん……」
正論なんだけど、その口調がどこか優しくて、胸があたたかくなる。
オレが目を閉じると、逢は小さく息をついて、冷えピタを貼り直してくれた。
ほんの一瞬、額に触れる指先が熱っぽく感じたのは、たぶん気のせいじゃない。
「……あいちゃん、さ」
「何だ」
「オレが風邪ひいても、ちゃんと家にいてくれるんだなって思ってさ。ちょっと……うれしかった」
沈黙が流れる。
たぶん照れさせた。いつものオレなら、もう一言茶化すところだけど、今日はもう、無理はやめておく。
少ししてから、逢がぼそっと呟いた。
「……当たり前だろ。お前は、俺の……同居人だ」
“それだけじゃない”って、声には出さないけど伝わってくる。
逢の不器用な優しさが、オレの体温をじわじわ上げる。
「なあ、あいちゃん……」
「何だ」
「治ったら、レコード買いに行こうな。新入荷、今週多いんだ」
「……構わん。ただし、無理はするな。次は俺の番だ」
「ん、わかった。じゃあ……おやすみ、あいちゃん」
オレはそのまま目を閉じた。
逢がそっと毛布をかけ直してくれた感触が、妙に心地よくて、夢に落ちていくみたいだった。