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    瀬名🍭

    書きかけ、未修正の物含めてSS落書きごちゃ混ぜ。

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    瀬名🍭

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    年が明けても出られない

    ##とれじぇい

    とじぇ続き 約束の日、リドルたちは鏡舎で落ち合い、オクタヴィネル寮へ渡った。
     オクタヴィネル寮は偉大なる海の魔女アースラの居城を模して造られた。辺り一面が海に包まれた同舎は海底に眠る遺跡のよう。寮舎と水底を繋ぐのはシードラゴンの遺骨だ。獲物に齧り付かんとあんぐりと口を開け、鋭い牙を見せつける在りし日の勇姿そのままに、背にした本殿を守らんと外界を威嚇する。ガーゴイルや東方の神使狛犬のように建築物として再現された今となっては魔除けの意図も込められているかもしれない。しかし、真なる祖グレートセブンの御代にあってはただ彼女の威光を彩る蒼樹として機能した。
     シードラゴンが気閘室(エアロック)の役割を果たし、巨大なテーブルサンゴが美しい段丘となって、最奥のパレスへと接続している。本宮の丸屋根には背びれの骨を思わせる、ほぼ垂直な棒状の彫像があった。緩やかに捩れた彫物はもとは人物を象っていたのかもしれないが、悠遠の合間に食まれて今や人の形をしていない。像の先端からは薄いベールがたなびく。リボンに似た薄膜はそのシンプルな彫刻(スカルプチュア)を中心にして下方へ発条(ばね)状に渦巻いていき、風向計の役を果たした。波間に旋風(つむじ)を起こしている。その半透明の被膜が途中で切り離されて、オクタヴィネル寮の舎屋にくるくるとまとわりつき、日が落ちると青白く発光した。
     鏡を潜り抜けたトレイたちは本宮の手前、即ち、建物最下部のシードラゴンから宮殿までを橋渡しするテーブルサンゴの屋根の上に降り立った。フラットな珊瑚礁は石灰華段丘のようになびやかに奥の御舎へ通じている。
     空中で気泡が立ち上っては日光の揺らめく海面へ消えてゆく。青く煙る水中の彼方から日差しが燦々と降り注ぎ、遙か上方で光を眩く乱反射させているのは小魚の群れ。滑らかな魚群が見せる銀の腹だ。耳には空瓶を水にくぐらせたような陽気な泡の音が聞こえてくる。熟達した奏者が軽快にぼんぼわんとウドゥドラムを叩いているかの如くだ。このように幽玄な異境で陸上生物が呼吸を行えているのが不思議な程で、初めて訪れた他寮生は誰しも息を飲む。人魚たちの棲まう世界。目を閉じ、空気の弾ける音に聞き入ると、波に身を委ねてどこか遠くへ連れ去られてしまいそう。ケイトはその誘いを振り払うかのように、軽やかにシャッターを押した。
    「みんな、並んで並んでー! はい、ポーズ!」
     このメンバーでオクタヴィネル寮へゆったりと遊びにくることもなかなかないからと、段丘の中腹で殿舎を背にして記念撮影を行う。
     寮の本殿に列する尖塔は巻き貝の冠を戴き、佳麗な螺旋構造に棹さすように棘が生えている。並の甲殻類が宿を借りるには過大なホネガイの屋根は、灰白色と紫を基調とした寮舎と調和し品格があった。
     その左脇に一際立派な螺旋の斜塔があった。
    オクタヴィネル寮のシンボルを縫い付けた旗が、塔に絡みついた雄々しい蛸足の先に提げられている。海の魔女が愛用したオウムガイのペンダントトップを飾り枠に封じ、枠外に彼女を象徴する優美な凧の足を刺繍され、彼女の膚の色で染め抜かれた寮旗をケイトはフレームに収めた。
    「ハーツラビュル寮もオシャレだけどー」ケイトはマジカメに早速写真を投稿している。一行はぞろぞろと目的地へ向け歩き出した。「オクタヴィネル寮は海中の神秘! って感じがイイよね〜」
