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    さばみこ

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    さばみこ

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    寒い日に布団でひっついて暖を取るイチナンのお話です
    イチャイチャしてるだけ
    7から一年後くらい、同棲時代、両思い、甘々いちゃらぶほのぼのです

    ##イチナン

    布団に願いを 短い秋が過ぎ去り、急な寒さが押しかけて来た日の夜だった。一番たちの暮らす元小料理屋の二階にも、二度目の冬がやってこようとしている。唸る風が建付けの悪い窓を揺らす。もうじき日付の変わるころで、寝支度とともに窓の灯りは消えていた。
     狭い部屋のまん中には布団が一組敷かれている。もぞもぞと動くそこから、ナンバの声が聞こえてきた。
    「おい一番、もっとこっち寄れ、隙間できてんだろ」
    「いや、絶対、朝までにずれるだろ」
     さっきから躍起になって布団を調整するナンバに、一番は心のまま思ったことを述べる。言葉とは裏腹に、柔らかな声色になったことには自分でも気がついていた。

     じきに取り壊しになる予定のこの古びた住居に、突如として襲ってきた冷気は容赦がなかった。窓や壁からは冷気が降りそそぎ、冷蔵庫のなかに放り込まれた錯覚に陥ってしまう。どこからか吹いてくるすきま風に、旧型のエアコンの暖房は太刀打ちができなかった。
     寝間着の前を合わせながら、このままでは寝付けないと言い出したのはナンバの方だった。秘策がある、と得意げに告げられた。経験上、こういう時のナンバは見ていて飽きない。だから一番はしばらく観察することにした。

     ナンバはまず部屋の中央に布団を移動させた。窓からも壁からもできるだけ距離をとりたいようだ。そのまま眺めていると、二人分の敷布団を重ねだした。訳を訊ねてみると、「冷えは下から来るから」と返された。それからナンバは掛け布団を二枚、同じ要領で重ね、そこに潜りこんでしまった。そしてこちらを見てながらぽんぽんとねぐらを叩いている。要するに彼が編みだしたのは、一つの布団に入って暖を取るというシンプルな方法だった。

    「思ったんだよ。結局、いちばんあったけえのは人肌だなって」
     一番の真横に寝ころがり、ナンバは満足げに言った。入ったばかりの布団はまだ冷えている。肌にあたる布はところどころ冷たい。それでもぬくぬくと心地よさそうなナンバの様子を見ていると、こちらまで温まってくる気がした。自分より少し冷たいナンバの手が触れた感触がした。一番のほうを向いて、手足を温めているようだった。自然と頬がゆるんでいく。湯たんぽがわりにされるのも悪い気はしない。

    「まだ十一月だろ、今から寒がって冬本番、どうすんだよ」
    「本当になあ」
     ごろごろと寝そべりながら言う。どうする、と言ったものの、別に一番も深刻に考えてはいない。それを分かっているのか、ナンバも適当に返事をよこしてきた。ゆるゆると会話は続いていく。こうして布団を重ねたのだって、対策という名の口実だ。要は、くっつきあっていたいのだ。その暗黙の了解がくすぐったくて、一番はこっそり身じろぎをした。

     布団が温もっていくのをしばらく待つ間、何気なしに天井を見た。常夜灯がやわらかく部屋を照らしている。橙色の光が心を温めてくれる気がした。ぼんやりと眺めていると、こちらに顔を寄せて暖を取っていたナンバも仰向けに転がった。
    「屋根があるだけで十分だと思ったのに、人間、欲が出てくるもんだよな」
     また布団の位置を探りながら、ナンバがしみじみとした調子で言う。前の冬、初めてこの部屋に来たころの話をしているのだとわかった。ここで暮らすうちにすっかり寒さに弱くなった相棒を思うと、一番の胸には愛おしさが広がった。

    「ホームレス生活で鍛えられたんじゃなかったのか?」
     わざとからかうように言うと、ナンバは軽く笑い声を立てた。
    「ああ、鈍っちまって、野良生活はもう無理かもなあ」
     もうすっかり飼い猫だよ、と、くすくす笑いながら言葉が続く。気を許しきった言葉に照れたのは一番のほうだった。言った当人は一番の気も知らず、足で布団を掻いている。温かい部分を探そうとしているのか、やがて足をすり寄せて来た。

     外でひと際強く風が吹き、轟くような音がした。また冷気が部屋に忍び込む。先ほどのからかいのお返しのように、今度はナンバがいたずらっぽく言った。
    「お前こそなんとかしてくれよ、勇者だろ」
     布団を首元のぎりぎりまで上げながら、寒さをなんとかしろと言ってくる。無茶な相談だ。
    「わりいな、休業中なんだよ」
     そう告げるとナンバは小さく笑った。望みどおり暖めようと、一番は腕を回した。その拍子に掛け布団がめくれ、暖まった空気が一気に部屋のなかに散っていった。

