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    瀬名🍭

    書きかけ、未修正の物含めてSS落書きごちゃ混ぜ。

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    瀬名🍭

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    とじぇ 捏造こねこね

    ##とれじぇい

    続きのとじぇ「さあ、皆さん、こちらへ」
     案内係のジェイドが掌を差し向け、店内へ誘う。白手袋を手首の釦(ボタン)で留め、盛り上がった指球が丸く露出している。
     リドルたち七人は促されるままに海棲生物の牙を踏み越えた。彼らの前に怪物はおどろおどろしいダークピンクの口内を開いた。壁は潮が掘り抜いたかのような海底洞窟の拵えで貝やフジツボが張り付き、照明の具合で怪物の脈打つ胎内にも思える。冷気を感じるのは怪物の歯茎にあたる通路の両端に水路が形成されているためだ。意表を突くインテリアは客の興趣を喚起した。水に親しみ深いオクタヴィネル流のもてなしと言えた。
     へえと感心した様子で門口の大きな歯列にトレイは見惚れている。
    「悪戯心があるでしょう?」とジェイド。「これで皆さんはシードラゴンのお腹の中ですね」
    「先ほども見かけたんだが、オクタヴィネル寮は歯のデザインをよく取り入れているよな」
    「ええ」ジェイドは口角に人差し指をつと添え、円錐状の歯を覗かせた。「もともと海底にはナイフもフォークもなく、陸との外交によって齎されたものです。このような文化圏ですから、殊更獲物を捕獲し、肉を削り取る歯は珍重されてきました」
    「なるほどな。確かに俺たちとも形が全然違う」と感嘆したきり口をつぐむトレイ。心なしかジェイドには、トレイの目が炯々と光って見える。それどころか、彼は人魚(ジェイド)の歯牙に興味津々のようでジェイドの口元に熱視線を送ってくる。なぜトレイがうずうずしているのか、ジェイドにはさっぱりわからなかったが、「予想外の反応ですね、案内役(ガイド)として掴みは上々といったところでしょうか」と彼は心の中でアズールに報告した。傍目にはジェイドがややトレイに気圧されているように見えたが、「トレイくん、また悪癖が出ちゃってるなー」とケイトは二人に介入せず密かに笑うに留めた。
    「いくらリドル寮長が初入店って言ったって、わざわざジェイド先輩がアテンドとか。裏がありそうで怖えーんだけど……」と三人から少し離れ、デュースらと話していたエースが小声で至極もっともなことを言った。
    「アズールの奴、とんだ守銭奴だからな」とグリムがひそひそ声で同意する。彼らはジェイドが話し込んでいるので自分達の会話が聞こえていないと踏んだのだろう。ちょうどトレイが我に返り、まじまじとジェイドの歯を眺めていた己に気づいて、悪いと一言謝罪したところだった。
    「僕の方こそ驚いてしまってすみません。あまり注目されることに慣れていないもので」
    とジェイドはトレイに断ってから、この場の誰より目を輝かせ、静かに息を呑んでいるリドルへ近寄る。その際、ジェイドは後ろを振り向いて自分の動向を気にしている一年生たちににこやかに微笑みかけた。対価は既に頂いていますよ。足りない分はこれから……。おっと、これはまだ彼にも話していませんでしたね、と心の中で語りかけながら。
     リドルは背骨の形をした梁が渡してある天井に目が奪われていた。梁の下のフロアには商品を載せたワゴンが並び、微塵も商機を逃すまいとショップが展開している。更にリドルの目前にはシードラゴンを輪切りにしたように、壁と床を走るLEDの照明が埋め込まれてあり、そこを境に内装が、海底洞窟からホテル・ラウンジへ、モダンで落ち着きのある空間へと転じていた。
     トレイはリドルの興奮気味な顔を見て、「気に入ったか?」と声をかける。なぜかからかうような調子になるが、それはトレイもまた喜んでいるからだ、とケイトは考える。
    「そんなこと……」とリドルは言いかけ、ジェイドを見てやめる。嘘泣きでもされたらたまらない。咳払いを一つ。「この建物は独創性があってなかなか見所があるね。どのような歴史があるのだろう」
     ジェイドは建物の外の広々とした深海を映す窓を背にして、リドルに対VIP用の口上を述べた。
    「モストロ・ラウンジは、もとは歌劇場(オペラハウス)だったんです。残念なことに、これほどの収容量を誇りながら、」とジェイドは一行に流し目を送る。「長く使用されておらず、全くの宝の持ち腐れでした」
     建築家の遊び心が光るホワイエには至る所に海産物のデザインが施されてあり、ステージイベントの開催にはまだ間があったが、ざわざわと人が往来し賑わっていた。
    「そこにアズールが目をつけて学園長の"ご厚意"で、こちらの地所を僕らが預かることになりまして。リノベーションをし、手を入れてはいますが、努めて元の間取りを生かしているんですよ」
    「古民家カフェみたいな?」とケイトが写真撮影に欠かせぬ神器、スマートフォンを片手に相槌を打つ。
    「民家というイメージからは程遠いけどな」とトレイが一言添えた。実のところ、トレイもモストロ・ラウンジへ訪れたのは初めてではない。学内に美味しいお菓子を出すカフェが出来たという噂を聞きつけて、足を運んだことがある。だが、当時の記憶ともやや内装の印象が異なるので、開業してからも改装を行なっているのかもしれないとトレイは推測した。
    「あくまで学園の伝統に準じ、キミたちなりの方法で遺産を守っているという訳だね」とリドル。
