Insignis blue 薔薇の王国の古い詩に、次のようなフレーズがある。
Something old, something new,
something borrowed, something blue,
and a sixpence in her shoe.
花嫁は婚礼に際し、古いもの、新しいもの、ひとつ借りたもの、青いものを用意すると幸せが訪れるという。そして、靴の中に6ペンス銀貨を忍ばせるのを忘れずに。仕事師のアズールに言わせれば、これは過去の文化がブライダル関連事業の販促キャンペーンとして持て囃されているに過ぎない。が、古き伝統を重んじる家格の秩序正しい家に生まれ、自らもその体現者となり、晴れて当主の座を継ぐリドルの目にはこれらの可憐な祈りも四つの絶対的なルールとして遵守せねばならぬ金科玉条に映った。NRCでのオーバーブロット事件を始めとして、数々の通過儀礼を経験した彼は依然母親を苦手としているものの、一廉の紳士となった今では対等に議論を交わせるような関係を構築していた。とはいえ、結婚式を目前に控え、余裕を損なわれているのか昔ながらの四角四面な少々性質が表れているらしい。
そのようなよもやま話を、ジェイドはトレイから聞いた。披露宴が予定されているホテルのホワイエでばったり顔を合わせた。実に十数年ぶりの再会だった。ジェイドはアズールの部下としてブライダル業者と打ち合わせをしていたのだが、聞けばトレイも似たような理由らしい。トレイは魔法士養成学校を優秀な成績で卒業した後、家業を継いで、町のパティスリーを切り盛りしているようだ。魔法士の素質を持つ者としては異色の進路と言えた。やはり、この男はただ者ではなかったのである。ジェイドは