続とじぇ エース達と別れ、オンボロ寮へ帰る道すがら、監督生はグリムとホリデイ前の楽しい予定について話し合った。オンボロ寮は豪奢でアバンギャルドな造りのハーツラビュル寮とは打って変わって、いつ崩壊してもおかしくないような建て付けだ。夜の室内は暗くうっそりとしてたまに隙間風が吹く。しかし、これでもこの仮宿に住み始めた頃よりは大分設備も修繕されたのだ。自寮に帰り着いた監督生は、備え付けの照明では心もとないため、机に置かれた蝋燭に火を灯した。談話室の大きな明かり取りの窓の外は暗く、高やかなカーテンが引かれてある。長年ぞんざいな扱いを受け、埃を被っていため、往時は真白だったろうカーテンはすっかり薄汚れている。日に焼けて傷んではいるが、所々に刺繍が施されており、もともとは値が張る代物なのだろう。縮れたレースが、どこかから忍び込んでくる風に揺れている。監督生はその少々寒々しい景色を素通りして、暖炉のそばに置かれたシンプルな造りの安楽椅子に腰掛けた。暖炉に薪を焼べる。乾いた楢の燃える音を聞きながら、ケイトから譲ってもらったモストロ・ラウンジの広告を広げると、思わず涎が出そうな鮭の香草焼きや大皿に載ったバカリャウなんかが目に飛び込んでくる。
お腹をグゥ〜と鳴らして「ふなーっ! 目に毒なんだゾ!」と喚きながら言葉とは裏腹にチラシへと見入っているグリムの隣で、監督生は椅子を軋ませ、マッチ売りの少女の童話を思い出していた。
「今のうちにイメトレしねぇとな!」とお腹をぽんと叩くグリムと笑い合う。監督生が広告を読み返すと、下に「※一部別料金のメニューがあります。」と注意書きが書かれていた。これは……と監督生は悪い予感を覚える。後できちんとトレイ達に確認しないといけないだろう。チラシから顔を上げると、濃緑の壁にかけられた肖像画が目に入る。壁照明(ブラケットライト)に下からぼんやりと照らし出された高貴なる婦人と目が合う。