    「バカ、さみいって」
     叱るようにナンバが言う。寒いと言ったその手は布団を手繰らず、一番の背中に回された。二人の間の距離がなくなっていく。重なった体温が熱かった。熱を逃してしまわないよう、一番は布団を深くかぶった。二人一緒にすっかり頭まで潜ってしまう。すると足先がほんの少し出て、また叱られた。ぴったり抱き合ったまま、布団のなかでくすくす笑う合う。笑うと腕から振動が伝わった。とたんに、胸の奥が締め付けられるような気持ちがした。幸せで温かいのに、不思議な感覚だといつも思う。溢れる気持ちのままおやすみを告げた。

     大きな湯たんぽと同衾しているからか、ナンバの寝つきは早かった。腕のなかで寝息を立て始めたのを確認して、一番は仰向けになった。また常夜灯のオレンジ色が目に映る。
     ——人間、欲が出てくるもんだよな。
     寝る前のナンバの言葉を思い出して、一番は小さく笑った。本当にそうだった。隣で眠る体温を感じながら、朝も来ないでずっと二人でいられたらいいのにと願っている。ずいぶん欲ばりになったものだと思う。星の代わりに灯りに祈りかねない自分に呆れながら、一番は願い事を変えることにした。ひとまず、朝まで布団を掛けたままでいられますように。また叶いそうもないことを祈りながら、一番は目を瞑った。

     ◇

     夜更けが少し過ぎたころ、一番は夢から目を覚ました。ほんの小さな物音が聞こえる気がしたからだった。体の側面にぴったりと熱を感じる。横を見ると、抱き枕の要領でナンバがくっついてきていた。布団は脱げてしまっている。寝返りの拍子に蹴とばしでもしたのだろう、寒そうに身を縮め呻いている。
     目が覚めた原因に合点がいき、世話の焼ける相棒だと一番は苦笑した。肩まで布団をかけ直してやると、むにゃむにゃ言いながら脱力していった。胸に愛おしさが広がっていく。明日の朝、起きたらこの話をしようと思いながら、一番ももう一度眠りについた。

     ◇

     もっと後、夜明けが近づいたころ、今度はナンバが目を覚ました。裸眼と暗さで見えづらいのか、きょろきょろとしている。しばらくしてやっと、隣で丸まる一番と、豪快に蹴とばされた掛け布団を見つけたらしい。一番は凍えたように、小さく縮こまっている。寂しい子供のような寝相だった。
     布団を掛け直し、体が緩まっていくのを見届け、ナンバも再び布団に潜りこんだ。一番の少し冷えた手をとり、自分に抱きつかせるように添えさせる。窓の外は白み始めていた。夜明けまであともう少しだった。それを惜しむように、ナンバは隣の身体に腕を回した。
     二人きりで眠る狭い家に、明け方の冷えた空気が忍び寄った。誰も見ていない部屋の真ん中、きちんと掛けられた布団の内側で、二つの熱が溶けあうように寄り添っていた。
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    さばみこ

    DONE3/14のイチナンのお話です。
    7後、同棲時代、両片思い、ほのぼの。
    以前書いた2/14の話からゆるく続いていますが、こちら単体でも楽しめます。
    作中で作らせている料理は、ある好きな曲から取りました。

    5/14のスパコミにイチナンで申し込みました!
    成人向けの新刊二冊を予定しています。
    サンプルは4月初旬〜中旬ごろにpixivに載せる予定です。よろしくお願いします。
    きみの話「ほら、あったけえだろ」
     ナンバが振り返り言う。得意げな顔をしていた。言葉通りの暖かな陽の光の下、春風が吹き抜ける。それはいっぱいに生えている草花たちを躍らせ、彼のふわふわとした髪を揺らしていった。
     街の狭い路地をいくつも通り抜け、歩いた先にある小さな空き地。周りの建物が取り壊されたのか、その場所にはさんさんと陽ざしが降りそそいでいた。ごく小さな範囲の更地には、春を迎えようとしている雑草が所狭しと生い茂っている。寂しい空き地というよりは原っぱといった印象だ。ここが、ナンバのとっておきの場所らしい。

     季節は三月の中旬、ここ数日のニュースでは異人町の桜の開花予想が流れ出している。時期外れの暑いほどの陽気が続いていたが、その日の日陰はやけに肌寒かった。ぶるりと体を震わせたとき、ナンバから思い立ったような声で「いい場所がある」と告げられた。ポケットに突っ込んだ手を見かねて言ったのかもしれない。背中で案内をするように、ナンバはすいすいと路地を通り抜けていった。その後を一番は追って行く。
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