    「その通りです」とジェイドは自分の胸に片手を添える。オクタヴィネル寮服の剣襟がジェイドの胸板をより立体的に見せ、ウイングカラーに合わせた無地(ソリッド)の蝶(セミバタフライ)が胸元で白く光る。ホワイトの蝶ネクタイとサテンの剣襟がジェイドの纏うダークスーツにラグジュアリーな印象を添えていた。
    「ここまで歴史的な建物に大規模な改修を加えるとなると、必要な資金も膨大だったはずだ」とリドルは顎に手を当て、「店を運転して軌道に乗ってからはともかく、初期費用はどこから出ているんだい?」
     海底洞窟(シードラゴン)の腹中(ロビー)を皆とゆっくり歩きながら、にこりと不敵に笑むジェイドの横顔が、岩壁に据え付けられた鏡台に映し出された。
    「教えて差し上げても宜しいのですが」とあくまでジェイドはにこやかに言った。「秘密があった方が楽しめるでしょう?」
     ジェイドの口ぶりは慇懃だが掴みどころがなく、下級生は落ち着かない様子だった。
    「野暮なことを聞いたね。ただ、あまり彼らを怖がらせないでくれると助かる」
    「おや? そういうつもりではなかったのですが、お客様を萎縮させてしまうなんて僕もまだまだ至らぬ身ですね」ジェイドは懐中時計を確認して言った。「せめてものお詫びに」
     ジェイドがぱちんと指を鳴らすと、シーリングライト(天井照明)の輝度が上がり、一行は明るい温白色に包まれた。店内が夜間照明に切り替わったのだろう。タイミングを心得ていたジェイドの気障な演出だったが、監督生達にはジェイドが一瞬魔法を操ったように見えた。エースが口笛を吹き、ケイトがやるねえと褒めている。恐縮ですとジェイドは帽子を手に取り軽く右足を引き、軽くお辞儀をした。今日日、映像作品でしか観ない古典的な礼儀作法(ボウアンドスクレープ)だったが、とても様になっていた。少し呆けた顔の監督生にジェイドは謙遜して言った。「訓練所で習ったのですが、今のトレンドではないようですね。いつもそのような表情をされるんです」
     エントランス・ホールを半ばまで進むと、受付があった。「クローク・ルームはあちらです」とジェイドは指し示して、もし不要な手荷物などがあれば預けるようにと勧めた。入り口部分のユニークな雰囲気とは打って変わって、受付の奥には雅やかなサーキュラー階段が建物の両脇にあり、緩やかに弧を描いて二階へと繋がっていた。その下にはメインホール、即ちモストロ・ラウンジの一階席がある。建物の外からここまで歩いてくる間、既に賑わいは感じられたが、開け放たれた扉の奥から学生達が思い思いに語らう声や、食器の当たる音、洒落たビッグバンド風のBGMがロビーまで漏れ聞こえていた。
    「初めてのお客様やお久しぶりのお客様もいらっしゃいますので、当店をご利用いただくための諸注意のご説明を」とエース達の準備が整うまでの間、ジェイドはお決まりの説明を口にした。「モストロ・ラウンジは紳士の社交場ですので、他寮との揉め事はご法度です。ここでは、どの寮に所属する方も我がオクタヴィネルのルールに従って頂きます。ルールを守り楽しくラウンジをご利用くださいね」
    「思っていたよりもきちんとしているのだね。キミたちのルールが無手勝流でなければ」とリドルは素直な感想を口にした。
    「リドルさんからお褒めに預かるなんて光栄です」とジェイドはリドルの二言目を華麗に受け流した。「きっとご満足頂けると思いますよ」
     さて、いよいよ一行はジェイドに案内されながら、扉を開いてモストロ・ラウンジ(深海の箱)の中へ足を踏み入れた。
    「これは僕らの陸生生物の行動追跡研究(バイオロギング)が成果を上げたと言ったところでしょうか」
     フフフとジェイドは口元に手を当てて笑う。
    ジェイドの言うように会場は満員御礼で、ゆうに数百人はいるだろうか。この間イソギンチャク頭の生徒達が集められた時よりも多いぞ、と監督生は目を丸くした。
     モストロ・ラウンジの特徴は何と言っても巨大なアクアリウムにある。そもそもが海の中にある寮だが、巨大水槽を擁する食事処など高級レストランでない限り珍しい。手すりのある緩やかな階段を上った店の奥に、洒脱なバーカウンターと共に設置されて、アクアマリンの彩光をフロアに投げかけている。珊瑚礁を見事に再現した静かな海を背景に、陸の生物達がビュッフェの皿を片手に、フロアで思い思いに羽を伸ばしていた。紫の壁には巨大生物の骨を思わせる付け柱が埋め込まれている。客達は自分が怪物(モストロ)に丸呑みにされたことにも気づかず、美食に舌鼓を打ち胃袋を膨らませているのだ。
     天井には蛸足に吊るされた海月のシャンデリアが星月夜の海面のように白く輝き、壁沿いに設置されたビュッフェテーブルには、オクタヴィネル寮自慢の海鮮料理が並んでいる。グリム達が歓声を上げた。机に据えられた紫の卓上照明が妖しく手元を照らしていた。瑞々しい人魚の皮膚が滑らかに映え、ジェイドの寒色の髪、涼しげな瞳が光を弾いて煌めいている。照明の補光がジェイドの端正な細面を際立たせていた。陽光に溢れた植物園とは異なった艶のある表情。ジェイドはトレイの向ける視線に気付き、「何なりと仰って下さい」と如才なく言った。
    「少し確認したいことがある」と思い出したようにトレイが言う。「広告にあった別料金のメニューというのは」
    「ああ、それはですね、本日当店はビュッフェ形式なので、ウォーターサーバーも用意しているのですが、その他のドリンクは別オーダーとなっております。また、本日だけのスペシャルなメニューもございますので、そちらを注文されますと追加料金がかかるというわけですね」
     ジェイドの目元には、寮服に合わせて紫のアイラインが引かれている。店内を満たす音楽が心地よく体に響く。
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    瀬名🍭