     はしゃぐケイトをよそに未だアズールらにこき使われた記憶が蘇るのか、エースたち三人は今やもう痛まぬ頭頂部を手で抑えている。トレイは思わずははっと声を上げて笑い、リドルもつられてやれやれと気を緩めた。
    「けーくんチェック的には貝殻の屋根もかわいいし、物々しいスケルトンもホラーチックで映えるから推せるんだけど」
     げっそりした様子の下級生三人の胸中を知ってか知らずか、楽しげに方々へ指を差しながらケイトは続ける。「さて、ここでクイズ! オレのイチオシはなんでしょうか? はい、監督生ちゃん!」
    「えっ」
     監督生が目を瞬かせると、ケイトの傍らにいたトレイと目が合う。悪いが付き合ってやってくれというトレイの声が監督生には聞こえた気がした。うーんと辺りを観察して監督生は答える。「海草ですか?」
     段丘の両脇には渦潮を固めた形のポルチコ(列柱)が、エントランスへ向かって並び立ち、寮の権威を示している。しかし、監督生の目に留まったのは建築ではなく自然の緑だった。
     オクタヴィネル寮舎は構造物の所々に藻場がある。長さ数十メートルに及ぶ海藻が海上へ向かってまっすぐに伸び、辺りを緑の光で満たしている。陸上で言うところの庭木だった。人魚の庭で水流に身を任せ、ダンスしている。詩的な表現が監督生の口をついて出た。いつ訪ねても新鮮にこの景観に飲まれてしまうからだろうが、何言ってんだ? と同級生たちにからかわれる。
     対してケイトは彼の感性をいじらず、むしろ嬉しそうにした。「着眼点ナイスー!」
    「料理に使えるかもしれないな」とトレイがのほほんと続ける。彼は愛の狩人を友としていたので、ポエティックな表現は日常的に浴びていた。リドルが少し驚いたような顔をする。
    「へえ、この藻草も食材になるのかい?」
    「ああ、添え物とかな。地域によっては……」
    とトレイが解説する横でケイトが先程喜んだ理由をこっそり打ち明けた。
    「前にリリアちゃんとカリムくんとモストロ・ラウンジに行ったことがあってさ、カリムくんもおんなじこと言ったんだ。「見ろ二人とも、草が踊ってるぞ!」そしたら、リリアちゃんが「ならば、さしずめ、巻き貝の屋根は竪琴じゃのう」って」ケイトは友人二人の物真似をした。リリアは巻き貝の螺旋に生えた棘を琴の弦に見立てたのだろう。
     他方、二人の背後ではトレイの言葉を真にうけたグリムが、「食えるのか?」と海藻のもとへ飛んで行こうとするのをデュースが止めている。「放っときゃいいじゃん」とエースが頭の後ろで手を組み見ているが、監督生はケイトの話しぶりに聞き入っていたため、気づいていない。
     監督生はケイトの話を聞くだけで軽音部三人の興奮が伝わってくるような心地になり、ここまでは何とか話についていけたのだが。
    「じゃあ、ノリノリの波は変拍子、差し込む日光は一筋の祈り、小休止。小魚の緊張はシンバルレガート、未知の海洋生物の鳴き声はギロで表現しようとか話してたら一曲出来るんじゃないか!? ってハイになっちゃってさ〜」
     突発的な海産の合奏曲(アンサンブル)。「入店早々いろいろやらかしてしばらく出入り禁止のお咎め受けちゃった」
    「一体何を……」
    「それ聞いちゃうー? リリアちゃんがデスボイスでメロディー歌って、カンパーイ! って杯を掲げたあと床に叩きつけて割ってさ。なんでもリリアちゃんが過去滞在した国ではそれが紳士のマナーだったんだって。そうなんだー! って三人で仲良くコップを割っちゃった」
     てへへと笑うケイトを眺めながら、監督生は思う。入店のお許しは本当に再び出ているのだろうか……。
