Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    瀬名🍭

    書きかけ、未修正の物含めてSS落書きごちゃ混ぜ。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 95

    瀬名🍭

    ☆quiet follow

    とれじぇ 味の玉手箱やぁ〜

    ##とれじぇい

    とじぇ続き「ジェイドは草花が好きなんだな」
    「好き、と言いますか。愛していますね、山を」
     テーブルをセッティングしながら二人は軽口を叩いている。ジェイドは前回と同様トレイを客人として扱おうとしたが、トレイは進んで手伝いを引き受けた。薄紫のテーブルクロスの布の端に白いタッセルが並んで風に揺れている。その上にアラベスク柄を刺繍したベビーピンクのトップクロスがテーブルの天板に対し菱形になるように掛けられた。薄いピンクの布は端が雑草に埋もれそうなくらいたっぷりとした長さがあった。
     卓の中央にはジェイドがこの荒れ果てた庭園から拝借したらしき花が生けてある。ナプキンや茶器、カトラリーと見慣れた品が並ぶ中で、テーブルフラワーの横に置かれた銀の給茶器がトレイの目を引いた。本体は円錐形で上部には装飾の施された取っ手が二箇所についており、下部にはドリンクサーバーよろしく、これまた草木を象ってめかしこんだ蛇口がついている。コックのついた優勝トロフィーと言えば想像しやすいだろうか。最上部には台座のついた蓋が被せられている。台の上にティーカップを置き、保温する目的がある。この給茶器はサモワールと呼ぶのだとジェイドが教えてくれた。何でも彼は紅茶の文化に惚れ込み、多様な茶器を収集しているのだと言う。それらは普段モストロ・ラウンジの運営に役立てられている。陸に恋した人魚、というと口が過ぎるかなとトレイは胸の内だけに留めた。
    「山を愛する会という同好会を主催しておりまして、トレイさんの料理の腕があれば、まな板の上の山菜も浮かばれること間違いなしです。見学者も随時受け付けておりますので」
    「ははは。考えておくよ」とトレイは優しく、思ってもないことを口にした。
    「是非」
    「そういえば」とトレイは思いついたように言う。今日は出会い頭、霹靂のようにジェイドと山草の剣呑なエピソードを披露され、すっかり意識から吹き飛んでいたのだが、「ジェイドはさっき何をしていたんだ?」
    「何とは? ああ、マムシグサのことですね、再会できた感慨に耽っていた、と言いたいところですが、もしやウラシマソウかなと思いまして」
    トレイはその花の名を聞いたことがなかった。
    「東方の固有種らしいのですが、マムシグサと大変姿形が似ているんです。この学園は各寮と時空を繋げている影響なのか、様々な地方の植物が見受けられますので」
    「人が媒介してるんだろうな」
    「寒風を紛らわす手慰みに、ウラシマソウの名の由来をお話ししても宜しいでしょうか」と自らは多少の寒気など屁でもないジェイドが嘯く。
    「いいぞ」
    とトレイはジェイドの申し出に答える。彼はタッパーから手製のお菓子をタングで取り出し、アフタヌーンティースタンドへ丁寧に並べていた。ジェイドは小さな碗にヴァレニエと呼ばれるジャムに似た、果実を煮詰めた甘物をよそいながら、
    「マムシグサと似た姿でありながら、ウラシマソウは東方に伝わる浦島伝説と紐づけられたのです。それは何故か。仏炎苞の内側から釣り糸のように伸びた付属体が、釣果を待つ釣り人の姿を思わせたのですね」
    「浦島伝説って?」
    「東方に伝わる御伽噺です。浦島という男が亀を助けてやった礼に、海中の宮殿に誘われ、もてなしを受ける。しかし、陸地へ帰り着くと悠久の時が流れていた。既に故郷には見知った人は一人もいない。故にウラシマソウの花言葉は不在の友を思う」
    「残酷な話だな。ジェイドは花言葉も把握しているのか」
    「ええ、一応。このような文化をお好きな方もいますから。何が取っ掛かりになって部員が増えるかわからないですしね」
    とジェイドは尚も勧誘に前向きな意欲を燃やしている。はは、とトレイは少し気圧された様子で「じゃあ」と尋ねる。「その浦島という男は一人きりで余生を送ったのか」
    「それのみならず」とジェイドは皿を並べる手を一瞬止めて付け加えた。
    「浦島は宮殿に住む姫からある贈り物を受け取っていました。決して開けてはならない禁忌の箱。しかし、地上にも海中にも帰るところがどこにもなく、よすがを失った彼は開封してしまう」
    「悪い予感しかしないな」
    「一面にもくもくと煙が漂って、一瞬にして彼は老爺の身に変じていた。なので、ウラシマソウにはこういう花言葉もあります。注意を怠るな、と」
     ジェイドはしっかり蒸らした紅茶を注いで、上部に取っ手のついた蓋をティーカップにかぶせる。
    「お先に開けてみますか?」とトレイは深海の住人にからかわれた。
    「お前と一緒に開けようかな」
     茶会の用意が整い、二人は向かい合って席につく。トレイは網にかけられたように菱形の紋様が連続して描かれたティーカップに手を伸ばしかけ、ちらとジェイドの様子を伺った。ふふとジェイドが笑んでいる。まさかな、とトレイはピンクを基調とした丸い茶器の蓋を開けると、魔法にかけられたようにセイロンティーの優しいふんわりとした湯気がトレイの鼻先をくすぐった。
     トレイは前回の茶会でジェイドがかなりの健啖家だと知ったので、りんごのガレットに小豆を練り込んだスコーン、ファーブルトンと二人分にしては多い量の菓子を用意してきたつもりだった。しかし、ジェイドがすいすいと口に運ぶペースを改めて目にし、早くも足りなかっただろうかと一抹の不安を覚えている。そんなトレイの思いは素知らぬ様子で、ジェイドはキャラメリゼした飴色のりんごを美味しそうに頬張っている。茶色のガレットの上に咲く、紅玉でできた薔薇の花びらを一つずつ楽しげに剥ぎ取りながら。
    「もうたまらないですね。ガレットの香ばしい生地と、林檎にシナモンという蜜月の組み合わせ、更にヨーグルトの爽やかな酸味が加わり、極め付けはナッツの女王ピスタチオ。この味わい深い風味と噛みごたえのある食感。勿論ゲストを目で楽しませ、また寒空の下身体を暖める気遣いも忘れていない。浦島が贈られた玉手箱とはこのような逸品を指すのでしょうね。時を忘れてしまう」
    「褒めすぎだよ」興奮気味のジェイドに照れ臭さを通り越してこんなにお喋りなやつだっけ、とトレイは呆気に取られている。一度目の時はもう少し物静かな印象だったのだが、というトレイの考えが通じたのかは分からないが、ジェイドはこほんと咳払いした。
    「ジェイドの淹れてくれた紅茶も美味しいよ」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☕🍎🍪😍☺💕👏👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    瀬名🍭