    PROGRESS不定期でトとジェがお茶会する♣️🐬SSのまとめ(未完) 捏造多。随時更新。お題:salty lovers
    Merman’s test garden 魚類は虫歯にならない。歯を蝕む病は人類と砂糖の出会いによって生まれ、海中暮らしで甘味を知らなかった人魚もまた、人と交わることで歯を患うようになったと言われる。太古の昔、人間の王子と結ばれた人魚の姫は、心優しいハンサムではなく実際のところお城の豪華なテーブルに並んだ愛しき者たち――チョコレートケーキにミルクレープ、焼きたてのスコーンにクロテッドクリームとたっぷりのジャムを添えた、華麗なるティータイム――と恋に落ちた、なんて使い古されたジョークがある程だ。
     それまで、栄養補給を主たる眼目に据えた、質実な食卓しか知らぬ人魚たちの心を蕩かしたこれら、危険で甘美な食の嗜好品はsweety loversと名付けられ持て囃された。他方、人間に人魚、獣人、妖精と多様な種族がファースト・コンタクトを済ませたばかりで、種の保存において血筋の混淆を危険視する声も少なくなかった。昼日向に会いたくても会えず、仲を公言することもできない、陸の上の恋人を持つ人魚たちはなかなか口にできぬ希少な砂糖になぞらえ、情人をもまたsweety loversと隠れて呼びならわし、種の垣根を越え、忍んで愛を交わしたと伝えられている。
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