    「ほら、モストロ・ラウンジって紳士の社交場っていうじゃん? 紳士ならいっかー! って。完全にどうかしてたよね。ついてきてくれたジャミルくんにも悪いことしちゃったな。そうだ、けーくんクイズの答えだけど」
     監督生は愉快な思い出話が落居したまさかの着地点に衝撃を受けていたが、なんとか気を取り直して頷いた。
    「残念、ハズレ〜。答えはあのヒラヒラ!」
     歓談しているうちに寮の屋内へ続く拱門が眼前に迫っていた。アーチの上部にある半円の窓は白の小さな三角形に縁取られている。ぽっかり開いた口腔から覗くギザギザの歯を思わせた。トレイはそれを興味深そうに見上げている。ケイトが言うヒラヒラとは、今入ろうとしている寮舎の、丸屋根の上にある無名の柱頭(キャピタル)から、周囲の尖塔、列柱に至るまで羽衣のように巻き付いた薄い膜のことだ。
    「夜になるとネオンみたいで、珊瑚の階段もあちこちラインストーンみたいに光るし、最高にアガるデザインだよね〜!」
    「宇宙卵だろうね」監督生が丸屋根に澱のように絡みつく薄膜を眺めていると、リドルが端的に言った。
    「宇宙卵? ってなんだ。食えるのか、ソレ」とグリム。
    「グリちゃん……」
    「錬金術の授業で習わなかったかい?」と呆れながらも、リドルはきょとんとした顔のグリムに概略を説明してくれる。「宇宙卵、或いは世界卵とも言うけど、古代の人々は卵を宇宙の原初的な状態と捉えた。卵から世界や宇宙が生まれたと言う、まあ所謂卵生神話だね。一つの卵が全たる生命の起源を孕んだ。現代に伝わる錬金術はその伝統的な見解を礎としているんだ。錬金術の歴史において、球形のフラスコを哲学の卵と呼んで好んで用いたのも、宇宙卵に準えたためさ。まさに錬金術は世界を創生する秘術だった。そして、賢者の石が生み出され、初期の錬金術は医術、科学と様々に分岐し、謎大き原始の魔法を体系化し、神秘の幾らかを解明した」
     ここまではいいね? とリドルが目配せするが、下級生のうち勉強が不得手なメンバーは既に頭の中がこんがらがっている。
    「先が思いやられるね、一般人には馴染みのない話でも魔法士にとっては初歩中の初歩だよ」と口を尖らせるリドルをまあまあ、そう言ってやるなよとケイトとトレイが宥めている。リドルはこほんと咳払いし、
    「僕が言いたかったのは、この建物の屋根と帯の装飾がそれを示しているんじゃないかと言うこと。卵に巻き付く蛇は、永遠たる生命の根源を示唆する図象だから。そして、丸屋根から突き出た柱はおそらく新たな命の……」
    「小難しくてよくわからねーんだゾ。屋根は屋根、それで十分じゃねぇのか? 腹の足しにもならねーし」
    とグリムは一足先に匙を投げ、リドルの高説を遮った。
    こういう時のグリム、一周回って尊敬するわ……とエースとデュースが後ろでヒソヒソ話している。リドルはじろりと二人を一瞥したが、特段気を損ねた様子もない。さっぱりとした口調で返した。
    「キミはハーツラビュルの寮生ではないし、ボクも深くは干渉しないけど、一つ忠告しておく。たとえばこんな話がある。格闘家が相手の構えをひと目見て力量を悟るように、読書家が言葉を交わすだけで互いの蔵書を知るように、優れた魔法士もまた魔法を撃ち合わずして相手の手の内を知ることができるという」
     何か言いたそうな顔のグリムの先を制してリドルは続ける。「魔法士の秘中、ユニーク魔法も例外ではないよ。一にも二にもまず観察。一つの卵に宇宙を、一粒の砂に世界を見ることは決して無駄ではない。宇宙卵は魔法士のそういう精神性をも象徴している。だから、授業でいの一番に取り上げられるんだ」
     リドルはそっと息をついて続けた。「いいかい、キミも大魔法士を目指すなら覚えておくといい。知識は戦略的な装飾品だよ。マイルストーンにもドレスコードにもなる。まあ、実践あるのみという点においては同意するけどね。ハンプティ・ダンプティのように、いくら蓄えても落として終いじゃどうしようもない」