    PROGRESS不定期でトとジェがお茶会する♣️🐬SSのまとめ(未完) 捏造多。随時更新。お題:salty lovers
    Merman’s test garden 魚類は虫歯にならない。歯を蝕む病は人類と砂糖の出会いによって生まれ、海中暮らしで甘味を知らなかった人魚もまた、人と交わることで歯を患うようになったと言われる。太古の昔、人間の王子と結ばれた人魚の姫は、心優しいハンサムではなく実際のところお城の豪華なテーブルに並んだ愛しき者たち――チョコレートケーキにミルクレープ、焼きたてのスコーンにクロテッドクリームとたっぷりのジャムを添えた、華麗なるティータイム――と恋に落ちた、なんて使い古されたジョークがある程だ。
     それまで、栄養補給を主たる眼目に据えた、質実な食卓しか知らぬ人魚たちの心を蕩かしたこれら、危険で甘美な食の嗜好品はsweety loversと名付けられ持て囃された。他方、人間に人魚、獣人、妖精と多様な種族がファースト・コンタクトを済ませたばかりで、種の保存において血筋の混淆を危険視する声も少なくなかった。昼日向に会いたくても会えず、仲を公言することもできない、陸の上の恋人を持つ人魚たちはなかなか口にできぬ希少な砂糖になぞらえ、情人をもまたsweety loversと隠れて呼びならわし、種の垣根を越え、忍んで愛を交わしたと伝えられている。
    49824

    recommended works