     説法のようだったが、グリムのためを思った真摯なアドバイスというのは気の早い彼にも伝わったのだろう。
    「リドルがそこまで言うなら覚えておいてやるんだぞ、オレ様はいずれ大魔法士になる男だからな!」
    となぜか得意げである。
    「困ったものだね」と言葉とは裏腹に頬を緩めるリドルの隣でトレイが「その意気だ」と励ましの言葉をかける。
    「オレ様、ちょっと蘊蓄を聞くのが楽しくなってきたんだゾ。他には? 何かないのか?」
     グリムが早速リドルに強請っている。
    「そうだね……」とリドルが続けようとすると、
    「えー、オレもうお腹いっぱいなんだけど」とエース。「僕もちょっと」と疲弊した顔のデュースも続け様に口を開いた。
    「キミたち」とリドルは頬を膨らませ、腕を組む。「キミたちの意見はよくわかった。では、モストロ・ラウンジへ着くまで、教養の簡易テストを実施するとしよう」
     うげ〜とエースとデュースが天を仰いだ。
    「お、リドルくんクイズだ! オレたちもやる?」
    とケイトがトレイを振り返ると、トレイは一見微笑のような、微笑にしては眉根を寄せた何とも言えない散文的な笑みを浮かべていた。ケイトは見慣れたそれに心中だけでため息をついて、トレイが何か返事をする前に背中を叩いた。
    「ほらほら! いくよ。トレイくん」
     第一問目、オクタヴィネル寮のテーマカラーに関する問いを出題したリドルのもとに、
    「はいはーい! それトレイくんが答えたいってー!」
    とケイトは景気よく送り出した。オクタヴィネル寮の廊下の窓から貝紫色の旗が水中に高々と掲げられている様が見える。古代、ホネガイの分泌液から紫が作られ、貝はパープルの語源にもなったのだと、ハーツラビュル寮の先輩らの口から語られる頃には、夕暮れの刻が近づき、オクタヴィネル寮は半色(はしたいろ)の帳に包まれた。
     さて、リドルたちが一問一答を繰り広げながら、寮の本殿を右へと通り抜け、なだらかにカーブした水中の通路を進むと、前方にシードラゴン――こちらは骨格標本ではなく生きたままの姿を模した――が現れた。前門の骨竜、後門の海竜。怪物の名を冠した牙城(ラウンジ)の前に人影が見える。オクタヴィネルの寮服を身に纏った人魚の姿が。
    「ようこそおいでくださいました」
     リドル一行がモストロ・ラウンジへ辿り着くと、店先に立っていたジェイドが恭しく出迎えた。「生憎、アズールはステージの準備で忙しくしておりまして。アテンドは僕が代わりに」
     軒先にはイベントの開催を祝うフラワースタンドが何台か置かれていて、豪勢な花束が風船やリボンで飾りつけられ、空間を華やかに印象づけていた。その中に髑髏のマスコットをあしらった奇抜なデザインの花輪があり、とりわけ目を引く。送り主はMr.Sとある。すると、グリムが軒先の片隅で声を上げた。「これ宇宙卵じゃねえのか?」
     グリムが実験用具のような丸底の瓶の周りをくるりと飛んだ。瓶の中には植物や土が丁寧に詰められている。「早速見つけたんだゾ!」
    とグリムは誇らしそうに胸を張った。
    「やったね! グリちゃん!」と囃すケイトの傍らで思わず笑みを漏らすリドル。そして、何だこれ? と首を捻る下級生たちを後方から見守りながら、トレイは水を差さぬよう自分にしか聞こえない音量で呟いた。「テラリウムだな」
    「はい」
     しかし、それを聞き漏らさなかった者がこの場に一人いた。ジェイドだ。彼はどこかばつの悪そうなトレイを面白そうに眺めながら、
    「恥ずかしながら、あれは僕の作った作品なのですが、あんな風に喜んでもらえるとは。察するに、あれの正体を明かさない方が宜しいのでしょう?」
     からかうようなジェイドの口ぶりに、ははとトレイは苦笑いをした。「今はそうしてもらえると助かる」
    「承知しました。構いませんよ、大切なお客様からのお願いですし、それに宇宙卵という解釈もあながち間違いではないですから」
    「どういう意味だ?」
    「仰ってもお分かりになるかどうか……」とジェイドは挑発的に言葉を区切り、「いえ、極めて個人的な感覚ですから」
     これは話したいのに勿体ぶっているのだなと、トレイは察した。
    「僕はあの容器の中に言わば宇宙を作りたいんです。僕の手を離れて自走する、蔓、苔、草、そして石。瓶の中で、彼らの環世界がどこまでも展開していく、閉じた生態系(クローズド・エコシステム)を僕の手で作り上げたいのです」
     それはまるで書きつけた呪文の断片が一人でに魔法となるような。ほら分からないでしょう? とジェイドはさも言いたげだった。
    「どのくらいの期間の話だ?」
    「それはもちろん、永久に」
    「無謀じゃないか?」
    「そうでしょうか。瓶詰めの連鎖が数十年成功した先例は既にあるのですよ。砂粒に世界を、野花に天を、掌に無限を、そして刹那に永劫を」
    とジェイドが口にしたのは先程リドルも引用した詩。
    「まさか。ここに来てからの会話がずっと」聴こえてたのかと驚くトレイに、
    「おや、一体何の話でしょうか?」
    と口元に手を当てて、ジェイドは微笑する。「確かに水中で音は陸上の何倍も早く届きますが、建物周辺は空気で満ちていますし、そんなはしたない真似しませんよ。ただの偶然でしょう」
     ジェイドが盗聴行為を本当にはしたないと感じているのかはともかくとして、それ以外の事項は一応真実なのだろうが、いかんせんトレイは人魚の生態や能力に詳しくなかったし、それ以上にジェイド自身のことについてよく知らなかった。よく食べ、好奇心旺盛で山を愛する風変わりな人魚。しかし、肚の内は……?
    「完成するのが楽しみです」
     なおも自身を訝しむトレイに興味を失ったのか、ジェイドは自慢のテラリウムを愛おしげに眺め、ぽつりと期待の言葉を寄せた。
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    瀬名🍭

    PROGRESS不定期でトとジェがお茶会する♣️🐬SSのまとめ(未完) 捏造多。随時更新。お題:salty lovers
    Merman’s test garden 魚類は虫歯にならない。歯を蝕む病は人類と砂糖の出会いによって生まれ、海中暮らしで甘味を知らなかった人魚もまた、人と交わることで歯を患うようになったと言われる。太古の昔、人間の王子と結ばれた人魚の姫は、心優しいハンサムではなく実際のところお城の豪華なテーブルに並んだ愛しき者たち――チョコレートケーキにミルクレープ、焼きたてのスコーンにクロテッドクリームとたっぷりのジャムを添えた、華麗なるティータイム――と恋に落ちた、なんて使い古されたジョークがある程だ。
     それまで、栄養補給を主たる眼目に据えた、質実な食卓しか知らぬ人魚たちの心を蕩かしたこれら、危険で甘美な食の嗜好品はsweety loversと名付けられ持て囃された。他方、人間に人魚、獣人、妖精と多様な種族がファースト・コンタクトを済ませたばかりで、種の保存において血筋の混淆を危険視する声も少なくなかった。昼日向に会いたくても会えず、仲を公言することもできない、陸の上の恋人を持つ人魚たちはなかなか口にできぬ希少な砂糖になぞらえ、情人をもまたsweety loversと隠れて呼びならわし、種の垣根を越え、忍んで愛を交わしたと伝えられている。
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